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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
幕間「帝国の守護者」

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第二十話「帝国の守護者」⑤

「でも、そうなると、解決の目処は見えてきてるよね? 星間文明って事はどこかの惑星にヴィルデフラウ族がいるって事だよね? なら、それを見つけちゃえばいいんじゃない!」


 簡単に言うユリコだったが、ヴィルゼットはそれが簡単ではないとよく解っていた。 


「そ、そうです! だからこそ、我々は銀河連合の領域から探査船を送り出し調査を……! 時間がかかるのは事実でしょうが、もうそれくらいしか打つ手がないのですよ……」


「ヴィルゼット君……はっきり言わせてもらうけど、そんな悠長な事をやってる場合じゃないだろ? 今の状況では占領地の維持もだけど、探査船の送り出しも困難となりつつある。申し訳ないけど、ここは派遣軍の将兵達の安全を優先すべきだし、占領地を解放すれば、銀河守護艦隊も名分を失い、話し合いの余地も出て来るんじゃないかな」


「ですがっ! 帝国傘下星系の近隣はすでに捜索し尽くしているんです……。今しかチャンスがないのです! ここはなんとしも持ちこたえてもらうべきかと……」


「いや、現状、いくつかの事実を統合して考えると、恐らくアスカ君は、どこか未知の惑星で再現体として蘇っている可能性が高い。そして、その背後には我々のアストラルネットにすら平然とアクセスして、こちらのVRなども容易に再現するような超高度な科学力を持ち、希少なマナストーンを使い捨てにする程大量に所持している存在がいる……推測だけど、アスカ君は、君と同じ女王個体として生命の樹のアドミニストレータとしての役割に就いている可能性が高いんじゃないかな」


「そして……アスカちゃんは、そのどこぞとも知らない惑星でエインヘリャルと遭遇して、ラースシンドロームとの戦いを続けているってことね……さすが、わたしのクローンだ……」


「ああ多分、そう考えて間違いないだろう……となると、僕らがやることだって見えてきたんじゃないかな?」


「アスカ様は、今も宇宙の何処かでラースシンドロームの脅威と戦っていると? 確かにそうだな……そう考えると辻褄が合ってくるな。そして、何よりアスカ様は……我々の希望にたどり着いている……アスカ様を見つけ出せば、全て解決する……そう言うことか!」


「そう言うことだね。アスカくんの思考パターンから考えると、再現体として蘇ったからって、のんびり異世界同然の惑星でスローライフとかやってるとはとても思えない。そんなトンデモ文明の播種船を味方に付けてるなら、むしろ、惑星一つを支配下に置いて、宇宙進出くらい軽くやってのけるんじゃないかな? 闇雲に捜索範囲を広げるのではなく、アスカくんを探すと言う方針で考えたほうが、いいんじゃないかな?」


「そ、そうですね。アスカ様は生粋の銀河帝国皇帝であり、生命の樹があるなら、未開文明を短期間で宇宙文明にまで進歩させて、宇宙進出くらいやってのけそうな気がします……。やはり、あの方は……希望だったのだな」


「うん、身近にいた君がそう言うなら、きっとそう言う事だろう。と言うか、ユリコ君のクローンなら、むしろそれが自然だと思うよ」


「あ、あの……クローンはあくまでクローンなんで、わたしとは別物だと思うんですけど?」


「そうかな? じゃあ、仮になんだけど、謎のファンタジー文明惑星あたりに万能チート宇宙船付きで一人だけで送り込まれたとかなったら、ユリコ君ならどうするんだい? 宇宙船の事なんてほったらかして、人知れずのんびりスローライフでも送る?」


「……送らないですねー。きっと色々な悪い奴らがチート宇宙船奪取とか企んだり、悪の帝国だの魔王がはびこってたりとかしてるんだろうから、やられる前に殺るで、片っ端から、魔王とかそこらの国とかなぎ倒して、盤石の防衛体制の確立のためにも、ユリコ帝国とか作っちゃいますね」


「うん、それが君の本質と言う訳さ。君はいち早く敵を見つけて、先制パンチをお見舞いして撃破する。君の全てがその一点に特化されていると言っても過言じゃない。そのユリコ帝国? それも宇宙船の防衛の為の防壁代わりで、君自身のフリーハンドを確立するための手段だよね? ちなみに普通はその発想にはならないと思うよ?」


「うぇえええっ! 確かに、やられる前にやれとか、何時もやってましたけどっ! 陛下もデストロイゼムオール! オールオッケーって言ってたしーっ! あのですね……なんで、いつもそんな的確な分析とかしちゃうんですーっ? 陛下、わたしのなんなんです?」


