第十七話「植物魔人の軍勢」②
とりあえず、考えてみたが。
遺伝子改良も身体改造も全て不自然とする、ナチュラリストと呼ばれる方々でもない限り、デメリットは無いような気がする。
そもそも、帝国はそう言う国なのだから、私の観点では何ら問題ないと断言しても良かった。
「そうだな……デメリットは実のところ、気分の問題以外あまりないな。メリットはむしろ多大だぞ、間違いなく身体能力は向上するし、多少の怪我もすぐに治るし、病気もかかりにくくなるだろうな」
「神樹様の恩恵ってとこか。その黒い蔓を生やす能力ってのはどうなんだ? なんか細いし、いまいち頼りなさそうに見えるんだが……」
「ソルヴァ殿……この電磁草は、お主が思っている以上に、有用なのだぞ? 恐らく、鎧にも出来ると思うから、実演してみせよう」
そう言って、電磁草の蔓を身体のあちこちから生やして、全身を覆って鎧のようにする。
まぁ、パワードスーツと言った所だな。
そして、右手の手のひらから、電磁草をまっすぐに伸ばして、先端部を尖らせる。
簡単な刺突武器を言ったところだが、長さ調整も出来るようなので、間合いを見誤らせたり、ゼロ距離で電磁加速で打ち出せば、パイルバンカーのような使い方もできそうだった。
手近にあった大きめの石を拾って放り投げて、電磁加速をかけながら蔓を伸ばすと、石に穴を開けて、それは軽く貫通した。
「……そ、それは槍と鎧……なのか? い、石が砕けずに、穴を穿ったのか……。す、凄まじい威力だな」
さすがソルヴァ殿。
半端な威力では、石ころなど軽く砕けてしまうのだが。
パイルバンカーの威力がありすぎて、綺麗に穴を開けていった。
「鎧の方は、エルフの魔法……身体を草木で覆う緑の鎧……みたいなものですかね? 身体から蔓が
出てくる所とかそっくりでしたけど……」
「確かに、良く似ているが。あれは防御力など皆無で、いいところ、カモフラージュ用にしかならんからな。だが、これは、あんなヤワな代物ではなさそうだな」
「そ、そうですね。なんだか、細い金属を編み込んだみたいにも見えますね……さ、触ってもいいですか?」
エイル殿、ファリナ殿が興味津々で近づいて来て、じっくり観察している。
緑の鎧? 話を聞く限りでは、ギリースーツのようなもののようで、身体から直接草木を生やすらしい。
ふむ、エルフはそんなマネも出来るのか。
ただ、魔法を使うくらいなら、そこらの雑草やらを被るで良いような気がしないでもない。
ちなみに、森林戦では現地調達が可能で、材料もその辺の植物で出来て、下手なハイテク隠蔽機材よりもカモフラージュ効果が高いとのことで、割りと重宝されていた。
惑星地上戦というのは、ハイテク機材や兵器よりも、むしろ、ローテク機材や現地調達出来る物資で作れる有り合わせのものなどの方が好まれていたからな。
ひとまず、これももう少し改良が必要であろう。
蔓のパターンも割りと無秩序でごちゃっとしていたのだが。
斜め方向にクロスさせるように絡ませて、蔓もより細くさせて、最適化させていく。
動きやすさや防御力、伸縮性のバランスを考慮すると、恐らくこの斜傾パターンが最適であろうな。
ちなみに、この電磁草……生えてる場所に問題があると、根を自切させて、蔓を周囲の岩に撃ち込んでズルズルと本体を引きずって行って、居心地の良い場所へ移動したりもする……そんな驚異の植物でもあるのだ。
当然ながら、根こそぎ引き抜かれても、やっぱり自力で移動してあっさり根付いて再生する。
おまけに電撃を放ったり、種をレールガンで撃ち込んで来たりと、取り扱い注意の危険植物。
自由に動き回る時点で、もはや植物ではないような気がするのだが、宇宙生物学の分類では、惑星エスクロンに自生する岩に根を張る岩石草辺りと同系統の植物とされていた。
なお、ヴィルゼットの宇宙植物危険度判定ではAAとかそんなだった。
このレベルだと、最低限装甲服でも着ていないと、近づくだけでも生命の危険があるとか、そんな話になってくる。
……兵器転用を検討されたのは伊達ではないのだ。
ちなみに、電磁草は高周波ブレード辺りでもないと切れないくらいには硬い。
硬いのだが、表皮は鱗状のフレキシブル構造になっているので、グネグネと自在に曲がる。
