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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第二章「アスカ様の覇権国家建国道」

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第二十六話「戦場のアスカ様」②

「敵の警戒態勢は、どんなものだ? こちらの主力がエルフだと向こうも解っているのだから、夜襲に対しては、それなりに警戒していると思うのだがな」


 ここもいまいち腑に落ちない。

 拠点を設けるにしても、もう少し後方でないと夜襲などされたらひとたまりもない。


 もっとも、予定が狂って敵の目の前で野営する羽目になったのかもしれないが。

 それはそれで、厳重に警戒態勢を取るのが当然であろう。


「篝火を増やして、歩哨も各所に配置して、あちこちに目隠しの布を張ってはいるようですが、我々に言わせれば、あの程度では話になりません……。現にこちらの斥候に気づいている様子もないです。一応10人ほどで半包囲態勢に持ち込んでいますので、ご命令があり次第、増援を送り速やかに殲滅致します」


「実に手際が良いのだな。だが、斥候は絶対に気取られるなよ? 万が一、見つかると少々厄介な事になってしまうからな」


「承知しております。どのみち、夜闇に紛れた我々エルフを見つけ出せるとは思えませんが……。して、いかが致します? ここは攻め時かと」


「いや、それはちょっと待とう。さすがに、敵の領土内で殲滅というのは些か問題あるからな。我々はあくまで侵略者を撃退する側なのだ。相手の領土内に進出して手を出してしまったら、こちらが侵略者になってしまうであろうが」


「……斥候を出している時点で、進出しているので、もう手遅れのような気がするのですが……。では、斥候も引き上げさせますか?」


「それも無用だ。向こうに見つからなければ、それは居ないも同然であるからな。その分だと結構な人数をすでに敵陣周辺に配置しているのだと思うが、最低限の監視要員だけを残して、引き上げさせるがよい。明日の本戦に備えて、兵を休息させることも必要だぞ」


「ごもっともですね。では、絶対に敵に見つからないように厳に注意させるとします。……やれやれ、エイル様のおっしゃられていたように、アスカ様は戦場に居ずとも全てをお見通しで、何よりとてつもなく広い視野をお持ち……と言うことなのですね。了解しました」


 マーシェ隊長が部下に指示を出し始めると、代わって、ソルヴァ殿が前に来る。


「ソルヴァ殿、状況はどうか? エインヘイリャルの可能性と聞いて来たのだが。そうなると、敵将ドゥークか、ホドロイ子爵辺りが怪しいと思う。奴らは指導者に目をつけるケースが多いのだ」


 そのやり口も極めて、ピンポイントかつ的確。

 実際、帝国の例でも司政長官や艦隊司令と言った要職にあるものが、感染するケースも多発していたのだ。


 もっとも、感染経路については、不明だったのだが、対策としては、徹底して人流を止める。

 GPHSからもそう助言があったので、実際にやってみたのだが、それで、かろうじて要職者の突発感染は止められた。


 今にして思えば、潜伏型の感染者が感染源で、あちこちに潜伏した感染者が、要職者に近づき、感染に成功したら一気にエインヘイリャル化させる。


 恐らく、そんな感染方法だったのだと推測していいだろう。

 まったく、たちが悪いどころではないな。


「なるほどな。指導者がおかしくなっちまえば、都市や軍勢まるごと、労せず手に入るって訳か……。巧妙過ぎるだろ……」


「で、ソルヴァ殿はどちらだと? それとも或いは、別の者が近づくような事はなかったか? ベルダのような黒幕がいる可能性もある」


「流石に俺はなんともいえねぇな。ひとまず、こいつらとホドロイ子爵と例のドゥークって騎士団長以外は、結局、近づきもしねぇし、脅しが効いたみたいで、ドゥークは撤退を確約するとか言ってたんだが、子爵の方は諦めてねぇって感じだったな」


「ふむ、そうなると敵将ドゥークは迷わず総撤退を選んだという事か。確かに威力偵察の先遣隊がこうも呆気なく全滅したとなると、撤退となるのも道理であろうな……良い判断をしているな。そもそも、我々が森の中での迎撃体制を構築できた時点で、装甲騎士での強行突破など望めんと悟ったのだろう。まったく、危ういところだったな」


