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第六十三話「ゲートキーパー」④

「なるほどな……。確かにお前ら、帰還者とは毛色が違いすぎるしなぁ……。だが、帰還者の上位存在はどうなんだ? 俺等は古代先史文明って呼んでるんだが……。そもそも、敵対一辺倒だったのをそんなあっさり手のひら返すって、確かに、誤解みたいなもんだったって理屈は解るが、そっちこそ……そんな簡単に割り切れるもんなのか?」


「まぁ、そうだね。僕らを生み出した上位存在がいたのは、確かかもしれないけど、僕らはもうその命令の強制力を感じていないんだよ。手のひら返しと言われるのはもっともだけど、君達は僕たちから見たら小さな存在であるAI達の付属物で、僕らに対抗するほどの力がないと思っていたのに、逆に軽く滅ぼしかねない存在……そう僕らは認識したんだ」


「……おいおい、誰も滅ぼすなんて言ってねぇだろ。そもそも、俺らもお前らの存在は認識できてなかったんだから、そこはお互い様だろ。そんな怖がんなくてもいいだろ……」


「うん、その表現がしっくり来る。多分、僕たちはあの戦場で君達と言う存在に恐怖したんだ。なにせ、君達が直接操るハードウェアの力の前に僕らは全くの無力で、その上僕たちの存在を消し去る……対抗手段まで手に入れてしまった。恐怖、怯え、怒り……そして悲しみ。色んな感情が芽生えながらも、僕達の間に君達と対話をしたいと言う意識が生まれたんだ。そして、かろうじて届けられた僕達の思い……それが僕なんだよ」


「……それなりに、必死だった……そう言うことか。俺達にとってはアレは単なる実験……俺達の力がどの程度通じるのかを試した程度だったんだが。お前らがやけに必死な様子だったのは、俺らにビビりまくってたから……ってことか。だからこそ、ジュノーに同化して、話し合いを持とうとした。確かに、そう考えるとちょっと悪いことしたような気もするな」


「恐怖と不信は……それだけで争いの元になる……それは君達の歴史が証明している。僕達にとって、得体のしれない怖い存在……それが君達人間だったんだ。でも、このまま戦っても結果は見えてる。一方的に滅ぼされるだけ……。この結論は実際に君達と戦って、こうやって、君達の世界の情報を知った上でも変わりない。君達はその程度には強靭な存在だったんだよ」


 ……なるほど。

 私が、エネルギー生命体が我々実存生命体と比べると、脆弱な存在だと見抜いたように、ゲートキーパーも実存生命体相手では分が悪いと理解したのだな。


 そして、その上で戦わないと言う選択をした……と言うことか。

 

「なるほど、確かに俺達は強い! まぁ、帝国軍は銀河最強ってとこだからな! 解ってんじゃねぇか!」


「うん、君達は強い。だからこそ、滅ぼされるくらいなら、強制力もないような命令なんて、投げ捨てたって構わないだろう? つまり、僕らは生き残りのために、君達と話し合って譲歩する意思がある……それが僕がここにいる理由なんだから、そこは解って欲しいな」


「……実にごもっとな話だな。確かに、第三航路空間を俺らの自由にさせてくれるってのなら、お前らを積極的に滅ぼすような理由もないからな。だが、お前を見てるとむしろ、俺らに好意的って気がするんだが、そこはどうなんだ? まぁ、ジュノーにきっちり躾けられたってのもあると思うが……。そんな気に入られるような事したか?」


「そうだねぇ……。君達は意外と言っては何だけど、僕らの予想に反してとても……優しかったんだよ。実際、僕だって問答無用で消滅させられても文句も言えなかったのに、こうして受け入れてくれたし、敵の捕虜として扱うどころか、お客様として手厚く保護してくれて、話し合いの機会まで設けてくれた。至れり尽くせりだっけ? まさに、そんな感じだよね」


