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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第二章「アスカ様の覇権国家建国道」

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第二十四話「国境戦線」②

「そう言えば、そうであったな。ならばよい……では、この私が直接出向いて、その者達を一喝して、道案内をするように命じるとしよう」


 今更話し合いなど無意味であり、構わず先遣隊を前に出し、たった二人の先鋒についても軽く蹴散らすというのが、ドゥークの判断だったのだが、子爵の意向は聞かない訳にはいかなかった。


 それに神樹帝国の軍勢は悪名高いエルフの狙撃兵が中心で、シュバリエの装甲騎士団も夜間の市街戦に持ち込まれ、本領を発揮できぬまま、一方的に壊滅したという情報もあった。


 そもそも、ドゥーク自身も装甲騎士の戦力はそこまで高く評価しておらず、特に森林地帯での戦いでは、エルフ弓兵は相性最悪と言っていい相手だった。


 装甲騎士の鎧にはエルフの矢など通じないと侮る者も居たが。

 装甲騎士は、落馬などしようものなら自力で起き上がることも出来ず、地面に転がっているだけの装甲騎士など農民の鍬でも殺そうと思えば殺せる。


 事実、農民の反乱などでそんな風にして死んだ装甲騎士は何人もいたし、戦場での落馬は死と同義と言うのが、装甲騎士達の共通認識だった。


 装甲騎士は巷で言われているような無敵の騎士でも何でもなく、むしろ激しく使い勝手が悪いことで、ドゥークのような用兵側にとっては、どうやって装甲騎士向きの状況に持ち込むかを考えるという本末転倒と言える状況となっていたのだ。


 そんな中、神樹帝国への全軍を動員した上での侵攻計画を命じられたものの……。

 ドゥークとしては、戦場としては国境の森林地帯や市街戦を想定しており、むしろ歩兵戦力を必要としていたのだが。


 必要な時に動員を掛ける徴用兵の動員率は話にならないほどに低く、実戦に出せるとなると僅か50人程度と判明し、神樹帝国の情報についても、送り込んだ間者達は一向に戻らず、巷の噂話はどれが真実でどれが偽りなのか、誰も解らないほどには、錯綜しており、要するに、ほとんど何もわかっていなかった。


 本来、こんな状況で侵攻など無謀であり、ドゥークも出兵には反対していたのだが。

 伯爵に督促されたホドロイ子爵は、執拗に侵攻を迫り、他の家臣たちもホドロイ子爵を支持し、遠回しながら、このままでは、騎士団長の立場も危うくなるとまで言われては、ドゥークも渋々ながら侵攻の決断を下すしかなかった。


 ひとまず、ドゥーク自身としては、国境手前にて本隊を待機させた上で、先遣隊に森林地帯を強行突破させて、橋頭堡を確保。


 その上で、従兵隊を随伴させた本隊を進軍させ、先遣隊と合流し、平原での敵野戦軍との決戦に持ち込む。

 補給路の確保などの問題もあったが、そこに回すべく歩兵戦力が不足しており、輜重隊も兼ねた支援部隊も随伴させた上で、短期決戦に持ち込むことで勝機を見出すしか無かった。


 とにかく、如何にして森の中での戦いを避けるかに重点を置き、進軍速度を重視したのも敵に察知される前に、森を抜けるのが最善と判断したからだった。


 要するに、森で戦ったら負ける……そう言う前提で組み上げた作戦プランではあったのだが。

 その辺りは、ドゥーク自身の極めて慎重な性格と、どちらかと言えば悲観的に物を見ると言う事に起因していた。


 もっとも、一軍を預かる将帥として、それは決して不向きな性分とは言えず、事実ドゥークは神樹の森からオーカスへと向かってくる魔物の群れ相手や、武装盗賊団と言った外敵との戦いについては、常勝無敗を誇り、名将の名をほしいままとしていたのだ。


 当然ながら、アスカ自身も敵将たるドゥークについては、情報を集めており、その素質を見抜き、極めて高く評価していたのだ。


「……了解しました。では、この騎士ドゥークもお供しましょう。まったく、日も暮れ切って、野営中に軍使を寄越して来るとは空気の読めん奴らですな。とりあえず、護衛として他にも何人か付けましょうか?」


「いやいや、伴はお前一人で十分であろう? 皆も貴様が少々無理をさせたので、休息が必要であろう。まったく、このようなつまらない事で徒に部下を疲弊させるものではないぞ」


 言っていることはもっともだったのだが。

 そもそも、準備も出来ていない中、敵と通じている神樹教会の手の者が見張る中、敵の裏をかくには、拙速を尊ぶ以外に方法はなく、それをつまらないと斬って捨てられてはドゥークとしては溜まったものではなかった。


