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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
幕間「帝国の守護者」

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第二十話「帝国の守護者」③

「ふぇっ! ヴィルさん、なにごと! 顔が怖いしっ! 近いっ! 陛下、私なんかマズイこと言った?」


「……良いから、ユリコ君は落ち着こうか、別に我々も怒ってないから。ちょっと驚きの連続で冷静さを欠いてるかもしれないけどさ。えっと、ヴィルゼット君……エインヘイリャルとは、今、問題となっているラースシンドロームの感染源となる特異感染者の事だよね? でも、これ自体は倒せなくもないんだよね……」


「そうですね。すでに千体以上は撃破してますが。確実にかつ、安全に倒すとなると衛星軌道上からの収束核融合弾攻撃が最適と考えられています」


「なにそれ……? どう見てもオーバーキルだし……何もそこまでしなくてもって思うんだけどさぁ……。収束型核融合弾と言えど、危害半径だって軽く50キロは行っちゃうでしょ……。実際、盛大に巻き添えも出しまくってるよね……。他にやりようあったんじゃないかな?」


「いえ、エインヘイリャルはその程度には危険な存在なんですよ。km単位の長距離レーザー狙撃すらも回避するし、宿主を殺した瞬間に結晶化して、自爆することで爆発的に感染源を飛散させ、感染域を急拡大するんです。それ故にその存在が確認され次第、収束核融合弾で巻き添えが出ることを承知で、身も蓋もなく焼きはらうのが一番だと我々も判断していたんです」


「近付くだけで感染のリスクあり。レーザー狙撃も避けるとなると確かに範囲攻撃でドカンと殺るのが基本だと思うけど。大口径の拡散荷電粒子砲とか、広域型ビックレイとか、もうちょっと被害を抑えるやり方はあると思うんだけどなぁ……さすがに、巻き添えお構いなしってのは感心しないよ」


 戦闘の専門家でもあるユリコもさすがに、その話は許容出来なかったようで、眉をひそめて苦言を呈する。


「現状、まだ仮説段階ですが、エインヘイリャルは、実体を持たぬエネルギー生命体の可能性もあり、核融合弾クラスの強力なエネルギーを発生させる兵器でそれを上書きする……それが一番効果的のようなのですよ」


「え、えねるぎー生命体? な、なにそれ? そんな生命体なんてありうるの?」


「いや、十分ありうるさ。と言うか、ユリコくん。今の我々やエリダヌスあたりの超AI連中は、電子情報生命体とも言えるじゃないか。電子情報は言ってみれば、エネルギーでもあるから、まさにそれだろ? そう考えるとそれを抹殺するとなると、どれ程困難かよく解るでしょ?」


「うぇ……わたし達の同類って……そんなの、むしろどうやって殺すのよ……! ああでも、ネットワーク接続されてないスタンドアロンの情報体ってことなら、バックアップ取られる前に場の空間情報ごと高エネルギーで上書きクリアする。なるほど、データ消去と同じ理屈って事ね……ごめん、そう言う事なら、確かにそれが最善だよね……納得したっ!」


「はい、実際、核融合弾攻撃実施後は、その後の二次被害は確認されておらず、エインヘリャルに対し、有効な攻撃手段であるのは間違いないようです。しかし、お二方はすごいですね……。このエネルギー生命体と言う概念、対策会議の識者達ですら、なかなか受け容れなかったというのに」


「ありえないはありえない。その思考が僕らの基本だし、僕らはハードウェアに依存しない情報意識体と言える存在だからね。エネルギー生命体も僕らも本質的に同類と思っていいだろうな」


「そうだよね……。意識情報体って休眠バックアップとっとけば、顕現体諸共失われても、復旧は簡単だしね。昔、わたしらが戦ったカイオスとか言う頭おかしい殺人鬼なんて、結局100回くらい殺したしねぇ……」


「おそらく、最悪に近いケースとしては、君達が核融合兵器を集中投下し、惑星ごと10億人を虐殺した惑星ベルニオがそうなんだろうね。僕の推測では、エインヘリャルの初期対応に失敗したケースだったんだろうと思うんだけど、どうかな?」


「仰るとおりです。惑星ベルニオは、我々が侵攻し軌道制圧を完了した時点で、全住民がラースシンドロームに飲み込まれ、爆発的にエインヘリャルが増殖した上で加速度的に進化を続けていたようで、電子情報化した上で、銀河ネットワーク経由での情報体流出の可能性すらありました……。アスカ様が現場や周囲の反対を皇帝権限で押し切って、惑星殲滅攻撃の実施に踏み切ったので、事なきを得ましたが。後日検証の結果、かなり危険な状況……ラースシンドロームがネットワークウイルス化した上での全銀河規模アウトブレイクの瀬戸際だったようなのですよ」


