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第六十話「第三航路突入実験」⑥

「うーん、流石にこの艦体でこの出力だと持って一時間ってとこですねぇ……波動粒子の負のエネルギー場の影響で核融合炉もフル稼働中なんですが、もう効率ダダ下がり……おまけに波動粒子の制御にもパワーを派手に持ってかれてまして……。余裕と思ってましたが、ぶっちゃけ結構、厳しいですね」


「確かに、出力比は通常時の3割位ってとこか。こりゃ、燃料タンカーでも山盛り連れてかねぇとしんどいかもな……。まぁ、こう言うのも含めて、貴重な実験データってとこだからな。問題発生大いに結構ってとこだぜ」


「まぁ、そんなものですよね。しっかし、エネルギー生命体ってのは、なかなか面倒ですね。今は負のエネルギー……波動粒子の無差別放射で蹴散らせてますが。移動速度は限りなく光速で、今の個体もとんでもない大きさでしたからねぇ……。こんなのがあちこちに生息してるとなると、安全ルートの確立だけでもなかなか骨が折れそうですよ」


「だが、対抗は出来なくもない。おまけに物理的な攻撃力がほとんどないんじゃ、恐れるに足らず……だろう。そもそも、これまで何が俺等のコンピューターやAIを狂わせてたのか、誰も解ってなかったからな。その存在を知覚して、更に撃退する事も出来るようになったってのは、大いなる進展だ。コレも全て、エネルギー生命体と言う概念をはるか遠いマゼランから、俺等に伝えてくれたアスカ陛下の思し召しってとこだな」


「……またアスカ陛下ですか。なんか、ゲーニッツ艦長以外にも色んな人が、あの人はすごいって感じで、ほとんど崇めてるような感じでしたけど、そんなすごい方だったんですか? 私、ちょっとジェラシー感じてます! はっ! さらっと感じてたけど、これがジェラシー! 私、またひとつ人間の女子の感情を実装出来たかも!」


 嫉妬してヤキモチを焼くAI……。

 他のAIに聞けば、辞書で引いてきたような回答が返って来て、自分には理解出来ない感情ですと続けられるだけなのだが。


 ジュノーは、明らかにアスカを羨ましいと思っていて、それはAIあるまじき感情と言えた。

 

 もっとも、その手の感情については、永友艦隊の祥鳳あたりは、300年も前に嫉妬のあまり初霜辺りと取っ組み合ったりしていたので、スターシスターズとしては別に初めてと言うわけでは無かったのだが。


 つい先程までは、そんな思考など微塵にもなかっただけに、ジュノーとしては自分すごい! と言う感情のほうが先だった。


「そいつは良かったな。だがな……あの方は、ゼロ陛下の再来って言われた程には、すげぇ人なんだよ……。オメェが嫉妬するのも無理はねぇ……。いいか? あのお方こそ、この宇宙を統べる皇帝の中の皇帝なんだよ……解るか?」


「……へぇ、すごいですね!」


 とりあえず、話合わせとこうと言った調子のジュノーだったが。

 ゲーニッツもその返しに満足したように大きく頷く。


「超すげぇんだよ……あのお方は。実際、俺もモナトリウムであの方と共に、学園生活を送った事もあったんだがな……。あのお方は自分に歯向かったようなヤツですら、許し認め……心の底から感服させる……。そして、俺みてぇなチンピラヤクザみてぇなヤツだって、臣下として認めてくださったんだ」


「んっと……その心は大平原のごとく? そんな感じですかね」


「ちげーよ! まさに銀河すべてをあまねく包み込む愛って奴だ……スケールが違うんだよ! スケールが! だからこそ、いつまにか誰もがあのお方の支持者となっていったんだ。要は神がかったカリスマ持ちってとこなんだよな……。あのチンチクリンで泣き虫だったチビスケが、銀河帝国の皇帝になった上に、今も遠いマゼラン銀河で人類の敵とたった一人で戦ってるってなりゃ、俺だって、こんなとこで留まってらんねぇんだよ」


