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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第二章「アスカ様の覇権国家建国道」

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第二十六話「戦場のアスカ様」①

――国境ライン上空100m――

――神樹帝国飛行船『風詠み号』カーゴルームにて――

 

「えっと、アスカ様……。恐らく国境ライン上空に到着したと思うんですが……。本当にやるんですか?」


 飛行船の操舵手ならぬ、躁風手席のファリナ殿がそんな風に聞いてくる。


 いかんせんこの飛行船。

 アドバルーンのように浮かび上がるだけの巨大植物に、籠をぶら下げた程度の代物で、

 動力も何もない。

 

 もっとも、そこは魔法がある世界。

 風を起こして、風に流されて移動は可能で目一杯、風に乗せれば、時速50km程度での移動は可能だった。


 もちろん、改良の余地は大いにあるのだがな。


「なぁに、たかが100m程度。私は惑星大気圏外降下の経験もあるのだから、この程度、どうということもないな」


 まぁ、VRだがな!

 例によっての、ユーリィ教官のルナティックコースがそんな感じだったし、帝国の惑星降下兵連中は、それくらい軽くこなすからなぁ……。


「アスカ様、冗談ですよね? ここから飛び降りるんですか! 下真っ暗だし、めっちゃ高いです! ファリナぁ……も、もっと下がりましょうよ!」


「いや、これより下がると安全高度を下回ってしまう。ここで良いぞ。あとはなんとでもするし、見てみろ。一応、ソルヴァ殿達も目印として篝火を焚いてくれているのだ。あれを目印に飛び降りるだけだ」


 そう言って、私は手から蔓を出して、浮舟草とつながっている支柱に絡ませて、蔓も腰と足、両肩へと巻き付け、衝撃が分散するように結びつける。


 リンカも何も言わずとも、そこまでやっていたのでお互い、結束状態を確認し合う。


「よし、降下準備良しであるぞ! リンカ」


「アスカ様の装具も問題ありません。イース殿も大丈夫そうですね」


 勢いよく返事するリンカだったが、イース嬢はそれどころではないようだった。


「うぇええええええっ! 目印って全然小さいし、全然、まったく大丈夫じゃないですー!」


「……だから、イース殿はお留守番をした方がいいと言ったのであります。アスカ様、リンカ降下準備完了です!」


「……そうか。順番としてはベテランが最後と言うのが通例だからな。私が最後に飛ぶとしよう。それでイース嬢はどうするのだ? 別にこのままファリナ殿と一緒に引き返すのも手ではあるぞ?」


「いえ! やりますっ! 私だって、ここに来た理由があるんですから! こうなったら、やったります! 女は度胸ーっ!」


「うむ、その意気やよしであるな。では、ファリナ殿……予定通り全員降下する。多分、それなりに高度も低下するとは思うが。それも計算に入れてあるから、許容範囲に収まるはずだ。爾後は一度シュバリエに引き返して、お主も交代要員に引き継ぎ、ゆっくり休むが良いぞ」


「いえ、私も最後まで索敵役を務めさせていただきます。そもそも、火の精霊の兆候を見つけたのも私ですからっ! イースやソルヴァも頑張ってるのに、私だけ休むとかないし!」


「そうか? まぁ、無理はするな……では、一番手……リンカ! 行くが良いぞ! 降下開始っ!」


「Yes Mam! リンカ! 参りまーす!」


 そう言って、リンカが籠からその身を翻すと、一気に落下していき、途中でビヨーンと浮き上がり、また落ちてを繰り返し、徐々に地面に近づくと蔓を切り離して、地面に着地するのが見えた。


 さすがに衝撃で飛行船も少し高度を落とすのだが、10m程度で済んだようだった。

 ファリナ殿も早くもこの植物飛行船の扱いに慣れてきているようだった。


 まぁ、実際、街の上に浮かべる程度の段階だったのを無理を推して、最前線まで、飛ばしてもらったからな。


 原始惑星大気圏内の夜間低空飛行なぞ、帝国宇宙軍パイロットでも、尻込みするシチェーションなのだが。

 目印として、街道のあちこちに焚いてもらった篝火を頼りに無事にここまで辿り着けてくれた。


「さすが、リンカであるな。たしか、ユーリィプログラムでも臨死体験と言う事で、このバンジージャンプ訓練がメニューにあったはずだからな。案の定、卒なくこなしよったな」


 思わず、感心する。

 ユーリィプログラムは、デイリーノルマのノリで、即死イベントを体験させられたりと、まさに地獄のフルコースなのであるのだがな。


 なので、私もこのフリーフォールダイブは体験済みだった。


 まぁ、確かに慣れないと飛び降り自殺と変わらんので、なかなか大変なのだがな……。

 

