表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第一章「星霊アスカ、その大地に降臨する」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/312

第十五話「死にゆく者へ」③

「最後に言いたいことはあるか? その言葉を聞き遂げ次第、私はお前を殺す。そして、その業を背負うとしよう」


「最後の言葉……か。まぁ、言いたいことも感謝も伝えた。未練があるとすれば、我がボルール家が私の死と共に断絶してしまうことだが……。こんな事は前々からとっくに解っていたのだから、今更言うまでもない。……人の親にでもなっていれば、私も少しは人々に愛されたのだろうか?」


「そうかもしれないな……。まぁ、それを言ったら、私も同じだ。子などおらんし、親も居ないこともないが、あれは親と言うには、些か破天荒にすぎる」


 遺伝子的な繋がり……そう言う意味では、クスノキ・ユーリィは私の親と言えるかもしれない。


 クローンの時点で、遺伝子レベルでは同一人物であるのだが、帝国でのクローン運用ルールとしては、クローンを生み出した時点で、それはその人物の子として認定され、人権保護の対象となるのだ。


 つまり、クローンは法的に実子扱いと言うことになるので、本人死亡時には財産などの相続権が発生するし、当然ながら養育義務も発生するし、何よりも帝国では家族を重んじる傾向があって、親族間の殺人や虐待については、その刑罰が重くなる傾向があり、この法的に遺伝子提供者の実子扱いとなる事がクローン運用について、大きくハードルを上げることになっていた。

 

 要するに軽々しく個人でクローンなぞ、作るなと言う縛めの意味もあるのだが。

 なるほど、上手く出来ている。


「よく解らんが。お互い孤独な身の上ということか……。それ故、死にゆく時も一人……という事か」


「そう嘆くでない。どのみち、この私が最後まで看取ってやる。なんなら、そこの猫耳娘も含めて、自分の娘達に看取られるとでも思っておけば良い。気分の問題かもしれんが、死にゆくのだからこそ、気分は大事であろう? なぁに、思うだけなら自由なのだからな」


「……はぁ、笑うべき……なのだろうな。そうなると、尚更あの事を伝えておかねば、死にきれんか」


 そう言って、男爵は気力を振り絞って、起き上がろうとする。

 慌てて、その背中に手を添えて、支える。


 ……お、重いっ!


 猫耳娘に向かって頷くと、男爵の背中を支えてくれたので、そっちは任せて、立ち上がろうとするのを抑え込むようにする。

 

「男爵、無理をするなっ! 今の貴様は、痛覚を麻痺させて、延命治療を施しただけなのだ。立ち上がるなど論外だ。とりあえず、今はもう横になっておけ、死期が早まるだけだぞ!」


「いや、私は貴様に謝るべき事があるのだ……。であるからには、そんな寝たままで謝罪などありえんだろう……せめて、立ち上がって頭を下げる……それくらいはやらせてくれ……」


「気持ちは解ったから、そこまでするなっ! 構わん、座ったままでも頭は下げられるであろう? だが、謝罪とはどう言うことだ? 人は死ねば、どのような重罪人であろうが、死んだ時点でチャラだ。そこは私も確約するぞ」


 もっとも、私の男爵はその言葉に答えずに、身体を起こしたまま、無言で頭を垂れる。

 私もその正面に向き直ると正座して、鷹揚に頷く。


 まぁ、体裁はこれでととのったかな?


「……貴様の謝罪を受け入れよう。その上で申開きを聞くとしよう……良いぞ、申してみろ」


「実を言うと……私は炎神教団の者達と通じていたのだ……」


「炎神教団? ああ、アリエス殿達が言っていた狂信者集団か……。だが、何故なのだ? このシュバリエ市は昔から、神樹様のお膝元と言う事で神樹教団の聖地とされていたはずであろう? そんな地の領主が何故、炎神教団と通じていたのだ……」


「……だからこそ、ではないのか?」


 なるほど……いわば、喉元に突きつけられた短剣として機能させる。

 そう言う話だったのか。


 そして、あの盗賊団も……領主と通じていたのなら、軍が動かないのも当然であろうし、案外、あそこにこっそり、兵を集結させて、時が来たら中と外から同時に制圧する……そんな予定だったのかもしれないな。


「確かにそうだな……。察するに、金と女でも握らされたか? 確かに、領主自身を買収する……つまり売国行為。確かに、悪くない手ではあるな……」


「……否定はしないのか?」


「国家戦略と言う思考で考えると、むしろ、それを防ぐ手立てを用意していない方が悪いと思うがな……。小さな国が緩やかに纏まっていると言えば、聞こえは良いが。要は弱者が群れて居るに過ぎん。そんな脆弱な体制なぞ……金の力で切り崩すのは諜報の基本であろう。炎神教団と言うのは、なかなかに巧妙な戦略的見地を持っているのだな」


「……役者が……違うのだな。私はそこまで見えていなかった。炎神教団の司祭……ベルダと言う魔女……それが黒幕だ。あの者が来てから、私も含めて皆……おかしくなってしまったのだ。この神樹様の奇跡……街中が草木に飲まれたのも、ヤツは、破滅の始まりだと断言していて、神樹の使いを殺せと言っていた。何故だろうか……あの奇跡の種が舞い降りた時、私を含め誰もが、それが許しがたい所業だと感じたのだ。だからこそ、謝る……すまなかったと」