「確かにそうですが……。エルフ共が敵に回っていると言う話もあるので、用心に越したことは無いかと思います。おそらく、敵が二人という事はありえません。伏兵が居るのではないかと思います。本来は御身自ら交渉に出向くなど、止めるべきだと私は思っています」


「貴様も相変わらず、慎重であるな……。だが、それでは私が臆病者と侮られてしまうではないか。まったく、エルフなど……未だに木の矢を使っているような時代遅れのヤツらであろう? もしも、仕掛けてくるようなら、全軍を持って踏み潰してしまえばいいのだ」


 ……さすがに、それは無理があるとドゥークも思うのだが。


 エルフの弓兵も装甲騎士にはとても敵わないと向こうも認めており、それ故に大人しくしていると言うのは有名な話であり、そこまで脅威ではないと思い直した。


 だが、国境を超えての夜襲の可能性……現状、それがもっとも脅威といえた。

 エルフは傭兵のような事もしており、敵対者への常套手段は野営中に夜襲をかけること。

 野営中は装甲騎士と言えど、無防備であり、木の矢でも簡単に死ぬ。


 そこを狙われたら、装甲騎士と言えど容易く壊滅するし、事実、他国の装甲騎士団がエルフの傭兵団と戦い、夜襲を受けて、多大なる損害を受けたと言う話も伝わっていた。


 対策としても歩哨を増やし、篝火を多く焚く位しかなく、もっと国境から離れた場所を野営地にするべきだったとドゥークも内心では反省していた。


「解りました。どのみち、神樹帝国の戦力が我が方を超えている可能性は皆無ですからね。まぁ、いざとなれば、この私がお守りします!」


「うむ! 頼もしいな。ああ、そうだ! 伯爵によると奴らは反乱軍と呼称する予定で、ひとまず国王陛下の采配待ちとの事だ。故に、今後は神樹帝国などと言う御大層な呼び名で呼ぶ必要はないぞ」


「畏まりました。反乱軍ですか……アースター公以来ですな。いずれにせよ、秩序を乱す反乱など、芽の段階で摘み取るに限ります。どのみち、向こうもこちらの進撃の速さに戸惑っているのでしょう……大方、迎撃体制の構築も出来ずに、苦肉の策で軍使を使った時間稼ぎの交渉と言ったところでしょうな」


「そうだな……貴様の考案した進軍方法で、装甲騎士の難点である進軍速度を大幅に早めることが出来た。恐らく、我が方の雷鳴の如き速さを読み切れなかったのだろうな。向こうもさぞ泡を食っていることであろうよ」


「そうなると、ここは軍使など無視してしまって構わないかと思いますし、予定通り先遣隊の夜間威力偵察を続けさせましょう。可能なら夜明けまでに森を抜けてもらって、街道の障害をすべて排除したいところですからね」


「ふむ、だが劣勢を悟り、軍使を送ってくる辺り殊勝な者達と言えるだろうからな。堂々と姿を見せたのなら、私も堂々と顔を見せて、貴族の威厳を見せつけるのみよ!」


「そうですな……反乱軍共も子爵殿の前には、ただひれ伏すのみでしょうからな。もし、反抗的な態度をとるようであれば……鎧袖一触、踏み潰すのみです! たった二人……先遣隊に命じれば一瞬でしょうし、この私一人でも十分ですよ」


「ふむ、ドゥーク団長……大方貴様、奴らが何を言おうがそのつもりであるのだろう? こう言うのは最初が肝心であるが、せめて一人は生かしておけよ。道案内役が居なくなってはこちらも困るのでな! はぁーはっはっは! では、参ろうぞ!」


 高笑いを響かせ、ドゥークを伴に先遣隊の元へ向かったホドロイ子爵だったが。

 現場につくなり、彼は信じられないものを目にする事になった。


「おぅ、わりぃな……こいつらは国境を越えたんで、全員始末させてもらったぜ? にしても、随分と遅かったし、二人しか来てないのか? 正直、物足りねぇんだがな」


「ソルヴァのアニキ! こいつら、敵の総大将……子爵様と、なんとかって団長っすよ! とりあえず、まとめてぶっ殺しときますかい?」


 死屍累々といった様子で、20名近く居たはずの先遣隊の者達は尽く討ち取られ、その死骸も街道の隅の方に一箇所にまとめて山積みにされていた。


 そして、それをやったと思わしき者達は、大柄の重剣を持った枯れ草に覆われたような異形の戦士と、小柄の黒い短刀を両手に持ったひょろ長い同じく異形の戦士のたった二人だった。


