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第六十二話「銀河帝国への帰還」④

「……なるほどな。となると、次の一手も見えてきたのではないかな?」


「そうだね。言いたいことは解るよ……。まぁ、それよりも……皆っ! 傾注ーっ! それでは、改めてご挨拶させてもらうよ!」


 そんな軽い調子で、ゼロ陛下が片手を挙げると、自然と皆の視線が集まる。


「さてさて、僕が辺境銀河帝国皇帝代行ゼロ・サミングスだ。君たちには、我が末裔にして、今代の銀河帝国皇帝……アスカ陛下が随分とお世話になっているそうで……おっと、これはいけない……! アスカ陛下への挨拶をすっかり忘れていたよ」


 そう言って、ゼロ陛下がひざまずくと私の手を取り、手の甲に軽くキスをする。


 な、なんと光栄な……っ!

 と言うか、ゼロ陛下……それはやり過ぎっ!


 と思ったのだが、オズワルド子爵辺りは当然だろうと言った様子でうなずいており、イースあたりも当然といった様子だった。

 何故か、ソルヴァ殿だけは面白そうにニヤニヤとしていて、まるで私の内心の動揺を見透かしているようだった。


「そうか……アンタが例のアスカが居た大帝国の王……銀河帝国の大皇帝様って訳だな。一応、話だけは聞いてるんだが。どうも、序列としてはアンタより、アスカ様の方が偉いんだってな。だが、こう見えてアスカは野郎に免疫が無いみたいでな。まぁ、ちょっとは加減してやってくれや」


「ふむ……君は?」


「ああ、俺は……ソルヴァってモンだ。アスカの嬢ちゃんとは、この娘が俺等の世界にやってきた時、初めて出会ったのが俺等でな……。それ以来、色々と面倒見たり、手を貸したりしてやってるうちに、気がつきゃ誰もが一目置く家臣の一人って事になってた。だがまぁ……確かにアンタはすげぇな……俺も国王やら大将軍やらと会った事あるんだが、そんな奴らですら小物だったんだって実感してるぜ……さすがは星の世界の大皇帝様ってとこだな」


「……うーん、僕は大皇帝というより、さっきも言ったけど皇帝代行……要はピンチヒッターってのが正式な立場でね。まぁ、僕とアスカくん……どっちが偉いって聞かれたら、現役皇帝のアスカくんってなる。そんな訳で、アスカ様の家臣と言う時点で、むしろこちらが歓待すべき立場なんだ。楽にしてもらって一向に構わないよ」


「……500億の人々を率いる星の世界の大帝国の大皇帝陛下より偉いって……アスカ様ってホントにすごい方だったんですね……」


 イースがぼんやりと言った調子で、呟く。

 まぁ、その辺りからはゼロ陛下からも告げられている以上、私としても認めるしか無いのだがな……。


 だが、ちょっと待って欲しい。

 私は、あくまで七皇帝の一人であり、皇帝序列でも最下位であったのだぞ。


 それが銀河帝国の最高権力者などと持ち上げられても、戸惑いのほうが先に来る……。

 もっとも、私が七皇帝の最後の一人となった時点で、なかば必然的にそう言う事となり、その重責は重々自覚していたし、それを背負って立つ心意気だったのだ。


 もっとも、その上で私は無謀な戦いを仕掛け、先に逝った者達の後を追う事で、その責任を放り出してしまったようなものなのだがな……。


 だからこそ……私にはそんな資格はないと思う……。

 なにせ、第三帝国の皇帝自体……本来私は、そんな物とは無縁だと思っていたのだ。


 もはや、その名すらも存在した痕跡すらも抹消された私の半身とも言えた皇帝候補……。

 

 私は彼女の従者にして、並列バックアップボディと言うのがその存在意義だったのだが。

 ……結局、私は彼女の受け皿になれず、無為に生き長らえてしまったのだ……要するに役立たずの出来損ない。


 もっとも、そんな私を導き、持ち上げてくれた者達がいた。


 あの者達に支えられて、私のもとに皇帝の座が転がり込んできたようなものだった。

 分不相応……そんな言葉がしっくり来るのだが。


 それももう過去の話ではあるのだ。


 この道は、誰でもないこの私自身で決めた道であり、私自らが選び歩んできた道なのだ。

 私は、例え死せようとも、例え遥か宇宙の彼方へいようとも……銀河帝国の民を導き、そのすべての責任を背負う皇帝としての気概は何一つ変わりなかった。

 

