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第六十六話「決戦前夜」③

 ともかく、そんな膨大な頭数を要求する星系防衛をわずか一万隻にも満たない宇宙戦闘艦でやろうと言うのだからなぁ……如何に星間文明と言えど、さすがに無理があるだろう……とまぁ、さすがにそう思わずにはいられないのだが。

 

 もっとも、そこら辺は、恐らく星間文明特有のインチキがあるのだろうと私も見ている。


 実際、連中も他の星間文明相手に星系防衛戦や侵略戦争くらいは経験しているはずなのだからな。


 その上での、最適解がこの一万隻に満たない宇宙戦闘艦と言う事なのだとすると、何らかの秘策があるのに違いなかった。

 

 もっとも、こちらの宇宙観測でも連中はカイパーベルトラインまで進出して、薄く広く守ろうとして、結局穴だらけになってしまっているのが解っている。


 とにかく、布陣を見る限りでは、星系内を可能な限り多くの目で目視出来ることに強いこだわりがあるように見受けられる。

 

 まぁ、光学索敵を重視する事もそれが一番堅実な索敵方法だという事情は解るし、相互支援を考えるとお互い視認できる程度の距離でまばらに配置と言うのも理解できなくもないのだが……。


 言ってしまえば、ラース文明は、強力な戦力を呼び寄せておきながら、一気呵成に惑星を攻略するチャンスを棒に振って、外宇宙からの援軍に備えることで有限のリソースを無意味に分散化してしまっていると言える……。


 なお、星系防衛戦略の基本は面や線ではなく点を守る……むしろ、それしか出来ないと言って良い。

 

 戦力を分散させ面で守ろうとしたところで、攻撃側は手薄なところや他の重要拠点に戦力集中の上で一気呵成に攻略するだけの話で、広大すぎる宇宙では守る側も戦力集中に時間がかかる以上、こんな風にバラバラに配置してしまうと、いざ守ろうと慌てて戦力集中を図ろうとしても結局、各個撃破されてしまうのが関の山なのだ。


 だからこそ、我々も星系防衛に際しては、有人惑星やゲート施設のような重要拠点に大半の戦力を配置した上で、あちこちに補給拠点と遊撃艦隊を配備し、有事の際は拠点配備戦力で対応し、それらが頑張っている間に各地の遊撃艦隊を差し向けて、後背を突くか……兵力に余裕があるならば、包囲殲滅する……そんな機動防御戦術で対応することにしていたのだが。


 連中は、その真逆の薄く広くの広域防衛戦術で対応しようとしている。 

 まぁ、確かに機動防御戦術は、重要拠点以外は捨てると言う割り切りも必要であるのも事実であり、この星系で連中の守りたい物は複数あって、どれも切り捨てられない……となると、薄く広く守るしかなくなってしまっているのかもしれない。


「なるほど……。この敵の配置予想だと、宇宙の敵の配置も薄く広く……なのだな。まったく、奴らは戦力集中の原則を知らんのか? こんなまばらにまんべんなく配置しても、結局死角だらけではないか。これで敵に備えているつもりなのだすれば、まさに片腹痛いな」


 私が作成した資料にアクセスしていたらしいヤマト殿が愉快そうにそう告げる。

 まったく、余裕綽々のようだが、ヤマト殿も過去の帝国軍の多大なる戦闘記録リソースを元に私と同じような結論に達しているようだった。


 まぁ、端的に言ってしまえば、星系防衛戦なんぞ本来、真面目にやってられんものなのだよ……あっちもこっちも守らないといけないのに、戦のコマ……宇宙艦隊はどれもこれも牛歩の歩みで、一箇所守りきったと思ったら、手薄になった反対側の拠点が炎上。

 

 そもそも、防衛戦になってしまった時点で戦略的に劣勢なのは言うまでもないのだが……。

 VR演習で防衛側なんてやらされると、ホント……ストレスがマッハで、やってられんと言う気分になるのだ。

 

 まぁ、元々防衛戦闘と言うのは、イニシアチブを失っている状態での戦いを強いられる事で、不利なものではあるのだ。

 宇宙の戦いでは、それが地上戦などとは比較にならないほどに、顕著になる……そう言うものなのだ。


 とにかく、一言で言って……。


 「守りに難く、攻めるに易い」


 守る側は圧倒的に不利……反面、攻める側はやりたい放題。

 星系攻略戦とはそんなものなのだ。


「まぁ……そこは私も同感だな。だが、カイパーベルトまで進出して押さえられてしまったのは、少々厄介だな。なにせ、増援艦隊の予想出現ポイントもあの辺りだからな……。いくらなんでも、あんな所まで出張って大量の見張りを配置するとは私も思っていなかった」