根っこに至っては、岩盤を砕きながらゴリゴリ根を張るような代物なので、引き抜くのも至難の業。
当然のように、落雷の直撃にも平然と耐えるため、相当な高熱でも死滅しないし、液体窒素に漬け込んで完全に凍らせでもしない限り、死滅しないらしい。
生体採取にも大変な苦労があったと、ヴィルゼットも言っていたものだ。
「これは……表面が金属のようなもので出来た細かい鱗状の表皮に覆われているんですね。なるほど、これなら剣でも簡単に斬れないし、柔軟性があるから関節部すら装甲化出来ている。その上、あの強力な矢を放つことも出来ると……。でも、その割には魔力は一切感じない……。いずれにせよ、こんな鎧見たことないです! あれですかね……ミスリルチェインとかに近いんですかね」
「いや、ミスリルチェインよりも、恐らく防御力は高いと思う。これなら、単騎でワイバーン辺りとも戦えそうだぞ。でも、これは本当に植物なのかい? こんなもの……一体何処に生えているんだ? 少なくとも、俺は知らないし、多分、エルフの古書にも載ってないと思うぞ」
エイル殿も真剣になって、鎧を見ている。
まぁ、こんな植物……普通の惑星には生えておらんだろうな。
「実を言うと、この電磁草は、この惑星には存在しない植物なのだ……。この植物が生える惑星は、四六時中縦横無尽に雷が落ち続けると言う過酷な世界でな。そんな環境に適応した結果、凄まじく頑丈な植物となったのだ。だからこそ、これを身にまとえば、剣や矢では傷も付かんし、多分、身体能力を大幅に強化する事も出来るぞ。ちょっと試してみるか……」
電磁草というものは、荷電粒子砲と変わりないと言われるようなその惑星の強烈な雷の直撃を受けても、なんともないし、雷の至近弾で砕かれ雨あられのように降り注ぐ岩片や、1mくらいの大きさの雹が直撃しても平然と耐える化け物植物でもあるからなぁ。
鎧にしてみて気付いたのだが、こちらの思考に追従して伸縮するパワーアシストの機能まであるようだった。
……と言うか、思考に反応するとか、脳神経直結でもしないと無理なんだが……。
そうか……この蔓思いっきり、私の神経ラインと繋がってるから、要するに手足みたいなものなのだ。
なんだ、このチート植物?
ヤバい植物だとは知っていたけど、やっぱり半端ないな。
これとレールガンの組み合わせなら、軽くパワードスーツ歩兵くらいの戦力になるな。
「少し離れていたほうが良いぞ? どの程度動けるのか検証してみる」
軽く柔軟をして、動作チェック。
追従性も、蔓自体に伸縮性がある上に、こちらの動きに対応して、伸び縮みすることでパワーアシスト補助も入るので、全く違和感ない。
しかも、そのパワーアシストの反応速度は、ほぼ瞬時。
帝国の技術でも、ここまでの反応速度となると制御ソフトウェアも相当な先読みを実装しないと、こうは行かないので、簡単には出来んぞ。
軽く地面を蹴っただけで、10mくらいの高さに飛び上がるので、そのまま一回転して、落下しつつ、地面へ拳を叩き込む。
ドパンって感じの音がして、地面に軽くクレーターが出来た。
「軽くやってこれか……。やはり、凄まじいパワーだな」
これは、パワースキンスーツ以上のパワーと敏捷性だな。
おまけに、地面を殴った拍子に飛び散った石がガンガン当たっていたのだが、何ら痛痒にも感じていない。
やはり、電磁草……半端ないな。
「……こ、これは凄い……。むしろ、魔人化とでも言うべきか。その上……黒銀製の鎧をも撃ち抜く矢を放てると……。いや、これならもはや、装甲騎士なんて目じゃない……。恐らく、軍事バランスを崩壊させるほどの力だな……間違っても貴族達になんぞに与えてはいかんな」
確かに……。
過ぎたるは及ばざるが如しとも言うからな。
だが、この技術……基本的に真似されようがない。
これは、利点としてかなり大きいと思う。
格下の惑星文明との戦いで、注意すべきは点はまさにそれで、遺棄したり、破壊されたハイテク装備を奪われた結果、模倣されたり、鹵獲品として使われて、思わぬ苦戦をするようなケースが有るのだ。
