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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第一章「星霊アスカ、その大地に降臨する」

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第十話「エルフと神樹教会」④

 掛け声だけは一人前ながら、目を瞑って、へにゃへにゃとしたパンチでスカッスカッと空を切るイースを見て、お互い不穏な事を言い合って、緊張しかけた空気がたちまち霧散するの実感し、エイルも思わず苦笑する。


 同時に、神樹教会が見習いのイースを迷わず、アスカの付き人に選んだのも解ったような気もした……緩衝材としてみれば、この娘ほど適任の者はいないだろうと。


「……すまない。俺もつまらないことを言ってしまったようだな。そうだな……君ら神樹教会はそう言う方々だ。だからこそ、君達は人間達の中では、最も信頼に値すると評価する。まぁ、今はこんなものでいいだろうさ。そうそう、イース君! パンチを打つ時はそんなへっぴり腰じゃなくて、相手の頭の後ろに親の敵がいるつもりで、気持ち一歩分、深く踏み込みながら、ドンって打ち抜くんだ。あと、目を瞑ってちゃ当たるもんも当たらんよ? 見てろ……このエイルお兄さんがカッコいいパンチのお手本を見せてやる!」


 そう言って、腰の入った踏み込みと鋭い正拳突きを披露するエイル。

 見た目の割に、武闘派……それがこのエイルという男だった。


「うわっ! 凄い……今、拳の影しか見えませんでしたし、スパンって音がしましたよっ! エイル様、軟派な優男に見えて、実は凄いんですね!」


「まぁねぇ……うちの軟派で優男なお師匠様、こう見えて素手でドワーフを殴り倒すような猛者なんですからね。なんならイースも弟子入りしてみる? まぁ、最初は筋トレ三昧とひたすら走り込み……だと思うけどね。腹筋とか余裕で割れるわよ」


 そう言いながら、ファリナがちらっと上着をめくって、お腹を見せると見事なまでシックスパックが顔を出した。


「あはは……それはさすがに……。筋肉ムキムキになりたい訳でもないので……」


「む? それは聞き捨てならんぞっ! いいか? 筋肉は決して裏切らないっ! そして、最後の最後で頼りになるのは、鍛え抜いた己の肉体なのだ! まったく、我がエルフ族は素体は優秀なのに、そこら辺いまいち理解が足りなくてなぁ……」


 エルフなのに、脳筋。

 そんな風に噂されるエイルの面倒くさい一面でもあった。


 シスター・アリエスもまた脱線してますよと言いたげに、パンパンと手をたたく。


「エイル卿もうちの子に妙な事を仕込まないように……。まぁ、いずれにせよ、人は400年かけても相も変わらず……そう言うことです。くだらない貴族共や老害にしかなっていない老王……もはや誰もが解ってはいるのですけどね」


 盛大に脱線したものの、結論としてはそう言うことだった。

 シスター・アリエスが苦笑しながら、そう答えると、エイルも申し訳無さそうに頭を掻くと皆に一礼して座り込む。


 もっとも、この辺りは一般の民草も似たような思いを抱いており、農民達は年々上がっていく税に苦しめられていたし、主力の装甲騎士にばかり金を費やし、他の治安維持の衛兵や一般兵たる従士隊については、どこも削減傾向にあり、治安も順調に悪化していたし、職を失った兵士達が盗賊団に堕ちるケースも多発しており、地味に社会問題化しつつあった。


 街道の整備なども、統治者たる貴族達は年々投資をケチる傾向が出てきており、商業ギルドや冒険者ギルドと言った民間人団体が利用者の要望に答える形で、盗賊退治や街道整備などをやっているような有様だった。


 シュバリエ市のエルフの顔役として、それら民間ギルドにも顔が利き、ギルドマスター達とも親交のあるエイルもその手の話はよく聞いていたし、人間の統治者達……貴族連中の無能さには、ほとほと呆れ果てていたのも事実だった。


 アースター公もあのまま地道にやって、粛清されずにいれば、今頃はもう少しマシな世の中になっていただろうと、エイルも思うのだが。

 

