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第六十六話「決戦前夜」②

 本国サイドの分析でも、Bigファイアはラース文明の本拠地辺りに接続されている超空間ゲートだと断定した上で、レッドシップについても、いよいよ敵の増援が到着した……それも宇宙戦闘を想定した新テクノロジーを引っ提げて……そう言う事のようだと判断しており、私もそこは同意見だった。


 まぁ、以前のように孤立無援だったら、敵が宇宙戦力を大量に用意した時点でどうしょうもなかっただろうが。

 

 こちらの方針は、あくまで戦力を温存した上で惑星上での長期持久戦の方針であり、ラース文明側もむしろアスカ星系の防衛・観測体制の構築と繁殖拠点の再建に熱心なようで、やはり向こうもこちらが惑星衛星軌道上から外に出てこない限りは、これまで通り無理攻めはしない方針のようで、双方の思惑が一致した結果……つかの間の平穏のようなものが現出していた。


 こちらへの攻撃は時より、少数の艦隊を組んだ上で衛星軌道上にタッチ・アンド・ゴーのように接近し、ミニ恒星爆弾や石ころをばら撒いて、お母様の対宇宙レーザー砲撃に追い散らされるように一目散に逃げていく……そんな繰り返し。


 今回のように、長々と衛星軌道上に留まるケースも増えているのだが。

 熱放射を増やして、惑星地上の気温が心なしか上昇するとか、夜になっても赤々と輝くことで夜空が風情に欠けるようになったとか、その程度なので、しぶとく留まるようなら、お母様に砲撃させて追い払う……その程度の対応に留めている。


 実際、そろそろお母様がうっとおしいと判断したのか、反物質レーザーの照射が始まったようで、地上からでも一際、赤い光が強くなってジリジリと動き出しているのが解る。


 敢えて、撃破はしない程度に手加減するように言ってあるので、今回も追い払うことはできそうだった。


 そして、地上の珪素生物達についても、海上戦闘艦などで艦隊を編成し、散発的な攻撃を仕掛けて来てはいるのだが……。

 

 大和殿達の人間サイズの小型機動兵器として、海中を潜りながら接近し、ゼロ距離でのインファイトを挑むと言う戦術に翻弄され、緒戦でダース単位の戦闘艦をごっそり失っており、それ以降はこちらもやはり散発的な攻撃しか仕掛けてこなくなっていた。


 てっきり、ラース文明の宇宙からの対地上攻撃に連動した奇襲揚陸戦辺りでも仕掛けてくるかと思ったのだが……。

 

 実のところ、そこまで上手くは行っていない。 

 なにせ、海上から敵の拠点へ陸上兵力を上陸させて挑む揚陸戦……アレはアレで難易度が高い。


 なにせ、宇宙と惑星地上もそうなのだが、海上と陸上ではまるで土俵が違うのだ。

 そして、海上戦闘艦も広大な大陸の奥深く……武器の射程の外に対しては何も出来ない。


 もちろん、帝国惑星戦闘部隊辺りであれば、数百キロの射程を持つ長射程実弾兵器はもちろん、衛星軌道からの対地レーザーなどがあるので、惑星上の戦闘で武器の射程距離が問題になるようなことはほとんどないのだが……。

 

 いかんせん向こうの兵器は、二十世紀の古代戦争で使われていた火薬式の大砲が主力兵器のようなのだ。

 

 もちろん、こちらの世界ではそんな火薬式で長大な射程を持つ兵器ともなると十分以上に強力な兵器ではあったのだが。

 

 その射程はせいぜい二十km程度で、仮に海岸線に到達されたとしても、一目散に内陸へと逃げてしまえば、海上戦闘艦からは手出しすらもできなくなる。


 向こうも必然的に、わざわざ陸戦用の兵器を上陸させて……そんな戦い方をせねばならんのだが。

 

 古くから伝わる水際撃破と言う言葉があるように、上陸前に艦艇諸共沈められてしまえば、如何に多くの陸上戦力を用意していても何の意味もない。

 

 実際、異形の生物を満載した大型の揚陸艦らしきものが、ルペハマの目前まで迫ったこともあったのだが、大和殿達の攻撃ですでに満身創痍の有り様で、速力が落ちたところへお母様の大出力レーザーの直撃で、あっさり消し飛ばされてその作戦は失敗に終わった。


 なにせ、お母様のレーザーは重力レンズを使うことである程度なら射線を曲げられるのだ。

 