「なんなのって……僕は君の一番の理解者だと自負しているし、君の全てを許容してきたじゃないか。実際、君を否定したことなんて一度もないと思うよ」


 ……そんなゼロの言葉を聞きながら、ヴィルゼットも思わず微笑ましいと言った様子で微笑を浮かべていた。

 最大の理解者であり、全てを許容する……普通に、それは愛の言葉にしか聞こえなかったが、この二人はいつもこんな風に噛み合っていないようで噛み合っていると言った独特の距離感で、上手くやってきたのだろうと、そんな事を思ってみたりもしていた。


「まぁた! そんなカッコいいセリフを恥ずかしげもなく口にするっ! もうね! 陛下じゃなかったら、軽く惚れてますよっ! こう見えて、わたし結構チョロいんですよ? そう言うの禁止っていつも言ってますよね? と言うか、そんな無条件に信頼されるほど、わたし凄くなかったと思いますよ。失敗やヘマだって、数限りなかったし……」


「そんな事はないよ。なにせ、君はいつも的確だったからね。だからこそ、君のクローンのアスカ君も取りうる限り、最適の行動を実施しているってのは、もう断言しても良い。実際、銀河一回救うなんて、実績だって作っちゃってるしねぇ……」


「そ、そうだねぇ……わたしだったらって考えると。確かにアスカちゃんはこっちが黙ってても、惑星覇権国家位、余裕で建国して、その惑星のラースシンドロームも軽く駆逐して、銀河宇宙に舞い戻るとかやってのけそうだねぇ……」


「まぁ、そうは言っても、案外、エーテル空間接続星系から一万光年の彼方とか、系外銀河の一惑星とか、そんな可能性だってある。ヴィルデフラウ文明がどこまで広がってるかが、ヴィルゼット君ですら解らない以上、楽観は出来ないからね。そもそも、そんな原始文明を宇宙進出するまで育て上げるなんて、100年スパンの大事業になるだろうから、こちらが見つけ出して、出迎えるくらいはしてあげないといけないだろう。これはいくつかの封印技術の解放も考えないといけないかもしれないねぇ……」


「封印技術……ですか? そんなものが……」


「ああ、あるよ。危険すぎて手に負えない技術だったり、銀河の情勢を塗り替えかねないとか、様々な理由で封印された技術がね。けど、今の僕らには君と言う銀河最高峰の科学技術者と言う味方がいる。封印技術を御する為に、君の能力を当てにするってのは、さすがに無茶振りかな?」


「いえ、何なりとご命じください。むしろ、楽しみでいけないな……。人類が御し得なかった封印技術か……そんなもの、興味以外の何を持てと? これだから、銀河人類と言うのは面白いですね……」


「なんとも、頼もしい限りだ。さて、では各方に仕事を割り振ろうか。まずヴィルゼットくんは、急ぎ各部署に通達を行ってくれたまえ。帝国の存亡の危機により、帝国の守護者たるこの僕が現世に蘇り、当面の導き手になるとね……。正直、面倒くさいんだけど、帝国の屋台骨も大分、歪んできてるみたいだし、あちこち修繕が必要そうだしね」


「了解しました。正直、私のような人外の部外者がこの大帝国を仕切るのも無理があると思っていたので、助かります。帝国の命運を陛下に託します……きっと、皆も喜ぶことでしょう! まぁ、一部の者はこの事実を受け容れないかもしれないですがね……」


「まぁ、細かいことは気にしないでいいよ。こう言うときの為の備えが、僕なんだからね。まぁ、帝国の事は任せておくといいさ」


「はいはーいっ! 陛下っ! 帝国の守護者の代名詞たるわたしは、一体何をすればいいんでしょうかっ!」


「君は……ひとまず、例のトンデモ文明の子が再度指名VRアクセスしてきたなら、同期してとっ捕まえて事情を聞いて欲しい。その調子だと、またアクセスしてくると思うからね。それと、ハルカ君もちょっと色々おかしな感じだから、多分君の力が必要になると思う」


「ハルカ・アマカゼ……がですか? どう言うことでしょうか。確かに、こちらの話に全く聞き耳を持たないと言った様子で、こちらからの休戦交渉についても、無条件降伏以外は受け入れないと取り付く島もありませんでしたが……」


「なるほどね……。実を言うと僕が知るあの娘と、今の彼女の行動パターンや思考があまりにかけ離れていてね。それに、何度か交渉した際の記録を見ても、彼女は怒りをその行動の根源にしてるようなんだよ。これって、ラースシンドロームの罹患者に似てないかい?」


「まさか……ハルカ・アマカゼはラースシンドロームに感染しているとでも?」


「この辺は、彼女の身近な再現体提督……仮にアドミラル・NTとでも言っておこうかな。彼からの情報だったんだけどね……。実際、彼女はヴィルゼット君達からの情報が届いているにも関わらず、まったくラースシンドロームの対策を行わず、銀河連合の残党と結託して、君達の行っていた人流ブロックを解除させるべく動いてるんだ。確かに君達の尽力でラースシンドロームは沈静化はしているけど、撲滅には程遠い有様なのに、あまりに性急すぎる。これはなにか裏があるって事だろう?」


