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第六十二話「銀河帝国への帰還」③

 やがて、続々と皆、こちらへ転送されてくる。

 そこそこ、広い部屋だったのだが、十人近くもいるとなんだか手狭に感じられるのだが、ミョインとさり気なくと言った様子で、部屋の大きさが拡張される。


 皆、手持ち無沙汰のようなので、もう一度指を鳴らすと、テーブルとソファがオブジェクト化されて転送されてくる。

 

「……い、今のは! テーブルと椅子が湧いてきたぞ!」


 エイル殿ナイスリアクション! ちょっと楽しくなってきたぞ。

 

「まぁ、皆も楽にするといいぞ。我々は招待されたお客様なのだからな。飲み物やツマミでもどうだ? 我が帝国流の食事や飲み物になってしまうが、別に毒でもないし、リクエストすれば、なんでも転送されてくるはずだぞ」


 仮想空間で飲み食いしても、別に腹は膨れんし、味はリアルの天然食材料理には遠く及ばないのだが、そこそこいい感じに再現されるからな。

 

 31世紀の世の中では、グルメダイブと称して、銀河各地の料理や飲物、お菓子やらを好きなだけ飲み食いすると言う娯楽もあるのだ。

 

 別にカロリー過多やら、栄養バランスだの塩分取りすぎなどで健康に害がある訳でもないので、お気軽グルメという事で、VRグルメの番組配信と言えば、定番中の定番のTV番組と言えた。


 グルメダイブも現実に戻ったときに、本物のあの味を味わいたい……等と言いだして、リアルで現地に旅行して、実物を味わいに行くと言う事もよくある話のようで、どれだけ提供しても元手もかからないという事で、観光惑星やら料理店などはむしろ、率先してグルメVR番組にデータ提供していると言う話だった。


 ちなみに、私も暇な時はグルメVR番組にダイブして、美味いものを味わった気になっていたものだ……。


「物体転送……。アスカ様の故国の大帝国ではそんな事まで出来るのかい?」


「まさか! さすがに何もない空間に食べ物や飲み物を転送したり、地面からテーブルを生やしたりは無理だぞ。ここは仮想空間……そうだな、解りやすく言うと……。皆で同じリアルな夢を見ているようなものだな。実際、向こう側の皆の身体は、睡眠中のような状態となっているはずだぞ」


 厳密には、ちょっと違うのだが。

 VRダイブ中の脳波や心拍数は、入眠中……それもディープスリープと呼ばれる状態に近い状態となる。


 まぁ、これは当然の話で完全に肉体の活動が停止してしまうと、呼吸も停止して身体が死んでしまうからな。

 なお、通常のVRは身体は眠っているのだが、脳はちゃんと覚醒していて、そのうえでVR世界を認識しているのだが。

 

 アストラルネットワークへの接続だと、脳の活動もほぼ停止……脳波についても、仮死状態のような波形となるようなのだ……そして、身体への外部刺激ではどうやっても覚醒しない。

 

 それが通常のVRとアストラルネットワークのVRの決定的な違いという事で、似て非なるものだと言う事実に他ならない……。


 本来、かなり危険を伴うと言えるのだが、皆にはお母様の植物細胞が移植されているので、生命維持については問題ないと言える。


 だが、意識の主体が現実世界の肉体ではなく、VR空間の仮想VR体となる。

 そして、精神活動が肉体に依存しない時点で、その精神は限りなく不死者に近いものとなる。


 ……ユリコ殿や、アーキテクト卿の説明だと、アストラルネットとはそう言うものらしい。

 実は、私もよく解っていないのだが……。

 

 この時点で、割ととんでもないことになっているような気もするのだがな……。


「夢にしちゃリアルすぎるだろ……。だが、これが神樹様の言っていた精神世界とやらか。まぁ、今更驚いてもしょうがねぇか……。ふむ、これは酒なのか? どれどれ……なんだ? エギッシュに似てて、味がスッキリしててちょっと苦味が強いようだが……キンキンに冷たくてウメェな! いや、これむちゃくちゃウメェぞ!」


 ソルヴァ殿もテーブルに並んでいた飲み物から目ざとく黒ビールを見つけて、そう言いながらキュッと一息で飲み干す。

 