だからこそ、友好国と言えど、簡単にはハイテク技術は提供しないし、与えたとしても枯れた二線級のテクノロジー程度に留めるというのが基本。
なにせ、あまり複雑な兵器を渡しても、メンテナンスも出来なかったり、補給も自前では出来ないとか、そんな風になるのだからな。
戦場で、そんなものが使い物になるかと言うと、そんな事はない。
兵器とは、継続して使えてこそ、戦力足り得るのだ。
だが、この植物テクノロジーは、あくまでお母様ありきのもので、個人の能力の延長線だから、模倣も何もないし、損傷もこの分だと自動修復くらいは出来そうだし、弾についても黒騎士の使っていた矢を弾体として、普通に撃てたから、弾薬の補給についても、問題はないだろう。
その弾にしても……本来、金属製の種を撃ち出す為の機能なのだから、地面に根を張れば、自前で生成も出来るような気がする。
「で、どうするのだ? 私は、我が兵たる諸君を人外レベルに強化する事に躊躇いは覚えない。人間を辞めるというよりも、進化すると考えてほしいな。もっとも、圧倒的な力と引き換えにお母様を裏切るような真似は出来なくなる……それがデメリットだな」
「なるほど、名実ともに神樹様の下僕となるという事か、ファリナ……これは迷う理由など全くないな。我々エルフの悲願、安住の地と人を圧倒できるほどの武力……望む所ではないか」
「そ、そうですね! 私達、もう無敵の軍勢とかなれるんじゃないですかねっ!」
「神樹様の軍勢……ですか。悪くないですね……。ですが、ひとつ気になったのですが、以前の炎神教団との戦いの時も、アスカ様が持つ電磁草を操る力を、我らに与えていただければ、むざむざ森を焼かれずに済んだ……そう思ってしまいますが……そこは、どうなのでしょう?」
……確かに。
森の北の荒れ地は、かつての炎神教団との戦いの跡とも言っていた。
エルフも神樹教会も、炎神教団には終始押されっぱなしで、エルフも故郷の森を焼きだされたりと、散々だったらしい。
もっと早く力を与えてくれれば……そう思うのも無理はないだろう、
もっとも、それは単にお母様が宇宙植物を知らなかったから。
そう言うことなのだと思う。
お母様の知る植物とは、この世界に自生するものであり、それらを再現することは容易いのだが。
この惑星の植物もそうなのだが、地球近似惑星に生える植物は、過酷な惑星に自生する特異惑星植物と比較すると、物凄く普通なのだ。
特異惑星植物と言うのは、生命が存在しないと思われていたような惑星に生息し、適応した結果、軽く化け物地味た存在になっているようなものばかりなのだ。
そもそも、植物だと思われていなかったものも多くあり、その多くはヴィルゼットの研究とフィールドワークで発見されたものが大多数だった。
実際、ヤバい宇宙植物は、電磁草だけではないからな。
ヴィルゼット植物園には、そりゃあもう兵器転用が可能なレベルの凶悪な宇宙植物がいくつもあった。
飛行船のように、水素のバルーンで空に浮かぶ「浮舟草」だの、獲物が近づくと液体窒素を蓄えた袋を破裂させて、獲物を凍らせた上で根を張って栄養分にする「凍氷妙」とかな。
衝撃が加わると、炎を撒き散らす「爆炎舞」とか、生物が近づくと一瞬で周囲の酸素濃度を低下させ死に至らせる「オキシデント」と言う有毒植物もあったぞ。
なお、このあたりのヤバい植物の発見者は概ねヴィルゼットでネーミングも彼女の仕業。
「アリエス殿、それは単純に、お母様がこの電磁草を知らなかったからであろうな。お母様は、私の知識を元にアップグレードされ、この恐るべき植物をも再現できるようになったのだ」
「……アスカ様は神樹様すら、知らない知識を持つということなのですか? そうなると、一体、どう言う関係なのでしょう? 親子だとは聞いていますが、子が親に知識を与えたと?」
「そう言うことになるな。私はお前たちに説明したように、元々は星の世界を統べる帝国の皇帝だったのだが……。お母様の娘として生まれ変わったのだ。だからこそ私は、この世界をお母様の望むままに作り変え、邪魔をする者は殲滅する。そんな役どころを務める所存だ」
「アスカ様が……神樹様の望む世界を……? それは……どのような世界なのでしょう?」
お母様の望みは……なんであろうな?
