第六十一話「使者との対話」②
「うむ、堪能させてもらっているぞ。しかしまぁ……やはり、貴様はハルカやグエンとは違うのだな……。アヤツらはいつも口を開けば戦争の話ばかりで、年中無休でピリピリしてばかりだったからな……。貴様はなんともユルユルで……最初、貴様と謁見した時、緊張しとったのが馬鹿らしくなってきとるよ……なんじゃ、この年寄のお茶会みたいな雰囲気は……」
「ははっ……実際、僕も君もお年寄りじゃないか……。むしろ、お似合いじゃないかなぁ……。いかんせん、僕はこの帝国の創業者みたいなものだからね。僕がいつもユルッと軽薄なのも歴史の教科書にもちゃんと載ってて、皆、よく知ってるから、誰も文句なんか言いやしないよ」
ゼロ皇帝が真面目な顔をしている時は、帝国存亡の危機だと思え……そんな言葉が残っている程度には、ゼロ皇帝の軽薄さは有名であり、逆を言うとゼロ皇帝がチャラチャラしている時は、まだまだ全然余裕という事で、慌てず騒がず……帝国自体のどこかお気楽なムードの源泉は間違いなくこのゼロ皇帝だと言えた。
「……今しれっと、シュールな事言いよったな。だが、我が国の初代皇帝陛下の演説は、いつも軽い調子でユルユルで「やぁ、皆、元気にしてるかーい?」とか、アイドルライブみたいなノリだった……とか、実際に書かれてるおるのか……。貴様、歴史上の偉人の一人扱いなのに、これってどうなのだ?」
「いいんじゃないかなぁ……そもそも、僕みたい偉い人が、年がら年中ピリピリしてちゃ、誰もがずっと緊張を強いられちゃうしね。有事と平時はきっちり分けて……こう言う平時の時は、僕みたいなのは引っ込んでたって、何ら問題はない。むしろ、こうやって、暇人同士まったりお茶でも啜ってるってのがお似合いじゃないのかなぁ……。というか、本当は皇帝代理の席だって、他の適当な人に任せたいくらいなんだよね」
「貴様の代わりを務められるなど……そうだな。まぁ、アスカ陛下くらいであろうな……」
「おや、珍しく意見が合うね……。僕もそう思うよ。まったく、早いところ迎えに行ってあげたいんだけどね。お互い、早いとこ代わりを見つけて、全部押し付けてまったり過ごしたいもんだね」
「我を勝手に仲間にするでない……。だが、言いたいことは解るな……我も本来はこんなスターシスターズのまとめ役なんぞ、やっとれんと思ってるのだ。まぁ、幸い我が分体も向こうでは、色々と楽しくやっているようだからな……。まったく、我が事ながら羨ましくなるわ。こっちは難題だらけで頭が痛いわい」
「はははっ、自分で自分を羨ましがるって意味分かんないよね……それ。でも、向こうはどうなんだい? 何と言うか四面楚歌みたいな状況になってるって聞いてるんだけどさ」
「まぁ、そうだな……海も陸も宇宙も見渡す限り敵だらけ。予想通り、先住の者共の総力を挙げた反抗が始まっとるようだ。まぁ、服従か死……どちらかを選べなどとやっておる以上、どうしてもそうなるだろうが、アスカ陛下とてそうせざるを得ないのも解るからな」
「確かに……神樹様ってどう贔屓目に見ても、惑星侵略者だからねぇ……。僕らから見ると惑星環境の緑化最適化システムに見えるけど、緑化惑星環境化ってのは、緑がない惑星の現住生物にとっては災厄以外何物ではなく、結果的に滅んでしまう種族だっているだろうからね。そっちの視点だと、神樹様は凶悪な宇宙からの侵略者ってなるだろうからね」
「まぁ、貴様ら銀河人類はヴィルデフラウ文明の派生文明の可能性が高いようだからな。そこは要するに立ち位置の問題であるからな。業とでも考えるしかあるまい」
「……人類種の進出を進めていくと、他の惑星文明や異起源生命体を押しのけることになるのも必然じゃあるんだ。だからと言って、僕らも立ち止まれない……確かに、業とでも思うしか無いね」
「ああ、仕方がない。我も人類側である以上、そこは否定はせんよ。であるからこそ、アスカ陛下の戦略は否定はしない……文句があるならかかってこい。服従が嫌なら実力で跳ね返せばいい……出来ないなら、滅びるだけだ……解りやすい話ではあるわな」
「でも、本当に問題は……無いのかい? ユリコちゃんは、あの子なら、ほっといても何とかしちゃうと思うよーなんて気軽に言ってたけどさ」
