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第五十九話「海戦勃発!」①

「……すると、なにか? お前たちのコロニーが襲撃されて、お前は助けを求めに来た……そう言うことか?」


 実際は、もっと長々と話していたのだが。

 要約するとそんな感じだった。


「そうなのだ……。ワタシ達は戦いはあまり得意ではないのだ……。ヤツの前には、皆散り散りになって逃げるのがやっとだったのだ……」


「……そちも、なかなかに大変だったのであるな。ほれ、魚もっと食うか?」


 大和殿が深いため息とともに、バケツに入った魚をイカ様に見せると、目を輝かせながら、目一杯抱え込んで次々と食っていく……。


 何と言うか、知的生命体ではあるようなのだが、微妙にバカっぽいし、なんとも燃費の悪そうな生き物であるな。


「嬉しいのだー! こんなにいっぱい食べれたのも久しぶりなのだー!」


 結構悲惨な目にあったと言うのに、当人は元気なものだった。

 まぁ、メソメソと陰気臭い空気を撒き散らされても、気分が悪いからな……。


「まぁ、そうだな。このまま、見捨てるのも目覚めが悪い。そのタライに浸かっているだけでも十分というのなら、このまま一緒にルペハマまでご同道頂こう……。まぁ、その上で細かい話や、経緯を聞き……その襲撃者の対策も考えねばならんな」


 どのみちそろそろ、引き上げる予定ではあったのだ。

 このイカ様も少しは休ませてやるべきだろうしな。


 それに、謎の襲撃者についても……。


 宇宙に住んでいると、忘れそうになるのだが……。

 海というものは、水がある限り、全て繋がっているのだ。


 イカ様のコロニーを襲撃した何ものかが、今度はルペハマに現れても、何ら不思議ではないのだ。


 まったく、そう考えるとこの海という環境……。

 なかなかに厄介だな……大和殿がまっさきに、海上戦力の整備を言い出したのも納得だ。


 もちろん、陸上戦力が相手なら、海と言う物は強力な防壁として機能するのだが。

 海中に最適化した生物系の海中戦力が相手だと、海中は完全に向こうのフィールドであり、陸上戦力側にとっては、完全にアウェーなのだ。


 しかも、海底地形も大和殿の話だとかなり複雑なようで、さらなる調査が必要とも言っていた。


 実のところ、今はかなり危険な状況なのではないか。

 そんな想像が頭をよぎる……。


「エルレイン殿……現時点にて、漁船団を直ちに引き上げさせろ。まもなく、日も暮れるであろうからな。どうも、嫌な予感がする……長居は無用であるぞ」


「は、はいっ! 直ちにっ!」


 はっきり言って、なんの根拠もないのだが。

 それでも、エルレイン殿も即答で漁師たちに指示を出し始めていた。


「……やけに素直だな。もしかして、なにか気付いていたのか?」


「はい、実を言うと、港に残してきた長老格の漁師が……今日は風が良くないから、やめた方がいいとか言ってまして……。皆、意味がわからないと言って取り合わなかったんですが……。警告だったんですね。それに、何人かも先程からそろそろ、潮時だと言っていて……すみません! どれも確証に足る話ではなかったので、私のところで止めていて……。ええ、そうですね! 急ぎ撤退を……!」


 ……まったく、呑気にしていたのは私……だけと言うことか。


 大和殿が色々足りないことを承知で、海中警戒を厳にしていたのも、敵の気配を感じていたのかもしれない……。


 いつのまにか、誰もが最大限の危機感を持って動いていた。


 そして、私はその事に気づかなかった……心から悔やまれる。


 漁船団もあっという間に網を上げて、錨を捨てて、我先にと引き上げて行っている。

 だが、その歩みはあまりに遅い上に、何隻かはその場に留まっており、ジリジリとこちらの前に出てきていた。


 それらの船の舳先には、銛やナタを持った男達が並んでおり、臨戦態勢を取っているようだった。


 リンカも警戒態勢になって、猫耳を立てているし、涼月や冬月の二人も舷側部へ向かうと、周囲を睥睨する。


 なんと言うべきか……周囲を圧力のようななにかが、覆い尽くし押しつぶそうとしている……そんな感覚がする。


「大和殿……これは……?」


「……アスカ陛下! こりゃ、ちょっと不味いことになってきたな。何かが……来るッ!」


 大和殿が鋭い目つきで沖の方を睨みつける。

 む? この感覚は……!


「アスカ様! ……来ます!」


 そう言って、リンカが耳をピクピク動かすと、座り込んで腕にコイルガンを展開する。

 

 同時に、全身が総毛立つような感覚。

 これは……殺気だ! しかも、とてつもなく強い……ッ!