「確かに、それは考えうる限り最悪の状況だ……銀河ネットワーク経由でラースシンドロームに感染するようになってしまっていたら、本気で帝国どころか、銀河そのものが終わっていたかもしれない。でも、10億人の虐殺の決断なんて僕だって躊躇すると思うし、そんな最悪の状況下で、迷わず最善の選択肢を選ぶ……か。まったく、アスカ君は凄まじい子だったんだね……その時点で、軽く一回銀河救ってるじゃないか……」


「そうだね……。私には私がなにをやらかしても、責任を引き受けてくれる陛下がいたけど。アスカちゃんには、そんなの居なかったのに……。どんな思いで10億人虐殺のトリガーを引いたのかって想像するだけでも、物凄く辛い……。けど、それしかないから、そうする……か。多分、そこが瀬戸際って直感的に解っちゃったんだろうね。嫌になるほど、わたしと一緒……はぁ、アスカちゃんは紛れもなくわたしの娘ってことかぁ……。もっと、かわいがってあげたかったな……」


「ああ、確かに瀬戸際だったと言えるね。だからこそ、住民諸共すべて焼き払うとか無茶をしたのも確かに解る……。そうなると、この反物質エネルギー転化弾も対エインヘイリャル想定の兵器で、その未来予知能力を持つ猫耳の子は対エインヘイリャル戦を想定した兵士……確かに超感覚に対応するとなると、その手の能力者が最適であるし、最適な教官役として、未来索敵能力持ちのユリコくんを指名して来た……そう言う事なんだろうな」


「なるほど……。さすが陛下。訳解んなかったのが、訳解るようになりましたわー。確かに、超感覚持ち相手となると、わたしみたいな超索敵持ちでもないと勝負にならないからね。そうなると、要するに、わたしの再現データの存在を知ってて、アストラルネットの利用権限を持つ子が指示したって事になるよね? それってアスカちゃん……だよね? どう考えても」


「そうだね。確かに、その猫耳っ子はアスカくんの手の者の可能性が高いよね。ははっ、一度銀河を救っただけに飽き足らず、死してなお、銀河の敵と戦い続ける……か。アスカくんも伊達に君のクローンじゃないってことか」


「んーまぁ、親が優秀ですからねぇ。さすがアスカちゃん! あの子って、私のクローンの中でも、割と特別製だったんじゃないかな? ここは素直に喜ぶべきかなぁ……」


「ユリコ君、君は実際に先方から、想定状況とか兵器データを提供されているんだよね。ちなみに、一応言っておくと今の帝国軍はもちろん、銀河守護艦隊ですら、そんな反物質エネルギー転化弾なんて、極悪な兵器は実用化出来ていないよ。反物質ってのは現出した瞬間に常物質と反応して、エネルギー化してふっとぶ。そんな代物だからね……色んな研究機関がチャレンジしては、研究所諸共ふっとぶとかで、結構な犠牲も出してて、誰もがビビって手を出さなくなって久しいんだよ」


「で、ですよねー! ちなみに、実際の訓練時の再現シュミレーションとしてはこんな感じでした……」


 そう言って、ユリコが手近な空間モニターを指差すと、彼女が出張して行ったVR仮想訓練中の光景が再現された。


「……こ、これはっ! このエメラルドグリーン輝く結晶体はっ! まさか、マナストーンを直接弾丸として撃ち出してるのか! なんて事を……」


 猫耳が自分の腕に生えた加速コイルに、緑色の弾丸を装填したところで、ヴィルゼットが驚愕し、言葉を失っていた。


「……マナストーン……。君が帝国にもたらしたと言う魔法科学技術の要だったかな? ……これはそんなに貴重なものなのかい?」


「はいっ! 本来は生命の樹により精製されていたようなのですが、生命の樹が失われた結果、我が主星ヴィルアースでも過去の遺産として発掘される程度で、年間の発掘量もせいぜい1g程度……その位には希少品なのです……。そして、分子合成でも複製が出来ず、他の惑星では一切見つかっていない……。銀河でも極めて希少な物質なのです。それをこんな風に使い捨ての兵器として使うなんて……」


 ヴィルゼットがユリコより提示された詳細データでは、その兵器はマナストーンを凝縮させた結晶体で、その結晶の時点で、億単位のラースシンドロームの罹患者を救える量だと、ヴィルゼットも推測していた。


 そして、それを兵器転用していると言うことは、マナストーンの大量生産能力……すなわち、生命の樹を保持していると言うことに他ならなかった。


「これが……エネルギー転化時のシュミレーションデータか。転化の際も強エネルギー空間を作り出した上で狭い範囲に閉じ込めて、その大半をγ線レーザーとして宇宙へと放出してるのか。非効率的だけど、被害半径を限定させた上での高エネルギー場の発生……つまり、エネルギー生命体を殺す事に特化した兵器……そう言う事なのか」