 そして、帝国の法に照らしあわせても、皇帝を引退した時点で、現役よりも格下として扱われるのも事実であり、一度引退した皇帝が再度皇帝の座に舞い戻ると言うことも、帝国法で明確に禁じられているのだ。


 だからこそ、ゼロ陛下も自分はあくまで皇帝代行だと言っているし、私もそこは理解している……。


 それに、皇帝が死亡したからと言って、その権限が即座に消失する訳でもない。

 この場合、次代の皇帝が即位宣言するまでは、例え皇帝が死んだとしても、その権限は死せる皇帝が保持していると言うことになるのだ。


 故に、私自身が公式に退位を宣言しない限りは、私はもはや唯一となった銀河帝国の皇帝なのだ。

 そして、私にも退位宣言をするつもりは毛頭ない。

 

 ……まぁ、その辺りは、ただ単に明文化されていないと言うだけの話ではあるのだがな……。

 そもそも、死者が現世に蘇る……そんな事までは帝国の法は想定していないし、常識的に考えて、それは至って当たり前の話だった。


 いや……違うな。

 このゼロ皇帝自身が三百年の時を越えて、この時代に再臨しているのだ……私のように死を乗り越えた皇帝が後世に現れることも、ゼロ陛下は想定していたのかもしれない。


 いずれにせよ、私が銀河帝国の皇帝としての権限を未だに維持していると言うことは、すでにゼロ皇帝からも告げられており、私とて帝国の法は熟知している。

 

 である以上は、もはや議論の余地などないのだ。


「ひとまず、そこはすでにご納得いただけていると思うんだけど、どうなんだい? アスカくん」


「ああ、そうだ。確かにそうだ……。現状、私のあとを継ぐべき次代の皇帝は未だ選別行程にすら入っていないはずだ。である以上は、私が正式に引退宣言でもしない限りは、ゼロ陛下の言う通りと言うことになるな」


 ……私の設計寿命が20年かそこらだと言うことは皆も承知の事実であり、だからこそ私も即位するなり、誰もが驚くようなハイペースで数多くの施策を実施していたのだ。


 もっとも私の後継者については、そんな事に時間を割く余裕は無いと言うことで、私が寿命を使い尽くし、死した後は、かつて私と皇帝の座をかけて競った者達の誰かを任命する腹積もりだったのだが。

 

 どう言う訳か、誰もが辞退し、やむを得ず再度「モラトリアム・サード」を起動し、候補者を集め選別試験を行う予定だったのだが……。


 私の代では「モラトリアム・サード」の運営スタッフであるはずの講師陣や、運用AI群までもが私の臣下として仕えたいと言い出してしまい、モラトリアム・サードの再起動と候補者選定の話自体は進めていたのだが……。

 選定が済むまでに、軽く10年近い年月がかかりそうであった上に、ラースシンドロームと銀河守護艦隊と、いくつもの国難が発生しており、それどころではなかったのだ。

 

 幸い、私の配下には不老不死者のヴィルゼットがおり、いざという時は彼女を帝国宰相として、後を任せるという事で、その筋道だけはつけておいたのだが……。

 

 案の定、私の死後は色々と問題が起こり、危うく帝国議会が帝国を好き勝手に仕切り始めるところだったようなのだ。


 あの口煩いだけの野次馬集団……などと言ってしまうのは何だが。

 誰がどう見ても、単なる無責任な意見具申機関に過ぎなかった帝国議会は、私の死後……各帝国の議員たちと合流し、皇帝不在と言う状況を良いことに、急速にその勢力と権限を拡大し、帝国議会が帝国のすべてを取り仕切るところまで行っていたようなのだ。

 

 もっとも、帝国議会はゼロ陛下の鶴の一声で呆気なく跡形もなく消し飛び、議員達もその多くが閑職に回され、簒奪を企てていた主要な上位議会メンバーに至っては、誰も生き残ってすらいないと言う話だった。


 なんとも容赦ない話ではあったが。

 あの者達は事あるごとに、民主主義がどうのや、民意の代表だの明らかに帝国を理解していないような発言ばかりを繰り返し、私も含めた皇帝達もいい加減邪魔くさいから、一度解散させようと言うことで、内々で話もまとまっていたくらいなのだ。


 挙げ句に、ハルカ・アマカゼに懐柔されて、自分達が権力を握った上で、ヴィルゼットを人身御供に捧げ、帝国の無条件降伏を採決しようとしていたと言うのだから、始末が悪かった。


