cross 5
「獣医の友達がいるんだっけ」
朔さんイチ押しだという、ハンバーグの美味しいこじんまりとしたお店。ナツメグの香りが食欲をそそる。
動物園の前で集合だったから、てっきり朔さんも電車で来たんだと思っていた。動物園の最寄りの駅に近い駐車場に車があった。
「梨愛とも友達ですよ。英っていうんですけど」
「苗字は?英さんの」
「山吹です。山吹英」
「山崎さんの話を英さんから聞いたことはある?」
表情ひとつ変えずに質問を続ける彼に、ほんのりと不審感が湧き立つ。
「──ありますけど。朔さん。山崎さんと何かあったんですか?」
「いや…」
私が問いても表情は変わらない。
「…取り調べみたいですね。朔さん、私には質問するけど、私の質問には答えないんですね」
一瞬だけ、朔さんの瞳が揺れた。
「取り調べ…そうだよな。ごめん。つい、癖で…。こういう聞き方しかできないんだ」
そうやって愛想尽かされるんだよな、と彼はため息混じりでハンバーグを口に運んだ。
「うん、やっぱり美味しいな」
目を細めてハンバーグに舌鼓を打っている。けど。結局私からの質問には答えることはない。
「──もしかして、お仕事絡み…ですか」
朔さんの目が見開かれた。
「…ごめんな」
ぼそりと呟く彼を前に、胸の奥がきゅっとする。
動物園デートだと思ってたのは私だけだった。そういうことだ。