Shalimar 4
「私、ね…。満紘を、恋愛の対象として見たことが…考えたことが、無かった」
満紘の瞳が揺れた。
「満紘が恋愛対象なのか、そうじゃないのか、正直、わかんない…。でもね、私…」
「このまま満紘に会えなくなるのは、嫌なの」
ぽろぽろと流れる涙を拭うか迷う。拭ったらアイメイクが崩れてしまう。涙を流してアイメイクが崩れるだなんて、美容部員の名が廃る。
擦ってないから多分アイメイクは崩れていない。満紘の涼し気な目元を、そのまま見つめていた。
次の瞬間、満紘の胸が目の前にあった。満紘の腕の中に閉じ込められていた。
「──梨愛」
満紘の腕の中は心地良い。抵抗する気が起きず、そのまま抱き締められていた。
「俺、ずっと…子どもの頃から、梨愛が好きだ」
子どもの頃から?じゃあ、私が学生当時、彼氏との仲を邪魔されたのは…。
「梨愛はずっと、当然のように俺の隣にいてくれるもんだと思ってた。でも、梨愛は俺じゃない人を彼氏に選んでた。その度に俺、ショック受けてたんだよ?」
腕に力が込められたのがわかる。さっきからずっと、耳元で囁くように語る満紘は、私の耳の弱さを知っているのだろうか?
「ね、満紘。少し、離して…」
「嫌だ。離さない。やっと…俺の腕の中に、梨愛がいるんだ。そう簡単に離してたまるか」
「あの、だったら顔を…耳元から、離して…」
「──梨愛、耳、弱いの?」
満紘、わかっててやってるよね。さっきよりも息が耳に更に近付いているのを、私は感じていた。