「確かに、銀河最強の武力を持つハルカ提督は敵にとっては、格好のターゲット……。最悪エインヘイリャル化している可能性もあるのか……。よりにもよって……と言ったところか……。これは由々しき事態です……」


「アドミラル・NT……もしかして、魅惑のスイーツ提督さん? はぅわぁ……あの人も健在なんだ……これは是非、遊びにいってスイーツを……。じゃなくて……え? ラースシンドロームって、再現体にすら感染するの? ヤバくない、それ!」


「ええ、あれはAI稼働の有機アンドロイドにすら感染しますからね。再現体提督が感染しても不思議ではないですし、ラースシンドロームに対して、絶対に感染しないと言いきれるのは、我々ヴィルデフラウくらいだと思いますよ」


「そりゃまた、凶悪な感染症なんだねぇ……。あの銀河公衆衛生局もサジを投げた訳だ……。うん……たった今、アドミラル・NTからハルカ提督の最新人格マトリクス情報が回ってきたよ。どうも、彼女は側近のスターシスターズからも正気を危ぶまれてるみたいでねぇ……。なるほど、銀河守護艦隊のスターシスターズ達もさすがに馬鹿じゃないって事か。それと参考情報だけど、スターシスターズもラースシンドロームには感染しないみたいだね。彼女達は艦艇とヒューマノイド端末で、精神の主体が二つあるようなものでね……。相互バックアップしているようなものだから、両方同時に問題を起こさない限りは何があっても大丈夫なんだってさ! 「私達は正気だから、安心してー!」ってなんだこれ?」


「うわ、この電子シグネチャ、祥鳳さんのじゃない……。「ユリコさん、お久しぶりです」とか、初霜ちゃんのコメント付きっ! なっつかしーっ! そうなると、あの子達と戦うってのは無いって思って良いのかな?」


「そうだね。むしろ、スターシスターズもハルカ提督を排除したいみたいなんだけど。絶対命令コードを握られてるから、逆らえないみたいなんだ。だから、こうやって外部の人間に助けを求めてきてるんだろうな」


「……確かに、この人格マトリクスは、ラースシンドローム罹患者特有のパターンを示していますね……。現時点で、ハルカ・アマカゼはラースシンドローム感染者として断定していいでしょう。しかし、銀河守護艦隊の提督と個人的なホットラインをお持ちだったと言うことなのですね……なんとも用意周到な事で……。ところで、アドミラル・NT殿は、ここまで理解していて何故自分で、排除行動を起こさないんでしょうかね」


「……あの人、昔から付き合いいい人だし、基本的に事なかれ主義者だからね……。それに、スターシスターズが逆らえないんじゃ、あの人も無力なんだろう。いずれにせよ、あの人の尽力で帝国関係者とハルカ君との会談がセッティングできそうなんだ。だから、ユリコくんには、その席に同席の上でアレを始末してもらう。多分、それが一番手っ取り早いし、さすがに一度死んでもらって、再現措置を行えば、元に戻るでしょ?」


「それはまた随分と乱暴な対応ですね……。ただ、エインヘイリャル化した者を生きたまま正気に戻せた事例もないですからね。ですが、どうやって始末するのです? 当然ながら武器など持ち込めないでしょうし、幾人ものスターシスターズの護衛付きです。簡単ではないと思うのですが」


「ふふん、不死者の相手なんて同じ不死者にお任せだよ。まぁ、このわたしにお任せあれっ! どのみち、ここであの子を止めないと、手に負えなくなりそうだし、大事の前の小事?」


「まぁ、そう言うことだね。アドミラル・NT以外にも彼の傘下のスターシスターズの協力が得られそうだし、その後の事についても、アドミラル・NTが仕切ってくれるそうだから、あまり問題はないと思うよ」


「……了解した。いやはや、お二方のお陰で一気に話が進みそうですね。ハルカ提督が居なくなれば、守護艦隊も脅威ではなくなります。次の段階としては、アスカ様とコンタクトを実現した上での捜索……それで行きましょうか」


「ああ、我々は常に拙速を尊ぶ。怒りに囚われ、自分を見失っているようなバカ娘には、早いところ退場して頂いて、この銀河に平和をもたらそうっ! 前途は多難だけど、僕らにはヴィルゼット君と言う心強い味方もいるんだ、きっとなんとかなるよっ!」


「そうだねー。ヴィルさん、超有能! 宇宙人なのに地球人の為にってカッコ良すぎるって! じゃあ、これより帝国の逆襲って事で! やったるぞーっ!」


 ……かくして。

 三人の帝国の守護者が一同に会したことで、風前の灯火と思われていた、帝国の命運は繋がり、帝国の逆襲が始まる……。


 銀河は未だに混迷の中にあったが、希望が芽生えつつあった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
[一言] ハルカ提督にしてはおかしいと思っていたら。 永友提督も健在ですか。 続き物は大好きなので楽しく読ませていただいています。
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