「ええ、このシュミレーションデータの数値からすると、核融合反応すら軽く凌駕する凄まじいエネルギーをわずか50m程度の範囲に限定発生させる。そんな仕組みのようですね……。少なくとも、こんな技術……私も知りませんし、これがあればエインヘリャルも楽に駆除出来るでしょう……」


「でも、これ……半端ない技術だよ? こんな1cmくらいの弾丸にそこまでの機能を持たせるとか、今の人類の科学力でもありえない。それとも、これは遠隔で対消滅反応を精密に制御しているのかな? どちらにせよ、すごい技術だよ。ヴィルゼットくん、参考までに聞くけど、君達の文明の技術力ってどんなものなんだい? これを可能とするくらいの技術があるとかそんなことってあるの? だとすれば、是非教えを請いたいところなんだけどさ」


「そ、そうですね……。生命の樹が健在だった頃は、生命の樹の子株を多数育成し、宇宙への播種を行う直前の段階まで文明も進歩していたようですね……。科学技術力についても重力制御程度の事は出来ていたようですし、反物質についても量産を可能としていたかもしれないです。もっとも、恒星活動の急激な活性化に伴い、惑星の温暖化が一気に進み、生命の樹が枯れてからはもう衰退の一途でした」


「想定外の惑星環境悪化か……。今の惑星エスクロンも、恒星活動の活性化で、居住が困難な状況になってるから、他人事じゃないね……それ。けど、その生命の樹って、君達の文明の要だったんだよね? それが失われたとなると、相当やばい事になったんじゃない?」


「そうですね……。要するに、我々は失敗者だったのですよ……生命の樹が失われ、惑星環境が激変した事で人口も激減し、技術も文化もなにもかもが生命の樹と共に失われて、惑星の支配者の地位すら追われ、もはや滅亡の一歩手前でした。もっとも、そんな折に来訪した帝国の皆様に手を差し伸べていただいた事で生き永らえ、今に至りますが……」


「なるほど、つまり君達は本来、星間文明の末裔であり、君が今懸命に探しているのも、君の同胞と言えるヴィルデフラウ文明であり、その文明の科学力は、我々をも凌駕している可能性が高いということか……。確かに人間より遥かに長い寿命があるなら、科学技術の維持発展についても人類より楽だろうし、千年だの一万年単位で物事を考えるようになるだろうな。うん、間違いなく種としては人間より優れてそうだね」


「そうですね……。母星に残されていた口伝記録や、最近発見された古代遺跡を調査した限りだと、生命の樹は宇宙を渡る播種船だったと結論付けていますし、銀河人類の科学技術を学んだ上で言えることは、やはり部分部分では凌駕していた可能性が高いと思いますね。だから、この超兵器についても、恐らく実現可能だと思われるという回答になりますね」


「ヴィルデフラウ……君のとこの惑星だと皆、ワチャワチャと水辺に集まって、おしゃべりしながら日向ぼっこして一日終わりとかエコロジー生物にしか見えないけど、実際は半端ない高度文明だったってことか……」


「どうも、ああやって光合成でエネルギーを自前で合成しつつ、最小限の消費で長い時間をかけて惑星環境を最適化し、播種船を育てると言うのが本来の文明の目的だったようなのですよ。もっとも、今の我々はそんな目的はとっくに失っていて、その日暮らしでただ日々を過ごす……そんなお気楽文明になってしまっているのですよ。帝国の温情がなければ、今頃どうなっていたことやら……」


「いやはや、わたし達の知らない所で、帝国が星間文明と接触してたなんて、驚きだったねぇ……。でも、そうなると君達って「帰還者リターナー」と関係あったりするの? これ結構大事な事なんだから、そこはきっちり確認しとくよ?」


 唐突に真面目な顔でユリコが告げるのだが。

 彼女に限らず、ゼロ皇帝にとってもそれは極めて重要な話だった。


「帰還者」と言うのはエーテルロードを作り上げたと言われる先史文明の尖兵とも言われている者達のことで、その第一陣はかつて預言者と呼ばれた者が残した預言通りに、2700年代初頭……帝国黎明期にエーテル空間外周部の帝国領……要するに主星系たるエスクロン星系に到達し、ユリコ達帝国軍は銀河連合艦隊と共にそれらと激戦を繰り広げ、少なからぬ犠牲を払いながらも、辛くも撃退していた。


 もっとも、撃退したのはあくまで第一陣に過ぎず、その脅威は現在進行系と言えた。


 それ故にユリコ達は敢えて、ハルカ達同様に不死者として、帝国の守護者となる道を選んだのだ。


 だからこそ、ヴィルデフラウ達が「帰還者」かそれに類する存在と言う可能性は、ユリコ自身も捨て切れないでいたし、それは最も警戒すべき可能性だった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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