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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第一章「星霊アスカ、その大地に降臨する」

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第十話「エルフと神樹教会」①

 ……神樹教会の会合室には、現在5人の人々が集まっていた。


 エルフ氏族と神樹教会。

 どちらも神樹と縁の深い者達だ。

 

 両勢力の関係者は、当然ながらもっと大勢いるのだが。 

 かなり、バタバタで会議開催の運びとなったので、取り急ぎと言うことで集まったのがこの五人のメンバーだった。

 

 極めて重大事項の話合いではあったのだが、人数としてはかなり少ない。


 もっとも、集まったものはそれなりの高い立場の者達ばかりで、両勢力の主要メンバーとも言える者たちで、そこは大きな問題にはなりそうもなかった。

 

「……以上にて、私、神樹教会修道士見習いイースの見聞報告は終わりとします。なお、私の報告書の内容についてはファリナさんも同行されていて、内容についてもご確認して頂いたので、第三者による事実証明も出来ているかと思います」


 半葉の紋章入りのマントをまとった子供のような見かけの蒼い髪の神官……イース。

 彼女がアスカと帰路の旅を共にしながら、その言動を記録したメモを読み上げ終わった所だった。


「……神樹の森に精霊が降りた……か。確かにこのところ、神樹様の力が活性化していたようだし、ちょっと前にも神樹様へ光の柱が降りて来るのが、ここからでもはっきり見えたからね。絶対に何かあったとは思っていたけど、やはり精霊の降臨だったのだね……。まさか、生きている間にこの日がやってくるとは……いやはや、感慨深いものだねぇ」


 温厚そうな、なんとも眠たそうな顔をした緑の法衣の神官カルム。

 この神官は、イースの指導官だった男だった。


「神樹様は定期的に自らの眷属……精霊を生み出すと伝えられていますが。教会に伝わる記録によると、前回はおよそ400年前。もはや当時の詳細を知るものがいるとしたら、エルフ氏族の皆様くらいでしょうね。イース修道士見習いの報告は以上にて承りました。第三者による内容確認済みと言う事であれば、事実確認については、これ以上は不要と考えます。では続いて、エルフ氏族の皆様に今の話について、ご意見を聞かせていただきます。発言をどうぞ」


 司会役を努めているらしき、けだるげな雰囲気のメガネを掛けた中年のシスターがそう告げると、イースが着席し、代わりにファリナが席を立つと、堂々と胸を張りながら、部屋の中央にまで歩み寄った。


「はいっ! まず、精霊様はこの私に憑依いただき、この世界の共通語を私より学び取り、精霊語を理解できないイースや、ソルヴァともコミュニケーションを取れるようになっていました。ただ、生まれ落ちた精霊は無垢な存在と言う話だったんですが、あの精霊様は酷く老獪な……とてつもない大物って感じの気配を持ってましたね」


「とてつもない大物って……なんだい、それは? 精霊じゃなくて、魔王様だったとか、そんなオチは勘弁してくれよ?」


 軽薄そうな雰囲気の若そうに見えるエルフの男性が茶化すように告げる。


「そう言う落ちじゃありませーん! ソルヴァは……どこぞの皇帝陛下か、或いはエイル師匠のおっしゃる通り魔王か何か……そんな風に表現してましたね。ソルヴァの話だと、この国……ライオソーネ王国国王パントーレ3世陛下や、シュバリエの領主ユーバッハ男爵程度では、軽く貫禄負けする……とまで言ってましたよ。実際、私もあのお方が我々エルフの本来の長だって、余裕で納得してますっ!」


「……おいおい、精霊様ってのは生まれた直後は何も知らないし、自我も持たない空っぽの存在のはずなんだぜ。俺は400年前の前回の聖霊降臨にも立ち会ったから知ってるんだが。むしろ、あっちが色んな奴に憑依しまくって、知識を吸い上げて蓄えながら、徐々に自我を身に着けていくって、そんな感じなんだ。そんないきなり、明確な自我を持ってて、皇帝陛下だか魔王みたいな貫禄をとか……さすがにそれはにわかには信じられんよ。本当にそれは神樹の精霊だったのかい?」


