第十二話「正義の在り処」③
なお、スラムのおじさん達はものすごく殺る気満々。
そこそこ場数も踏んでるようで、体つきもゴツイし、殺気すら放ってて、結構強いってことが解る……。
恐らく、元職業軍人……それくらい雰囲気で解るし、だからこそ、このスラムの用心棒のよう役割を担っていて、今もこうやって率先して、皆の先頭に立っている。
このスキンヘッド氏達は、どうもそう言うことのようだった。
確かに、有事徴用兵とか聞こえは良いけど、実際はただの兵隊のリストラ。
普段の食い扶持は自分で稼ぎ、戦争になったら強制動員。
そんな兵隊が使い物になるはずもないし、士気だって酷いものだろうし、練度だってまともに維持出来る訳がない。
そもそも、自分で食い扶持を稼げと言っても、そんな簡単に仕事が見つかるなら誰も苦労しない。
仕事が有り余っていて、人が足りないのであれば、このようなスラムなど出来る訳がない。
彼らのように、スラムで燻っているのはまだマシな方で、盗賊になったり、犯罪者になったりすれば、戦闘訓練を受けている分、タチが悪い。
……ここまで来ると、ここの領主は無能を通り越して、もはや害悪以外の何者でもないと断言する。
ふと、視線を感じると思って振り返ると、後ろのあばら家の影には、女の人たちや子供たちが隠れていて、こっちの様子を伺っていた。
その一人と目が合うと、おいでおいでされる。
どうやら、彼女達は私の逃走経路を確保してくれているようで、その準備が整ってるから早くこっちに来いと言いたいらしい。
その上、近くに私と同じような背格好の子供たちを何人も集めていて、私と似たような髪型にさせて、方々に散らせる準備を行っている様子。
……恐らく、あの子達は囮役だ。
危険を顧みずに、この私の身代わりとなって、私を逃がそうとしているのだ。
くっ! この者達……なんと……なんといういうことだ。
見も知らぬ私の為に、事情もよく解っていないのに、このような献身っ!
……み、認めねばなるまいっ!
この者達のこの行いこそ、まさに正義であるっ!
くっ! 正義の具現者としては、この思いは否定できんっ!
だがしかし! ソルヴァ殿達も紛う方なき正義の味方っ!
賊に攫われた私の為に、町の人々も巻き込んで正義の掛け声の元に一致団結し、危険を顧みず、荒くれ者たちの巣窟……スラムまで来てくれたのだ。
だが……。
このままでは、正義と正義が相打つ事となってしまうっ!
……ど、どうすればよいのだ!
これは困った……さすがの元銀河帝国皇帝でも、このようなどちらも正しいと言える二律背反的な状況……対応に窮せざるをえないっ!
私を救出すべく、謎の事情で膨れ上がってしまったソルヴァさん達救出隊と……私を勝手に仲間扱いして、小さな子供を守って逃がすべく、一致団結して一戦交えるをも覚悟完了なスラムの住民達。
このままでは……激突待ったなしだった!
「ああ、解った、解った! いいぜ……とにかく、一度ちゃんと話し合おうじゃねぇか。安心しな……こっちは丸腰で行ってやるぜ。どうだ? ああっ! てめぇらも武器なんて捨てて前に出てきやがれっ!! ビビってんじゃねーぞ! オルァッ!」
……ソルヴァ殿?
なんで、話し合いと言いながら、喧嘩腰なのだ?
