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第六十三話「ゲートキーパー」⑥

「……僕が今の時点で、知り得た情報……人類のモデルケースからすると、君達人間とは、個別の思惑でバラバラの判断を下しながら、お互いの妥協点を見出して、衝突や妥協を重ねながら、社会を運営する……そう言う種族じゃないのかい? 君達帝国の存在は……本来の人類の価値観からすると、物凄く異質な存在……むしろ、僕らに近いような気がする。独立思考の炭素生命体がそこまで進化しているっていうのか……」


「まぁ、お前らと一緒かどうかは知らんが、事実として、この銀河の覇権は俺達、帝国が握ってるようなもんだ。お前の言う人類のモデルケースってのは、平均的な一般人かなにかのケースなんじゃねぇかな。確かに、俺らふつーの帝国臣民ってのは、皇帝陛下やそこの元皇帝候補と違って、自分の価値観や利益やら欲望に忠実に毎日楽しく生きてりゃ、それでいいって連中ばっかりなんだがな。だが、俺等帝国臣民ってのは、そう言うのをいつでも棚に上げて、皇帝陛下を信じることで、無条件でその判断に従う……それが当たり前になってるのさ」


「地球人類……衰退し滅びゆくことが確定している旧人類種とでも言うべき人々とは、君達はまるで違う価値観を持ってるって事なんだね。そうなると、君達は……より宇宙環境に適応進化した新たなる人類種ってとこなのかな? そもそも、君達はなんなのだろう? 地球人類の末裔と言う割には、地球と言う惑星に対し、ほとんど執着を持っていないみたいだし……何よりも何故、同じ惑星を起源とする知的生命体なのに、そこまで価値観が違うんだろう」


 なるほど、そこを疑問に思うか……まぁ、無理もあるまい。

 なにせ、正確には我々は地球人の末裔と言うよりも、エスクロン人と言うべきで、それ故に……なのだろう。


 我々のアイデンティティがどこにあるかと問われると、とっくの昔に放棄された地球ではなく、惑星エスクロンとなる……それが帝国臣民の常識でもあるのだ。

 

 まぁ、現時点で人が住める環境ではないというのは、地球もエスクロンもそこはあまり変わりない……。

 惑星エスクロンは、恒星活動の活性化により、惑星地上のほとんど全域が大幅な気温上昇により居住が不可能となっており、どの帝国にも属さない共有地扱いとされている。

 

 もっとも、その衛星軌道上には無数の居住コロニーが存在しており、厳密には無人星系化しているとは言えず、海底都市や局地付近のドーム都市に居住している者達は、少なからずいる……まぁ、20億人くらいだったかな?


 なお、エスクロン星系への居住権は、帝国の為にその身命を賭したと認められるほどの……具体的には、元皇帝補佐官とその家族などに与えられている。


 ちなみに、帝国に対し多額の財産寄付を行った場合にも、居住権が与えられることになっている。

 要するに、金で買える……そんなものなのだ。


 皇帝会議の会場や国家行事も、かつてはエスクロン海上にあった物を衛星軌道へ移設した軌道大宮殿にて行うのが習わしなのだ。


 そして、その軌道大宮殿は初代皇帝ゼロ陛下の墓標とも言われており、聖地とされていて、住民の大半が退去した事により、環境負荷が激減したことで、前にも増して青く美しい惑星となった惑星エスクロンは、帝国臣民ならば人生において一度は、観光旅行に訪れると言われるほどの人気観光地でもあるのだ。


 このあたり、不法居住や不法占拠を試みる者達が続出した事で、完全封鎖状態になってしまった地球とは対照的と言える。

 

 まぁ、地球なんていっそ消し飛んで、この世から消滅してしまえばいいと言うのは、地球信仰に長年悩まされてきた帝国民の紛れもない本音なのだがな……。


 こうやって、地球を見捨てた帝国と、地球への思いを忘れられずにこだわる人々の間で、確執が起こり、銀河人類の二極化が水面下で進んでいるのも事実ではあり、間違いなく、それは現在進行系の銀河人類の厄災の種とも言える

 

 もっとも、だから何だと言うのだ……と言うのも、我々の考えでもある。

 

