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第六十五話「ひかり輝く者達」②

 惑星アスカにしても、敵地のど真ん中の孤立惑星なのは言うまでもない現実であり、その地上の情勢にしても、芳しくはない。


 今の情勢としては……バーソロミュー伯爵を討ち取り、トロージャン達珪素生物の第一陣を撃退したことで、小康状態ではあるのだが。

 

 せいぜい、敵の出鼻を挫いた程度であり、問題の根本的な解決には程遠いのだ。


 恐らく、今水面下で静かに進んでいるのは、私の敵対勢力達の共同戦線。

 

 宇宙、海、陸とあらゆる方向からの同時多発侵攻。

 連中の準備が整い次第、それが実行に移されるのは確実な情勢だった。


 そして、それはほど近いうちに実行される……その程度には奴らにも後がない。


 なんとか、先手を打ちたかったのだが、状況がそれを許さない。

 戦力も拠点も人材も……まるで足りていない。


 そして、おそらく何かの拍子に一斉に敵の反抗が始まり、今の我々では為すすべなく押し潰されるだろう。


 もちろん、現状では巨神兵やヴィルデフラウ式ナイトボーダーのような超兵器を有する我々が有利なのだが。

 それらをもってしても、惑星地上戦における数の暴力には抗しきれない。



 何よりも海上戦は向こうに分があるだろう。

 もちろん、こちらにも大和殿がいる以上は、ある程度は対抗できるだろうが……。


 心許ないのは事実であり、恐らく海の戦いはこちらの敗北必至となるだろう。

 そして、陸戦にしても……出来ることは、時間稼ぎの遅滞防御戦くらいだろうな。

 

 暴風雨のような火力を持つお母様と言う味方もいるのだが……お母様は動けないと言う問題がある。

 要は拠点にしかなり得ない以上、戦力としては考えない。


 必然的に、お母様の周辺……神樹の森を最終防衛ラインとした上で、一般市民と言う最も大事な存在を下げながらの後退防御……そんな展開になるだろうな。


 そして、要所要所で拠点に立てこもりながらの籠城戦と野戦軍による機動防御で、可能な限り敵侵攻軍を削り、その進軍ペースを遅らせて、出来る限りの時間を稼ぐ……。

 

 まぁ、我が帝国軍の地上戦闘マニュアルどおりの戦術ではあるのだが……逆を言うと、それくらいしかやりようがない。


 この戦術自体が、本来は味方や増援と合流を重ねることで頃合いを見て、総反撃に移ると言う想定であり、制宙権を失い、増援の当てがない状況では、敗北を先送りにする程度のものだと言うことは私にも解り切っているのだ。


 そうやって敗北を先送りにし、稼いだ時間内に本国から増援が来れば、何とでもなりそうだったのだが。

 考察の結果、それは厳しい……そんな結論になりかけていたのだが。

 

 ここに来て、希望の芽が見えてきていた……。


「……よし、私は決めたぞ! 大和殿、ジュノア殿をこのアストラルネット空間に招待して欲しい!」


 私の言葉に大和殿もゼロ陛下も驚愕したように、見つめ返してくる。


「……ここに直接? さすがにそれは止めといた方がいいよ。多分、あのジュノアなら、このアストラルネット空間にも独力でアクセスくらい出来そうだけど……。いいかい? あれは本来ならば、並のAIだと情報接続しただけで、一瞬で発狂するほどの超高密度情報体なんだよ。それをここに直接呼び込んだりなんかしたら、どんなリスクがあるか解らない。ここは安全策として、仮装体への意識転送の上でってやるのが一番無難だと思うよ」


「確かに私もそう思う……。だが、それだと一月も意識不明になってしまうのだろう? そんなに時間をかけてしまっては、惑星アスカが酷いことになっていそうだ」


「ア、アスカ様! 話自体は良く解らないんですけど、なんだか危なっかしいことをするつもりなんですよね? 一ヶ月くらいなら私達だって、なんとか出来るから、ここは安全策で行ってくださいよ!」


「そ、そうですよ! 何事も安全第一! 無茶反対です!」


 話などまるで解っていなさそうだったのだが、ファリナ殿とイース殿が揃って反対の声を上げる。

 他の者達も反対こそしないものの、あまりいい顔はしていない。


「ふむ、やはり皆は反対……そう言うことか」


 私がそう告げると、皆も揃って無言ながらも、その沈黙が皆の思いを雄弁に物語っていた。


「となると、折衷案だね……。以降の交渉はモドロフくんに代行させて、君は一度惑星アスカに戻りたまえ。我々もユリコくんと言う前例があるのだから、なるべくシームレスにかつ安全にこっちの身体と向こうの身体を同期させる技術を編み出して見せよう……。なぁに、それくらいなんとかなるさ」