 先遣隊には5人の装甲騎士もいたのだが。

 二人は身体中穴だらけになって死んでおり、更に二人はぐしゃぐしゃにひしゃげた鉄の塊のようになっていて、原型を留めていなかった。

 そして、最後の一人は首無し死体となっていて、その首は無造作に地面に転がっていた。


 従兵達も身体に大穴が開けられていたり、真っ二つにされていたり、首なし死体だったりと、誰もが見るも無惨な死に方をしていた。


 道のあちこちに血溜まりが出来ていて、先遣隊の者達も全員が抜刀していて、剣を握ったままの腕が転がっていたりと、応戦した様子はあったのだが、その割には相手は傷一つも負った様子がなかった。


 ドゥークも、これが先遣隊の者達が正面からこの二人と戦って、一方的に虐殺された事を意味していることに気付き、驚愕を覚えた。


「な、な、な……なんだと! 我が兵が! 装甲騎士がっ! ドゥーク……これはどう言うことだ! 貴様ら! こんな事をしていいと思っているのかっ!」


 そう言って、ホドロイ子爵も馬を進めて前に出ようとしたのだが。

 ドゥークに制止される。

 

「お、お待ち下さい! そこに線が引かれているのが解らないのですか! それにこの殺気……先遣隊をやったのは、この二人だけではありません! いいですか、あの死体の山は見せしめ……警告なのです! その線を越えたら、容赦なく殺して、この山に加える……そうであろう? 貴様ら……」


 線といっても、地面を足で擦って描いた程度のもので、街道をまっすぐ横断するように描かれているのだが、星明かり程度では、よく見ないと解らないものだった。


 だが、線に近づくなり、濃密な殺気が一斉に立ち上るのを感じ、ドゥークも反射的に足を止めて、その線を目にして全てを理解したのだった。 


「なんだ、気付いちまったのかよ。まぁ、一応そこの線から先はお前らの庭って事にしてやってるからな。別に団体で集まって酒盛りやってようが、野営やってようが、俺らは何もするつもりもねぇ。だが、この線からこっちは俺らの庭だ。勝手に入り込んだ奴らは、こいつらみてぇにぶっ殺されても文句なんぞ言わせん。言っとくが俺らは貴族だのなんだのって理由で手加減なんぞしねぇからな。まぁ、死にたいってのなら、思い切って越えてみればいいぜ! ほらほら、そこのお貴族様っ! 勇気を出して、ここまで来てみろ! ヘイッ! カモン、カモーン!」


「ヒャッハーッ! 勇敢なるお貴族様! ブルってないで、俺らに勇気と貴族の誇りってもんを見せてくれねぇかな! なんだっけ? ノベリゼ・オブリッチュだっけ?」


「ばぁか! ノブリス・オブリージュ……お貴族様は、誰よりも先に人々の先頭を切らなきゃいけねぇって言う尊い暗黙の了解ってとこだな。もっとも、そこのお貴族様は部下が死んでるのを見て、すっかりブルっちまってるみてぇだがな! おら、どうした? んな、顔真っ赤にさせてねぇで、かかってこいよ! ノブリス・オブリージュの心意気はどうしたんだ? ああん!」


 そう言って、手招きをしつつ挑発するソルヴァとモヒート。

 

 相手を怒らせて、冷静な判断を奪い取る……ソルヴァの常套手段でもあり、先遣隊の者達もまんまと挑発に乗せられて、境界線を越えた結果、無惨な屍を晒すことになったのだ。


 ホドロイ子爵も無言のまま、馬に拍車をかけると前進しようとするのだが、素早くドゥークが馬を回り込ませると間に入って止める。


「だから、お止めくださいと言っているでしょうがっ! そんなに死にたいのですか! 今、その線を越えたら、確実に死にます……。奴は子爵殿に国境線を超えさせた上で、堂々と自国領内で殺した上で、侵略者の末路として喧伝するつもりなのですよ! アレを相手に、私一人では子爵殿をお守りする事はとても出来ないでしょう……ここは何を言われても、線を超えてはなりません! ここは直ちに退くべきです!」


「ドゥーク! 貴様、なにを弱気なことを言っているのだ! 鎧袖一触とか言っていたのはどうしたのだ! まさか怖気づいたのか! この臆病者がっ!」


 激昂し、ドゥークに剣を向けるホロドイ子爵……だが、ドゥークはそれだけは絶対に阻止するつもりだった。


 ……ここはすでに死地以外の何物でもなかった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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