第二十一話「アスカ様のスローなライフ」④
「まぁ、細かいことはいいではないか。イース嬢もここに来て、一緒に水浴びでもせぬか? 今日も暑いであろう。腹掛けなら濡れても困らんだろうし、汗も流せて、いい事ずくめであるぞ。それに今日は新しい香り草を試そうかと思っていたのだ。フローラルに香る素敵女子になってみんか?」
香り草とは、要するに香水のようなものではあるな。
香りを付けたいところに、濡らした草を擦り付けると、ほのかに香るようになるのだ。
イイ女とは、イイ香りもしなければならんからなっ!
「新しい香り草っ! たしかにそれは惹かれますが……。とりあえず、アスカ様もちゃんと服を着て、下に降りてきてください! 一応、今日は裁判の日じゃないですか……」
今の時刻は午後の二時。
一応、私の休憩タイムではあるので、一体何しに来たのかと思えば、そう言うことだった。
確かに、エイル殿からそんな言付けが来ていたのを今、思い出した。
「なんとも面倒くさいのう……。どうせ、あんなもの、形だけなのだろう? ひとまず、エイル殿に丸投げおまかせでよいであろう! 良い、もっと近うよれ。そりゃっ! 冷たかろうっ! 何なら、皆で川に涼みにでも行かぬか?」
そう言って、イース嬢に水を引っ掛ける。
「キャッ、つめた~いっ! た、確かに冷たくて気持ちいいし、アスカ様やリンカちゃんと一緒に川で水と戯れる……ゴクリ……それ、良いですね……。って、ダ、ダメですって! 絶対に連れて来るようにエイル様にも言われてますから! とにかく早く服着てください! 私も手伝いますから……」
勢いで、このまま遊びに行こうと思っていたが、さすがにそう甘くはないようだった。
これはもう観念するしかあるまいか。
「うむ! よいだろう! ならば、いつも通り着替えは頼んだっ! 皆の者、存分にやってくれ!」
腹掛けを脱いで、両手をバンザイして堂々と全裸になる。
なお、恥ずかしさなど微塵にも感じていない。
同性相手に服を着せてもらうのにそんなこと、気にするほうがおかしいであろう。
イース嬢とその背後に控えていたエルフのおねーさまや、女子職員などが手慣れた感じで、身体を拭いてくれて、下着から衣装までちゃちゃっと着せて、髪の毛もたちまち整えられていく。
私はなすがままである。
これも最初は、自分でやろうと思ったのだが……。
考えてみたら、皇帝やってた頃から、自分で髪の毛の手入れなど一度もやったこともなかったし、衣装の着付けと言ってもいつもメイドロボ任せだったのだ。
これくらい楽勝と自信満々で自分で身支度を整えようとした結果。
服も髪の毛もグチャグチャのボロボロで、そりゃあもう酷い事になり、思わず涙目になっていたら、黙っていても女性陣が手伝ってくれるようになった。
なんとも申し訳なく思っていたが、皆、身分の高い女性は、そうするのが当然だし、むしろお世話させて欲しいとのことで、もう完全にお任せとすることにした。
何事も適材適所であるからなぁ……。
そこ、一人で着替えもできないポンコツとか言わないように……人間やった事もないような事をやれと言われても出来るようなものではないのだ。
必然的に、人前に出る時はちゃんとした服を着せられるようになったのだが。
誰にも迷惑は掛けていないので、問題あるまい。
なお、リンカも以前から服は頭からポイと被っておしまいのシンプルチェニックだったのだが、付き人として、せめてマシな格好をと言っても、私と似たような有様だったので、同じように服を着せてもらうようになった。
ちなみに、猫耳と尻尾はお世話役の女性陣にも好評で、よくモフられているし、男性のお役人たちにも好評だったが、男性には触られたくないとの事で、そこはご理解いただいている。
今もイース嬢に尻尾をブラッシングされて、プルプルしてるようだが。
むしろ、たまらんらしいので、私も時々ブラッシングくらいはしてやっている。
ちなみに、今日の服装はフォーマル向けで、白い襟付きのシャツと緑色基調の胸元に深い緑のリボンが設えられた学生服のようなデザインの服のようだった。
髪型は、両サイドでキュッとまとめたツインテール。
これが一番似合うような気がするので、いつもこの髪型にしてもらっているが、気分によって編み込み冠とか、おしゃれな髪型にしてもらうこともある。
なお、どちらも自分ではとても出来ない。
そもそも、鏡と言っても金属板を磨いた程度で、映りが激しく悪いのだ。
実際頑張ってみたのだが、左右アンバランスになってしまったり、髪がニョキニョキ余ってしまったりと我ながら、酷い出来だった。
イース嬢など、実に器用なのだが、人には向き不向きがあるのだから、もうお任せで構わんだろう。
なお、服については、服飾業者にリクエストしたので、胸の辺りにしっかり盛り上がりがある。
ふふーん! フルフラット卒業なのであるっ!