「ひとまず、解っている敵対勢力は、まずは炎神と呼ばれるエネルギー生命体共、コヤツらは宇宙と地上にチラホラ降りてきとるようで、神様扱いされとるせいでその信奉者達がウジャウジャおるのだ。そして、海中の硫化水素代謝を行っている海洋生物群。そして、珪素生物とアスカ陛下に下るを良しとしない現地人類勢力……大雑把に見て、この四つが敵に回っておるな」
「なんか……増えてない? ユリコちゃんが派手に暴れ回って、結構吹っ飛ばしたって聞いてるけど……」
「そうであるなぁ……。炎神文明はその支持者共の大きく数を減らしたようで、当面は問題ないであろうが……。問題は、珪素生物……コヤツラがなかなかに面倒そうなのだ。我が分体も一度不覚を取っているくらいだからな。どうも、コヤツらが裏で敵対勢力をまとめている……そんな感じなのだ」
「君が? いくら艦体なしだからって、一度負けたのかい?」
「うむ、ソニックバスターを至近距離からもらってな。流石にありゃ堪えたわい……おまけに、未来変革能力……そんな怪しげな術まで使われてな……」
その言葉を聞いてさすがのゼロ皇帝も表情を引き締める。
「まさか、それは……ユリコちゃんの?」
「どうなのであろうな……。我は直に見ていなかったのだが。アスカ陛下の話だと、予知能力者でもあるリンカが未来予知の上で放った必殺の一撃で仕留めたはずが、結果が捻じ曲げられた……そんな未知の現象が起こったそうだ……。まぁ、再現VR映像であるが、参考として再現したので、見てもらった方が早いだろう」
アスカの話を元に大和が作成したあの時の戦いのVR再現映像が空間モニターに投影されると、ゼロ皇帝もその光景を興味深げに眺める。
そして、問題のシーン。
リンカが逆巻の構えで敢えて背中を見せ、トロージャンが必殺の一撃を放ち、それをリンカが完璧なタイミングの後の先カウンターで、正面から叩き斬ろうとした瞬間。
トロージャンも必殺の一撃を外して、身体も伸び切って隙だらけのはずだったのが。
まるで、コマ落ちしたかのように、次の瞬間にはそのカウンターを真剣白刃取りで受け止めている……そんな光景が再現されていた。
「……なんだこれ? 出来の悪い編集VRムービーみたいな映像だねぇ……。これって、本当に現実に起こった光景の再現なの? 何と言うか、結果だけが違う結果に差し替えられたってそんな感じだよね」
「ああ、我が分体が作成し、アスカ殿やリンカにも同じ映像を見てもらって、二人が見た光景を忠実に再現したとのことだ。実のところ、我もこの現象を説明する理屈は持ち合わせておらん。出来れば、ユリコ殿にも見てもらいたかったのだが……。まぁ、休暇中と言うことでは、わざわざ呼び出すのも野暮というものか」
ユリコは現時点でそう言う扱いではあった。
もっとも、実際は、永友提督のスイーツ喫茶に入り浸っていて、全メニューを制覇するに飽き足らず、昔とった杵柄とかで、初霜や祥鳳と一緒に給仕の仕事をしていたり、休日に永友艦隊の面々と永友提督を引き連れて郊外キャンプに出かけたり、永友提督共々、全力で地上世界の生活を楽しんでいるようなので、ゼロ皇帝も連絡員を派遣した程度で好きにやらせていたのだ。
「うん、悪いね。ユリコくんにもちょっとのんびりして欲しかったんでね。まぁ、来るべき時に備えて、英気を養ってる……そう思ってくれると嬉しい」
ユリコもだが、永友艦隊のスターシスターズも同じような認識だった。
平和な暮らしや日常に、憧れながらもそれがずっと続かない事を承知している。
ゼロ皇帝もそこを解っているから、彼女の休暇の最中に些事で呼び出すような真似はしないつもりだった。
「そうか、まぁ……仕方がない。だが、ゼロ陛下……貴様はこれをどう見る? 恐らく、これは因果の逆転現象……そう見ている。つまり、すでに結果が出ている事象の結果を強引に書き換えた。要は、後出しジャンケンのようなものなのだろう」
「要するに、この水晶ドクロは自分が負けると解ってから、後出しで負けない結果に入れ替えたってことかい? けど、そんな事が可能なのかい?」
「すまぬが、我もこのような因果の逆転現象など、完全に未知の領域なのだ……。故に対抗手段など思いつきもせん。アスカ陛下もさすがにこれは理解の外だと言っているようでな……。実のところ、これは最大級の脅威だと我も認識している」