 ちなみに、エギッシュと言うものは、麦を発酵させて作る低アルコール飲料の事で、向こうでは発酵乳飲料のタンネンラルカと並んで、水代わりに飲まれるような代物だ。


 さすがに、私もそれくらい学習したのだよ。


 なお、お味は甘苦酸っぱいと言った調子で、カオスそのもの。

 私は一口ご相伴に預かり、以降遠慮している。


 タンネンラルカはヨーグルトのようなものだと思えば、そこまでは悪くなかったのだが。

 訳の解らない雑菌で適当に発酵させて、アルコール化している時点で、そんなのは腐ってるのと大差ない……。


 もっとも、ヴィルデフラウの身体は、免疫力も超強力なようなので、雑菌程度で腹を壊すなど普通にありえないのだが……まぁ、気分の問題であるな。

 

 ソルヴァ殿が飲んでいる黒ビールについては……こちらの本格的な天然ビールの再現品なのだから、エギッシュと比べると、さぞ美味かっただろう。

 

 頼んだもの自体は、接待の定番どころを適当に並べたのだが、一番好みに合いそうなのを一瞬で見極める辺りさすが、ソルヴァ殿だった。


 ソルヴァ殿も無言でもう一杯口にすると、もう、たまらんと言った顔をしていた。 

 それを見て、ファリナ殿やエイル殿、オズワルド子爵も頷き合うと同じように黒ビールを飲んで、揃って無言になる。


「こ、これは、何と言うか……究極レベルに洗練された味と言ったところだな。アスカ様のいた星の帝国ではこのような高品質な酒が日常的に飲まれているのか……。正直、我々エルフの百年酒に匹敵するどころか、それより上かもしれんぞ……」


 エイル殿が呆れたように感想を漏らす。

 ちなみに、百年酒と言うのは、エルフ族秘蔵の酒で、文字通り百年かけて醸造し寝かせると言う気長に過ぎる製法で作る酒であり、神の酒とも呼ばれている逸品だそうな。


「そ、そうね……。エギッシュと違って、味がスッキリしてるし全然濁ってないし、雑味もしない……。でも、気持ち麦っぽい風味もするから原材料は同じ……なのかなぁ」


 ファリナ殿が感心したようにため息を付きながら、やっぱり一息で飲み干す。

 なお、彼女は結構な酒飲みらしい。


「ああ、これはエギッシュを洗練させたものだな。いやはや、俺も貴族の端くれだから、酒にはうるさいんだが……これは美味いな!」


「おっ! オズワルドの旦那も良い飲みっぷりだな! とりあえず、乾杯ってことで!」


 大男同士でグラスを打ち鳴らして、乾杯! なんとも絵になるし、皆、丸っ切り未知の世界であろうに、早くも適応しているようにも見える。

 

 食べ物の味についても、こちらの世界の飲食物の味について、まるで違和感を感じていないようで、普通に美味いものは美味いと感じているようなので、本当に人種的には地球人類種と同じなのかもしれない。

 

 いずれにせよ、これは接待としても、惑星アスカの人種サンプルの提供としても、悪くなかったようだ。


「そうだな……これもただの水に見えるが、まったく泥臭さや土の味がしない……。まるで、清浄なる湧き水のような……素晴らしい水だな」


 ……エイル殿、多分ソレは単なる合成ミネラルウォーターだぞ。

 

 なお、合成ミネラルウォーターとは文字通り、不純物を取り除いた純水にミネラル分を配合したと言う代物で、まぁ……要するに、タダの水であるわな。


 そして、唐突に「NAGATOMO」と書かれた紙袋を抱えたゼロ皇帝陛下が空間転送されて、この場に現れた。


 なお、何故かその腕には、大和殿を抱えている。

 しかも、いわゆるお姫様抱っこ?


 なんとも、羨まけしからんな……。

 いや、ではなくてな!


