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第六十五話「ひかり輝く者達」③

「というか、あっちってそんな危うい状況なの? 大和君、その辺りはどうなんだい? 君やユリコくんの報告ではそこまでヤバそうな感じじゃなかったけど……。ああ、大和くん……すまないけど、今、アスカ陛下が提供してくれたデータを元に戦略シミュレーションを改めて実行してもらっていいかな?」


 ゼロ陛下も早速私が送ったデータを情報分析に回すつもりようだった。

 

 まぁ、単なる答え合わせになるのが、関の山だろうが……事前に展開が解っているのとそうでないのとでは、支援する側としても大違いであろうからな。

 

 形勢不利でも、敵の動きが想定内なら、逆転の目だって出てくる……目下のところ、その程度しか希望もないのだがな……。


「そうさなぁ……。このシミュレーションモデルは我も初めて見るが、敵側の兵器の大幅進化と全敵対勢力の共同戦線か……。だが、そこまであの敵達が上手くやってくるのか? あの珪素生物共も炎神達とまともに連携を取れるとは思えんのだが……。そもそも、コミュニケーションもまともに取れない者達同士が相互連携の上での一斉同時軍事作戦行動を起こすなど、さすがに無理がある想定ではないかな?」


「いや、敵の敵は味方と言うであろう? 私にとっての敵が一つでも動けば、必然的にこちらにも隙が生まれる……そこに便乗するなど、バカでも考えつく戦略だ。である以上、起こらないとは言えぬであろう? まぁ、最悪想定である以上は、それ以上悪い状況にはならんということであり、その状況に陥った時点で割とどうにもならん……そこは理解すべきだし、何よりも軍略において楽観想定は禁物であろう」


「……うむ。こちらとしては、とにかく時間が欲しいから、このまま睨み合いのまま無為に時間が経つ……そんな展開なら、何とでもなると思ったのだが。後先考えぬ全勢力の一斉総攻撃……確かに、これはキツイ展開だな」


「けど、宇宙生物と現住海洋生物、おまけに未開の蛮族やら門閥貴族連合やらまでもがまとめて手を組むとか、大和くんが言うように、さすがに無理がある想定なんじゃないかな? 大体、惑星攻略戦なんて、帰還者達だって結構グダグダだったし、エスクロンでも昔、星系規模での紅白対抗惑星攻略戦演習とかやったけど、侵攻側も防衛側もどっちもグッダグダだったよ。銀河有数の練度を誇ってたエスクロン星系防衛艦隊とエスクロン軌道防衛艦隊ですら、相互連携なんてまるで駄目だったのに、そんなぶっつけ本番で上手くやってくるとは思えないなぁ……」


「確かに、これは最悪想定だからな。言ってみれば、一番悪い可能性をかき集めた上で想定している……だが、拮抗した戦において最も攻め時はいつかと問われると、それはほんの僅かでも拮抗が崩れた瞬間と言える。そして、私も少々性急に事を進めすぎた感は否めない……。要は、我々はあまりに急激に勢力を増してしまったのだ。それこそ、あらゆる勢力が共通した脅威に感じるほどな。となると、何もかもが手遅れになる前に動く……むしろ、敵の視点では、必然的な展開と言えぬかな? それに手を組むと言っても、別に互いに腹を割って話し合って同盟など、そんな事をせずとも、単純にどこかの攻勢に便乗すればいいだけの話なのだ。我々は孤立無援の四面楚歌……全てが敵と言って良い以上は、そんなものであるし、原始文明を我々のような星間文明と同じ様に考えてはいかんだろう」


「ああ……。確かに、君の言うとおりだ。なら、この場合の敵の出方はどうなると思う?」


「そうだな……少なくとも向こうの炎の精霊……奴らはすでにイフリートと言う実体型個体で宇宙空間での移動と惑星大気圏降下突入を可能とする事が実証されている。先の戦いではユリコ殿も居て、奴らの戦術の稚拙さと対軌道迎撃がハマったことで、容易く撃退することに成功したが。あれを陸海連携の総攻撃中にやられたら、エライことになるし、それに一連の戦いでラース文明も我々が宇宙戦力を持ち、その脅威も解ったはずだ。となると、次の一手は我々の宇宙戦力に対抗可能な独自の宇宙戦力を用意する……だろうな。実際、ジュノアはエネルギー結晶体とやらで、光速宇宙船を作れると言っていたではないか。となると、ラース文明も帝国軍の宇宙戦艦に匹敵する巨大宇宙戦艦くらい作り出せるだろう。事実、あのイフリートは極めて短期間で荷電粒子砲による対宇宙攻撃を可能とするまでに進化していたからな。奴らの対応、進化の速度は凡そ尋常ではない……そう心得るべきだ」