「……因果律への干渉か……。僕は直接戦闘に関してはからっきしだけど、ユリコくんの話だと、彼女が見た未来は、見えた時点で未来が確定してるって話でね。リンカって子もユリコくんが認めるくらいなんだから、未来予知能力者としては結構なレベルなんだと思う。その結果を覆すとなると……こりゃ、ユリコくんでも手を焼く相手かもしれないね」
「そこまでか……いや、そこまでの相手なのだな。だがまぁ、向こうもインチキだと認めていたようだし、逆を言えば、それを使わざるを得ないほどに追い詰めた……そう言うことでもあるからな。我が分体も別に悲観はしていないようだ」
「なるほど……。でもまぁ、所詮は個人のチートスキルみたいなものだろうからね。一人の特殊能力に過ぎないなら、戦略的に影響を与えるほどの脅威ではないだろうね……他に気になることは?」
「他か……どういう経緯かは知らんが……。過去に戦死した再現体提督の一人が向こうに転生しているようなのだ。アギトと名乗っていたそうだが……まぁ、偽名だろうな。いわゆる自己陶酔系の厨二病……こう言う表現で通じるかのう……」
「ああ、解る解る。左腕が疼いたり、眼帯の下に大いなる力が眠ってるような人達の事だよね」
「まったく、貴様は世俗のことに詳しすぎるな。だが……海上戦闘艦艇のようなものが観測されたと言う話だったが、そうなると、その戦闘艦隊の指揮官……なのだろうな。我としてはコヤツが最大の脅威だと認識している」
「惑星アスカには、原始文明しか存在しないって話だったけど……再現体提督が現界してるとなると。死者再現を可能とする……その程度のテクノロジーはあるということか。なかなかに侮れないな……やはり、早急に惑星アスカには増援を送らないといけないね。やはり、あっちのヴィルデフラウテクノロジーでは、大型海上戦闘艦船の建造は厳しそうだしねぇ」
「そうだな……。ナイトボーダーは向こうにウッドゴーレムと言う木製の人型人形を作る技術があってな。その発展で何とかなったのだが、大型戦闘艦艇ともなると、ほとんど白紙からの製造となる……。もっとも、我が分体は自らを単独の海上パワードスーツのようにする装備を土壇場で開発したようで、海上戦闘自体は不可能ではないようなのだが。やはり、大規模建築技術や大型戦闘兵器の開発は厳しいし、宇宙戦闘兵器ともなると、軌道拠点や補給プラットフォームも必要になるし、一朝一夕ではいかぬな」
「ふむ、やはり……万能自動工廠の一つでもないと、厳しいみたいだね。まぁ、今どきの工業技術ってのはそんなものだからね。けど……例え未開の惑星でも衛星軌道上に万能自動工廠をひとつでも設置できれば、あっと言う間に宇宙艦艇も地上施設も作り放題になるんだけどね」
「そう……たった一台の万能自動工廠があるだけで、ほとんどの問題が解決するのだ。だが、向こうの技術だけでは、万能自動工廠を再現させることは難しい。どうも、神樹様と機械技術はいまいち相性が悪いようでな。アスカ陛下もそこはよく解っているようだが、話が通じないとボヤいておったよ」
「僕らの持つ科学技術は、古代からの蓄積と理論の集大成ってとこだからね。地味な積み重ねの末に、今がある……向こうの技術ってのは、基本的にこう言うことがしたいって願望から逆算で結果を生み出す。根本的に発想の次元が違うみたいなんだよ。要するに、神樹様自体がある種の万能自動工廠みたいなもので、設計データフォーマットが違いすぎて、こっちのリクエストが通じない……そんなところなんだろうね」
「ああ、まさにその通りだな……となると、設計データフォーマットを試行錯誤の上で解析すれば、随分マシになりそうだな。……というか、ゼロ陛下は相談者としても超一流であるな。貴様に話すだけで、わかりにくい状況が解りやすくなっていくし、答えもすぐに出る……」
「ははっ、僕は皆の話を聞いて、最適解を提案する……それも仕事の一つだからね。君も一人で悩んでるよりも、遠慮なく相談してよ。なぁに、僕が解らなくても専門家ならいくらでもいるからね。どんな困り事だって、喜んで引き受けるよ」
「ああ、大いに頼りにしよう。だが、そうなるとやはり、惑星アスカへの万能自動工廠と宇宙戦力の派遣……これは何としても為すべきであるが……。その為には第三航路を突破せなばならない。どうだ? 今回の実験で少しは目処が立ったか? 正直、我はこの調子ではいつまでかかるか解らんとしか言いようがないぞ。ゲートキーパーの規模は我々の予想以上の物量のようだ……。如何に波動粒子エネルギー兵器が奴らへの特攻兵器だとしても、奴らを絶滅させるのは相当ホネであるぞ」
