第二十一話「アスカ様のスローなライフ」②
「ふむ? 別にイース嬢が服を着ていても私は気にしないのだが……。そう言えば、ファリナ殿などは、単なる報告連絡でも、ここに来る時は何故か、この腹掛けに着替えていたが、そんなルールでもあるのかのう? まぁ、男子禁制とは言っているから、殿方の目は気にしなくてもいいのだが……」
さすがの私も殿方の視線は気になるのだ。
いかんせん、この腹掛けは下も隠れてはいるのだが。
背中側は首と腰に紐で結んでいるだけなので、ちょいとめくれると、色々アウトなのだ。
さすがに、こんな姿で街を歩いたりはしないし、殿方の目にさらされると……ちょっと困るな。
「こ、これはですね! 私達なりのけじめなんですっ! と言うか、リンカちゃんもなんで、そんな堂々としてるんです? 寝る時もいつもアスカ様共々裸ですよね……? せめて、パンツくらいは履きません? 胸だって……その……それなりにあるんだし、少しは気にした方がいいと思います!」
リンカの胸のサイズは……銀河標準女性用下着サイズでいうとBくらいはある。
ちなみに、イース嬢はAAくらい?
私は……ええぃっ! 聞くなっ! そんなもの。
フルフラットのAAAとか、恥ずかしくて人に言えるものかっ!
「え、イヤであります。服なんて、別に着なくてもいいんじゃないでしょうか? 私達獣人ってそんなものですし、電磁草を鎧化すれば、服着て無くてもすぐに戦えますからね。いやはや、素晴らしい御力でありますね!」
当たり前のようにイヤでありますと応えたリンカにイース嬢は絶句して涙目になる。
なお、その口調は以前は子供、子供していたのだが、VR訓練で真っ先に直されたようで、今ではすっかり軍人調の「~であります」と言った調子になっていた。
当たり前のように訓練中も下着姿で訓練を受けたそうだが、教官殿も見て見ぬふりでもすることにしたのか、何も言われなかったらしい。
AIと言うのは、対応能力を超えたり、理解出来ない物は巧みにスルーすることで、論理破綻を防ぐらしいので、ごもっともな対応だった。
まぁ、私も最初は服を着ていないと落ち着かなかったのだが。
このシュバリエで一番高い市庁舎の屋上で、誰はばかること無く全裸日光浴を一度やったら、すっかり病みつきになってしまったのだ。
全裸日光浴……それは、陽の光を全身余すところなく浴びる事。
全身の光合成細胞が活性化し、体内酸素濃度の上昇に伴い、頭もスッキリ、魔力も充填!
水浴びも一緒にすれば、髪もお肌もツヤツヤかつプルップルッ!
敢えて言おう! 服なんて要らぬのだっ!
そんな訳で一日一回全裸日光浴タイムとかやってたのだが、イース嬢も一緒になって脱いでいるうちに、せめて腹掛けくらいはぁ……等と泣きながら言い出したので、私達も妥協した。
別にイース嬢が脱ぐ必要などないのに、何故か私が脱ぐと彼女も脱ぐ。
最近は寝る時も全裸なので、服を着ている時間の方が短いくらいなのだが。
日差しを浴びなければ、この全裸衝動も出てこないので、私としてはあまり問題になっていない。
殿方の前や人前では服を着る……そこは文明人としては常識じゃろ?