 地平線の向こう側だろうが、前線で着弾観測点が確保できていれば、100mの海上目標程度ならば沿岸に近づく前に軽く焼き払える。

 

 そして、その最大出力はkm級の小惑星をも一撃で消し飛ばすとかそんな桁違いの代物なのだ。


 km級のレッドシップですら、衛星軌道上に長居すると延々と直撃を食らうことで消し飛んでしまう程のバカ威力なので、それ故に連中も惑星上空に長居せずに、タッチ・アンド・ゴーのような軌道で早々に逃げ出してしまうのだ。


 要するに、お母様と言う鉄壁の守護者の前に、宇宙、海上とあらゆる敵は各個撃破されて、今の今までまるで寄せ付けていない……それが実情だった。


 これは、要するに射程距離の勝利と言えるのだが。

 反物質による莫大なエネルギーを投入した曲射可能な収束ガンマ線レーザー等と言う極悪な大出力光学兵器は、ラース文明も珪素生物もモノに出来ておらず、この分野に関しては、まさにお母様の独壇場だった。


 ちなみに、本国側でもこの惑星アスカを攻略すべく戦略シュミレーションを実施したそうなのだが、結果は燦々たるものだったらしい。

 

 惑星制宙権を確保すれば、惑星側に対抗の手段はないと言うのが、これまでの定説だったが。


 お母様の反物質γ線レーザーは帝国軍でも最高クラスの防御力を持つ重戦艦の正面装甲すらも軽く貫通し、これについての防御手段は現状、お手上げと言うのが、本国の軍関係者達の弁だった。

 

 結論として、反物質レーザークラスの対宇宙攻撃兵器があるだけで、惑星を無傷占領などとても出来ないと言うのが結論とのことだった。

 

 そして、我々が恐れていた宇宙と海の連携も全くなっておらず、もう一つの敵……陸の戦いについても現在は小康状態だった。


 王国自体は、すでに国王の引退に伴い、まともな第一王子が引き継ぎ、我が傘下に入ることを宣言したことで、こちらもすでに我が配下となっている。


 もっとも、案の定といった様子で、旧守派貴族連合は南方にて、新たなる連合国家の樹立を宣言し、王国も二つに割れたかのように見えたのだが。


 所詮は、烏合の衆。

 後ろ盾だった炎神教団も正式に邪教指定された上で、御神体が吹き飛ばされた事で、なかば息をしておらず、互いの足の引っ張り合いでまとまりに欠けて、正直なところ話にもなっていなかった。


 先月だかにオズワルド子爵率いる神樹同盟軍が南方の交通の要衝、城塞都市カルサファル市を解放し、反乱軍のリーダー格だった何とかと言う侯爵を討ち取り、敵戦力を完全に分断した上で残党狩りを続けており、すでに勝敗も見えた状況になりつつある。

 

 もっとも、その勝利の決定打になったのは、ユリコ殿による成層圏からのピンポイント狙撃により連中の城の本丸を消し飛ばしたことだった。


 要はトップ暗殺による組織の瓦解……その結果、総崩れになったと言うだけの話だった。

 

 どうも、連中決起集会でもやっていたらしく、敵の総大将の某侯爵や第二王子と言った重要人物や、主力部隊の精鋭たちが城の中庭にぎっしりと集まっており、それをたまたま見かけたユリコ殿が問答無用でふっ飛ばしてしまったと言うわけだ。

 

 なんとも身も蓋もないやり口だったが、別に正々堂々と戦うだけが芸ではないからな。

 戦争を単純化する為にも、反乱軍共には早々に退場して頂く必要があったから、身も蓋もない手を使った……そう言う事だ。


 おかげで、籠城に付き合われていた市民達も喝采をあげて、オズワルド殿達を迎え入れてくれて、そこそこの数の住民と拠点をまとめて手に入れることが出来たと同行していたドゥーク殿が嬉しそうに報告を入れてきていた。


 いずれにせよ、連合王国はすでに我が手にあるも同然と言え、もはや後顧の憂いはないも同然だった。

 

 あとは、南方で蠢き始めている蛮族共と、海の向こうの珪素生物共を黙らせれば、こちらも安心してラース文明との決戦に集中することが出来る。


 全ては順調……そんな状況ではある。

 だが、私は、そうは考えていない。


 敵も馬鹿ではない……こちらが守りに徹している理由にも、そろそろ感づくはずで、何よりも続々と来援していたラース文明のレッドシップがピタリと湧いてこなくなったようなのだ。