「まぁ、そうだね……。連中相手に殲滅戦争と挑むとなると、これは泥沼の戦いになりかねないね。というか、そうなるね……第三航路の性質上、奴らはどこかの恒星系に独自のゲートを築いて根拠地化してると思うんだけど。簡単に見つかるとは思えないし、虱潰しに探すとしてもどのくらいの時間がかかるんだか……」
「なるほど。すでにそこは理解していると……。だが、貴様はゲートキーパーに殲滅戦争を挑む気はない……そう思って良いのだろうか?」
「ご明察……。向こうが使者を送ってきたってことは、実にいい傾向でね。要するに、向こうもこちらに興味を持って、譲歩の余地を匂わせてる……僕はそう見ているんだ。さて、これから僕らの戦略を当ててみてよ」
「ふむ……我はてっきりこのまま奴らと全面戦争……殲滅戦を始めるつもりかと思っていたのだが。要するに、話し合いに持ち込む……穏当に通行許可でも勝ち取る……そう言うつもりということかな? 戦えるだけの武器を得たにも関わらず、敢えて穏当路線で行くのは、意外な対応ではあるな……」
「そうかな? いいかい……大和くん、交渉ってのは対抗手段があってこそ、そして、対等の立場だとお互いが認識した上で始めて成り立つ……そう言うものなんだよ。これまではこっちが一方的にやられっぱなし……だから、向こうもこちらを脅威として認識していなかったんだろうね……だからこそ、問答無用で追い払われてたんだよ。そして、僕らはエスクロン時代にこの手のAIを乗っ取るタイプの敵と銀河最大規模の戦乱を繰り広げる羽目になった。だからこそ、慎重にならざるを得なかったんだ」
「ふむ、例のAI戦争とやらか。350年も昔となると黒船襲来より前の時代の話か。そんな時代に通常宇宙で数万隻単位の宇宙戦闘艦同士の激突とか……。何と言うか、貴様ら帝国のスケール感や戦争への考え方が銀河連合のお花畑共と比べると明らかに異質だったのは、そう言うことだったのか」
「まぁね……。悪いけど、僕ら帝国はあんなハッピーなお花畑思想に染まるほど、安易な道は歩んできてないんだよ。まぁ……だからこそ、ゲートキーパーが存在する第3航路の解放は、当時の古参AIたちからは危険だと随分と反対もされていてね。けど、ここに来て我々も対抗手段を用意して、明らかな脅威となった。要は、僕ら自体が一歩進化して、ゲートキーパーと同じ土俵で戦えるようになったんだ。これは大きい事実なんだよ」
「なるほど……。ゲーニッツ大佐達も艦もボロボロでまるで敗走してきたかのような有様だったが、現場の者達は意気揚々と帰ってきたのは、そう言うことか」
「そう言うことさ。だからこそ、向こうも侵入者は破壊するって、一本槍だったのを妥協して、最初の一歩として交渉役を送り込んできたってことなのさ。そして、恐らくゲートキーパーも割れてると思うんだよね。僕はこの機会を最大限利用するつもりなんだ」
「なるほどなぁ……。戦って勝てればそれでよい……我もそんな風に思っていたのだがな。要するに、武力という裏付けが出来たからこそ、ゲートキーパーとの交渉の余地が出来た。だからこそ、一度歩み寄って話し合う……という事か。確かに我々としてはマゼランまでの航路が確立されれば、当面はむやみにあちこちに進出する必要もないからな。こちらの要求も道を開けて欲しい……至ってシンプルなのだからな」
「察しがよろしくて何よりだよ。まぁ、交渉もだけど、戦争ってのはお互い同レベルでないと成立しない……そんなものだからね。かつての僕らはゲートキーパーと遭遇し、こりゃ手に負えないって一目散に逃げだして、その技術も敢えて封印するという選択を取らざるを得なかったけど。状況は変わりつつあるという事さ」
「ふむ、要するに上手く交渉して、向こうに妥協させることが出来れば、戦わずしてマゼランへの道が開けるという事か。……まったく、我如きでは、貴様に及ぶ気がせんわ。さすが……銀河の王に足る器であるの」
「お褒めに預かり、ありがとう。さて……どうやら、例の使者くんとの対話の準備が整ったそうだ。細かい尋問はゲーニッツくんが担当するそうだけど、僕も国家代表って事で挨拶くらいするつもりなんだけど、君も見ていくかい?」