不思議なもので、陽の光を浴びると無性に全裸になりたくなるのだが。
日が落ちると、急に恥ずかしくなったり、何をやっていたのだ? と思ったりもする。
最近は、色々慣れてきた。
要は殿方の前や公衆の面前で脱がなければ良いのだ。
もちろん、私は淑女なのだからな。
服を着ているときは、パンチラだって許していない。
市庁舎の役人達も、屋上で私が何をしているのか知っているようなのだが。
気を使ってくれているらしく、業務連絡などもイース嬢やファリナ殿、女性職員達が連絡役となっているようで、男性は一切来ない。
なお、その時々の私の服装に他の者達も合わせるという謎ルールがあるようで、私が普通に服を着ていると、そのままなのだが、日光浴スタイルで腹掛け一枚だと、階段の踊り場か屋上の隅っこで着替えているようだった。
なお、私はそんな事は一言だって命じていないが、もうそうするのが当たり前になっているようだった。
もっとも、必然的に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女性陣とはすっかり仲良くなってしまったのだがな。
私の業務時間は、朝の八時からお昼の十二時そこから昼食を挟んで、日光浴タイム。
午後三時からはちゃんと服を着て、業務再開。
夜の七時を過ぎたら、終業。
とまぁ、ここのお役人もそんな感じで仕事をしているそうなので、私も合わせた。
ちなみに、一日は半日で十二分割で午前と午後で実質二十四分割と言うのは、地球標準時刻と全く同様だった。
もちろん、この惑星の自転周期は地球と違うようなので、銀河標準時刻の1時間と同一ではないのだろうが、一日24時間と言うのは、違和感もなく解りやすかった。
なお、異文明だろうが、一日を十二進法で分割すると言う時間の概念は、大体どこも一緒だったりする。
ヴィルゼット達もそうだったし、他の惑星文明もそこは似たような感じだった。
これは、12という数字が6と4、3でも2でも分けられて、区切りやすく、扱いやすい数字だと言うことに起因するらしい。
一日を円で表した際にも円を分割することで、時間のイメージがしやすくなり、結果的に12進法となるようなのだ。
まぁ、これも数字の概念や武器などと同じく、あらゆる文明が等しくたどる収斂進化の一つと考えられている。
ちなみに、銀河帝国では、伝統的な地球換算日時を流用した銀河標準時を基準としていて、惑星によっては、自転周期を基準にしたローカル時刻などを併用していたが。
各惑星のローカル時刻と銀河標準時の変換式は面倒くさいものになりがちで、星系間移動の機会が多い者や、行政関係者や軍関係者は、銀河標準時を基準とするのが、当たり前だった。
なにぶん、共通の時間基準がないと、他の惑星の住民相手に到着予定時刻や会議の開催時刻を伝えることすら、ままならんであろう?
この辺は、星間文明ならではもので、日時の表記や長さが惑星によって違うとか、ややこしすぎて、収拾付かなくなるのが目に見えているので、統一するのがむしろ、当たり前だった。
そこを考えると、この惑星の文明の先史者達もなかなかに解っていたようで、イース殿から聞いた話だと、天球上で何処へ行っても、同じ位置にあってほぼ動かないように見える星の周りを一日かけて回る時告星と呼ばれる星の動きを基準としているらしかった。
この辺は、地球も似たようなもので、北極星と北斗七星の位置関係で時間を測っていたと言う話で、所変われど似たような事になると言ういい例だった。
ちなみに、私のお仕事は……特に無い。
細かい政治的な案件などは、役人たちに丸投げしているし、基本的に決定権も持っていない。
まぁ、これは昔からの私の政治スタンスのようなものだ。
いざという時の責任は持ってやるが、決定も判断も全て現場判断に任せると。
これは現場からは、受けが良いし、現場の士気も向上したりと良いことづくめなのだ。
なお、真逆の対応……決断も判断も上が行い、現場の責任は現場の者にと言うのは、割りと最悪に近い。
上の人間と言えど、細かい現場の状況なんて解る訳がないのだ。
にも関わらず、下手に仕切ろうとすると、必然的に、確認や許可だの無駄な作業ばかりが増えて、苦労ばかりする割には、現場も上も全く捗らず、あっさりキャパオーバーして、誰もが無駄な作業に追われて疲弊し、ますます効率も悪化すると言う本末転倒な状況となる。