「ああ、もう半日出撃を遅らせてたら、先遣隊に森を抜かれてたところだった。もっとも、そうなってたとしても、先遣隊を全滅させてた事には変わりなかっただろうがな。なぁ、ここで食い止める必要ってあったのか? こっちも無理したお陰で、何もかもがグダグダだ」


「いや、ここで先遣隊を撃破した事にこそ意義があったのだ。敵の戦略目的をくじく……これが達成できた時点で、我が方は勝ったも同然だ。現に敵は即時に撤退を決意したではないか」


 一見、同じことのように見えるが。

 

 平原まで進出した上で先遣隊を全滅させていたら、敵は先遣隊との連絡が途絶えた事までは解るだろうが、その理由に気づくことは無かったはずだった。


 そうなると、敵は慎重にはなるだろうが、戦闘継続を選択していたであろうし、先遣隊への対処と本隊への対処と複数の敵を相手取ることとなり、状況が複雑化していたのは間違いなかった。


 最初の防衛ラインの国境ラインで敵を水際撃破し、こちらの迎撃体制が整っていると敵将に認識させたのは、戦略的に極めて大きい勝利だった。


 長期戦も、多くの犠牲もこちらは望まない。

 この状況は考えうる限り、最小限の犠牲での最善の状況と言えるだろう。

 

 しかしながら、ソルヴァ殿は難しげな顔をしていて、話がそう上手く行っていない事を窺わせている。

 

 何より、私とリンカに出動要請をかけたともなると、さすがにただ事ではない状況が発生しているのは確実だった。


「まぁ、そうなんだがな……。マーシュ隊長も言ってたが、未だに連中居座ってるみたいでな。どうも、まだやる気らしいんだわ」


「先遣隊が撃破されたのに、まだ装甲騎兵で一気に平原まで駆け抜けるつもりだとでも言うのか? 私でもそれは無謀だと思うのだがな……。敵将のドゥークはそこまで愚かなのか? もう少し利口なやつかと思っていたのだがな……正直、買いかぶっていたのかもしれんな」


「いや、どうも……ドゥークは団長職から更迭されたようでな。見るからに頭の悪そうな大男とホドロイの野郎が馬鹿騒ぎしながら、酒酌み交わしてて、ドゥークの奴は隅っこの方で女連れでウロウロしながら、こそこそと支援隊を引き上げさせているらしい……。どう見ても指揮権を掌握してるようには見えなかったそうだ。恐らく、ホドロイが撤退に反対して、指揮官交代でもやらかしたんじゃねぇかな」


「戦時中に指揮官を交代させるだと? そんな事をした所で、混乱するだけなのだし、ドゥークと言う将は、戦略的見地も持っていて、かなり優秀な将だと言う印象だったのだがな……」


「どうも兵共がこぞって、ドゥークの更迭を支持したようでな。もっとも、連中も明らかに様子がおかしいみたいなんだ……」


「様子がおかしいとな? またぞろ、揃って猛り狂ってるとかそんな調子か?」


「ああ、そう言う事だ。正直、雲行きが怪しい。ファリナの話だと、このあたり一帯の火の精霊の気配が濃くなってきてるらしくてな。確かに夜の森だってのに妙に暑いよな」


「……確かに、明らかにシュバリエ市よりも暑いほどだし、ファリナもそう言っていたな。リンカ、お前の目で見て、この一帯の異常は感じられるか?」


「はい、確かに火のマナストーンの気配を近くに感じます。クンクン……こっちですね」


 そう言って、リンカは鼻を鳴らすと、国境ラインのすぐ間近にあったすでに乾ききった血痕の前まで行くと、無言でそれを指差す。


(お母様……私経由で血液サンプルの分析は可能か? エインヘイリャル化した者の血液には高濃度で火のマナストーンが含まれている……そう言っていたな? 触ればいいか?)


(むすめー。その通りなのだー。だが、その血液……多分火を近づけたら燃えるくらいには汚染されまくってるのだ。もう、むすめの感覚経由でも解るくらいなのだ……触るの駄目! 絶対っ!)


