表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第5章「決戦、アスカ星系の攻防」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/312

第六十七話「ハルカ=ロズウェル」⑥

「盛り上がってるところ、悪いんだけど、皆、ちょっとステイかなぁ……」


 唐突に、ゼロ陛下のホログラフビューが表示されて、ゲーニッツ大佐や他の将官たちも一斉に腰を折っての最敬礼。

 

 私も慌てて、席を立ってそれに続く。


「あっはっは! 驚かしてすまないね。皆、楽にしていいよ!」


 ゼロ陛下がそう言うのでまっさきに従って、さっさと司令席に腰掛けて、足を組む。


 それを見て、ゲーニッツ大佐もなにか言いたげだったけど、本人が楽にしろって言うなら、そうするのが礼儀でしょ。


「まったく、いきなりなんですかね。こっちは最前線で、これより突撃開始ってんで、皆ピリピリしてるんだから、そんなお気楽な調子でいきなりダイレクト回線開かないでいただきたいな」


「うんうん、僕相手にこれっぽっちも動じたり、萎縮しない辺り、君もなかなかだよ。ああ、君の疑問ももっともだよね。何せ、戦略目標の優先順位変更の通達も直前にするようにしてたからね。現場も混乱すると解ってたけど、作戦開始時刻の指定くらいちゃんと見てよ」


「……作戦開始時刻は、ジュノア到着から36時間後? 随分と悠長ですけど、それもアスカ陛下の指示だったりするんですかね」


 基本的に、アスカ陛下は拙速を尊ぶ。

 即断即決即実行をモットーとしていて、そもそも皇帝達ってのは誰も彼もがこんな調子で忙しないと言うのが常だった。


 だからこそ、私もジュノアが道を示してくれた以上、最速で……そう言う判断を下していたのだ。


 そこに来ての事実上の待機命令に、さすがのアタシも困惑せざるを得ないんだが……現状の戦力の集結状況や補給ラインがまだここまで届ききっていないことを考えると、それくらいの待機時間が妥当と言う結論となる。


 なるほど、焦るな……準備万端の状態で突っ込めと言うことか……。

 いかんせん、この超空間転移戦術なんて、こっちも未経験。

 普通の宇宙艦隊決戦なら、もう何日も前からお互いの戦力も布陣も見えた状態で、あれこれと陣形変えたり、側面に回り込もうとか工夫しても、丸見えな以上結局対応されて、正面からの激突を余儀なくされるもんなんだけど。


 お互いが超空間転移技術を持つとなると、寄せ手は如何に多くの戦力を初手で展開できるかが重要になってくる。


 だからこそ、ここで慌ててありあわせの艦隊で突入は……ない。

 そう言うことか。

 

 これを見越して、作戦開始時間まで指定していたとなると……さすがアスカ様だとしか言いようがないな。


「お察しの通り……そう言う事なんだよ。現状既に、惑星アスカのアスカ陛下率いる神樹帝国は、すでにラース文明相手に全面交戦を開始しているのは、すでに君達にも理解は出来ていると思う」


「であれば、直ちに我が艦隊にゲート設営と艦隊の突入命令を! 今すぐ取りかかれば、12時間以内にゲート突入が可能です。現時点では艦隊の艦列もバラバラですが、多少の誤差や混乱など、そんなものは許容範囲でしょう!」


 ゲーニッツ大佐が吠えるように怒鳴る。

 まぁ、この人のアスカ陛下への忠義も大概だから、一秒でも早く馳せ参じたいんだろうな。


「うん、すでに水先案内人のジュノアはすでに君達のところにたどり着いているようだけど、君らの参戦はまだ早い。そう言うことなんだよ」


 アスカ星系での最終決戦の勃発……状況は急を要する状況と言えるだろう。

 アタシは事情はなんとなく理解できているのだが、ブリッジの将官達も、何も言わないながらも、だったら早く動けよと言いたげなようだった。


 ならば、ここは私が皆の不満の代弁者となるべきだろう。

 まったく、演目は間違えずに……セリフも台本通りって事か。


「お言葉ですが。状況は一刻を争うはずです。我々はただちに動けます。ゼロ陛下……御自らの出陣の激をお願いいたします!」


 まぁ、さすがに今すぐとなると戦闘可能な艦なんて、紙装甲の高速艦だけで、100隻程度……当然ながら、無謀っちゃ無謀。

 