ただ、この惑星に緑を与えたのは事実であろうし、恐らく生命の誕生にも関わっているのだろう。
そして、実際に人の営みに関わりを持ち、祈りに答えたりもする。
恐らく、お母様は主体というものを持たず、私を含め、誰かの望みや祈りに応える。
そんな存在なのかもしれない。
ならば、シンプルに私が願う世界の理想でも語るとするか。
「そうさのう……。この緑豊かで水も豊富で素晴らしい環境で、誰も悲しまない、誰も苦しまない、誰もが笑顔で過ごせる……そんな清浄なる世界を目指すと言ったところかな? のう、お母様……悪くないであろう?」
(おおー、みんなえがおー! せーじょーなるせかいっ! やっぱり、カリカリ怒って、食べ物や資源を奪い合って、争ってるようじゃ駄目だよねー! さすが、むすめっ! 伊達に星の世界の王やってないな!)
なんか、褒められた。
肯定とでもとっておくとしよう。
「……それは……素晴らしい世界ですね。まさに我らが目指す理想郷……。神樹様も同意されているようですし、そう言う事でしたら否応ありませんね」
アリエス殿も、満足そうに頷いているようだった。
「確かに、素晴らしいなそれは……。でも、俺、久々に神樹様のお声を聞いたんだけど……。神樹様ってこんなだったかなぁ? もっとこう、重々しい感じだったんだが……。アスカ様、神樹様に何があったんだ?」
エイル殿がボソッと一言。
ですよねー?
もはや、荘厳さとか微塵にも無くなってるし。
でも、これはこれで良いのかな……とも思わなくもない。
「エイル殿、お母様……神樹様は、恐らく主体と言う物がないのだ……だからこそ、いくらでも変容する。これは多分……私の影響を受けたか……或いは、種を盛大に撒いたせいで、変質したのかもしれん。多分、この調子だと声が聞けるものには、今後積極的に声をかけてくると思う……」
あまり認めたくないのだが。
この頭の悪い幼児のような口調……間違いなく、私のせいだろう。
お母様はお母様なのだけど、頼られたり、祈られるばかりでなく、誰かに甘えたかったのかもしれない。
この方が気楽だし、好ましい……なんて事を思ったのも事実なのだ。
それに、何よりも私は皇帝だったのだからな。
誰かに頼ったり、甘えるような立場ではなく、頼られて、甘えられる存在なのだ。
「いや、構わんよ。どのみち、我々が神樹様を否定することなどありえんのだからな。しかし、星の世界の植物か……そんな物があるなんて、想像すらしていなかったよ。アスカ様は星の世界の植物を知るからこそ、神樹様に呼ばれた……そんなところかな?」
「そんなところなのかもしれんな。さて、どうする? 私は星の世界の人智を超えた植物を知っていて、お母様はそれを再現出来るし、それらを操る力を諸君らに与えることが出来る。我こそはと思うものは、挙手するが良い。それを以って、我が神樹の軍勢の一員となる意志を示したと認め。力を与えようではないか!」
そして、その問いかけにその場に居たものの誰もが挙手で応える。
皆、なかなかに、良い覚悟であるな。
考えてみれば、これはチートを与えるようなものか。
私はチートを与えられる立場ではなく、与える立場だった。
そう言う事か。
お母様もちゃんと話を聞いていたようで、挙手した者達全員、エメラルドグリーンの輝きに包まれる。
誰もが祈るようにそれを受け入れ、神樹の種の発芽に伴い、変質していく。
さしずめ、植物魔人の軍勢といったところか。
では、そろそろ反撃の時間だ。
諸君……戦争を始めるとしよう。