「えっと……あ、アスカ様は神樹様は自分のお母様のようなモノだって言ってましたよ? 本人がそう言うなら、そう言うことじゃないんですか?」


「まぁ、精霊様自身がそうおっしゃるなら、そうなのかもしれないけどね。あまりに前回の時と様相が違うんだよ。そもそも、精霊の降臨の際は、事前に神樹様から神託が降りるはずなんだぜ? 今回はうちの審神者さにわ連中もだけど、教会も誰も神樹様の神託は聞いてないんだろ? 俺もファリナから風の便りで報告を受けて、もう寝耳に水って感じだったし、教会も似たようなものだったみたいじゃないか」


「そうですね……。私を含め、神樹様の声を聞けるものは、教会には何人かおりますが……。いずれも、何も聞いていなかったようで……。ですので、私もイースの報告でようやっと精霊様の降臨を知った次第です」


 ……要するに、神樹教会関係者も今のイースの報告で、初めて詳細を知ったところであり、カルムが言っていたように、何かあったのは間違いないとは思っていて、誰か神樹様の様子を見に行かせるべく、検討していた……そのような有様だったのだ。


「ちなみに、前回の時は普段は、神樹様の声なんて聞けない奴らにまで、全世界に精霊の生誕が近いから、祝福しろって声が聞こえたんだ。おかげで、要らない奴らにも精霊の存在が知られて、エライことになっちまったんだがな」


「……それが精霊大戦の始まり……でもあったと言うことですね。もっとも、近年の神樹様は昔と違って、我々に積極的に声をかけたり、世界へ声を届けるような事はしなくなりましたので……。やはり、あの忌まわしき戦の事が尾を引いているのかもしれませんね……」


「……そうだね。あの大戦のお陰で、我々エルフは故郷の森を失い流浪の民となり、神樹様に見捨てられた事で不毛の地となったことで、いくつもの国が滅びた。人間の欲望ってのは度し難いね……」


「要するに、神樹様も懲りたって事なんじゃないですか? でも、私達エルフは神樹様の眷属なんですから、こっそり教えてくれても良かったのに……」


「まぁ、そこは同感なんだけど、案外神樹様にとってもイレギュラーな事態の可能性もある。そもそも、十歳前後の子供の姿って……そこからして、ちょっとおかしいんだよなぁ……」


「では、前回は、どのような状況で、どのような姿で降臨されたのでしょう? エイル卿は降臨の際、現場で立ち会われたと言うお話でしたよね?」


「……そうさねぇ。俺を含めたエルフ氏族の古株や有力者、当時の神樹教会のお偉いさん達、ライオソーネ国王と言った錚々(そうそう)たるメンツが見守る中、光り輝く樹のウロから起き上がる麗しき女神……そんな感じだったね。姿は……肌と髪の色が緑って事以外はエルフ族の成人女性の姿だったな。でも、今回は予告もなく、子供の姿だったとなると……。やはり、何らかのイレギュラーの可能性……神樹様にとっても、予想外の何かが起きた可能性が高いんじゃないかな」


「確かにそう考えると、辻褄が合いますね……。そうなるとアスカ様はいったい何者なのでしょう?」


 シスターアリエスがそんな風に問いかけるのだが。

 誰も、明白な答えは持っていなかった。


「あ、あのエイル師匠、つかぬことを伺いますが、ハイエルフ化って一回憑依された程度でなるようなものなんでしょうか? 確か、あれって何度も繰り返し憑依されて何度も気絶して、初めてその水準に達するって話で、お師匠様も、前回の精霊に何度も憑依されたのに結局ハイエルフ化には至らなかったって言ってましたよね?」


「ああ、確かに君からはそのように報告を受けていたが……。ははっ、精霊に憑依されたって浮かれてたけど、そんな一回の憑依でハイエルフ化なんてする訳がない。だが、いいだろう、丁度いいからこの場で君の霊格判定を行うとしようか。まぁ、略式にするから、すぐ終わるよ。」


 姿勢を正し、じっと佇むファリナのもとへエイルが歩み寄ると、軽くその額に手を当てる。


「はい、目を閉じてー。息を吸って、身体を楽ぅに……」


 5秒ほど、そのままにしていると、エイルは引きつった顔をしながら、その手を離す。


「えっと、どうでしょう? 自分でも解るくらいには、霊格が上がってるんで、もしかしたら、ハイエルフに届いたかもって思ってたんですが!」


「……た、確かに、今の君の霊格はハイエルフと呼んで良い水準だ。なんだこれは……精霊界とのパスが一気につながったのか! 嘘だろ……この霊格値……この俺よりも上じゃないか……いったい、何が起きたんだ! これが、たった一回の精霊憑依でこうなったってのか!」