 彼は友人でもあったエイルや、後援者でもあった神樹教会の者達の度重なる忠告に耳を貸そうとせずに、諸国統一を夢見て、いたずらに周囲に戦をしかけ勢力を拡大し、出る杭は打たれるが如く叩きのめされ、非業の最期を遂げてしまった。


「ははっ! そうだねぇ……アースター公が討たれ、世の中は平和になって、めでたしめでたしって言いたいところだけど、南の蛮族がここ数年やけに大人しいのは、逆に怖い。あっちも以前は部族単位でバラバラだったらしいんだけど、一斉に動かなくなったとなると、案外、大王かなにかが出てきて統一されつつある……その可能性もあるのだが……。その辺りは、どうなんだろうね? 確か南方交易には、教会も関わってたよね?」


 別に来て欲しいような連中ではないのだが。

 実際、ここ数年は蛮族の被害と言う話を全く聞かなくなっていたのだ。


 蛮族の襲来についても、年一程度なら、なんとか許容できていたのだが。

 年に三回も四回も押しかけてきて、好き勝手やられるようになると、腰の重い都市国家群の貴族達もいい加減我慢の限界を超えた。

 

 かくして、連合軍を組織して、アースター公の乱でその威力を思い知らされた装甲騎士のお披露目も兼ねて、思い切って蛮族軍にこちらから仕掛けたのだ。


 ……結果は、完封勝ち。

 装甲騎士を横にズラリと並べて一斉突撃させるスチームローラー作戦は、凄まじいほどの威力を発揮し、蛮族達は半数以上の兵を失いほうほうの体で逃げ帰っていった。


 まぁ、このスチームローラー作戦もアースター公の考案した装甲騎士の運用法の一つであり、要は丸パクリだったのだが。

 

 この戦いで、都市国家群の支配者達は、過剰なまでに装甲騎士への信頼を持ち、それが自分達の力なのだと錯覚し、すっかり驕り高ぶってしまう事になったのだ。


 そして、多大なる損害を受けた蛮族軍はそれっきり年単位でやってこなくなり、商売がしたいからと砂漠地帯を超えて、時たまやってきていた蛮族の商人達も来なくなり、向こう側の情報というものがぱったり途絶えてしまったのだ。


「そうですね。おっしゃる通り、南方諸国でも、蛮族の動向を伝える商人たちの往来が途絶えているそうで、詳しい情報が入らなくなっています。確かに不気味な兆候ではありますね……蛮族の統一国家の誕生の可能性……ですか」


「ああ、そうなるとかなり厄介だと思うぞ。国ってのは、例のアスカ様の星霊の国じゃないけど、まとまれば、まとまるほど、強大な力を発揮するようになる。ここらみたいに、てんでバラバラだと、あっという間に踏み潰されておしまいって、なりかねんのだよ」


「そうですね……。もしそのような事態ともなれば、今の連合ではとても太刀打ち出来ないでしょう。もっとも、我々としては、蛮族への対応は国家レベルの話だと弁えています。まぁ、次の連合会合の折に我々の懸念材料として伝えるのが関の山ですね」


「おいおい、そんな調子で大丈夫なのかい? 正直、今は嵐の前の静けさにしか思えんのよ。貴族連中もすっかり慢心して、軍事の備えを疎かにしてるようにしか見えないんだがなぁ……。あの調子ではいずれ足元を掬われるのは間違いないだろうな」


 そう言ってエイルはため息を吐く。

 特にここシュバリエ市は、北端の街なので蛮族の略奪行には縁もなく、危機感などは皆無に等しかった。


 神樹の森もかつては魔物の巣窟だったのだが。

 近年、急激に神樹が力を取り戻し、活性化を始め、その魔物たちも激減し、アスカの降臨でいよいよ、完全に全滅してしまったのだが、さすがのエイルもそこまでは状況を把握していなかった。


「……あの、どちらかと言うと、今後は、南の蛮族の大王よりも、北の炎神教団が問題になるかもしれません。ちょっと、見ていただきたい物があるんですが。皆様……これを見て、どう思います?」