言葉通り、ガシャガシャと武器を捨てて、手ぶらで堂々と歩み寄って、どっからでもかかってきなとでも言わんばかりに、ドンッと腕組みをする。
「はっ! てめぇが、悪党どものリーダーってか? 俺ら相手に、素手ゴロでやろうなんて、なかなか、いい度胸してるなっ! そこは褒めてやるぜ!」
「確かにいい度胸してやがるぜ。こう見えても、俺らは元軍人でな。素人だと思ってくれるなよ? だが確かに……街の奴らにしては少しは骨がありそうだ……上等だっぜッ!」
スキンヘッド氏とミスター無精髭が前に出て啖呵を切る。
「何だ? てめぇらがスラムの代表って事か? はっ! 見るからに、悪そうな面してやがるし、いかにも、やる気って感じじゃねーか。それに元軍人だぁ? やれやれ、最近の盗賊共はそんなん珍しくねぇぜ? そんなんで、このソルヴァ様がビビってたまるかっ! ああっ?」
「はっ! どっちがっ! てめぇだって、十分悪人面だろうが……! 知ってるか? 弱い犬ほどよく吠えるってな! ったく、悪党のリーダーに担ぎ上げられていい気になってんじゃねーぞ!」
「だれが悪党のリーダーだって? ザッケンナコラァッ! いいか? この俺はまさに正義の味方ってヤツだっ! いいぜ……やんのかぁッ! このハゲ野郎ッ! シバき倒して、その頭、キュキュッと磨き倒しちまうぞっ! オラァッ!」
ソルヴァ殿の話し合いって……。
と言うか、スキンヘッドの御仁にハゲって言っちゃいけない。
でも、頭磨くって……それむしろ、仲良さそうなんだけど。
「んだと、ハゲとはなんだ! ハゲとは! 実際ハゲだが、こいつはファッションだっつの! この髭野郎がっ! テメェなんぞに磨かれたら、テメェの手垢で俺の自慢の頭の輝きが曇っちまうぜ! ザッケンナコラーッ! おう、おう、おーう! ちょっとは出来そうだが、あんまイキってんと、畳んじまって、ご自慢のお髭をごっそり引き抜いてやるぜ? オラオラァ! オラァッ!」
……確かにスキンヘッド氏の頭……ピッカピカで眩しいくらい。
自慢の輝きらしい……良く解んないな……それ。
「おうともよっ! やる気って事なら、こっちもやってやるぜ? このトッテンパルラーが! オオゥ?」
なんか、謎の単語が出てきた。
けれど、ソルヴァ氏の神経を逆なでするには十分だったようで、めちゃくちゃ怖い目つきでヒゲモジャ氏を睨みつけた。
「だぁれが……トッテンパルラーだ……っ! 人が優しくしてりゃ、舐めやがって! てめぇなんぞ、ゲルハムダゼリそっくりじゃねぇか! とっとと自分の住処に帰りやがれってんだっ!」
「ゲ、ゲルハムダゼリたぁなんだっ! てめぇ、言って良いことと悪いことがあんだろ! この野郎……デリック! もういいから、やっちまおうぜ! さすがにゲルハムダゼリ呼ばわりされて、黙ってられっか!」
「ああ、ゲルハムダゼリはねぇな。ゲルハムダゼリなんて、いくらなんでもあんまりだろっ! オラァッ!」
ソルヴァ殿、スラムおじさん二人に囲まれて、メンチ切り合い中。
どちらも負けず劣らず怖い顔で、罵声浴びせあって、顔を寄せ合ってのにらみ合い。
なお、トッテンパルラーは、どうも悪口だか挑発の言葉らしい。
トッテンパルラー呼ばわりされると大抵の人がキレるらしい。
……なるほど、判らん。
ゲルハムダゼリ……ニュアンス的には珍獣やモンスターか何かっぽいけど、人をそれに例えると大抵の人はキレるらしい。
どうも、あんまりな悪口らしい。
なお、どっちも、意味がじぇんじぇんわかんにゃーい。
なんで、あんなに怒ってるのかも解んなーい。
まさに、異文化コミュニケーションあるある。
……あとで、イース嬢あたりに聞いてみよう。
と言うか……これのどこが、話し合いなんだろ……?
私の事とか、もう眼中なしって感じなんですが、ソルヴァ殿?
なるほど……ソルヴァ殿って、結構脳筋。
そして、お互い変顔しつつ、睨み合って睨み合って、デコがくっつく距離にまでなった瞬間、図ったように同時に両者が後ろに頭を振って、ゴンッ! と痛そうな音を立てて、頭突き合いっ!
「ってぇな! やってくれたな……このハゲっ! だが、上等だぜ……もういいっ! こうなったら、てめぇら、まとめてかかってこい! もう、色々めんどくせぇから、こいつでケリつけようぜっ!」
そう言って、力こぶを作って、拳を握って気合を入れるソルヴァ殿。
おーい、話し合い……。
「オウ、オウ、オーウッ! 上等だっつの! てめぇなんぞに負けるかっ! オラァッ!」
スキンヘッド氏が拳を握って、振りかぶる!
「こっちのセリフだ! ドルァッ!」
ソルヴァ殿も負けじとおおきく振りかぶって、鉄拳を振るうっ!
……両者とも同時に顔面狙いで、クロスカウンターが決まったああああっ!
これぞまさしく、拳を使った漢達の話合いっ! はぅあーっ!
こ、これはなんとも熱い展開になってきたのうっ! ゴクリッ。
いやいやいや、そうじゃなくてーっ!
※トッテンパルラー
悪口。
関西人に馬鹿っていうようなもの。
面と向かって言ったら、殴られても文句言えない。
※ゲルハムダゼリ
緑色のムックみたいなゴブリンの変種。
ヒゲモジャ氏は怒っていい。
なお、どちらも私の思いつき造語なので、元ネタもなければ、ググってもかからんよ?