やはり、婦女子たるもの胸は盛って然るべきであろう?
中身は綿が詰まっているだけなのだが、見た感じ実に女子らしくなって、大満足!
これがあるから、服を着るのも悪くないと思っているくらいなのだ。
なお、これを見たイース嬢もさっそく自分の服を改造していたし、役所の女子職員などで、胸のサイズに恵まれていなかった者達も、私を見習って、盛るようになったようだった。
さもありなんっ! さもありなんであろう!
実際、鏡と称する金属板に映る私は普通に可愛らしいティーン女子そのもの。
老若男女あらゆる世代と性別や年齢問わず、受け入れられつつあるようなのだが。
指導者というよりも、アイドル的人気?
まぁ、そんなのでも支持されないよりはマシなので、市民との交流も積極的に行っている。
実際、皇帝やってた頃も公の場で、仮面を取って素顔をチラ見せた結果、熱烈な支持者が急増したようであったからな。
演説中に仮面の調子が悪くなったので、予備と取り替えた一瞬のことで、別に素顔を見せてはならないと言う決まりがあるわけでは無かったので、私は気にしていなかったのだが。
『アスカ陛下の仮面の下は可憐なる美少女だった』とかなんとか、盛大なニュースになり、なんかもう帝国臣民全員支持者位の勢いになってしまったのだ。
要するに、可愛らしい美少女統治者というのも、能力と経験さえ伴っていれば、全然ありなのだ。
そして、私は元銀河帝国皇帝なので、能力も経験もお墨付きなのだ。
もはや、死角なしかもしれんなっ!
「うん、こんなものかなぁ。リンカちゃんも、可愛いく仕上がりましたねっ!」
手早くお支度完成っ!
なお所要タイムは、10分程度。
皆、日に日に手慣れていっているし、人数も多い時は10人近くになることあった。
なお、リンカはピンク色の騎士服という、女騎士などが着る服を小さい子用にアレンジした服装で、腰には剣も吊るされていた。
もっとも、リンカの場合、自前コイルガン狙撃の名手なので、剣とか単なる飾りで、どちらかと言うと5cmくらいの鉄の矢を束にして詰め込んだ腰の物入れの方が本命だった。
もっとも、私に帯剣を許されると言うのは、ある種のステイタスとなっているようで、イース嬢やファリナ殿も同じように剣を腰から吊るしているし、エイル殿やアリエス殿も帯剣許可を得たいと言ってきたので、許可をしている。
なお、帯剣を許可と言っても、皆、剣術とか割りと下手くそ。
エイル殿は、年の功でそれなりにサマになっているようだが、本人曰く、素手の方が専門との事で、やっぱり飾りでしかなかった。
そのうち、機会があれば、皆でユーリィデータにでも稽古付けてもらうとしようか。
とまぁ、そんな調子で着替えも済んだので、今日も張り切って午後の公務に勤しむ事としようっ!