「いえーいっ! そういうことなら、もう私は正式にハイエルフって事でいいですね? ごめんなさい、ハイエルフの時点で、もうエイル様より格上なんですが……今後、呼び捨てにするとか、私に様付けを強要なんてしませんから!」


「当たり前だ! 誰がそんな事許すかっ! ……だが、確かに、精霊界とのパスが広い者……霊格の高い者ほど、エルフの間ではより原種たる精霊に近いものとされ、格は上と言うことにはなっているから本来はそうすべきなのだが……。君は俺の300歳も年下で、何より俺は君の師匠なのだぞ? この若造の分際でっ! う、羨ましいなんて思ってないからなっ!」


「ふっふーん! お師匠様、もしかしてお悔しいのですか? うひひ……この私は精霊様に見初められて、精霊様の住んでいた世界の光景をも垣間見たんですよ! いやはや、我々の世界とは比較にならないほど、進んだ世界のようでしたね……。まぁ、見えた所で結局、何が何だか、全然解らなかったんですけどねっ!」


「まさか! 君は精霊界の光景をも垣間見たというのか! ど、どのような世界だったのだ? いいから、見たままを教えろっ!」


「そ、そうですね……。この世のものとも思えぬ風景……星空の只中を飛んでいる。そんな感じのイメージが見えましたね……。あれは星の世界を飛ぶ船……なんですかね? しかも、それがとてつもない数で並んでいて……。大きさもなんだか、馬鹿みたいに大きかったですよ! ここシュバリエ市が丸ごと押しつぶされるくらいの大きさ……だったように見えました」


「待て! ファリナ……それは一体どこの世界の話なんだ? まさか……星空の只中とは……もしや、この頭上に広がる星の世界のことを言っているのか! だとすれば、それは正真正銘……神の領域だぞっ!」


「あ、言われてみれば、確かにそんな感じでした。そっかー、星の世界を自在に駆ける文明……精霊の国ってのはそんな感じなのかも。そう言えば、アスカ様は600億の民を率いる7人の王の一人だったとか、そんな話もされてましたね」


「な……ろ、600億だと? 待て待て待てっ! このバレンツ平原諸国すべてを合わせても、その人口は100万人なのだぞ? なぁ、その億って単位はなんなのだ? あまり使わない単位だと思ったのだが……」


「えっとですね……。100万に1万をかけて、更にその6倍だって言ってましたね。ごめんなさい、私掛け算でしたっけ? よく解んないんで、全然わかりませんでした」


 要するに、ファリナ本人はアスカの話を聞いて、へぇー凄いですねぇ! とか答えていた程度で、話の内容は全く解っていなかったのだ。

 

 まぁ、この世界の人々の知識水準ではそんなものではあるのだが。


「……解った。お前にそこまで期待するほど、俺も馬鹿じゃあない。ちょっと今から計算する。これでも俺は人間社会で長年揉まれてるから、数字には強い方なんだ。伊達に長生きしちゃねぇぞ?」


 それだけ言うと、懐にしまっていたわら半紙のような紙束から一枚広げ始めると、先が尖った細長い棒を取り出す。

 ちなみに、細長い棒は、初期の鉛筆のようなものだ。


 この世界において、筆記用具など、文字の読み書きが出来る者以外にとっては、無用の長物であった。

 だからこそ、それを常に懐に忍ばせて持ち歩いている時点で、このエイルと言う男が深い教養と高度な知識を持ち合わせている事が伺えた。


「おーっ! さすが、お師匠様! 伊達に長生きしてるだけって訳じゃないんですね! さっすが、さすがっ!」

 

「だけってなんだ? だけって! お前……それ褒めてないだろ? あんま調子のんじゃねーぞ……ったく。えっとまず、100にゼロが4つで……これが100万だな。それに更に一万倍……つまりゼロが4つ足して、その6倍……よし、こんな感じだろ!」


「お師匠様……なんです? この長ったらしい数字は……お、お師匠様?」


 ぱっと見には、ゼロがゾロリと増えただけなのだが。

 数字を見て、それがどれくらい数を示すのか、そのイメージも出来るエイルには、それがもはや途方も無い数字なのだと実感できて、愕然としていた。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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