 自分で言って何だけど、そんな事をしたら、間違いなく先遣艦隊の半分以上は沈むだろうと私も予想していた。


 おまけに、それで敵に戦線突破されて、ゲートシップ被弾なんてなったら、作戦予定はもっと遅延する……ここは急がば回れ、そう言う事。


 そこを百も承知で、敢えて不満を申し立てるとか、我ながら大した役者っぷりだよ。


「焦らない焦らない……。君なら、僕の言葉とこの状況だけで、アスカ陛下の意図も読み切れると思ったんだけどねぇ……。どうだい?」


 アスカ陛下の意図については、明白だった。

 要は、アスカ陛下は現状、敵の主攻を引き付ける役を買って出てくれている……。

 

 そう言うことだと思っていいだろう。

 そして、宇宙の戦いのスローテンポさは、アスカ陛下も良く解っているはずだ。


 宇宙というところは、見通しだけはやたら良い割に、その距離感は文字通り天文学的な距離であり、何をするのも時間単位どころか日単位となる。


 銀河帝国と言えど、通常宇宙空間での大規模ガチ実戦なんて、100年単位で経験していないし、ロズウェルとてそこは変わりないんだが。


 銀河帝国は過去に2度、エスクロン星系で割とガチな実戦を経験しており、これが結構デカい……他の国で通常宇宙での大規模戦闘なんてこれまで一度も発生していないから、通常宇宙での艦隊戦の実戦経験となると、銀河帝国が問答無用でナンバーワンだろう。


 当然ながら、過去の実戦データを元にした、VR演習は幾度となく重ねているし、ロズウェルも演習ではアグレッサー役……要は敵役の常連だったので、通常宇宙空間での戦術指揮官としては十分以上の経験者と言える。


 惑星アスカと転移予定ポイントの距離は凡そ50天文単位。

 地球と太陽の間の距離の50倍と言えば、そのとてつもない距離感が少しは理解できると思う。


 なにせ、光の速度でも7時間はかかる距離だ。

 現時点で、すでに惑星アスカでの決戦が始まっているのだとすれば、戦闘開始から少なくとも12時間は経っているだろう。

 

 アスカ様が動いた時点で、敵の主攻は惑星アスカに殺到しているはずで、必然的にカイパーベルトラインは手薄になりつつあるはずだった。


 今の時点では、敵艦隊がゾロゾロとカイパーベルトラインから惑星アスカへ一斉に進軍を開始したばかりと言う状況であろうから、ここで慌てて突入するのは、何も考えずに準備万端の中に突入した場合と大差がなくなる。


 つまり、この場の最善はぐっと我慢。

 例え、味方が窮地に陥っていたとしても、敢えて耐え凌ぐべき局面。


 敵の主攻が惑星アスカへ集中して、敵戦力の配置が偏り、大量の遊兵が発生したタイミング……これがこちらの突入する最高のタイミングとなるだろう。


 欲を言えば、敵の超空間ゲートの向こう側にいる戦力まで釣り出してくれているなら、最高なんだが……まぁ、そこまでは期待しちゃいけないか。


 そして、その上で、帝国増援艦隊の主攻を惑星アスカではなく、ラース文明の転移ゲートに集中する。

 

 そう言う展開となれば、惑星アスカに集まった連中も慌てて取って返してくるだろうし、こちらの転移ゲートにもそれなりの戦力が差し向けられるだろうし、慌てて増援を送り込んでくる可能性も考えられる。


 だがしかし、この時点で向こうは二正面どころか、惑星アスカを入れると三正面作戦を強いられることになる上に、その戦略移動速度はアスカ様の送ってくれた観測データによると、1%亜光速にも届かない程度でたかが知れている……。

 

 要は、敵の戦略移動速度は決して早くないのだ。

 なるほど、アスカ陛下もここが付け入る隙と判断したのだな。

 

 当然ながら、交戦距離にない移動中の敵は完全に遊兵化する事でいないも同然となる。


 対して、こちらはその気になれば、20%亜光速も出せる高速艦揃いの上に、一時的ながらも敵性転移ゲートのみに戦力集中出来る。

 

 恐らく開戦後一週間ほどは、戦略的優勢の状況で戦えると言うことになるだろう……その間に一気に勝負を決める!


