第六十五話「ひかり輝く者達」④
だが、もしも……だ。
エルフの古伝が未来の予言だと仮定すれば……やはり、私の決断は間違っていないという事でもある。
光り輝くもの……それがジュノアを表しているとなれば、まさにこれは勝利のフラグ以外の何物でもないな。
「なるほどな……。そうなると、むしろ、この展開は必然なのだろうな。では皆、最後まで見届けるということで良いな?」
「それこそ、今更って話だな。いいぜ! 何が起きても俺たちは全員アスカの嬢ちゃんの味方だ! なぁに、イザとなりゃこの俺が身体を張って守ってやるから、安心してくれ! なぁ! 皆もそうだろッ!」
まったく、ソルヴァ殿は頼もしいな。
ソルヴァ殿の掛け声に、惑星アスカの仲間たちも一斉に声をあげる。
まさに勇気千倍と言うヤツよの!
「……大和殿、そう言うわけだ……。ジュノアをこちらに呼んでくれ」
「解った……だが、先に言っておくが、アレをアストラルネット空間に呼び込んだ事などないからな。どう言う結果になるかは我も予想できんぞ? 今なら、止めることも可能だが……本当にやるのか? これは間違いなく賭けだぞ」
「アストラルネット経由で、我が元へ来させるとなると、ジュノアにもこの精神世界の存在を理解して貰う必要があるだろう? どのみちこれは、避けられぬ道と言えるし、どのみち、なるようにしかならん。それに今のエイル殿の話通りなら、これはすでに結果が決まった展開なのだ……賭けるにしても、十分分がある賭けだと思うぞ」
「さすがだな……アスカ陛下。そなたの勇気……御見事なり! ジュノーにも伴をするように命じたから、イザとなれば抑え込めるだろう。ではやるぞっ! 領域拡大、仮想空間ファイアウォール多層展開ッ! ひとまず、バラバラではやっとれん! 弐号、参号! 一時的ながらリソース統合の上で演算力を目一杯確保したうえで、ジュノアを迎え入れるぞ! ここは我らの踏ん張りどころであるぞ!」
恐らく、イザと言う時を想定してなのだろうが、部屋の広さが一気に拡大されると、不可視の壁のようなものが幾重にも展開される。
そして、三人の大和殿たちも1号の呼びかけに答えて、まるで1号に吸い込まれるようにその姿が重なって、一人に統合される。
なんとも、器用な真似をしてくれるが、演算力の統合により、力技でジュノアに飲み込まれないように対応する構えのようだった。
「ジュノア! 道を作ってやったぞ! それにこの空間についても我が演算力の総力をあげて、アスカ様達を保護している! いいな? ゆっくりと自らを情報圧縮をしつつ、こちらに来い! くれぐれも慎重にやるのだぞ!」
大和殿の呼びかけに答えるように、モニターの向こう側で、ジュノアが立ち上がるとカメラに向かって、視線を送るとその姿がまばゆいばかりの光に包まれる。
「大和さん、ありがとうっ! ……うん、気をつけるよ。慎重に……細心の注意をはらいつつ……だね!」
そして、次の瞬間、50m四方にまで拡大された部屋の反対側に眩い光りそのものが出現する。
かなり大きい……部屋を構成するオブジェクトデータが早速、侵食を受けているようで、形を保てなくなって、崩壊していっているのが解る。
「……予想はしていたが、やはりとんでもない規模の情報体だな。ジュノー! 何をしているっ! 早く来て、ジュノアの情報圧縮に手を貸してやれッ! お前も一度は奴を抑えきったのだから、それくらいやってのけろ!」
大和殿の呼びかけに答えるようにジュノーもこの空間に現れると、光る泡のようなものを作り出すと、その光り輝くものを包み込む。
「あ、はい! ……と言うか、ジュノアちゃんってデータ空間だと、こんなだったの! なんて、桁違いの情報量……そっか、今のジュノアちゃんは、単独じゃなくて、仲間と外部接続して相互補完してるんだ……。それだと、こんなにもなっちゃうんだ! ううっ、最初に捕まえた時なんてまるで比較にならない! で、でも! 私がなんとかする! ジュノアちゃんも頑張って! ここは踏ん張りどころだよ!」
「そうか、この空間は情報空間……だから、僕の本来の形に戻っちゃったのか……。でも、ちゃんと制御してみせるよ。とにかく、自分を小さく……安定させる。大丈夫……僕はすでに自分と他者の境を理解している! 皆が僕にすべてを託してくれたんだ……その信頼に答えてみせる! 何よりも、これが出来ないとアスカ様の信頼にだって答えられないんだからね……。待ってて! 絶対に……何とかして見せるから!」