 実際問題、我々は地球なんぞ心底どうでも良いと思っているのだ。

 にも関わらず、地球を軽視するなだの、聖地を取り戻す邪魔をするなだの言われても、こっちが困る。

 

「まぁ、そうだな。俺らはそのルーツからして地球人類とは別モノなんだ。銀河連合の連中は、銀河宇宙が宇宙人に乗っ取られたって嘆いてる奴もいるらしいが、遺伝子レベルでは、俺ら帝国臣民も地球人類とまるで変わりないってのも事実だからな。別にどっちでも良いってのが正直なとこなんだが……立ち止まり続けるを良しとしてるようじゃ、滅びの道まっしぐらってのはよく解るからな……つまり、俺達が正義って訳だ!」


「なるほど、実に興味深いね。停滞が滅びを招く……か……。僕らも実のところ、似たようなものでね……。第三航路空間を閉鎖することをその存在意義とした結果、実のところ、何もすることがないまま、ただいたずらに長い時間だけが過ぎていき……僕らはその存在意義すらも揺らぎかけていたんだよ。定期的な侵入者……君達の来訪と言う刺激がなければ、僕らも考える事すらも放棄し、自然消滅していたかもしれない」


「……なるほど、実のところ第三航路の突入実験の方針転換も、君達の妨害が激しくなってきたことが理由のひとつなんだけど、それは僕らが積極的に進出を進めようとした結果でもあったのか」


「うん、けど……それは悪いことじゃなかった。もちろん、その本来の存在意義を賭けて、ガムシャラに排除を試みる群れもあったけど、僕のように話し合いをしたいと望む群れもあった。そして、僕を送り出すために自ら犠牲となった個体すらもあった……まさか、僕らが自己犠牲なんて概念を獲得するなんてね……。つまり、僕らは進化を遂げることに成功した。これは素晴らしいことだと思うんだ」


「なるほどな……そうなると、俺らの第三航路の進出を妨害しようと言う個体群も想定されるってことか」


「多分ね。僕らの主流は恐らく僕同様の結論に達するだろうけど、そうでもない個体も出る……それは仕方ないことだと思う」


「それは……問題じゃないのかい?」


「うん、統一された意思が割れるなんてのは、僕らにとっては初めてのことだ。けど、使命に殉ずる為に徹底抗戦するのも可能性のひとつだろうから、そこは許容されるだろう。まぁ、僕に言わせれば、忘れかけた使命を秤にかけて、わざわざ消滅のリスクなんて負う必要性を感じない。要するに、僕らは君達の第三航路の進出も許容するし、支援も惜しまない。けど、妨害は想定されるだろうし、何より、君達の目的地の相対座標がどこなのか、僕らにも解るようしてもらう必要があると思うんだけど、そこはどうなんだい? ああ、これはどの程度の空間を君達にとっての安全空間とすべきかって意味であって、他意はないよ」


「なるほど。妨害勢力が出てくることが想定される上に、第三航路のどこにアスカ星系に繋がるゲートを作ればいいか、それが解らないと君達も案内のしようがないって事か。確かに亜空間側からのゲート生成には最低限、接続先が恒星重力圏内であることがその条件となる。超空間ゲートはいわば重力傾斜を使って、局地的重力場集中を起こすことにより、異なる空間の壁を超えて、無理やり繋ぎ合わせて接続する……そう言う技術だからね。重力が限りなくゼロに近い恒星重力圏外にゲートを接続することは不可能だから、相対座標の特定は必須となる。ああ、具体的な問題点が出てきたね」


「相対座標って……この銀河系とマゼランの相関図じゃ足りないってのか?」


「それは当然だよ。十六万光年先の超長距離亜空間転移となると、こんな大雑把なスケールマップじゃまるで足りない。十六万光年彼方の星系に接続するとなると、ほんの僅かな誤差で恒星重力圏から外れてしまって、ゲート生成条件を満たせなくなるだろう。となると、極めて正確なリアルタイムの相対座標情報が必要と言うことだ」


「な、なかなかに前途多難なんだな。ゲートキーパーの問題を解決したと思ったら、次の課題が出てきたってことか……。だが、そんなに難儀なことなのか?」


「大佐は十六万光年と言う距離を少々甘く見てるね。いいかい? この世で一番早い光の速度でも十六万年もかかる……それがマゼランと銀河系の距離なんだ。これがどう言う意味か解るかい?」