 そう言われて、落ち葉を一枚血痕へ投げかけるとボンと枯れ葉に火が付く。

 ……血痕だけでこれか。


 どのみち、これは土ごと除去して、穴でも掘って埋めた方がよさそうだった。

 なるほど、エインヘイリャルとは血液からして、もうマナストーンで満ちているわけか。


 そして、最終的には結晶化して、弾け飛ぶ。

 全くもって、救いがない……。


「……お母様の分析結果は、クロだな。この血痕には高濃度の火のマナストーンが含まれているようだ。ソルヴァ殿、この血痕は何者の血なのだ?」


「……そこは……ホドロイが転げ回ってた辺りだな。まさか、あの野郎……エインヘイリャルだったってのか!」


「まだ何とも言えんが……二人共、実際に会話してみた際や、敵陣の偵察の際、ホドロイについて、他に気づいたことはないか? それとホドロイ子爵を狙い撃ちしたものからも話が聞きたい」


 とりあえず、マーシュ隊長とソルヴァ殿の二人に確認する。

 まぁ、ほぼ決まりと言っていいのであるがな。


「そうさなぁ……。一応、あの野郎は国境を越えやがったんでな。エルフ達も当然狙い撃ちしたんだが……。地面を転げ回りながら、耳を掠ったくらいで生き延びてやがったんだよな。運のいい野郎だ……。あの時、殺しても良かったんだが。線の向こう側に行っちまったら、追撃もしねぇと言っちまったから、手控えざるを得なかったんだわ」


「それは恐らく偶然ではないな。コイルガンの弾速は本来、見切れるようなものではないし、狙い撃ちを避けたとなると、無意識に回避した可能性が高い。ベルダなぞいい例であろう」


 そこまで話したところで、マーシュ隊長がエルフの兵を一人連れて来て、一言二言話をする。


「アスカ様、この者によると、別の者が馬の脚を狙撃し落馬したところを撃ったそうですが、頭を狙ったのに、明らかに見もせずに、撃った瞬間に避けていたそうです」


「ノールックでコイルガンを避けたのか……。やはり尋常ではないな」


「確かに、傍から見ると随分と無様に転げ回っているようにしか見えなかったのですが、狙い撃つ側としては動きが読めない上に、とっさに馬を盾にして時間稼ぎまでやっていたようなのです。参考までにあの時、ホドロイ子爵を狙っていた狙撃手は5人……いずれも至近弾だったり、馬の死骸に当たったりと完全に仕留め損なってしまったようです」


 今のところ、コイルガンの難点はパワーチャージに時間がかかって、連射性能が低い点であるからな……。


 それでも10秒に一発の射撃頻度なので、そこまで悪いものでもないが、五人がかりの集中砲火を避けるとなるとやはり……そう言う事か。


「なるほどねぇ、運が良かったと思ってたが、やっぱ、あれは偶然じゃなかったって事か。アスカを呼んで正解だったな……」


「まぁ、そうだな。楽に済むと思っていたのだが、そうはいかんか」


「……どうやら自分の出番のようですね。アスカ様、どうでしょう……今のうちに、敵陣をエネルギー転化弾で、まとめて焼き払うというのは? エインヘイリャル相手ともなれば、精霊化されるより先に宿主ごと吹き飛ばすのが一番だと思います」


 実際、精霊化されてしまうと、リンカでもないと太刀打ちできない……。

 その前に仕留めると言っても、半端なやり方では、精霊化されてしまう。


 その辺りは、ベルダの時で思い知っていた。


「いや、それだと無関係な者達も巻き添えになってしまうし、街道が使い物にならなくなってしまうと今後に支障が出る。それにどうも、ドゥークと言う者……。本来はイース嬢の義兄弟と言うべき者のようでな……。敵に洗脳されている可能性があるのだ。可能ならば救ってやりたいのだ」


 なにより、地上で反物質エネルギー転化弾を使うなぞ、さすがに狂気の沙汰と言える。

 確実に地面にクレーターが出来るであろうし、そうなったら、街道の再建と言っても簡単ではない。


 いずれにせよ、その後のことを考えると、それは避けるべきだった。


「な、なるほど……。それは確かに止めたほうが良さそうですね。けどホドロイ子爵がエインヘイリャルだとすれば、騎士団も火病になっていると思いますし、ドゥークさんも手遅れなんじゃないでしょうか?」