 要は、敵の戦力展開と布陣が完了した。

 本格攻勢の準備が整い、いつでも動けるようになった。

 そう言うことなのだ。


 更に、敵の展開領域はこの星系のカイパーベルトラインにまで及んでおり、明らかに星系外からの敵襲に備えている……そのような布陣を取っているようなのだ。

 

 敵もようやっと、こちらがやけに消極的な事で、増援を待っている可能性に行き着き、星系外からの未知の敵の来襲の可能性に備えている……恐らくそう言う状況なのだろう。


 まったく、ご苦労なことだ。

 私も同じ苦労を知るだけに、向こうもさぞ四苦八苦しているだろうと想像出来る。

 

 また同時に、一万隻にも満たない戦力で、それをやろうとしている無謀さに、同情すらしている。


 かつて我々七皇帝も星系一つを万全の守りにするだけの必要戦力について、議論した事があるのだ。


 そして、その結論としては、補給拠点を兼ねた10km級の宇宙要塞を1000基程ばかり星系各地に建造し、km級の大型戦闘艦が最低20万隻、補助艦艇に至っては300万隻が必要になると算出された……。


 星系一つを未知の侵略者の手から完全に守り切ると想定すると、最低でもそれくらいの戦力は必要で、防衛軍の展開領域にしてもカイパーベルトラインはもちろん、その向こう側の太陽系で言う所のオールトの雲と呼ばれる恒星重力圏外近くにまで足を伸ばして、いくつも哨戒兼防御拠点の宇宙要塞を建造し、それぞれに最低千隻規模の宇宙艦隊を配備し、そこまでしてようやっと万全に近い防衛体制を築ける。


 途方もない戦力でもあるのだが、我々が実施した星系防衛シュミレーションでは、そんな結論に達したのだ。

 

 しかも、これは最低限の数値であり、欲を言うならこの10倍はあってもいい……そうなると、一星系辺り200万隻の宇宙戦艦が必要という事だった。


 そこまで行くと、もはや帝国軍の全軍に匹敵するほどで、些か非現実的な数値であるのだが……。

 それだけの戦力があっても、所定通りに星系各所に配置したうえで星系全体を網羅する3D俯瞰図として表示すると、味方を示す光点は、もう見るからにまばらで、スッカスカで穴だらけの防衛網にしかみえないのだ。


 当然ながら、すべての有人星系にそんな膨大な兵力の展開を行うのは、さすがに現実的ではなく、原則として超空間ゲートと居住惑星と言った重要拠点のみを死守し、それ以外は潔く切り捨てる……。

 

 その前提とした上で、一般有人星系には一個艦隊一万隻を配備……各帝国首都星系の基幹戦力は十個艦隊十万隻とする。

 

 こんな風に思い切り割り切った上で、我々も星系防衛については、不備を承知で妥協する事にしたのだ。

 

 そして、帝国の領土の圧倒的多数を占めるほぼ無人の資源星系は、無人観測艦や無人のパトロール艦程度と割り切り、戦力を配備するのも帝国全土に存在する100個程度の有人居住星系のみとし、最重要戦略拠点たる各帝国の首都星系に重点的に戦力を配備する……とまぁ、こんな配置としていた。

 

 それでも、銀河帝国の艦艇総数は宇宙戦艦だけでも200万隻にも及んでおり、銀河連合の有人星系の防衛戦力が多くても100隻にも満たない中、これだけの戦力を配備するのは明らかに過剰戦力と言えたのだが。

 

 その程度では、通常宇宙の防衛戦力としてはまるで不足していると我々も考えていたのだ。


 もっとも、現実的に可能な範囲という事であれば、この辺りが経済や人的資源を圧迫しない範囲での精一杯だったのも事実であり、広大極まりない外宇宙からの侵略の備えという物は、その程度には膨大な戦力を要求する……そんなものなのだ。


 この頭数不足の問題は、如何に我々が無人戦闘艦を主力にして省力化を進め、大量生産効果で低コストで宇宙艦艇を大量に建造できるようになっても、一向に解決が見えない……言わば、歴代の帝国軍の課題でもあるのだ。

 

 我々も予算や兵力と言った現実的な壁の前に、有事には確実に戦力が足りなくなることを承知の上で妥協していたのだが……それでも、ユリコ殿の時代よりも大幅な戦力拡充は出来ており、それなりに進歩はしていたのだ。


 だが、それでも足りない……全く足りんのが現実なのだ。

 

 その程度には、宇宙の広大さというものは厄介なもので、星系単位での専守防衛戦略などは、絵空事に過ぎんと言うことは私も痛感しているのだ。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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