現場が判断に窮して、判断やアドバイスを求めてきてから対応する……それで十分なのだ。
組織の運営は、規模の大小を問わず、責任の所在を明白にする事で多くの問題が解決出来るのだ。
そもそも私は、この都市国家の領主のような立場には別にこだわりはないし、ここは単なる通過点に過ぎないと考えている。
なによりも、今まで、領主抜きでちゃんと回っていたのだから、引き続きよろしくと言うことでお願いした。
向こうは、どんな無茶振りが来るか戦々恐々としていたようだったが、私の良きに計らえ主義に理解と好感を覚えてくれたようで、早々にオートマチックで運営をするようになったようだった。
もちろん、定期的に状況報告や相談が上がってくるので、その都度、指示出しもしているし、アドバイスなども随時行っている。
まぁ、私が気にするべきことは、各種情報の整理統括と国家としての対外対応方針の制定。
要するに、外交と軍備……次の戦いへの備えといったところだった。
そこも恐らく問題ないと判断していた。
その程度には、ソルヴァ殿達神樹の戦士は強力で、お母様と言うチート存在の力は圧倒的だった。
まぁ、そろそろ近隣の都市国家あたりが反応して、様子見の密偵だのを送って来ているようだったが、いきなり軍勢が攻めてくることもあるまい。
当面は、まったりのんびり過ごすに限る。
私の予想では、本格的に状況が動き出すのは、半年か一年先とかそれくらいであろうな。
なにぶん、この世界は情報の伝達が遅いし、諸国の領主が集まって、対応を検討すると言っても、そんなひと月程度では何も出来ていないであろう。
こちらにはエルフの情報ネットワークがあるし、教会には神樹の小枝と称するお母様の分体のような枝を各教会で御神体として祀っているとかで、小枝を通じてお母様からのお告げという形でメッセージのやり取りが出来るようになり、教会間のネットワーク化も進んでいる。
まぁ、目下の問題点はお母様を経由する形になるので、伝言ゲーム化してしまい、正確な情報が伝わりにくい事なのだが。
そこも徐々に改善しているようなので、気長に待つつもりだった。
だが、情報ネットワークの整備は最優先と説明している。
高速情報伝達網は、国家運営に於いては、必要不可欠。
何より、各地の教会からもたらされる情報は、貴族たちの動向を把握するには必要不可欠なのだ。
そう言った理由もあり、最優先とするのは、むしろ当然の話であろう?
ひとまず、何もかもが試行錯誤中で、手探りではあるものの。
国としての状況は、これまでや近隣各国と比較しても悪くはなかった。
なにせ、食料備蓄は有り余っており、商人たちはここぞとばかりに近隣諸国や王都へ余剰の食料を売りつけに行っていて、儲けの何割かを上納金を収めてくれるとのことで、男爵の財産も誰も相続者が居なかったので、ありがたく国庫へ接収させていただいた。
本人としては、誰も財産は渡さんとかそう言う意思表示のつもりだったのかもしれんが。
財務関係者によると、そう言う宙に浮いてしまった財産などは、本来は王国へ寄贈すると言う話になっていたようだったが。
それはあくまで、ライオソーネ条約に加盟し、王国に属すると言う事になっている国での話。
我が国は、ライオソーネ条約には加盟はしないつもりであるし、国王に帰属するするつもりもなく、独立独歩を歩む独立国なのだ。
である以上、宙に浮いた金は、我が国の国庫へ寄贈と言うのも当然の話だった。
まぁ、安楽なる最期を迎えられるように手を尽くしたのだから、手間賃くらいは頂いてもバチは当たらんであろうからな。
私が私腹を肥やす為に接収する訳でもないので、何処からも異論は出ずに、おかげで財政難も一気に解決の目処が立っている。
いやはや、守銭奴と言う話は聞いていたが、男爵殿は、財務関係者が驚くほどの金銭を溜め込んでいたのだ……その金額は、ざっと金貨10万枚相当。
クレジット換算だと10億クレジット。
まぁ、さすがに宇宙戦艦は買えんが、浮揚戦車や大型警戒ドローンくらいならば買える額ではあるな。
個人が溜め込んだにしては、まぁまぁの額であり、この世界では国家予算並の金額とのことで、今後のシュバリエ市の発展のために使わせてもらうという事なら、男爵も浮かばれるというものよの。