 んっと……私のところに来ていたのと、先に来て待っていたのと、今やって来たの……全部、一緒……要するに同一人物が合計で三人いるとか訳の解らない事になっている。


 ゼロ陛下に抱き抱えられた……仮に大和1号と呼ぶ……がなんとなく、気まずそうな様子でゼロ陛下の腕から飛び降りると、ほかの二人の大和殿がキラキラした目で駆け寄って行って、大和1号を取り囲むと、ワイワイやっている。


「うーむ、実体を維持したまま、一度固有亜空間に転移し、その上で独力で精神世界に同期するとは……。まさかの二段階転送とはまた器用な真似をする。まったく、ゼロ陛下は底しれぬな……」


「ほぅほぅ、一体何があったのだ? まぁ、問答無用で同期するだけなのだがな!」


「ふふん、我らは全にして個! うははー! 洗いざらい白状するが良いぞ!」


「ええいっ! なんじゃその期待に満ちた目は! そんな期待するようなことなどなかったぞ!」


 めいめいに騒ぎ立てる三人の大和殿の様子を見て、ゼロ陛下も微妙な顔をしていたようだが。

 私と目が合うと、ニコリと微笑んでくれる。


「やぁやぁ、アスカくん。随分な人数のお供を連れてきたんだね。もしかして、あっちの君の家臣団と言ったところかな? そうなると、向こう側の君の親衛隊の僕へのお披露目ってところかな? やぁやぁ、諸君っ! 心から歓迎するよ! ようこそ、我が帝国へ!」


 思わず、反射的に跪いてしまいそうになったが、それはNGなのだ。

 すでに、ゼロ陛下当人から私のほうが格上だと告げられている上に、皆が見ている中でそのような真似は出来ない。


「ああ、各人の個人情報はすでに送っているはずだからな。皆の紹介は省かせてもらおう……まぁ、今後も私共々お見知り置きいただければなによりだ」


 私の言葉に答えるように、ゼロ陛下が皆に向かって軽く一礼すると、誰もがビシッと姿勢を正す。

 誰もが陛下の持つ威厳に反射的にそんな行動を取っているようだった。

 

 まぁ……代行とは言え、事実上銀河宇宙を統べる御方であり、我々皇帝にとっては大先輩にして、起源とも言えるお方でもあるのだ。

 私だって、あらかじめ釘を差されていなければ、この場でひれ伏すのだって厭わない……そう思っているのだ。


「ふむふむ、誰もがなかなかのプロフィールだね。いやはや、エルフとか実物にお目にかかれるなんてね。そうなると、彼らもヴィルデフラウ族の派生種族なのかなぁ……だって、架空の存在、エルフのイメージそのままだよね」


 エイル殿とファリナ殿へ視線を送りながら、ゼロ陛下がそんな感想を漏らす。

 確かに、銀河人類にも耳を長くして尖らせたファッション感覚で身体改造を行うなんちゃってエルフくらいはいたが。


 その発生からして人類種と異なる本物のエルフとなると、さすがに興味深いようだった。 


「本人たちが言うには、神樹の眷属との事だからな。だが、私もエルフ族と言う異種族が地球の伝承に残っているのは知っているぞ。そうなると、地球にヴィルデフラウ文明に降り立っていた可能性もやはり否定できぬと言ったところかな」


 まぁ、そんな巨大樹があったのなら、記録にも残っているだろうが。

 現代まで伝わっている過去の地球の情報では、お母様のような頂高がkm単位の超巨大樹の情報は一切なかった。


 それこそ、神話だの伝承に残る程度。

 だが、地球人類もまたヴィルデフラウ文明の派生文明種である可能性……正直なところ、これを否定する理由が見つからないのだ。


「そうだね。外観から推測される骨格構造、臓器配列などは地球起源人類と余りに似通っているし、理想惑星環境もほぼ同じ……。今も神樹様からアストラルネット転送時に現実側の身体コンディションデータがこちらに転送されてるんだけど、多少の差異はあるみたいだけど、概ね地球人類種と変わりないそうだよ。となると、やはり異星起源人類種というより、銀河人類の同胞と考えるべきなのかもしれないってのが、現時点での生物学者や医学者達の結論みたいだよ」


 まぁ、確かに……環境の酷似と収斂進化と言うだけでは、ここまで似通った人種が別の惑星に発生する可能性は限りなく低いはずなのだ。 

 そして、惑星アスカの人類種についても、神樹教会の者達によるとエルフ同様、元は神樹の眷属だったと伝えられているらしい。

 

 これまでの情報から、地球人類もヴィルデフラウ文明の派生文明の可能性が高いとなれば、要するに根っこが同じ……そう考えるべきかもしれなかった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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