 ちなみに、ラース文明は索敵を重視しているのか、凡そ半数近く……3000隻ほどをカイパーベルトラインに分散配置して、小型の索敵専用個体も無数に配置しているようだった。


 もっとも、逆を言えば全周ともなると途方もない距離となるエッジワース・カイパーベルトに戦力を分散配置するともなると、たかが3000隻では相互支援も怪しいほどには疎らな配置になってしまっており、賢明な対応とはとても言えないとも思う……。


「エッジワース・カイパーベルト……光の速度でも行くまでに10時間とかかかるような所を守って意味があるのかと思っていたが。なるほどのう……確かにカイパーベルトより先は、恒星重力圏外であるがゆえに見通しも良く、敵が来るとすれば通常航法であり、それを真っ先に見つける為の布陣……そう言うことなのだろうか。だが、連中も超光速航法を使えるのだから、敵がそれを使うという可能性を考えていないとは思えないのだがな。正直、これは何かあるな」


 さすが、大和殿だ。

 敵を侮らず、何らかの意図があっての布陣だと見抜いているようだった。


「まぁ、そこは相手がヴィルデフラウ文明……超空間航法を使わない文明だと言う前提の布陣なのだろうな。実際、今の我々には超空間航法なんぞないのだからな」


 結局、星系防衛なんてのは、どれほどの軍事力を持とうが絵空事に近く、あらゆる可能性を想定……なんてやっていると、絶対にリソースが足りなくなる。

 だからこそ、我々のように優先順位を設定して、他は潔く切り捨てる覚悟が必要なのだ。


 今回のラース文明の場合は、すべてを守る事にこだわる代わりに、敵が超空間航法を使えないと言う可能性に賭けている……そんな風に思えるのだが。


 案外、超空間航法を知るがゆえに、ゲート生成の最適条件が整っているカイパーベルトラインに哨戒線を引くことが最適解と解っている可能性もあるし、不意を打たれなければ、何とでもなるということなのかも知れない。


「しかし、敵の意図が読みきれないと言うのは、なんとも気持ちが悪い状況ではあるな。確かにカイパーベルトは見通しが悪いことで、その内側からだと星系外の観測の邪魔になりがちだし、内部に入りこまれてしまうと簡単には見つけられなくなってしまうのも事実なのだが。大半の戦力をそこに配置する意味が解らんのだ。だからこそ、大和殿の意見を聞きたい。コレを見て、どう思う?」


「ふむ……。外周警戒は索敵の基本ではあるのだがな。さすがに、こんな超巨大なリングを等間隔で貴重な宇宙戦力を配置してまで守ろうとするとなると、普通は無意味と考えるところなのだが、それを承知でやっているとすれば、何らかの意図があるのであろうな」


「そうだな。敵は案外、こちらの増援がカイパーベルトのどこかから超空間ゲート経由で攻め込んでくると想定しているのかもしれんな」


「なるほど。頭数は少ないとは言え、早めに気付かれて対応されてしまうと増援艦隊も戦力展開に時間を要する以上、苦戦は免れんだろう。そうなると、奴らもこちらの戦略を読んだのだろうか? もしくは、これが星間文明同士の戦いでは守り手側のセオリーなのだろうか」


「こちらの戦略か……。いかんせん、我々も宇宙艦隊を超空間ゲートを超えさせた上での戦力展開や恒星系規模での星系攻略戦については、まともな実戦経験がないのだ……。それに何よりも向こうの意図が全く読めん。こうも雑に対応されていると、裏があるのではとどうしても考えてしまうのだ」

 

 なにせ、宇宙の戦いと言っても、星系内の防衛戦……いずれも崖っぷちの惑星最終防衛ラインでの戦いしか、我々には実戦経験がない。


 もちろん、全く実戦経験が無いよりは遥かにマシではあるのだが、受け身に回った防衛戦の経験があるだけで、こちらから相手の領域に侵攻する侵略戦争ともなると、さすがに誰も経験ない。

 

 VRシミュレーションによる演習ならば、幾度となく繰り返しているだろうが、演習と実戦はまるで別物というのが定説ではあるのだ。


 だからこそ、正直出たとこ勝負にならざるを得ず、その為にこちらもできるだけ多くの兵力を投入することで活路を見出そうとしているのだが……。


「そこは深読みのし過ぎではないかな? 何も無い所に哨戒網を張るよりも、入り込んでしまえば、遠くからの観測が困難になるアステロイド帯や動かしようがない重要拠点に集中的に戦力を配備するのは、宇宙の防衛戦闘の基本なのだろう? まぁ、基本に忠実と言う意味では厄介な奴らではあると言えるのだが……宇宙戦闘については門外漢の我から見ても、向こうはいささか頭数不足が否めんな」