「なるほど……。この第三航路もそれなりの問題があって、諦められた封印技術って聞きましたけど。無理を押して、打通させるだけの理由はあるって事ですね。確かに、十万光年を軽く飛び越せる……真空の無重力空間であるが故にエーテル空間よりも遥かに自由が利くってなれば、装備開発なんかも資金や人材はもう天井知らずってなりますよね」


「アスカ陛下のおわすマゼラン星雲の惑星アスカと、こっちの連絡ルートの確立は、我が帝国の至上命題となったんだ。なにせ、その暁には人類の活動領域が爆発的に増大するって事なんだからな……。要はこれは未来へ繋がる……希望の道ってとこなんだ。どうだ? さすがのお前もちょっとはわくわくしてくんだろ?」


「はへぇ……。宇宙を亜光速ですっ飛ぶのもすごかったですけど。お隣の銀河マゼラン星雲にまで飛び出す……なんとも夢がありますねぇ」


「……今の世の中、もう行けるところは行き尽くしたってことで、マンネリムードが漂ってやがったが、銀河の果ての更にその先に無限の宇宙がそこにある……まぁ、当たり前っちゃ当たり前なんだがな。そして、そんな無限の宇宙に手が届く……そう思えば、誰だってワクワクしてくるに決まってる。アスカ様もそう言って、外宇宙遠征艦を繰り出して、地球外紀元文明とと出くわして、よろしくやってたりしてたが。いよいよ、銀河を飛び出しちまうとはなぁ……やっぱ、あの方はスケールってもんが違うぜ!」


「なるほど、さすがアスカ陛下! 我らがアスカ様ばんじゃーい! ってそうなる訳ですね!」


「おお、解ってんじゃねぇか。お前も俺らの仲間である以上、ここはいっちょアスカ陛下の為に、身命を尽くしてくれや! つか、俺らはそのアスカ様の救援に向かう第三航路打通計画の基幹部隊なんだぜ? 路頭に迷うところだったお前を拾ってやった恩……きっちり返せよ!」


「うふふ、ちょー高待遇で拾っていただいた以上は、この私も全力で任務了解ですって! おまけに、素敵なガチムチマッチョソルジャーズや、厳ついけど根は優しくてストイックな艦長さんゲットとかもう最高ですっ!」


「……お前のそう言うとこ……いちいち調子狂うよなぁ……まぁ、いい。どうやら、少しは静かになってきたようだな……。思ったよりもあっけねぇな……」


「はいっ! 第一波沈黙です! いやはや、思ったよりしぶとかったけど、急に静かになったってことは撃退成功って事ですよね? この辺は空襲と一緒ですね……あれも始まるのは突然で終わるときはスパッと終わるんですよ」


「おお、アレだけデカかったのに、すっかりバラバラになって、てんでバラバラにビクビク動いてる程度で、完全に虫の息って感じじゃねぇか。例の波動粒子砲が当たったとこなんて、ゴソッと消えてんのか。こりゃ、マジで特攻兵器って感じだな!」


「ええ! シュミレーション以上の戦果じゃないですかね……これ。事前予想だとモリモリ侵食されて、あっちこっち汚染ブロックパージして、フェアリィも何機か食われて、味方が破壊処分するって……そんな予想だったのに、未だに損害ゼロですよ! これって、凄くないですか?」


 ……過去の事例と照らし合わせた結果からは、そう言う予想だったのだ。


 なお、最悪想定ではジュノーが侵食されて、緊急シャットダウン状態で漂流しつつゲート再開放まで、侵食された艦内防衛システム群との歩兵部隊による時間稼ぎの決死の戦い……そんな厳しい状況となる可能性も予想されていた。