 敵性転移ゲートについては、惑星規模の超大型エネルギー生命体の可能性もアスカ様情報で想定されており、惑星点火爆弾を投げ込んで、ガスジャイアント惑星自体を消滅させる……そんなぶっとんだ計画が用意されている。


 そして、高速戦艦改装型の高速惑星点火兵器も後方で改装ずみで、36時間以内にここに送り込む予定らしい。


 本来の計画案では、惑星アスカ周辺の制宙権を確保したうえで、返す刀で転移ゲート個体のみを殲滅し、ガスジャイアント惑星については今後のことも考えて、温存する予定だったのだが。


 とにかく、真っ先に転移ゲートへ戦力を集中し速やかに殲滅し、アスカ星系からの敵戦力の殲滅を図り、Bigファイアについても駆除とか生やしいことを言わずに、ガスジャイアント惑星諸共吹き飛ばす方針としたようだった。

 

 その上で、惑星アスカの地上攻略支援は最終段階とすると言うことになっていた。

 これはこれで、なかなかどうして難易度の高い作戦ではあるな。


「……ああ、アスカ陛下の大凡の意図は解らなくもないんだがなぁ。全く……敢えて、敵の矢面に立とうとか無茶が過ぎる。陛下もそこは苦言くらい呈した方が良かったんじゃないか?」


 まぁ、今回の戦略目標を考えると、アスカ陛下の敢えて先に動いて、敵の矢面に立つことで、戦略的優位とイニシアチブを確保する戦略はこの上ないモノと言えるのだが……。

 救援に赴くこっちとしちゃ、気が気でならないよ。


「うん、それが道理だよね……僕もそう思う。でもまぁ、アスカ様が現地の状況からそう判断したんだから、君等としても従う他ないだろ? すまないが、今はひとまず待機って事でよろしく頼んだよ。永友提督にも色々巻くように伝えてあるから、30時間後くらいには、そこそこまとまった戦力と物資がそこに集結するはずだよ」


 なるほどねぇ。

 作戦開始が36時間後ともなると、30時間後くらいには全艦補給と休息完了で、6時間かけて各艦のエンジン温めて、総員配置に持っていくと。

 まぁ、段取りはこんなものだろう。


「やれやれ……了解したよ! ああ、諸君! すまんが、直ちに突入はなくなった。どうせ、突入後は誰一人として息付く暇すらないだろうから。ひとまず、総員半舷休めで待機! どうせ、敵も来ないんだから、ゆっくりと後続を待ちながら、万全の準備を整えろ! ゲーニッツ大佐! 復唱ッ!」


「ハッ! 野郎ども聞いてのとおりだ! これより我が艦隊はより確実な勝利をものにする為、これより30時間かけて、侵攻準備を万全のものとする! いいか? 戦闘が始まっちまえば、飯を食う暇も寝る時間もないと思え! 手が空いてるやつは今のうちに食って寝て、英気を養え! では、我らの……」


 ゲーニッツ大佐が言葉を区切って、アタシの方をチラ見する。

 ええ? アタシにもアレやれってのかい。


「「「……偉大なるアスカ様の為にっ!」」」


 そう言って、ビシィッ! と敬礼を捧げる。

 

 まったく、アスカ様……アナタはどれだけ、物が見えているんですかね?

 そんな通信もままならない宇宙の彼方から、この大艦隊を統率して、その動向すらも自在にコントロールするとかさ。


 ふふっ、これじゃロズウェルも心酔するわけだよ。


「……ロズウェル中将、どこへ行かれるので?」


 誰もがアスカ陛下バンザイと連呼する中、司令室を後にしようとした私にゲーニッツ中佐が声をかけてくる。


「どこへって……私室だよ。とりあえず、寝るっ! なにか状況に変化がない限り起こさなくていい! あとは任せる……イサザキ大佐も、逸ってるのは解るが、後で存分に暴れさせてやるから、ここはアスカ陛下に免じて大人しくしてろ、いいね? じゃあ、ゼロ陛下も後ほど……」


 モニター越しのイサザキ大佐も苦笑し、ゲーニッツ中佐も同じように苦笑すると、揃って無言で敬礼。


 ゼロ陛下も解ってるさと言いたげに、頷くとフェイドアウト。


「とりあえず、久々に12時間くらい寝るか!」


 そう言って、私も司令室を後にした……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