「大和殿っ!」


「解っているぞ……これより、我が大和が前に出る! エルレイン殿……すまんが、前に出ようとしているバカ者共を引き上げさせろ!」


「ま、まさか、我々に真っ先に逃げろと?」


「むしろ、当然であろう……。帰り道は自力で戻ってもらうことになるが。ここに留まるよりはマシだと思う。コレより始まる戦は、エルレイン殿達が想像しているような生ぬるいものではない……大人しく引き上げることを勧める! さもなくば……死ぬぞ」


 さもなくば、死ぬ……。

 一瞬で、今が非日常である事を思い知る言葉ではあるわな。


 エルレイン殿もなにか言おうとしていたようなのだが、青ざめた顔をして、言葉が出てこないようだった。


「エルレイン殿、すまんが……アスカ陛下の言う通りなのだ。調子に乗って、沖に出過ぎてしまったか……。いや、これはナスティちゃんの追手……そんなところか。すまぬが、これよりこの私が陣頭指揮を取る……! アスカ陛下も海戦の指揮など、経験なかろう」


「舐めてもらっては困るな……。エーテル空間や惑星地上での戦闘指揮くらいなら、経験あるぞ」


「甘いわ……。エーテル空間や、猫の額のような広さしか無い海の戦いなんぞ、経験のうちに入るか! ここは我に任せろ……生兵法は怪我の元と言うぞ?」


「言ってくれるな。だが、経験値ではそちらが上だ……いいだろう、この場は任せる」


「ああ、任せておけ! しかし、本当に敵が海の底からやってくるとはな。エルレイン殿は何か知らんか? 海の民なら、色々伝承やらもあるだろうし、そもそも沖に出るのも、今回が初めてではなかろう」


「……そ、そうですね。今まで幾人もの腕自慢や冒険家が沖を目指したのですが……。その誰もが戻ることもなく……。ただ一人、命からがら逃げ戻ってきたものも重傷を負っていて、海竜が……と言い残して、事切れたそうで……。以来、我々も常に陸が見える範囲から遠くには行かない。そんな風になってまして……」


 ……なるほど。

 ルペハマの民も大人しく、沿岸だけに留まっていたわけではなく、幾度となく沖を目指したということか。


 だが、沖に出るたびに謎の巨大生物に襲われて……そう言う状況だったのか。


 確かに、皆……大和殿に同行するだけのはずなのに、当然のように武装し、船も割りと大きめの船も出てきていたのは、何もかも承知の上……だったのか


「まったく、我が物顔で海を統べる存在……と言ったところか。むしろ、教訓をあたえてやりたくなるな……どうだ? リンカ、大和殿……やれるか?」


 リンカの耳の向きは斜め下……リンカも足元から殺気が迫ると言うのは、未経験のようで途方に暮れたような顔をしている。


 まぁ、リンカも帝国流で鍛え抜かれたとは言え、眼下の敵への対応となると厳しいか。


「そうだな……楽勝とは言わんが、我らが力……存分に発揮するまでのこと! 冬月、涼月……貴様らは、我が耳目となれ!」


 涼月と冬月の二人は船の左右に陣取っていて、そろって頷くと鐘を鳴らしながら、鉄の棒を沈める……例の即席ソナーで索敵を開始している。


 やがて、身振り手振りで忙しくすると、大和殿もコクコクと頷く。


「……ふむ、感あり……目標、確実に我が方へ近づきつつあり……深度50mといったところか。やはり、潜航タイプか……大きさは推定ながら100m級。黒船の駆逐種程度の大きさだが、さて、どうしたものかな? 先程はああ言ったが、アスカ陛下ならこの状況で、どのような戦術を考える?」


「戦術も何も……水中の敵相手では、こちらからは何も出来まい。まぁ、手出しに来て、浮かんできたところをカウンターでぶん殴って、怯んだところで一気に撤退……それくらいしかやりようがないだろうな」


 対潜装備など、そんなものはない以上、どうしてもそうなる。

 もっとも、相手は生物……であれば、飛び道具はない。


 ならば、海面から顔を出したところで、思いっきりぶん殴る……それしかないだろう。


「ほほぅ、てっきり正々堂々と、正面から迎え撃つ算段でもしていると思ったのだが。一発かまして逃げるとな? なんなら、我を捨て駒にしても文句は言わんぞ」


「……バカを言うな。こんな不利な状況下でこんな訳の判らん敵を真面目に相手などしていられるか。だがまぁ、さすがに、この状況だ……漁民達が逃げる時間を稼いでもらおうと思っていたのだが……問題あるか?」