「確かに……僕らも、少々ラース文明を侮っていたようだね。我々の宇宙戦艦に匹敵する……。そんなのに制宙権を取られたら、その時点で負け確……なるほど、君の抱いている危機感もようやっと腑に落ちたよ」


「そう言う事だ。そして、今は双方様子見状態で均衡が取れていて、どの勢力にも決定打がなく動くに動けない状況なのだが、どれか一つの勢力が動く、或いは新戦力の投入……それだけで均衡が崩れる……。恐らく、状況が一気に動くことになるであろうな。対して、こちらは時間、軍勢も兵器も何もかも足りておらん。もちろん、こちらのAIを巨神兵に転送することで短期間の戦力化も可能かもしれんが、その程度では劣勢を覆すほどではないだろうな」


 まぁ、唯一の安心材料としては、敵がこれ以上増えることは無さそうだという点ではあるのだがな。

 と言うか、これ以上増やされてたまるものか。


「なるほど……確かにこれは、悠長なことを言ってる場合じゃないね。万能製造装置付きの工作艦一隻なんてケチな事は言わずに、早急に最低でも一個艦隊規模の遠征艦隊を送り込むべきだね……」


「ほほぅ、一個艦隊……一万隻の宇宙戦艦による大艦隊か。まったく、お主等帝国のやる事はいちいちスケールが違うのう。だが、そうなると必然的に第3航路を自由自在に使えると言うことが大前提になるな。恐らく補給ルートも長大な物となるであろうし、各所の中継拠点も必須となるだろう。実際は、その10倍くらいの補助艦艇も引き連れて……と言うことなのだろう? かぁ~っ! 途方もない数であるの」


「うん、良く解ってるね。さすがの僕らもそれだけの規模の艦隊を恒星系外……アウェーで運用した実績はないからね。現状では、第一経済宇宙速度で凡そ半年を見込んでるんだけど……。まぁ、前途多難ではあるね」


 ちなみに、第一経済宇宙速度と言うのは、一番エネルギー効率が良く、総合リスクも低いとされている速度で、大凡1%光速の事を指す。

 軍では、第三種警戒速度と言う呼び方もするのだが、どちらかと言うとこちらの呼び方のほうが有名だ。

 

 星系内パトロール艦や、小口運送の個人事業者などは、亜光速リニアカタパルトなどを使わずに、自前の亜光速ドライブ・ブースターで1%光速辺りまで加速して、後は慣性航法でのんびり行くと言うのが定番だった。


 なにせ、亜光速リニアカタパルトを使うのもタダではないし、あれはあれで短距離移動に使うには無駄が多過ぎるのだ。


 時間さえ度外視すれば、さほど燃料も使わず、楽に宇宙の旅が出来ると言うことで、どちらかと言うと民間発の概念だったりもする。

 

 要は、時間とコストを天秤にかけて、コストを取って敢えてのんびり宇宙を行く……そう言う選択肢もありではあるのだ。


 今回の遠征で第一経済宇宙速度で……となるのは、補給艦隊が長蛇の列となるのは目に見えており、道中のリスクなどを想定すると、その辺りに落ち着くのだろう。


 まぁ、そこら辺の事情は解るので、そんなトロトロ行くのではなくて、最大速度の30%亜光速でパッと来い! 等と言うつもりは毛頭ない。


「……何と言うか、要求物資の概算だけでも気が遠くなるような数値が出てきたのだが……。だが、帝国の常備艦艇数からすると、一万隻ですらほんのひと握りなのだろうからな……どのみち、その辺りの心配なぞ、するだけ無駄な事であるな」


