表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

288/312

第六十三話「ゲートキーパー」⑦

 現代の技術でも長年の研究により、超空間ゲート自体を新たに建造する事は可能ではあるのだ。

 ただし、その実績は既存のゲートの修復や再建に限定されており、一度もエーテル空間と接続した事のないゲート未接続星系にエーテルロードと接続させた上で、新規のゲートを作り出す事までは出来ていない。


 いわばこれは、今の人類の限界とも言える。

 なにせ、新規星系に新たにゲートを接続すると言っても、エーテル空間側から通常宇宙を直接リアルタイムで観測する手段がないのだからな。

 

 もちろん、我が帝国のように近場の星系なら、10年単位の往復を許容することで、新規星系へたどり着くことが出来る。

 その上で現場の詳細な情報をエーテルロード側へ伝えることで、安全な新規接続は可能なように思えるのだが。


 光の速度でも年単位の距離ともなると、現地からの連絡も年単位となるのだ。

 そんな時差があっては、光学観測情報を元に未来位置を予測する方法のほうがまだ現実的だ。


 そして、通常宇宙への接続に際し、ゲート設置誤差はmm単位の誤差ですら許されない。

 なにせ、エーテル空間でのたかが1km程度の移動が通常空間の一光年に匹敵するのだからな……。

 

 その上、失敗すれば、ゲート自体が周囲の空間ごと消し飛ぶ……ほんの僅かな揺らぎや観測誤差で、そんな無惨な結果となるのだから、さすがにあまりにリスクが大きすぎて、誰も試そうとしなかったというのが正確なところだ。


 既存ゲートがその問題に対し、まるで問題なく運用できているのは……古代先史文明の遺産と言えるゲート接続技術がインチキ臭いから……その一言に尽きる。


 そして、明らかに同様の目的で生み出され、未完成のまま放置されたと見受けられる亜空間……第三航路空間を人類が扱うとなると、当然ながら、エーテル空間ゲート同様の相互空間固定の術が必要となる。


 もちろん、一度でも接続できれば、後は第三航路側のゲートを移動させることで接続状態を維持し続けることは可能なのだろうが、全くの未踏星系に接続ゲートを繋げるとなるとそれは容易なことではない。


 なにせ、亜空間側から通常宇宙側をリアルタイムで観測することは事実上、不可能なのだ……超空間通信にしても、要は亜空間経由の通信であり、そもそもゲートが開通していないと、その取っ掛かりも得ることが出来ないため、何の意味もない。

 

 それらはゲートが開通した時点で初めて可能となり、ゲート開通前に通常宇宙側を観測するとなると、遠方からの光学観測か……直接現地で開通予定座標を観測し、リアルタイムで伝えるかのどちらかになり、そしてそれは必須作業でもある。


 もちろん、現時点と過去の観測情報を元に精密物理シミュレーションを行えば、擬似的なリアルタイム座標情報を得ることは出来るだろうが、十六万年もの時差があると、その誤差はかなりの誤差となる。


 なにせ、十六万年もの時が過ぎれば、マゼランも銀河系も動き続けている以上、その間にどのような想定外の自然現象が起きるか定かではないのだ。

 

 なにせ、過去の観測データと言ってもたかが千年分程度の観測データしか我々は持ち得ないのだ。

 千年程度の期間で何も起きなかったとしても、その百六十倍もの期間があると、未知の現象や予想外の現象もまま起き得ると言うのは容易に想像できる。


 そして、今の銀河人類の天体観測技術では、遥か遠いマゼラン星雲を構成する星々についてすら、その総数すらも完全には把握できていない……。

 

 もちろん、現状ではアストラルネットを経由することで、アスカ星系からの観測情報を送ることは出来るから、マゼラン星雲についての情報は飛躍的に精度が上がっているはずではあるのだが。


 かつて、地球のみの視点で銀河系の全容すら明らかになっていなかったように、たった一つの星系からの観測情報でその島宇宙の全容を観測するのは多分に無理があるのだ。

 

 何よりも、アスカ星系側から見える銀河系もまた十六万年前の銀河系なのだ……これでは、正確な相対座標の把握は出来るはずもない。


 要は、現時点のデータを使った大雑把な予測シミュレーションや位置情報の測定は可能でも、疑似仮想環境を構築した上で時間加速再現を行う物理再現シミュレーションを行うには、あまりにデータが足りていないのだ。

 