 私がそう断言すると、大和殿は高らかに笑う。


「……何を笑う……こんな時に……」


「いや、思わずな……。いやはや、アスカ陛下……お主、実にいいな。つまり、この戦いは逃げ場のない退けぬ戦いではなく、いくらでも退ける戦いで、初めから撤退一択ということか? 一発殴って、さっさと逃げろと? とても指揮官の言葉とは思えんな」


「……むしろ、当たり前ではないか。我が帝国軍の戦いは、いつもまずは退くことから始まるのだ。こういう状況では、お前らスターシスターズは、いつもいつも嬉々として突っ込んでいき……徒に犠牲を出す。よいか? 戦において、戦力とは無限ではないのだ……退ける場所があるなら、迷わず退く……その上で敵を知り、優位を確保した上で反撃に移る……それの何が悪いのだ」


「いや、上出来であるぞ。そうか、そうか……確かに、帝国軍の逃げっぷりはいつも鮮やかなものだと思っていたが、それが軍の基本戦術規範……ドクトリンにまでなっているという事か。何と言うか、逃げるを恥としない……それが当然。まったく、前代未聞の軍勢であったのだな」


「ふん、戦争とは如何に負けない戦いをするか。そこが肝要なのだ……例え、戦場で100連敗を喫しても、最後の一戦で勝つ……今回のお前達と我が帝国の戦いもそうやって、貴様らは一杯地に塗れ、我が帝国軍は勝利した……そう聞いているぞ」


「我は勝者たる貴様らに組みしたのだから、そこはちょっと訂正してくれ……我も勝者の側という事でよろしく頼む。だが、やはり……貴様ら、帝国と組んで正解だったな! ああ、悪くない……アスカ殿の采配も全面的に信じるとしよう……。つまり、これは撤退戦……そう言うことでいいのだな?」


「ああ、そう言うことだ。いいか? たった今、陸から可能な限りの援軍を出し、陸でも我が軍勢にルペハマ近郊の沿岸部に陣を敷き、戦闘配置につくようにお母様経由で命じたところだ。大和殿の役目はできる限り、敵の戦力を図りながら、損害を最小に留めつつ、陸へ向かって撤退しながらの遅滞戦闘を挑んでくれ。すまんが、これが私の考える最善の戦術だ……この場は、大和殿を頼りにさせてもらうぞ」


「心得たっ! そう言う事なら、こちらも最善を尽くそう。だが、いかんせんデータ不足でな……。さすがに、ここで敵との遭遇戦は、我も想定外だ。しかし、何も実験船の試験航海中に来なくてもなぁ……。せめて、まともな武装を用意すべきだったか……」


「まぁ、戦とはいつもそんなものだ……。多少なりともデータが集まっていたのだから、まだ良かった。して、大和殿はどう出る? この感じだと、かなり大きいな……確かにこれは厳しいかもしれんな」


「冬月と涼月が言うには、長細くて100mはあって、ウネウネと蛇行している物体と言っているのでな。間違いなく生物……恐らく、ベビとかミミズのような巨大生物だと思われる……。まぁ、対抗戦術と言っても、対潜魚雷や爆雷も無ければ、対潜スピアー弾もない。やれそうな事としては、アスカ陛下の言うように、襲いかかるために浮いてきたところを、出会い頭に鼻っ面を一発ぶん殴って、ダメ押しにこの大和をぶちかました上で、こちらは身体一つで脱出し、一目散にずらかる……そんなところだな」


 ……雑な戦術だが。

 現状、何もかもが足りない……。


 それくらいしかやりようがないか。

 どのみち、死んでも戦えなどと命じるほど、私も愚かではない。


 ここは、真面目に相手をせずに撤退一択なのだ。


「……どうやら、一緒に海水浴をする羽目になりそうだな。もっとも、このヴィルデフラウの身体は真空中でもなんとでもなりそうだからな。いざとなれば、海の底を歩いて帰るか」


「そいつは傑作だな。はっはっは!」


 戦を前に笑い合う。


 お互い、豪胆なことで何よりだ。


「はわわわわ……すまないのだ! きっと、ワタシがアレを連れてきてしまったのだ……。これでは、お前達を巻き込んでしまったようなものだ……。ごごごご、ごめんなさーいっ!」


 ナスティちゃんが、触手を擦り合わせて、ペコペコと頭……のような部分を折り曲げて、ギュっと目をつぶる。


「気にするな。義を見てせざるは勇無きなり……と言う。困ったヤツを助けてやって、巻き込まれたとしても、それはむしろ本望であるな」


 だが、銀河帝国の皇帝とは、そうでなくてはならない。


 誰も泣かない……誰もが幸せな世界を作る以上、目の前で泣くものを見捨てるなどあってはいけないのだ。


 それが別にイカでもタコでも、涙を流せるような……心もつものならば……。

 我が身など顧みずに、迷わず救うべし……それでこそ皇帝……であろう?

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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