「まぁね、そこはなんとでもなるさ。けど、その為には第三航路が絶対安全である事が前提となる。だからこそ、作戦の成否の鍵を握っているのは、ジュノア君と言うことだね……。確かに、あらゆる手段を講じて、ジュノアくんを仲間として迎え入れる必要があるね」


「ふむ、何か報奨でも与えるのか? もっとも、奴が欲しがるようなものなどまるで見当も付かんのだがな……」


「いやいや、もう向こうは要求をだしてるじゃないか。今すぐにアスカ陛下に直に会わせろって……。なるほどね……ここは、リクエストにお応えして、礼を尽くすべきって訳か。うん、確かにここはリスクを取る局面だ。いいだろう、こうなったら僕も付き合うよ」


 さすがゼロ陛下であるな……私が黙っていても、全て理解していただけたようだ。


 援軍の規模も別に大げさには思わない。

 当然ながら、千隻くらいに留めれば、身軽な分準備も早く終わるし、到着も早くなるのだろうが……。


 そんな一個分艦隊程度の戦力でどうにか出来る相手のようには思えないのだ……。


 援軍にしても、状況次第でもう一、二個艦隊お代わりくらいは想定すべきであるし、そうなると第一陣の時点で一個艦隊規模の運用を可能とするだけのノウハウや中継拠点、補給網を確保とするのがもっとも効率がいいだろう。


 宇宙では、大は小を兼ねる……この発想で概ね問題ないのだ。

 

 もっとも、惑星アスカにおける地上戦の支援については、第三帝国の惑星揚陸戦艦の2ダース程と惑星降下揚陸師団でも送ってもらえれば、軌道爆撃と降下揚陸で海上艦隊はもちろん、地下の穴蔵に引きこもった奴らが相手だろうが、軽く粉砕できるだろう。


 うん、悪くないな。

 さすがに、ここまで手駒が揃えば、なんとかなりそうだ。


「ご理解いただき、ありがたい限りだ……ゼロ陛下、礼を言わせてもらう。ああ、それよりも皆はどうする? これより、私が相対するのは恐らく、諸君から見ても神に匹敵するような存在だ。正直、かなり危険な存在なのだ……。この空間は皆で見ている夢のようなものと説明したが、万が一ここで死ぬと……現実で二度と目が覚めない可能性が出てくる。正直、かなりの危険が伴うはずだ」


 そう言って、背後に立ち並ぶソルヴァ殿達へ視線を向ける。


「……ああ、正直なところ、アスカの嬢ちゃん達が何を話してるかとか、俺らにゃさっぱりだったが。これからやべぇ戦いが起きる……。そして、その戦いを制する可能性があるのが、あの窓の向こう側にいるポワポワした嬢ちゃんなんだろ? まぁ、良く解んねぇけど、本気で信頼関係を結びたいんなら、直接ツラ合わせてガッツリ手でも握らねぇと、信頼なんて出来ねぇだろうからな。だが……神様ねぇ……。アイツがそんな御大層な存在には見えないんだがね」


「いえ、私にはなんとなく解りましたよ。……断言は出来ないんですが、さっき星の世界の中に見えてた光り輝く星みたいなもの……。我々エルフ族の伝承にある光り輝くものと言う存在じゃないですかね……。要は、それと信頼関係を結べるかどうかって場面なんですよね?」


「……なんだと? お前たちエルフにはそんな伝承があるのか?」


「えっと……私はそこまで詳しくないのでぇ……! エ、エイル師匠! お願いしますっ! 確か例の古伝にそれっぽい一節がありましたよね?」


 ファリナ殿がそう告げると、すっかり出来上がって、真っ赤な顔になったエイル殿が気だるそうにソファから起き上がる。


「んあ? ここで私に話に投げるのか? せっかく、人が最高に旨い酒で気持ちよく酔っ払って、この超座り心地のいいソファで寛いでたのに……。まぁ、いい……確かに、我々エルフの古伝にはこうある……『その時星霊は、光り輝くものと手を携え、幾千万の星々を超えて導かれ、はるか遠い世界から大軍勢を呼び込む。その時、古き民と古の神々は滅び、新たなる時代が始まる』……確か、こんな感じだったな」


 ふむ、エルフ族の間に伝わる私の到来を予想したかのような古伝があると言う話は聞いていたが、そんな内容だったのか。

サブタイ回収ッ!

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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