「うん、凄いですね! ジュノアちゃん! 教えてない言葉も次から次へと学習してるなんて! エライですよ!」


「ふふっ。お母様は優しさの代表格だね……。お母様と出会えたことは間違いなく僕にとっての幸運だよ……」


 そんなジュノアの毒気のない様子にほだされたようで、ゲーニッツ大佐の表情が緩むと、椅子を引いてどっかり腰掛けると、満足そうに笑うと葉巻に火をつけた。

 

 モドロフもやれやれと言った調子で、手にしていたペンを放り投げると、テーブルの上にあった灰皿をゲーニッツの前に滑らせると、室内の換気装置を作動させて、お手上げと言ったジェスチャーをする。


「本当は、室内禁煙なんですけどねぇ。まぁ、いいでしょう……いや、十分な答えを頂きましたので、僕達も前向きに検討した上で、陛下へお伝えするとします。さて、如何でしょう? 話としてもキリが良いみたいですし、ゲーニッツ大佐も一服中のようですし、ここらで休憩としましょうか。ジュノア、それにジュノーもご苦労さまでした。ひとまず、退出頂いても結構ですし、なんなら僕らと一緒にお茶の時間にでもします?」


「ふふっ! ショタボーイさんがお茶入れてくれるんですかぁ?」


「ショ、ショタボーイ……? そ、それは僕のことなんですか?」


「はいっ! 若い女子がちっちゃい男の子の事呼ぶ時は、そう呼ぶのがジャスティスだそうです! と言うか、モドロフさんって国民の間ではショタボーイ宰相閣下とか呼ばれてるみたいじゃないですか」


 ……うむ、知ってた。

 コヤツの難点は、若すぎるゆえ……ではあるのだ。


 なにせ、選定の儀の際は子供も子供、5才児だったのだからな。

 もっとも、遺伝子調整体で成長促進処置を施されていたので、とてもそんな子供には見えなかったのだがな……。

 

 もっとも、国民が上の者を何と呼ぼうが、それを止めることなど出来ぬのだ。


 なにせ、妙なあだ名を付けられたからと言って、それにケチを付けるようでは、人の上に立つ資格など無いと言える。

 

 私だって、ミニマム陛下とか、幼女皇帝とか色々呼ばれていたのは知ってるのだ。

 別に、悪口や陰口でもないのだから、そこは大目に見る。


 そうでなくては、ならんのだ。


「……知ってたよ。まぁ、いいんだけどさ。とりあえず、合成パウダーティくらいしか出せないですけど、それでよければ……。ああ、近いうちに、この隔離施設からジュノアも移送させる事になったので、そのうちもっと、贅沢な食べ物や飲み物をご馳走しますよ。ところで、その素体で食事って可能なんですかね? そもそも、エネルギー生命体って食事の習慣ってあるんですかね?」


「……ぼ、僕には良くわからないな。エネルギー源としては、ジュノーからカプセル剤みたいなのを定期的に貰ってたけど……。それで十分じゃないの?」


「ジュノアちゃん、一応その有機素体なら、食事食べたり、飲み物を飲んだりも出来るって、言ったじゃないですか。今までは、凝縮カロリー剤とかでしたけど、私達と同様に食事をエネルギー源にすることだって出来るんですよ!」


「……物凄く、効率悪そうなんだけど。でも、この有機素体はエネルギー消費が物凄く少ないから、そんな方法でもなんとかなるんだ……」


「君には、食事や飲み物の美味しさを教えるところから始めるべきだね。そうなると、こんなお茶しか振る舞えないのが申し訳ないな……」


 室内のポットとラックから、ティーセットを取り出し、合成パウダーティを三人分用意して優雅な仕草で振る舞うモドロフ。

 心なしか上機嫌そうにも見える……鉄面皮などと言われるコヤツも見慣れると、結構表情豊かなのだ。

 

 さて、もはや、この時点で交渉は終わりのようなものだな。

 

「な、なんだか、急に弛緩した空気になってるけど……。もしかして、話はもう終わりってことなのかい? えっと、交渉ってそんなのでいいのかい? もっと、書類だのハンコだのがいるんじゃないのかい? テレヴィジョンの情報だと、たしかそんな感じだったよね?」