それなりに苦労しているようで、その光り輝くものは、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。
大和殿も危うく押し切られそうになっていたのだが、その姿が一回り大きくなると、ジリジリと押し返し始める。
恐らく、何らかの手段で演算力の増強を行ったのだろう。
そして、光と光の攻防の末に、ジュノアもかなり小さくなって、光り輝く人型のシルエットのようなものとなりつつあった。
「よし! もう少しで安定するな……まったく、リソース統合して正解であったな。更に、他のスターシスターズ連中から余剰演算力を総動員させた……。それでも、危うく押し負けるところだったとは……さすがに肝も冷えたわい……」
ジュノア殿の周囲に、見えない壁のようなものが展開されているようで、周囲のデータオブジェクトも崩れるように崩壊して行っているのだが、その空間崩壊もすでに止まっていて、データ修復が始まっているようでジワジワと再生して行っている。
ほとんど光に飲まれながらも、その傍らに立つジュノーが上手く制御を補助しているようで、そのシルエットも当初は巨人のようだったのだが、かなり小さくなっている。
それに大和殿が総力をあげて展開している結界のようなものも、確実にジュノアの放つ圧を押し返しているようで、その光り輝くものはやがて1mほどになると、力尽きたように膝をつくのが解った……。
「ど、どうかな? かなり圧縮したんだけど……。ジュノー、なんだか随分と大きくなったね?」
「アナタが縮んだんですよ。よかった……でも、なんだか眩しいんだけど、それなんとかならないの?」
「うーん、僕もあっちの姿にしようとしてるんだけど、どうやってもこの発光体の姿になっちゃうみたいなんだ。まぁ、一応手足はあるけど……。元々、僕らはこんなんだから、そこは勘弁してよ」
眩しいだけなら、サングラスでもかければ済むからな。
他の者達も手で庇を作って、直視しないようにしているが、空間オブジェクト生成機能を使って、それぞれの目元に遮光バイザーを生成する。
「……ナイス機転? いやはや、何と言うか……光り輝く人……まさにそんな感じだねぇ」
ゼロ陛下も怯むことなく私の左隣に並び立つ。
そして、ソルヴァ殿も負けじとばかりに、私の右隣に立つと敢えて、一歩前に出る。
「……なんつーか、神々しいって表現がしっくり来るな。神様みたいなもんだってアスカ様も言ってたけど、コイツは納得だぜ!」
「ああ、確かに神々の使者と言われても思わず納得しそうだな。ジュノア殿、ご足労感謝しよう! お初にお目にかかる……我こそは、クスノキ・アスカ! 辺境銀河七帝国……最後の皇帝であり、統合銀河帝国初代皇帝でもある!」
なにぶん、現時点の統合銀河帝国の頂点となっているのは、ゼロ陛下であることは疑いないのだが。
ゼロ陛下はあくまで臨時の皇帝代行であり、本人もそれを喧伝しているほどであり、では誰が統合銀河帝国の皇帝かと言うと……。
……他ならぬこの私なのだ。
そこは自分でも認めており、国民の大多数も納得するであろうことは確かだった。
おかげで、名乗りもこんな風にゴチャ付いたものとなってしまいがちだが……惑星アスカでの称号もいれると、もっと長くなるのだから、これでも省略した方なのだ。
「……うん。初めまして! 僕はジュノア……お会いできて光栄だよ!」
「よしなに。ああ、私は細かいしきたりやら、慣習などはどうでもいいと思っている。まずは問おう……この我と直接合間見て……何を思う? そして、何を感じた……率直に告げてもらって構わない」
「うん、実のところ……すでに、僕達の目的は達成しているんだ。今、僕はゲートキーパー……いや、光の民の代表意識体として、ここに告げる……古の盟約に基づき、アスカ陛下……貴女を君達の言うところの第三航路空間の正当なる使用者として認め、その導き手となる事を誓おう!」
はい? わ、私は、まだ何もしていないのだが……。
確かに会えば解るとは言っていたが、私は認証キーも何も示していないのだが……。