「そ、そっか……。つまり、今見えてるマゼラン星雲は十六万年前の……ってことか。確かにトンデモねぇ距離だな……だが、それでも俺らは行くしかねぇんだよ!」


「それは重々承知の上さ。帝国は銀河辺境域をその領土としてるから、銀河の端から端……十万光年を当たり前のように行き来してるから、その途方もない距離の感覚を忘れがちなんだけど……。それはエーテル空間と言う便利な抜け道があってこそなんだ。それが使えないとなると、現実的な距離じゃないってのが実情なんだよ」


「だが、その為の第三航路なんだろ! それくらいなんとかなんねーのかよ! 大体、あっちの情報もユリコ様が持ち帰ってくれたんだし、リアルタイムの相対座標情報だって、簡単に割り出せんだろ!」


「そこがなかなか難しいんだよ。ユリコ様が持ち帰った惑星アスカからの観測情報だけでは残念ながら、その要求水準はとても満たせない。そして、こちら側の観測情報はどんなに新しくても十六万年前の観測情報しか手に入らない……。そうなると、どうやって惑星アスカのリアルタイムの正確な相対座標情報を測定するか……だね。これは大佐が言うように簡単なように思えるけど、実際はかなりの難問だ。でもまぁ、ゲートキーパーと言う未知の妨害者と言うファクターがなくなった分、少しは難易度は下がったと言えるけどね」


 やはり、その問題に行き着くのだな……。

 実のところ、エーテル空間からの新規ゲートを人類が作れないのも、この問題による部分が大きいのだ。


 惑星上からの視点では、銀河も恒星もほとんど止まっているも同然に観測されるのだが、実際はそうではないのだ。

 実のところ、銀河系自体もだが、恒星も常に動き続けている。


 絶対静止座標……完全に宇宙空間に固定された座標から観測したと仮定した場合、銀河系は平均すると秒速200kmから300kmと言う相対速度で常に動き続けており、広大な重力圏を持つ恒星の集団である以上、その複雑極まりない相互重力干渉により、その形も常に変わり続けているのだ。


 もっとも、秒速300kmの速度と言えど、秒速3万キロの亜光速などと比べると、宇宙のスケールでは止まっているようなもの……だからこそ、銀河の形状や相対位置座標は百年単位程度の時間軸では、ほとんど不変に等しいのだが……その銀河系を大幅にスケールダウンしているエーテル空間はそうもいかない。

 

 実際問題、エーテル空間ゲートというものは、ほんの数mm程度の移動で接続が破綻すると言われているのだ。

 

 だが、先史文明の残したオーバーテクノロジーたるエーテル空間と超空間ゲートは、常にその銀河自体の動きに追従し、そのスケール差異相応の相対座標をリアルタイムで同期させ、空間自体が誤差修正を行うことで、通常空間側とエーテル空間側の相対座標を完全に固定化し、出口と入口が離れ離れにならないような仕組みとなっているのだ。


 一日二日程度では、ほとんど変化もないのだが……年単位で見ると、エーテル空間自体がその形状が微妙に変わって行っていると言う事実は、近年では誰でも知っている常識の一つとなりつつある……つまり、先史文明テクノロジーは、エーテル空間そのものの形をリアルタイムで変化させる……そのような事も実現していたようなのだ。

 

 当然ながら、亜空間でもあるエーテル空間そのものに干渉する仕組みなど我々は持ち得ていないのだが……。

 エーテル空間の奪還を掲げる帰還者達が、銀河中心部を戦略目的地として居た様子から、セントラルストリームの更に内側にエーテル空間そのものの制御システムのようなものがあるのではないかとは言われていた。


 そして、それ故に銀河連合の者達は、銀河中心部……グラウンド・ゼロの情報を我々にも極秘としている。

 まぁ、この程度の考察は過去にも試みられてはいるし、私とてこれは既知情報ではあるのだ。


 もっとも、今の人類がたどり着けたところで、手に余るのは間違いなく……事実、銀河連合の者達もそれをその気になれば自由に出来る立場にも関わらず、触れることはもちろん、その情報自体も禁忌としている様子だった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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