 いずれにせよ、時間軸の桁が違う以上、そのシミュレーション誤差をゼロにすることは事実上不可能と言って良い。


 もっとも、この問題の解決には、まず数光年と言った極短い距離に新規ゲートを建造しつつ、少しづつ前へ進むと言う方法を使うと言った方法が考えられる。

 

 だが、この方法にも問題はある。

 まず、どれほどの中継点を確保すれば良いのやら……仮に10光年ごとに中継点を確保するとしても、その場合は優に一万箇所以上に及ぶのは確実だった。


 ……まぁ、これは帝国の国力ならば不可能ではないだろうが、途方も無い時間がかかるのは確実で、あまり現実的ではないだろう。

 

 なによりも、銀河系とマゼランの間には、ほとんど恒星が存在しない暗黒空間と呼ぶべき不毛の空間が数万光年に渡って存在する……これもまたネックになる。


 そして、そんな数万光年の暗黒空間を超えるとなると、十六万光年先のアスカ星系へ一足飛びでピンポイントに接続可能座標を制定する……こっちの方がてっとり早そうだ。


 いずれにせよ、それが簡単なことではないのは言うまでもない。


 なお、新規ゲートを接続する際の一番のリスクは、接続先が恒星重力圏外だった場合は、そもそも通常宇宙へ空間接続されることもなく、亜空間側のゲートがその行き場のなくなった重力波集中により、瞬時に崩壊し、重力爆縮と呼ばれる瞬間的なマイクロブラックホールの生成とそれに伴う空間消滅爆発が起きる事にある。


 一言で言って、大惨事であり、この辺りは、これまで何度か試みられたエーテル空間と新規通常空間の接続実験で実際に起きた事故により実証されており、それ故に現代では通常空間側もエーテル空間側もゲートの新規建造はもちろん、移設すらも認められていない。


 この辺りは、過去の失敗から、野放し状態ではいつかエーテル空間そのものが失われるような致命的な事故が起きかねないということで、エーテル空間相互使用条約と言う国際的な取り決めにて、明確に禁じられており、それ故にエーテル空間はその可能性を閉ざされているようなものでもあるのだ。


 要するに、亜空間側から盲撃ちで手当り次第にゲートを開くと言う方法はあまりにリスクが高すぎるのだ。

 

 恐らく第三航路空間でも同じことが起きるということは明白であり、ゲートキーパー達が自分達の手で通常宇宙側へ決して出てこようとしないのも同じ理由が考えられる。


 そんな危険なチャレンジを幾度となく繰り返し当たりを引くまで、試行錯誤を続ける……この場合の当たりを引く確率は……計算するまでもなく、極めて低いことが予想される。


 この問題の解決となると……要するに目的地……アスカ星系側から、第三航路空間へ続くゲートを建造し、銀河側との航路を確立する……それしか方法はないだろう。


 なにせ、通常宇宙から亜空間側へ接続する場合は、逆の場合と比較するとほとんどリスクというものが存在しないのだ。

 

 事実、これまでの第三航路の航行実験などは、二箇所の星系で同時に通常宇宙側からゲート生成を行った上でゲート間を一気に駆け抜けると言う手法で行われており、通常宇宙側のゲート設置についても、条件の良い場所に設置すれば、まず問題も起きない。


 亜空間側からの接続についても、接続先が条件にマッチする座標だと解っているなら、本来ほとんどリスクはない。

 数光年程度の距離間の転移が問題なく済んだのも、同じ理由からだ。


 事実、過去の戦いでもゲート崩壊により、エーテル空間との接続が失われた星系は幾度も発生していたのだが。

 エーテル空間側の安全性が確保できていて、かつ接続が失われてから、さほど時間が経っていないのならば、寸分違わぬポイントにゲートを作り直して再接続する事で、再接続も出来ることが証明されている。


 要するに、ゲートを生成すれば確実に通常宇宙と亜空間が接続できることが解っている座標を双方で特定できるのならば、リスクは限りなくゼロに出来るのだ。


 そうなると、現実的な案としては、やはりアスカ星系側にてゲート施設を建造し、第三航路側に接続……その上で、帝国からの増援を迎えるのが、最もリスクも少なく確実な方法だと言えるだろう。

 

 だが現時点でアスカ星系で恒星重力干渉が最低限で、かつ恒星重力圏内であると言う条件を満たすとなると、最低限カイパーベルトラインを超えるあたりまで進出しないと、確実とは言えない。