「……つまり、ここは退けと? すまぬが、私には退くつもりなぞないぞ」


 私がそう返すと、ゼロ陛下も面倒くさそうに頭を掻くとビシッと指差す。


「あのさぁ……いいかい? 君と言う存在は、もはや我が帝国にとって絶対に欠かせない唯一無二の存在なんだ……そこは自覚して欲しい。だからこそ、ここは安全策で行って欲しいんだ。そこは、君の家臣たちも同じだと思うよ」


 ゼロ陛下の言葉に、他の皆もそうだと言わんばかりに頷く。

 まぁ……確かに今の私は、そう言う立場であり、リスクは最小限にと言う忠言も理解は出来る。


「すまんな……それは聞き入れられん。……ゼロ陛下、敢えて黙っていたのだが。現状、惑星アスカの戦いはかなり厳しい展開が予想されているのだ。この資料を見て欲しい。これが惑星アスカの情勢と今後の展望だ」


 そう言って、空間モニターに惑星アスカの現状と、その後の展開の予想推移を表示させると、たちまちゼロ陛下の表情が厳しいものとなる。


「こ、これは……まさか、君と神樹様がいて、ここまでの苦境に陥るとでも言うのかい? 確かに、色々厄介な敵がいるって話は聞いてたけど、こんな一方的な展開になるとでも?」


 あくまで最悪想定ではあるのだが。

 ラース文明と惑星アスカの珪素生物群……目下、最大級の脅威と言える敵対勢力がこのふたつの異形の生物達だ。


 それらが総力を結集しての総力戦を挑んでくるともなれば、さすがにこちらの不利は否めない。

 なにせ、制宙権を失った上での惑星地上戦ともなれば、如何にこちらが強力な戦力を有していても厳しい戦いになるのは言うまでもないのだ。

 

 もちろん、敵が連携せずにバラバラで攻め込んで来るだの、勝手に不和を起こして潰し合って自滅してくれるなど、敵失で棚ぼた式に勝利を得る可能性は十分に考えられるのだが。


 敵のミスを期待して、その上で戦略を組むなど、私もそこまで愚かではない。

 そもそも、我々銀河帝国皇帝は決して、敵を過小評価しない。


 敵の思惑が全てうまくハマり、こちらは準備不足で凡ミスを連発し、戦力差も圧倒的。

 そんな最悪の状況でも勝てるべく、戦略を立てる……我々はそう言う風に思考するようになっているのだ。


 だが、その想定で考察すると、あまりに厳しい状況となることが予想されていた。


「ああ、そう言うことだ。もちろん、これは最悪想定での戦況推移予想ではあるからな。実際はもう少し楽な展開になるかもしれんが、楽観できる情勢ではないし、敵を過小評価して楽観論を元に戦略を組む……そんな間抜けが皇帝を名乗れるはずがなかろう?」


「……持って一年程度? そして、1ヶ月以内に総攻撃が開始される……。まさか、これが現時点での君の予想なのかい? 一応、念のために聞くけど、この根拠は? 最悪と言ってもこれは程があると思うんだけどさ」


「そうだな……。もしも、仮に10年ほど睨み合いのまま現状維持が出来るのなら、こちらの戦力も相応に増強され、体制が盤石となることで、十分に対抗も可能となるのだが……。敵も時間をかけると、ジリ貧で逆に追い込まれるという事は解っているようでな。現時点でこちらの準備が整う前に持ちうる総力を以って、こちらを潰しに来る……。いや、敵の立場で考えると、それ以外に選択の余地がない以上、確実にそうなる。そして、現時点での敵戦力の想定最大値から計算すると、我々独力では一年も持てばむしろ上出来だ。ひとまず、お母様から得たアスカ星系全域の予想敵戦力データをそちらに提供するので、そちらでも戦略シュミレーションを実施してみてくれ。恐らく、そう変わらない結論となるだろうな」


 なにせ、敵にとっての最大の脅威と言えるお母様が、私と言う管理者を得たことで、その権能をフルに使えるようになり、本格的に惑星全域を対象とした惑星改造を始めたのだからな。