 ジュノー本人は、その高い冗長性で簡単に乗っ取られないと予想されていたが。

 彼女の手足と言える艦内各所のシステムも同様かと言えば、そこは微妙と言えた。


 だからこそ、ゲーニッツ達はそれらを織り込んだ上で、手動による操艦訓練を重ね、相応の犠牲を出すことを前提に、突入実験を強行するつもりでいたのだ。


 だが……急遽大和からジュノーに提供され、搭載された激しく胡散臭い装備。


 波動粒子機関と、それらを応用したフィールドシステムとエネルギー生命体特攻兵器……波動粒子砲の力は本物で……姿なきエネルギー生命体……ゲートキーパーの第一陣を軽く一蹴してしまっていた。


「この分じゃ、ゲート向こうで待機中のコットンとフラムの奴らも出番なしってとこか。まぁ、結構なことだな」

 

 フレッチャー級駆逐艦コットンとフラム。

 長年のジュノー直属艦であり、縁故採用という事で、ジュノーのお願いでこの二人も同様に帝国軍へ採用されていた。


 なお、二人はすでに艦艇撃沈で漂流していたところを帝国軍に救助され、一流ホテル暮らしのような収容生活を送るうちに帝国への敵意は完全に消え失せ、ジュノーの声かけに二つ返事で帝国軍への参加を了承していた。


 なお、彼女達は這々の体で逃げ延びてくるであろう、ジュノーの救援と、ゲート封鎖までの時間稼ぎの為に配置された戦力で、スターシスターズ艦であることに加え、やはり大勢の人間が乗り込むことで、乗っ取り対策がなされた艦艇だった。


 一応、低出力仕様ながら、彼女達も波動粒子機関を搭載しており、万が一、ゲートの向こう側までゲートキーパーが追撃してきた場合に備えて、今も臨戦態勢で待機中のはずだった。


「ですねー。ひとまず、敵の攻勢はしのぎました! 波動粒子兵器もバッチリ効くことも解って、データもきっちり取れたから、もう完璧じゃないですか。もうすぐゲート開放の時間です……! 今のうちに、ささっと逃げちゃいましょう! フェアリィ隊の皆さんも直ちに母艦へ帰還! 律儀に揚陸ユニットのデッキの中に、着艦とかしなくていいですけど、船に乗りそこねたら、置いてっちゃいますからね! みんな、いそいでーっ!」


 周辺に展開していたワイヤーロープで繋がれたフェアリィ隊も全機健在だった。


 なお、このフェアリィは5m程と小さな人型機動兵器なのだが、兵装と機体操作系はすべてフルマニュアルコントロールと言う素人お断り仕様機だった。


 なお「妖精の目」とは、搭乗する強化人間の外部システムとして、ケーブル付きのヘルメットに内蔵された情報収集機器のことで、強化人間の視覚システムと動悸することで、エネルギー反応偏りを視覚情報化する……そんな機器だった。


 このシステムの利点は、ジュノーのエネルギー偏差測定レーダーのみならず、複数視点での多角的観測結果を得られる点だった。


 一方向から一点からの視点では解らないことも、違う角度からの複数の情報があるなら、不自然な反応も見分けられるし、実際ゲートキーパーの擬態を早いうちから看破できるようになったのは、このフェアリィの妖精の目のおかげだった。


 もっとも、それ以外の電子装備は皆無。

 

 実のところこのフェアリィという機体……ひたっすらアナログのとんでもない旧式機に近かった。


 こんな代物を採用するくらいには、帝国軍も徹底して乗っ取り対策を立てており、このフェアリィもアナログ仕様ながら、その実、対エネルギー生命体用に新規設計した完全新型機だった。


「……ゲーニッツ艦長! 改めて自分報告です! フェアリィ隊、全機無事を確認。侵食された機体もなし……まぁ、何機か手足が言う事聞かなくなった機体があったみたいですが、ツーマンセルで展開してたんで、相棒がぶった切って撤退させたみたいで、いずれも被害は最小限でした。いやぁ、さすが……帝国軍の最高精鋭だけはありますね。あんなフルマニュアル操作の人力操作なんて言う、頭おかしい職人仕様の機体を平然と操って、こんな訳の解らない敵を相手に損害すら出さないなんて……」