 そう言って、深々を頭を垂れる男爵。


「……ふむ、炎神教団か。そう言えば、我がお母様の宿敵と言う話だったな。しかし、何故だ? 神樹様がどのような存在なのか……市井のものも皆、知っていたぞ? 何故、お前達だけが神樹様を憎むのだ? ああ、それと……恐らく装甲騎士団の増援がこちらに向かっている頃だと思う。貴様がそれまで生きているに死んでいるにせよ。ややこしい事になるのは確実だ。せめて、現時点で休戦を宣言した上で、奴らを止めるようにしろ。逝くのは、その後にしてくれ」


「……装甲騎士団を止める……か。果たして、それが可能かどうか。シュミットが生きていたら、止められたかもしれんが……。私の言葉では恐らく止まらんだろう……私には騎士団を直接指揮する権限はないのだ」


「何を言っているのだ? 貴様が軍の最高指揮官なのであろう? 貴様が止めんと、無意味に血が流れることになるのだぞ! 例え、間に合わなくとも、そこに貴様の部下も居るではないか。武装解除し降伏するよう遺言を託せば、それでよいだろう? すまんが、それは兵を動かした貴様のなすべき義務であるぞ! 戦を始めたのであれば、終わらせる……それが最低限の義務であろう!」


「遺言を託すか……やらないよりは、マシかもしれんが。皆、あの怒りに塗れた状態で、止まれと言われて止まれるだろうか……私の死を知った時点で、皆、怒りに燃えて、何を言っても聞かず、際限なく戦を広げる……恐らく、そうなるだろう」


「……馬鹿なっ! 最高指揮者が止まれと命令して、止まらぬ軍隊など、制御不能の兵器も同然ではないか! そこまで貴様らは愚かなのか!」


「いや、そもそも。何故、私はあれ程まで猛り狂っていたのに、こんなにも落ち着いているのだろう? 御使い殿、我が配下を止める可能性があるとすれば、貴殿の奇跡……ではないかと思うのだ。護衛騎士フレッドマン卿、一つ聞く、今のお前は、私同様、至って正常に見えるのだが、何故、いつ目が覚めたのだ?」


 傍らで跪いていた中年の騎士が顔を上げる。


「男爵殿……。おっしゃる通り、今の私は至って正常です。何時からかと聞かれると……。恐らく、シュミット殿が倒れた直後から……。そして、御使い様から睥睨された瞬間、それまで胸の中を焦がすようだった怒りの炎が嘘のように消えてしまった……あれはなんだったのだろう。御使い殿……あの時、なにをしたのだ? どう考えても、貴殿の仕業だとしか思えんのだが」


「私の仕業……はて? 確かに、状況としては、そのように思えるな。ただ、私はなんともいえん。お母様に聞いてみるとする」


(お母様、状況は伝わっていると思うのだが。男爵や騎士達に何が起きたのだ? まるで憑き物が取れたみたいになっているではないか。お母様が、なにかしたのか?)


 お母様はどうも、私を端末代わりにして、世界を認識しているような気がするのだ。

 要するに、私が見聞きしたことは全て、お母様は共有している……この推測は間違っていないと思う。


(うん? 気付いてないー? 娘はだねー。あの時、あの一帯を浄化したのだー。これはわたしも予想外……ちょー素晴らしい力なのだー。この人たちの頭の中には炎の精霊の欠片が紛れ込んでたけど、わたしの種を吸い込んでいたから、娘が種のスイッチを入れて炎の精霊の欠片を打ち消して、浄化した。多分、そんな感じー)


 ……なんだか、明らかに知能が低下した感じなお母様の声が響く。

 なにせ、結論も「多分そんな感じー」ときた。

 

 要するに、私がこの者達を正気に返した……それは、確かのようなのだが。


 となると、この者達はやはり、異常だったという事でもある。


 ……待て。

 あの怒りに燃えた男爵や殺気立った騎士達。

 そして、最高指揮官の命令すら無視する軍勢。


 私は……それとよく似た話を知っているぞ。

 

 男爵もこの騎士達も、最初から不自然に猛り狂っていて、この者達も平然と市民へ威嚇してまわっていたのも事実だったし、男爵も無闇に怒鳴り散らしていて、その怒りの理由がよくわからなくて、違和感を感じていたのも事実だった。


(……お母様……火の精霊の欠片とはなんだ? それは人を狂わせる……いや、怒りに飲み込まれ、我を忘れる……そう言うものではないか?)


 一つの可能性に行き着き、お母様に問いかける。


(んっとね……。火の精霊の欠片はねー。人の頭の中に入ると、みんな、とっても怒りっぽくなっちゃうのー! そして、その怒りっぽさは近くにいる人にも移っていくの……だから、火の精霊の欠片を浄化しないとなのー! それもあったから、この街にたっぷりと種を撒いたのだー。そして、娘は種を浄化の力にして、火の精霊の欠片を打ち消すことを覚えた。これできっとみんな、安心安全ー!)


 ……待て、待て、待てっ!

 

 なんだそれは……っ!

 怒りっぽくなって、それが次々伝染するだと?

 

 それでは、まるで「敵」……。

 銀河を震撼させた恐るべき脅威……「ラース・シンドローム」そのものでは無いかっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