 海洋も凄まじい勢いで浄化されており、陸についてもそれまで不毛の地だった土地の至るところに植物が生い茂り、侵食しつつあり、現地人類種にしても、この私が実現した大幅な食料増産により、恐らく2-30年もあれば爆発的に人口が増えることで、急激に勢力を拡大するのは確実だった。


 もちろん、諸王国は未だにバラバラではあるのだが、惑星アスカには生粋の国家統治システムと言えるこの私がいて、神樹教会による下準備も着実に進んでおり、王都でも私の鶴の一声があり次第、第二王子派によるクーデターが勃発し、現国王の退陣と旧守派の駆逐が行われる予定なのだ。

 

 そして、我が名において人類種が一つに纏まれば、たやすく惑星統一国家も建国出来るだろうし、大和殿達の力があれば、やがて宇宙戦艦すらも建造できるようになるだろう。

 

 だが、そこに至るまでは最低でも十年単位の時間が必要なのだ。


 とにかく、時間、時間、時間ッ!

 時間さえあれば、こちらが確実に勝てる状況なのだが、今現時点となると、明らかに何もかもが足りない。

 

 だからこそ、敵にとってはこの数年……いや、この数ヶ月程度のほんの短い期間こそが、千載一遇のチャンスなのだ。

 つまり、ここが敵にとってもターニングポイントなのだ。

 

 そこを見逃すほどの間抜けなら、なんとでもなりそうだが……。

 アギトにトロージャン……我々が接触し、言葉を交わした敵対者としては、この程度だが、あの者たちがそんな間抜けだとは思えない。


 そして、明らかな上位文明……炎のエネルギー生命体、ラース文明。

 あれらが本気を出してきたら、今の我々の武力を軽く超越してくる可能性は否定できない。


 イフリートにしても、人型巨大兵器化すると言う方向性が間違っているだけで、もしも、あれが大型宇宙戦艦を模したような代物になれば、話が変わってくる。

 

 そして、敵にスターシスターズをよく知る者がいるとなれば、その情報は確実に共有されているはずだった。


 現地にて宇宙戦艦タイプを量産して、制宙権を奪われ、衛星軌道爆撃により、惑星ごと焼き払われる……。

 かつて、私がやった事でもあるのだが、やられる側としては、たまったものではない。

 

 そして我々とて、その程度のことはやってのけたのだから、向こうがやらないと言う保証はない。


「というか、あっちってそんな危うい状況だったの? 大和君、その辺りはどうなんだい? 君やユリコくんの報告ではそこまでヤバそうな感じじゃなかったけど……。ああ、大和くん……すまないけど、今、アスカ陛下が提供してくれたデータを元にそちらでも戦略シミュレーションを改めて実行してもらっていいかな? 君等は実戦経験も豊富だし、君の分体が惑星に滞在してるからには、惑星環境データも豊富にあるだろうからね」


「うむ、そうさせてもらおう。幸い……奴らの戦闘兵器や兵についての実戦データもあるから、これの進化可能性についてもシミュレーションしてみよう。まぁ、確かに奴らは単なる雑魚だったが……そうだな。戦争では敵も見る間に進化していき、戦術も恐ろしい勢いで変化し続けると言うのが常なのだからな。実際、我も太平洋戦争では開戦時では最新鋭の最強戦艦だったのに、たった数回の海戦を得ただけで、航空機動艦隊が戦場の主役となり、結局、我……戦艦大和はまともに主砲を撃つ機会すらなく、戦闘機にタコ殴りにされて沈んでしまったのだからな……」


 さすがに、大和殿も良く解っているようだな。


 戦争とは常にそんなものなのだ。

 同じ兵器や同じ戦術でいつまでも勝てるほど甘くはないのだ。


 今は良くても、明日は解らん……そんなものなのだ。

 だから、常に最悪を想定し、その最悪に備えるのだ。

 

 ゼロ陛下も早速私が送ったデータを情報分析に回すつもりようで、各方面に指示を出しているようだった。

 

 まぁ、単なる答え合わせになるのが、関の山だろうが……事前に展開が解っているのとそうでないのとでは、支援する側としても大きな違いであろうからな。

 

 形勢不利でも、敵の動きが想定内なら、逆転の目だって出てくる……目下のところ、その程度しか希望もない……。


 だからこそ、私は……逆転のピースがここにある。

 そんな望みを賭けて……ここに来たのだ!

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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