 なお、フェアリィの動作機構自体も限りなく機械式パワードスーツと言ったところで、真空倍力装置と言う20世紀の乗用車などに採用されていた化石テクノロジーを応用し、最小限の電子装置だけで、自在に動かせる機動兵器と言うコンセプトで設計されていたのだが。


 その操縦方法は、死ぬほど重たいレバーを上下に動かしたり、複数あるハンドルを忙しく回したりと言った機動兵器としてはあり得ないようなヒューマン・インターフェースで構成されており、搭乗者達も大汗をかいてヘトヘトになりながら、なんとか操縦していた。


 要は、力技……それも人力を原動力とする仕組みで、搭乗者も生身ではとても務まるはずはなく、強化人間が操縦することで、なんとかまともに動かせる……そんな代物で、反応速度などもありえないほど低かった。


「まぁ、ゲートキーパー対策としては、コンピューターや高度な技術は最低限で、人間の力を活用すべきってのは、前々から言われてたからな。お前こそ、問題ないか? ぶっちゃけ一番、危なっかしいのがお前なんだがな……」


「ん……と。第8ブロックの外部ハッチが開放状態のまま閉じなくなってますね……。ちょっと、大きめの欠片があたったみたいなんですが……。念のため、応急処置として、充填剤使ってブロック単位で物理的に隔離しときます。後で電子エネルギー生命体のデータ取りにでも使ってください。要は生け捕り成功! ……そんなところですね。まぁ、サンプル回収できたと思いましょうか」


「なんとも危なっかしいことするなぁ……おい。だが、あんま、調子のんなよ。俺達には無害みてぇなんだが、あれは、お前らにとっては相性は良くねぇんだ……って、おいっ!」


 今しがたまで、笑顔だったジュノーが唐突に青い顔をして、ヘナヘナと座り込むと頭を抱えていた。


「あ、ありゅえー? ゲーニッツかんちょー、ど、どうも……ちょっとしくじっちゃったみたいです……えへへ……。って、コレやっばぁっ! ごめんなさい、ゲートキーパー舐めてました! え、ナニコレ、ナニコレ! ……ハードウェアレベルでどんどん侵食されてる! と、とりあえず、緊急避難……ゲーニッツ様の愛の拳でシャットダウンを希望しますっ! 切にっ! どうぞガツンと一発!」


 無言でゲーニッツがジュノーの脳天にチョップをカマしつつ、緊急停止コードをボイスコマンドで入力する。


 別にチョップは要らなかったのだが、本人も幸せそうな顔で崩れ落ちていき、この程度のスキンシップは二人にとってはいつものことではあったのだが。


 遠慮も容赦もなくなってきつつあるあたり、ゲーニッツも順調にジュノーの艦長になりつつあると言うことだった。


 すかさずゲーニッツも倒れ込みかけたジュノーを抱きとめると、そのまま抱きかかえると、優しげな手付きで手近な椅子に座らせると、毛布をかけてやる。


 この辺りがゲーニッツの人柄が滲み出ているところだった。

 厳つい強面に反して、彼は女子供にはひたすら優しい。


 彼はその昔、まだまだ幼かったアスカとモラトリウムで出会い……初っ端そのフケ顔と強面でビビらせてしまって、泣かせてしまったと言う過去があったりもするのだが。

 

 それだけに、女子供にはとことん甘く優しくすると言うのは、もはや彼の信条となっており、実は結構モテていたりもするのだが……。


 ガチ軍人にありがちなストイックが服を着て歩いているような人物なので、そう言った浮いた話の一つすら無かったのだが……いずれにせよ、緊急事態の発生を自覚したゲーニッツも冷静に対応することにした。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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