 これは明白な帝国への裏切り行為であり、あまりにも軽率な行いだったと言えるだろう。


 帝国を裏切るからには、死を覚悟の上で……その程度の事も理解できないようでは、生かしておいたところで、害悪にしかならなかっただろうからな。


 ゼロ陛下の容赦ない判断は、間違いなく正解と言えた。


「うん、そう言うことだよ。一応、改めて確認させてもらうけど……。君に引退宣言をする気はないんだよね?」


「そうだな……私も、本音を言えば、自分の二十年弱の設計寿命に大いに不満があったのだ。だからこそ、色々と急いで強引に進めようとした政策も多かったのだが。おかげさまで、急ぐ理由もなくなった。であるからには、次世代皇帝の選別も私のやり残した政策ものんびり進めてもらって一向に構わん……。だが、私としては、今は惑星アスカのお母様……生命の樹を外敵から守りきる事を最優先としたいのだ。なにせ、お母様が私に与えた使命がそれなのでな……。なによりも命を救われた……その恩義を返さぬことには帝国にも戻れん……そう考えているのだ」


 厳密にはお母様……生命の樹を育て、やがて宇宙への播種を行うまでは……。

 どうもこれは、どうもヴィルデフラウの種族的な最優先プログラムのようなもので、私もその使命には逆らえないのだ。


 まぁ、そのついでにマゼラン領域での帝国の領域を拡大するのも悪くはないと考えている。

 適当にバラマキ播種して、それでおしまいとは私も考えていないからな。


 当然ながら、各地へバラ撒いた生命の樹の子供たちについても、新天地で無事に根付きくまで見守り、保護をせねばなるまい。

 

 そして、その副産物の緑化改造惑星は我々人類種にとっても、理想的な環境となる……それ故に、理想惑星の数も増えていくことになるだろう。


 まぁ、播種に便乗した体の良い侵略行為、と言えなくもないのだが。

 いかんせん、種の拡大戦略というのはそう言うものなのでな……。


「なるほど……。そうなると安全保障上、惑星アスカの平定は必須になるし、星系自体の専有も当然の話だね。そして、星系自体の安全保障のためには周辺星域の平定も必要となるし、目についた敵対勢力についても尽く殲滅……。更に播種後の事も考えると、播種船と行動を共にして、一緒に人類種の領域を拡大……。なるほどね! それは僕らとしても悪くない展望だよ。播種船が降り立った惑星は、僕ら地球人類種にとっても理想環境となるのも事実みたいだからね。うんうん! 一石二鳥の素晴らしいプランじゃないか。ああ、大いに理解できるよ!」


 ……さすがであるな。

 細かい説明無しで、ここまで完璧に私が計画した安全保障戦略を理解するとは。


 だが、そうなると例の第三航路についても、私も他人事ではないな。

 なにせ、今後周辺星域の平定や星間文明を相手取ることを考えると、エーテル空間航法以外の超空間航法が必須となるのだ。


 場所柄、銀河系のようにエーテルロードのようなものがあるとは思えない以上、それは自力で確保する必要がある。

 

 ヴィルデフラウ文明は、超空間航法などは持たずに、通常航法で数万年だの、数十万年と言った気の遠くなるような年月をかけて、宇宙を渡ると言う真似をやって平然としているのだが……。


 我々はそうはいかない。

 ヴィルデフラウ文明の時間軸から見たら、我々の一生など一瞬で弾けて消える泡沫のようなものかもしれないが……。


 私もあくまで、銀河人類準拠の時間感覚しか持ち得ないのでな。

 ……第三航路航法という新たなる超空間航法があるのであれば、それは私としても必要不可欠な技術だと断言しても良い。


 同時にその技術を銀河人類が手に入れるとなると……その勢力範囲も必然的に爆発的に広がることとなるだろう。

 なるほど、この私をわざわざ呼びつけたのも、ちゃんと当事者の一人として考えくれている証左なのだな。


「さすがに、細かい説明は無用という事だな。つまり、私はヴィルデフラウ文明の播種計画の助勢となる事……それこそが、自らの使命と認識しているのでな……。申し訳ないが、それが今の私の最優先事項ゆえに、銀河帝国本国の事については、二の次なのだ。だからこそ、我が帝国については、ゼロ皇帝陛下や我が後継者たちに一任したいと考えている。もちろん、我が計画に本国が便乗するならば、むしろ歓迎しようではないか」


 まぁ、これは敢えて言葉にした上で告げる必要があるのだ。

 皇帝同士の会話というのは、単なる口約束以上の拘束力があるのでな。


 口にした以上、それを違えることはあってはならない。

 それが皇帝の言葉というものなのだから。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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