なお、スラムの住人は全員、相変わらずさっぱり減らないスーパー麦畑の収穫作業員に動員しており、他所の領地のスラムの住人や難民と言った他で持て余している人々も呼び集めるように、各地のエルフ達や協会関係者に指示を出している。
エルフ達については、その長である四賢の一人のエイル殿が動かしており、他の三人は年老いている上に、エイル殿が神樹様にエルフの代表と認められたと公言したことで、その立場が一気に向上した事で、皆、追従せざるをえないようだった。
まぁ、代表が複数人いて、合議制とかやられてもかえって面倒なだけなので、権限は一本化すべきであったし、エイル殿はエルフの中でも、話も分かるし頭の切れると評判の御仁で、本人も快く引き受けてくれたので何の問題もなかった。
なお、他の長老達は年老いていて長旅も出来ないとやらで、ご来訪をお待ちしているとの祝辞を送ってきただけで、まるで使い物にならなさそうだった。
なお、この祝辞を読んだエイル殿はマジギレして、「這ってでも来い、途中で死んでも構わんからとにかく来い!」などと返答を送っていたようだが、別に私は気にしていないし、近くに行ったら、挨拶に行く程度でかまわないと思っている。
年寄に無理をさせるのは、単なる老人虐待であるし、そんなのが戦力になるとは思えんから、もう放っといて良いような気がするぞ。
ちなみに、シュバリエ市の人口はこの一ヶ月で倍くらいに増えたようだった。
急激な人口増加は食糧不足やインフラのキャパオーバー、環境負荷の増大、治安の悪化などと言った問題も発生するのだが。
食糧は不足どころか、余剰在庫が有り余っているので、問題にならないし、インフラ整備も労働者が十分にいるなら、賄える。
環境負荷についても、別に電子機器や車両がある訳でもないし、元々水も豊富で各家庭に水洗トイレがあるほどだったので、そこまで悪化はしていない。
排水を流す水路の流量を増やして、水質浄化の水草の類を増殖させたことで、し尿による水質悪化も最小限に抑えられている。
街を歩くと、以前より緑がふえたお陰で涼しくなったとの評判で、水路の水も至って綺麗で思わず、足を突っ込んで涼みたくなるのだが。
まぁ、さすがに私も同じヘマはしないし、最近は水路の周りに転落事故防止として柵を作ったので、水路はたまに眺めるだけにしている。
涼みたくなったら、市庁舎の屋上で好きなだけ水浴びでもすれば良いのだ!
なにせ、ポンプ草と呼ばれるようになった植物を使った水道まで完備されているのだからな。
ちなみに、ポンプ草は水辺に植えると水を吸い上げて、長く伸びたチューブ状の茎から水を垂れ流すと言う謎の植物なのだが。
本来は惑星ヴィルアース原産の植物で、汚水だろうが、泥水だろうが吸い上げて不純物や汚物を栄養源として取り込みつつ、浄化された水を吐き出すと言う水質浄化作用がある植物で、ヴィルデフラウ達はそれを水道代わりや、塩分濃度が濃すぎる水の真水化などに使っていて、帝国でも環境負荷の低さと安全性から農業惑星などでは積極的に使われていたのだ。
結構な水圧を掛けて吐き出す上に、ヴィルゼットが品種改良したものは、不純物から塩素を取り出し水に含有させる仕組みが後付で付加されており、本気で片っ端から水を浄水化してしまうので、これまで飲水と言えば、井戸水頼みだったようなのだが、各家庭にポンプ草を置く植物上水道も完備されつつあり、水が原因での食中毒なども減っているようだった。
植物テクノロジーの良いところは、環境負荷が低い点にあるのだ。
その辺もあって、ヴィルゼットの作品は帝国の民生用品には結構な数が流用されていて、おかげで奴はちょっとしたパテント成金でもあったのだ。
そして、神樹の戦士は、力も人並み以上で割りと疲れ知らずになるそうなので、重機のように仕事をすることも出来るので、希望者にはどんどん強化を行い、人外になってもらっている。
治安の悪化は、貧困がそもそもの原因であるのだから、お金と食べ物と仕事、この三つが潤沢に提供できていれば、そこまで酷いことにはならないし、軍勢もバリバリ増強しているので、治安維持に回せる人員も増えてきているので、今のところ問題もない。
とにかく、国家にとって人は資本、財産であり、原動力なのだ。
一人だって、無駄にはしてはならないし、誰もが平等に笑って暮らせるのが理想なのだ。
まぁ、基本はこんなところだろう。