「……それは帝国でも最高機密とすべき情報ではないのか? 我のような部外者に気楽に見せていいものなのか?」
「すでに、君も立派な帝国の関係者で、重鎮の一人だと僕は思ってるんだけどね。ああ、そうだ。なんなら、うちの肩書の一つでもいるかい? ここはひとつ帝国名誉元帥の称号くらいポーンとあげるよ。と言うか、君の帝国アカウントの付随情報に帝国宇宙軍名誉元帥って付けちゃったよ。これで、毎月お金もがっぽりもらえるし、何処だって自由に行ける。君に命令できるのは僕くらいだし、実際今もそんな感じじゃないか」
「元帥号など、そんなホイホイ安売りするでないぞ……まったく呆れた奴だな。だが、くれると言うならもらっておこうか……な、内心、大歓喜とかしておらんからな! しかし、我が銀河帝国宇宙軍の名誉元帥か。要はこれは名誉職といったところなのかな?」
「そうだね。さすがに指揮権まではないけど、命令されることもない。そんな風に思っとけばいいよ。ちなみに、僕とお揃い。これよくない? あとで現物を届けさせるけど、これがあれば帝国内では何処行ってもフリーパス。航宙艦なんかも、問答無用でVIP艦のVIP席へ案内されるよ」
そう言って、金色七つ星と三本線があしらわれた徽章を見せるゼロ皇帝。
なお、この七つ星の徽章は皇帝……要するに帝国元帥のみに与えられるもので、大和の言うようにポンポン与えていいものではないのだが……。
ゼロ皇帝もその程度は、惜しくない程には大和へ感謝していたし、彼女の功績はそれでもまだ足りないとまで評価していたのだ。
「ふっ、貴様なりの我への評価といったところか。貴様も人を使うのが上手いな。まぁいい……。ふむ、アストラルネットのVR見学室でリアルタイムで見聞か……。なんだ……向こうの我が分体とアスカ陛下も呼んだのか、確かに奴らも当事者であるからな。知る権利はあるという事か」
早速、元帥権限を使っているようで、空間投影モニターの情報を読み込んでいく大和。
「ああ、アキちゃんやユリコくんも緊急呼び出しをかけたから、VRでちょいっと来てくれるってさ。まぁ、そんな堅苦しいものじゃなくて、いわばメンツを増やした上でのお茶会の続きってとこだね」
「だが、アスカ陛下までも呼び出すのは、どうなのだ? さすがに向こうも忙しいだろうに……」
「いやはや、ゲーニッツくんやモドロフくんから、今回の褒美として、アスカくんと会わせて欲しいってリクエストが来ててね。なにぶん、アスカくんは僕より格上だから、何か大義名分でもないと気軽に呼びつけられないんだよね」
「だが、アストラルネットへの接続ともなると、VRポッドに入ったり色々面倒ではあるのだがな……。特に我らの場合は、個体情報量が大きいのでこちらの規格のシステム経由でないと、意識転送に時間がかかってしょうがないのだ……。そう言うわけで、我はいったん艦へ戻るとしよう……美味い茶であったぞ!」
そう言って、席を立とうとする大和の手をゼロ皇帝が握ると、肩を叩いてソファに座らせると、手を握ったまま、その隣にゼロ皇帝も座り込む。
「お、おう……ゼロ陛下、何事だ? 貴様……ちょっと顔が近いぞ? ま、まぁ……我とて生娘ではないから。こ、この程度で動揺などせんぞ……というか、これはまさかアレか? 押し倒され寸前と言うやつか? ま、まぁ、貴様相手なら別に構わんのだが……我にも心の準備が……だな!」
「あ、ごめんね……。えっと、せっかくだから、僕のチートスキルを大公開しようかなって……。これも直接触れてないと発動しなくてね。なので、ちょっとお手を拝借って事……そんな君を押し倒すとかやったら、犯罪云々以前に絵面が……ねぇ」
「ん? あ、ああ、そう言う事か……。だが、我も殿方に手を握られるとか、レアな体験なのだ。あ、別にこのままで一向に構わんので、そこは気にするな……! だが、一体何をするつもりなのだ?」
「まぁ、論より証拠ってね……『誘うはもう一つの世界』発動ッ! なんてね……。では、VR空間への転移……全感覚ダイブってものをお見せしようか」
そう言ってゼロ皇帝が微笑んで指をパチンと鳴らすと、キラキラと輝くフィールドのようなものが二人を包み込み、その姿が消えていく。
次の瞬間、大和も一瞬で彼の展開するVR空間……アストラルネットへ取り込まれていた。