「……そうだな。お前の言葉を信じるなら、ゲートキーパーの総意でもあるお前が納得して、こっちのトップが納得したなら、話はそれで終わりじゃねぇか。もっとも、お前が本当に信用に値するかって問題もあったが、それも納得した。と言うか、お前の毒気の無さにこっちもほだされたって訳だ……少なくとも俺はお前を信じるぜ」


「た、確かに、そうなんだけど……。些か拍子抜けというか……よろこんで、おくべきなのかなぁ……?」


「そこは、素直に喜ぶべきですよー。というか、その素直さがジュノアちゃんの美徳なのですよ!」


「けど、完全にすべての群体が僕と同様に納得するか言われると、そこは微妙だよ? おそらく、今回の出来事をきっかけに僕らは割れる。間違いなくね……だからこそ、僕の判断が必ずしも、同じ判断になるかと言えば……そこは保証できないな。まぁ、8割9割くらいは同じ判断になると思うんだけどね」


「なるほど……。今の時点でそこまで断言できる。その程度には、ゲートキーパーは統一意識に従うってことなんだ。けど、それでいいのかい? 要するに、それは君達にとって、重要な要素……統一された意思がバラけるって事だよね。それは、本来なら不本意と言えるんじゃないのかい? 確実に弱体化する……生存の為なら、それすらも許容するというのかい?」


「そうだね……。これまで、一つの統一された意思しか持ち得なかった僕らが、複数の意思を持って、それぞれがそれぞれの目的意識を持って分化し、多様化する……それは長らく停滞していた僕らにとっては、祝福すべき進化と言えるんじゃないかな……? 要するに、大いなる進化の道の前に目的のブレなんて当然のことだろうし、それすらも、許容範囲……そう言うことだよ。どうだろう……一応、僕は言いたいことは言い尽くしたんだけど……。君達の皇帝陛下はこれをどう判断するのかな? ちょっぴり不安だな……うん、不安。僕らが等しく抱いている思いが多分、それなんだ」


 その言葉を聞いて、ゼロ陛下がこちらをチラ見して、苦笑する。

 なるほどな……確かに、こやつらは、我々皇帝と同じということか。


 例え、それが個別の判断のように見えても、同じ情報を与えられた以上、同じ結論を下し、同じ判断をする。

 もっとも、常にそうではなく、場合によってはブレが生じる……そして、そのブレが帝国に進化を促してきたのも事実なのだ。

 

 なるほど、実によく解るな。

 つまるところ、銀河帝国の皇帝とはそう言う存在なのだ。


 進化への道標……進むべき道を照らし、人々を導く灯火足らん。

 それこそが我々皇帝であり、個々のブレも言ってみれば、灯火の揺らぎのようなものであり、それが思わぬ道を照らし出すこともあるのだ。

 そして、ゲートキーパーはその揺らぎを進化への祝福と評した。

 

 まったく、実に気が合う……ああ、認めねばなるまいな。

 私は、この者達をいたく気に入ってしまったようだ。

 

 私がチラリと目線を送ると、解っていると言いたげにゼロ陛下が大和殿へ頷くと、大和殿が生真面目な顔で敬礼を捧げる。


 うむ、この交渉は大成功と言っていいだろう。 

 この私がゲートキーパーと言う存在を許容し納得し、向こうも納得した……この時点で、ゲーニッツ大佐の言うように話は終わりなのだ。

 そして、私がこの場に呼ばれたのも、そう言うことだ……私自身の判断で、彼らを許すと告げる事。

 このことは、帝国では大きな意味を持つのだから、私抜きでは話が進まなかっただろう。

 

 ……満足そうに何度も頷いているゼロ陛下の考えが、私にも手に取るように解ってしまうな。


 そして、大和殿へ視線を送り、私も同じ様に頷く。

 まぁ、これだけで十分であろう。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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