 イースが持ち出したのは……アスカが瞬殺した盗賊団の魔法師の持ち物だった。

 真ん中辺りからへし折れた赤い魔法杖の残骸……一言で言えばそうなのだが、それは見るものが見ればひと目で分かるシロモノだった。


「……炎神杖……これは一体どこで!」


 博識なエイルが真っ先に気づいたようで、イースのところにまでやってくるとその杖の残骸を手に取るとしげしげと眺める。


「やっぱり……。ええ、例の盗賊団……彼らはアスカ様に一瞬で全滅させられたのですが。その中にいた魔法師が持っていたのがこれです」


「これは……真っ二つにヘシ折られたのか? それなりに強度があるはずの魔法具を簡単に破壊してしまうなんて……これでは魔法師と言えどもどうすることも出来なかっただろうな。それにしても、そうなると星霊アスカ様は、この杖が危険だと見抜いた上で、最優先で破壊したって訳か? やるなぁ……」


「いえ、どうでしょう? 私達も含めて、あの場に居た全員が一瞬で蔦で拘束……ソルヴァさんが私達が正義の味方だって、説得してくれて、一緒にされて、首を折られずに済んだんですよ」


「……拘束して、首を折った? ど、どうやって?」


「えっと、木の枝を動かして、空中に吊るして動けなくしてから、首をこうやって反対方向へ無理やりねじって……さすがに、そんなの誰だって、一撃で死んじゃいますよね……」


「あ、ああ、そうだな。そんなの俺だってイチコロだって。……精霊ってのは基本的に容赦ないとは聞いてたけど、ホント容赦ないな。こっわー! けど、盗賊団なんぞが魔法師連れって、確かにその時点で、普通じゃないな……」


「はい、ソルヴァさんも、あの盗賊団は逃亡兵ではないかと言っていましたが……炎国の破壊工作部隊の可能性もあると。実際、襲撃現場は巧妙に隠匿されていて、その痕跡もほとんど消されており、ならず者の盗賊団などではないのは確実でした」


「そうだね……。これは、一見安物の魔法杖に見えるけど、やけに火の魔力の増幅率が尖ってる。こんなトチ狂った調整を行うのは、炎神教団の連中くらいだろうさ。まったく、火魔法以外は使わないとか、偏り過ぎだよ。それに何より、俺達エルフはああ言うエレガントさに欠ける魔法は好かない。まったく、炎神め……神樹様の怒りに触れて、クソ寒い北の山奥に追いやられたのに、まだしぶとく生き延びてたんだな……」


 エイルが杖の残骸を持ち上げつつ、心底嫌そうな顔をする。

 

「炎神アグナス……ですか。神樹様もあんな森の隅っこにあるのも昔、炎神が森の半分近くを焼き払ったから……なんですよね? なんて酷いことを……」


「イース修道士、あれを炎神などと神を付けて呼ぶ必要などありませんよ。あれは、単なる火の精霊の変異巨大種……。あれを神と崇める方が間違っております。まったく、我らにあれを討伐するだけの戦力があればとっくに討伐しているのですが……。残念ながら、ライオソーネの盟約は相手から仕掛けられた場合の防衛戦争にのみ適用されます。敵地へ攻め込む遠征討伐ともなると……各国の協力はまず得られないでしょう。戦においては大義が必要……ままならぬものです」


 ……案の定というべきか。

 神樹を神として崇める神樹教会とその神樹の森を焼き払った炎神アグナスを崇める炎神教団とは、もはや不倶戴天の敵同士と言っていいほど、犬猿の仲だった。


 実際、50年ほど前にも、向こうに言わせると魔物を生み出す悪魔の樹……神樹を焼き払い浄化すべく、団体で押し寄せてきて、当時の神樹教会やエルフらと派手に一戦交えて、その結果、神樹の森の北の半分近くが灰となってしまったのだ。


 一応、神樹の森は神樹教会の聖地指定の土地なので、隣接する各国は一切手を出していないのだが、ライオソーネ条約の有効範囲内ともされているので、万が一神樹の森が武力侵攻を受けた場合は、近隣各国が連合軍を出し、撃退すると言う話にはなっていて、実際、前回の戦いでも連合軍の参戦と、神樹の放った神の雷で炎神自体が沈黙し、アグナス教団も形勢不利を悟って、手を引いたのだった。


 神樹教会は、その程度にはライオソーネ王国に強い影響力を持っており、彼らの言う総本山もライオソーネ王国本国に設置されていて、王家とも深いつながりがあった。


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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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