 リンカの言葉に、イース嬢も泣きそうな顔になる。


「そんな! アスカ様! ドゥ兄様を助けてください! あの人は私と同じヴィルカインなんです……きっと、神樹様のご加護で……」


「そうは言ってもなぁ……。ここら一帯にはお母様のマナストーンは届いていないのだ。ドゥークを正気に戻すと言っても、簡単ではないではないだろう。ソルヴァ殿はどう思う? ドゥークを捕虜にするのは可能か?」


「アイツを捕虜にか……。だが、あの野郎、コイルガンも避けてやがったしなぁ……直接、やりあった訳じゃねぇけど、相当な使い手だぞ、ありゃ。しかも、子爵様の為に命懸けで飛び込んできたようなヤツだ。正直、五体満足で捕虜にするってのは無理があると思うぜ」


「そこを……なんとか! お願いします! ソルヴァさん!」


 ソルヴァに泣きながらすがりつく、イース嬢。

 私も掛ける言葉が見つからなく、さりとていい案が思い付くわけでもなく、見ているしか出来なかったのだが。


「イース。あまりワガママを言って、皆を困らせるなよ」


 唐突に森の中から、声が響いた。


「何奴! そこを動くな!」


 リンカが素早く反応し、コイルガンを向ける。

 

 森の中から出てきたのは、小柄な少年だった。

 見た目は素晴らしく平凡で、どこにでも居るような印象なのだが、見覚えはあった。


「……アークか。何故ここに? オーカスにて潜伏するように指示していたはずだが?」


 言いながら、リンカを抑える。

 ……ぼんやりしているように見えて、すでにコイルガンに弾を装填済みで、パワーチャージまで済んでいるとか、恐れ入るな。


「アスカ様、申し訳ありません。さすがに義兄弟の生死が関わっているので、大人しく潜伏している訳に行かず、命令違反を承知で、現場にまで来てしまいました」


「アークお兄様っ! た、大変なんです! ドゥ兄様が! ドゥ兄様がっ!」


「イース……いいから、落ち着け。僕も事情は解ってるし、ドゥーク兄さんとは、先程会って話を付けてきた。もう、大丈夫だから……な?」


 アークの言葉にイース嬢も泣きながら抱きつく。


 なんと言うか、お兄ちゃん……であるなぁ。

 これでは咎められないではないか。


「ふむ……ドゥークと直接話が出来たのか? あの者も、恐らく火病にかかっていたであろうから、話し合いも難しかったのではないのか?」


「ええ、アルジャンヌ……。やはり、僕らの義兄弟でもあるんですが、彼女に神樹様のお守りを託したのですが、上手く行ったようで、ドゥーク兄さんは至って正気のようでした」


「なんと! お主……裏でそんな事をやっていたのか!」


「はい、アルジャンヌの話だと、明らかに正気を疑うような様子で、イースから聞いた火病感染者の話を思い出したんです。ダメ元で神樹様のお守りをドゥークに渡すように言っておいたんですが。髪の毛が白髪だらけになるほど、たっぷりと恐怖を味わったみたいで、イースが言っていた条件を満たせたようでして……」


 イース嬢が両手を組んで、祈るような仕草でアークを見つめていた。

 

 確かに、どれだけファインプレイなのだ? この者……。 

 これでは、イース嬢をブラコンと笑えんではないか。


「な、なるほどな……。だが、そうなると何故、退かぬのだ? 正気に戻ったのなら、こんな状況……撤退一択であろう」


「まぁ、そうは行かなくなったようでして……。後は本人に聞いたほうが早いと思いますよ。ドゥーク兄さん……構わんから、こっちに来てくれ。アルジャンヌもだ」


 アークが暗がりに声をかけると、平服に長剣と言う出で立ちの灰色の長髪の若い男が茂みから出てくる。


 もっとも、その髪にはいくつもの白い髪が混ざっていて、片腕も吊っていて、ボロボロといった風体だった。


 そして、その傍らには肩を貸すように若い女が寄り添うようにしていた。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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