 ……さて、我々だが。

 最前線のソルヴァ殿より、敵軍の先遣隊を国境ラインで捕捉し、殲滅に成功したとの報を受け、ひとまず安心と思っていたのだが。


 上空哨戒中のファリナ殿から、国境ラインの向こう側に火の精霊が集まっていくのが見えたとの事で、敵にエインヘイリャルが紛れている可能性が浮上したのだ。


 お母様にも確認したところ、火の精霊の領域化しているとのことで、ソルヴァ殿もなんとも嫌な感じがするとの事だった。


 このまま敵軍が引き上げる事で、決着が付くと思っていたのだが。

 この様子では、恐らくまだ何かが起こると確信を得たので、急遽、対エインヘイリャルに特化しているリンカと私が最前線へ出陣することとなったのだ。


 なお、イース嬢は居ても居なくてもどちらでも良かったのだが。

 本人はお供するのが義務と言って聞かず、同行してもらっていた。


 とにかく、急ぎであったので、もっとも早い移動手段として、ファリナ殿の飛行船に便乗し、国境ライン上空まで飛ばしてもらった。


 もっとも、街道と言っても20mもあるような飛行船が着陸するような余裕など無く、降りる方法がないとの事だったのだが……。


 上空での滞空が可能ならば、飛び降りてしまえばいいのだ。


 そこで、手っ取り早くフリーフォールダイブとも呼ばれるバンジージャンプの要領での降下を選択することにしたのだ。


 これは、伸縮性の高い命綱を付けて、飛び降りて勢いを殺してから、着地する……まぁ、強化人間でもないと無理があるのだが、低空からの降下となると、一番てっとり早い方法ではあった。


 リンカは普通に降下成功したのだが、まだまだ人間としての常識が抜けきれていないイース嬢は、どうやら土壇場で怖気づいてしまったようだった。


 今も身体から伸ばした蔓を飛行船の支柱に絡めて、準備はできているのだったが、下を見るなり固まってしまっていた。


 こんな100m程度の高さ……強化人間なら、機材なしの生身ダイブでも結構なんとかなるのだが。

 なによりも、イザとなったらお母様が局所重力制御で、支援くらいしてくれるだろうからな。


 実際、リンカの落下速度も見るからにずいぶんとゆっくりだった。

 案外、生身で飛び降りてもなんとかなったかもしれんな。


「まったく、世話の焼けるのぅ……。こっちも急ぎだと言ったではないか! すまぬが、待ってやる時間も惜しい! ファリナ殿、少し揺れると思うがなんとかしてくれ」


「あ、はい……えっと、ご武運を?」


 ファリナ殿の返事とともに、イース嬢の腰をガッシと抱き寄せる。


「え? ア、アスカ様? これ無理ですって! ムリムリムリムリ、ムーリムリですってばぁ!」


「安心するが良いぞ。イース嬢……こんな事もあろうかと思って、イース嬢の替えの下着は持ってきてあるから、ちょっとくらいなら、漏らしても大丈夫であるぞ?」


「アスカ様、そう言う問題では……ッキャアアアアアアアッ!」


 叫び声をあげるイース嬢を小脇に抱えて、無造作ダイブ!


 地面近くまで一気に降下するのだが、蔓が抵抗になり、徐々に落下速度が下がり、蔓が伸び切って、一瞬止まるとポーンと上へと引っ張り上げられる。


 うーむ、明らかに上へ引っ張り上げられるような感じだったな。

 しっかり、お母様の遠隔支援付き。


 これなら、次はもっと楽ができそうだ。


 空中でイース嬢と接触してしまうとさすがに危ないのだが、すでにこちらは地面へ蔓を接続して、落下位置も調整済みだった。


 もっとも、イース嬢は人形か何かのように、力なくバヨンバヨンと地面と空を行ったり来たりしていた。


 ……どうやら、完全に気絶しているようだった。


「まったく、世話の焼けるであるなぁ……」


 そう呟いて、再度、位置調整。

 イース嬢と交差した瞬間に小脇に抱きかかえると、最下地点で飛行船と接続された蔓をパージ。


 そのまま、10mほどの高さを無造作に飛び降りて、着地する。


 さすがに二人分の体重が一気にかかると、足がジンジンとするのだが。

 この程度は前もやったから、問題にはならなかった。


「ふわっ! わ、私……生きてる?!」


 落ちた瞬間、イース嬢が目を覚ます。


「馬鹿者が……。降下中に気絶する奴があるか。まぁ、漏らさなかったようで感心であるぞ」


 実際、抱えてる尻が濡れているという事も無かった。

 イース嬢も立派になったものだな!