 いかんせん宇宙は広い……とてつもなく広いのだ。

 大和殿の言うように、光学観測を妨げられる障害物……デブリや小惑星などが集まるアステロイドベルトやカイパーベルト帯の索敵は、如何に膨大な観測拠点を設営してもどうしても死角が至るところに出来上がってしまうのだ。


 ちなみに、宇宙の無法者達……いわゆる宇宙海賊も決まってそう言うところに根城を構えるので、いつの時代でもその手の者たちを根絶できた例が無かった。

 内惑星圏のアステロイド帯ですら、どこもそんな有り様なのだ。

 ほぼ外宇宙で膨大な周回距離のあるカイパーベルト帯ともなると、もはやどうしろと言うのだと文句の一つも言いたくなる程度には、死角だらけ。

 幸いあまりに不毛過ぎて、そんなところに根城を構える宇宙海賊なんぞ、聞いたこともないのだがな。


「いずれにせよ、奴らもこちらの増援を警戒しているのだろうな。なにせ、奴らも超空間転移技術を持っているのだ。こちらが同じ手を使うと想定するとなると、薄く広く守る他無いのであろう。だが、こうも広く展開しているとなると……。こちらにジュノアを呼び寄せて、奴らの目を盗んで、こっそりとゲートを開通させた上で、援軍を呼び寄せて拠点化する手はずだったが少しばかり戦略を変える必要があるかもしれんな……」


 ジュノアの光の船の速度は限りなく光速なのだが。

 それでも凡そ50天文単位離れたカイパーベルトラインまでは、最短で7時間は要する。


 更に、そこから増援艦隊が出てきた上で、10%亜光速で惑星アスカの重力圏にまで到達するとなると、その10倍以上……つまり、軽く70時間以上はかかる。 

 要するに、どんなに早くても増援の来援まで、約3日ほどはかかる計算になる。


 敵が状況を把握し、こちらの目的を把握して、戦力集中を図り惑星アスカの上空に到達し、地上への総攻撃を開始するには十分すぎる時間と言えるし、進路上に敵戦力が展開しそれを蹴散らしながらと考えると、恐らく味方の惑星上空までの来援までは一週間……いや、それどころか一ヶ月以上はかかるくらいは、考えるべきだろう。


「うむ、そうするべきだな。なによりも宇宙の戦闘と言うものはスローテンポなのがお約束のようであるからな。まったく、敵発見から1週間後に交戦開始とか、冗談のような話だが……。だが、アスカ陛下の見立てはおそらく間違っていないだろうな。たった今、我が実施した想定シミュレーションでも、同じような結果となっておるわ」


 実際、宇宙の戦闘というのはそんなもので、敵を見つけてから、交戦距離まで軽く一週間単位とかかかるのが当たり前だったそうで、長距離宇宙爆雷やレールガンも撃ってから当たるまで3日とかそんな調子になる。


 実際に宇宙空間で本物の艦隊を動かすリアル演習でも、敵発見から交戦までは一週間は余裕でかかるし、その間も散発的に長距離砲による擾乱攻撃位は来るので、ダラダラと当たりもしない砲弾を撃ち合いながら、お互いウネウネと陣形を変えて、艦列を分割してみせて、それに呼応したりとやりながらも、ジリジリと互いへと向かう。

 

 そんな展開がお約束とも言えた。


 もちろん、艦隊を分割したうえで、両翼から相手を包囲する両翼包囲戦術やら、敢えて受け身に回って、敵艦隊を包囲殲滅する包円陣だの、ステルス艦による奇襲攻撃など様々な戦術が考案されたのだが。


 お互いすでに見つかって監視し合っている状態では、何をやっても対応されてしまって、結局小細工無用で真正面から全戦力でぶつかるのが、攻者、守者ともに効率的で、テンポが非常にもっさりとしている以外は、はるか昔の大軍同士の決戦などと大きく変わりないと言うのが実情だった。


 だが、地上の戦闘はそうはいかない。

 恐らくこちらの増援の到着と同時にこちらの戦局も動くであろうし、恐らく敵は総力を挙げてこちらを潰しにかかるだろう。


 なにせ、そうなると敵も一刻も早く惑星上から敵対戦力を駆逐しないと確実に滅ぼされるのだからな……これまでと違い損害に構わぬ特攻戦術も駆使したうえでの死ぬ物狂いの戦いを挑んでくるだろう。


 となると……増援艦隊の惑星アスカ上空への戦力展開に一ヶ月もかけられては、恐らくこちらが全滅するほうが早い。


 その程度には、不利な状況なのだと私も重々承知しているのだ。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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