 ああ、この辺りの事に詳しいのは、私が第三帝国の皇帝たるが故に……だ。


 第三帝国は、新規星系の開拓を国家業務としているのだからな……当然ながら、エーテル空間からの新規ゲート開通の試みは実際に試しているし、同じ星系内ぶ二つのゲートを設置する……そんな事も試しているのだ。


 もっとも、星系側では正反対の円周軌道上に設置し接続させたはずなのに、どう言う訳かエーテル空間側では、思い切り想定外の隣のエーテルストリームに繋がってしまい、おまけに2つのゲートが同時に不安定になって、慌てて閉鎖する羽目になったりと、あまり良い結果は出ていない。


 うっかりで、エーテルストリームを重力崩壊させかけた事もあったし、資源星系をひとつまるごと失う羽目になった事もあった。

 どれも秘密裏に処理したので、銀河連合から名指しで非難されるようなこともなかったが、他の皇帝たちからもちょっと自重しなさいとお小言を言われたくらいで、私としても反省することしきりだった。


 もっとも、それ故に、実験データは豊富にあるし、その結果についても私は熟知している。

 

 例えば、利便性の為に初期配置されていたゲートを内惑星軌道へ動かすと、やっぱり接続が不安定になり、突然ゲート接続が途切れると言った転移事故が多発するようになると言うのも、それらの接続実験の成果でもあるのだがな。


 ……先史古代文明と言うのは、やる事なす事、雑なようで結構繊細な仕事をしていたと言うのが、私なりの感想だった。


 結論として、ゲート生成の最適条件としては先に挙げたように、星系内の重力風とも呼ばれる恒星由来の重力干渉が最低限でかつ、完全に重力風がゼロにはならない程度の座標……という事になる。


 まぁ、基本的に対象星系の最外辺部……カイパーベルトライン辺りまで行けば、その条件は満たせることが解っており、先史文明によって建造されたゲートについては大抵、星系の外れの辺りや、外周惑星の正反対の軌道重力均衡点などが設置先になっていることがほとんどではあったのだ……。

 

 事実、恒星に近い内惑星圏内に超空間ゲートが見つかったようなケースは皆無なのだが、あんな不安定な代物では実用性など皆無なのだから、我々は先史古代文明の追体験をしたようなものではあったのだ……。


 しかしながら、何事も例外はある。

 事実、人類の故郷でもある太陽系の場合、何故か太陽系最大のガスジャイアント惑星でもある木星大気内にて先史古代文明製のゲート施設が発見されたそうなのだ。

 

 当然ながら、これは極めてレアケースであり、恐らく始めからそこにあったのではなく、事故か遺棄されたか何かで、木星大気に飲み込まれていた物を当時の人類が発見したのだと現代の我々は結論づけている。


 なお、発見当時の地球の科学技術レベルは、惑星間航行すらも難儀するような時代だったようで、本来ならばその発見も修復も困難を極めたはずなのだが……当時の人々はそんな奇跡を割りと平然と行っていた。

 

 なお、この辺りの事については、例によって銀河連合側の記録では曖昧になっており、そもそも空白の半世紀の間の出来事でもあり、何もわかっていなかった。

 

 そして、我々のご先祖……古代エスクロン人が残した記録でも「預言者の導きにより、エーテル空間への道が開かれた」としか記録されておらず、地球のお隣の惑星、火星にたどり着くのがやっとだった時代に、どうやって火星より遥か遠くの木星にたどり着いたのかと言う経緯や、その強烈な重力により、今の時代でも遭難事例が多く出ているガスジャイアント惑星の大気中からゲート施設を発見し、回収したのかは記録に残されていない。

 

 まぁ、当時の記録は昔過ぎて、よく解っていないことだらけで、何がどうなってそんな奇跡を起こせたのかは現代人たる我々には伝わっていない以上、気にしないほうが賢明であろう。

 

 いずれにせよ、ゲート設置条件から考えると、アスカ星系に超空間ゲートを建造するとなると、必然的にカイパーベルトライン辺りまで進出した上でとなるのだが、そこは恐らくラース文明の勢力圏内であり、何よりもそこまでたどり着くだけの宇宙戦力を我々は未だ持ち得ていない。

 

 大和殿の宇宙戦艦建造計画が進展すれば、それも不可能ではないと思うのだが……。

 宇宙戦艦建造の為には、万能製造装置が無いと極めて困難な事業となるのは、私でも理解できる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