 思わず、尻をパンパンと叩くと真っ赤な顔をされる。

 このイース嬢のテレテレリアクションは、いつもたまらんのであるな。


「大丈夫です! ちょっとだけですから!」


 ……駄目だったらしい。


「……そうか」


 それだけ言って、イース嬢を下ろしてあげると、背中にしょっていたバックパックから、イース嬢のズロースを取り出して、無言で手渡す。


 イース嬢も悲しそうな顔でそれを受け取ると、茂みの方に入っていってモゾモゾとやってる。


 さすが、私であるな。

 備えあれば憂いなしなのだ。

 

「あ、あの……もうこれっきりですよね? 普通に死んだかと思いました」


 茂みから出てきたイース嬢が、涙目になりながら告げるのだが……。


「何を言っているのだ。緊急展開として、これほどまでに秀逸な方法もあるまい?」


 なにせ、50km……通常徒歩で3日の距離を一時間足らずでの到着だったのだからな。

 今後、速度面の改良を進めれば、もっと効率の良い移動手段となるであろうからな。


 これを使わない手はないであろう。


「うぎゃあああっ! もういやぁあああっ!」


 イース嬢が絶叫する。

 むしろ、慣れてもらわないと困るのだがな……。


「アスカ様、ソルヴァ殿達をお連れしました。いやぁ、さすがですね。森の中に落ちると思ったのに、きっちり街道上に降りたみたいで」


「すまんな、アスカ。いやはや、まさかこんな早く来るとは思ってなかったぜ」


 リンカとソルヴァ殿がこっちに向かってくるなり告げた。


「ソルヴァ殿、状況はどうであるか? ひとまず、私も国境ラインへ向かうので、話しながら行こう。あまりのんびりしていられる状況ではないのであろう?」


 国境ライン。

 別に双方が協定を結んで決めたような線ではなく、地図上でそうなっている辺りに適当に引いただけの代物だった。


 もっとも、そこは今は大変わかりやすくなっていた。

 その線から手前は、地面がえぐれていたり、血痕らしきものが残っていたり、挙げ句に死体の山が出来ていた。

 

 山積みにしている理由は解る。

 死屍累々のままでは、足の踏み場もないであるからな。


 もっとも、これはソルヴァ殿なりの敵への見せしめだという事は理解していたし、手加減や捕虜を取れるような状況でもなかったことは、報告だけで伺い知れた。


 森の中からも続々とエルフの神樹兵達が出て来て、私に向かって跪く。


「すまねぇな……。手加減できるような状況でもなくてな……。結局、皆殺しにしちまった。せめて、葬ってやりたい所なんだが、そんな余裕がある状況じゃねぇからな……」


 ソルヴァ殿も申し訳無さそうに、頭を下げる。


「ああ、気にするな。ソルヴァ殿はきっちり任務を果たしたのだ。そして、これは見せしめということなのであろう? 確かに、敵に対しては、これ以上無い程に的確なメッセージとなるであろうからな。実際、国境を越える動きは今はないということだな」


「はい、現状、こちらの手の者が敵陣を監視していますが。すぐに動く様子はないですが、引き上げる様子もありません」


 エルフ神樹兵を率いるマーシェ隊長が報告してくれる。

 

 彼女は、ファリナ殿の姉弟子に当たるそうで、敵の先遣隊をソルヴァ殿とモヒート殿の二人で迎撃することになり、苦戦する中、増援として間に合わせてくれた。


 いわば、この突破阻止戦の勝利の立役者の一人だった。


「マーシェ隊長、ご苦労だった。だが、敵将は即時撤退すると言っていたのではなかったのか?」


「そうさなぁ……。あのドゥークって野郎もそれは確約するから、攻め入ってくるのは止めてくれって言ってたんだがな。逃げねぇってことは俺らとの約束を反故にするって事だから、こっちが攻め入っても文句なんぞ、言える立場じゃねぇよな」


「確かにそう言う事になるな。だが、この状況でまだ居座っているとは、いまいち不可解であるな。私も上空から様子を見たが、盛大に篝火を焚いて、警戒はしているようだが、なんと言うか乱痴気騒ぎをやっているように見えたな」


「はい、こちらの斥候からも似たような報告が届いています。支援部隊は撤退を始めているようなのですが、装甲騎士達は酒盛りをやってるそうで……」


「戦場で酒盛りだと? 全くもって、信じられん奴らだな。こちらの夜襲が怖くないのであろうかな? 実際、どうなのだ?」


「夜襲ですか? やれと言われれば、今すぐにでも可能です。やりますか?」


 即答だった。

 要するに、すでに夜襲の準備まで出来ていると言うことのようだった。


 まぁ、理由は解る。

 戦場で受け身に回るということは、イニシアチブを相手に譲るという事でもあるのだ。

 であるからには、常に攻勢の姿勢でいると言うことが、勝利への近道なのだ。

 

 敵将ドゥークは、かなりの切れ者と言う印象で、先遣隊の突破を阻止された時点で、作戦の破綻を悟った……私もそう理解していた。


 夜が明けてからの侵攻……その可能性も考えたのだが。

 現状、こちらも防衛線を構築中で、朝になる頃には騎兵の突破など軽く撃破出来るようになっているはずだった。


 そもそも、この街道では騎兵も4人か5人も並べば一杯で、いくら数が居ても森を抜ける頃には半数以上が討ち取られているのは確実だった。


 向こうも、こちらが迎撃体制を整える前に森を一気に抜けるのが勝機だと踏んでいたからこそ、無理を重ねたのだと思うのだが……何故、ここで引き上げずに粘るという選択肢をするのだか。


 ここまで、ある種の敵将への信頼とでも言うべきものがあったのだが、それが瓦解したとなると……。


 やはり、私がここに来て正解のようだった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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