表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

250/312

第五十七話「邂逅」④

 もちろん、そんなゼロ陛下も外交の席などでは、完璧と言える礼儀作法を心得ていたのだがな……。

 ゼロ皇帝の完璧なる国家元首としての立ち振舞いに皆、憧れていたのもので、何より女性達からは絶大なる支持を受けており、その辺りはこの時代でも変わりなかった。


 礼儀正しく超絶カッコいい美形皇帝。

 

 初代陛下はそう言う意味では、完璧な存在だったのだ。

 

 それだけに、この大和とやらが随分な態度なのは流石に気に障る。

 例え、ゼロ陛下が許しても、この私が許さん……ここはガツンと言ってやるべきだろう。


「ふむ、そちは何者ぞ? ああ、私は……今代の銀河帝国皇帝……クスノキ・アスカであるぞ。一応聞くが、そなたはどこぞの国の王族か貴族か何かなのか? なんと言うか、この場にそぐわぬ随分と偉そうな態度であるなぁ……」


 もっとも……この手の先天的に偉そうな者達と言うのは、覚えがある。


 長きに渡る高貴なる血筋とか、そう言うのをアイデンティティにしている者達だ。


 歴史と血筋しか、誇れるものがなく、裏打ちとなる実力も無いとなると、せめて舐められないようにと、ワザと尊大に振る舞う……そう言う者たちも世の中には少なからずいるのだ。


 まぁ、銀河連合諸国の統治者達や、この惑星の貴族や王族共の事なのだがな。


 だが、この者はそれら有象無象とは明らかに違う。


 強烈な実力と、それ故の自信に満ち溢れている……そして、それ故の尊大さ。


 どうもそのような類のようだった。


 意趣返しとばかりに、私も足を組んで、尊大な態度でふんぞり返って、頬杖をついて見せる。


 ゼロ陛下もそれを見て、面白そうに笑う。


 まぁ、身体のサイズには恵まれていないせいで、威厳が足りていないのは、承知だが、ここで卑屈になる訳にはいかんのでな。


「如何にも……我は星の眷属たる星乙女……スターシスターズの王……大和である。ふむ、そなたが今代皇帝か……。のう、ゼロ陛下……その者、やたら横柄なようだが、陛下に対しこの態度はなかろう」


 あん? こやつ棚上げという言葉を知らんのか?

 まったく、なかなかいい度胸をしているな。


「……僕はいわばOB皇帝だし、今も正式には皇帝代行ってとこだからね。我が帝国で規定されている皇帝同士の格としては、現役皇帝のアスカ陛下の方が僕より格上なんだよ……。つまり、この場で一番偉いのは誰って言われたら、当然ながらアスカ陛下って事になる。そんな訳だから、僕以上に敬意を払って欲しいな。それに何よりも……だ。君のお願いが叶うかどうかは彼女の気分次第なんだよ。……この場でどう振る舞うべきかは、もう言わずとも解るね?」


 ゼロ陛下が軽い調子で告げると、九尾狐少女は目を見開いて、しまったーとでも言いたげな顔をすると、大慌てで偉そうに組んでいた足を解くと、背筋を正してこじんまりと座り直す。


 ついでに、フヨフヨと落ち着き無かった尻尾も広げた扇のようにピーンと張る。


 ……ものすごい手のひら返しを見たな。


 だが、私の勝ち。

 一本先取と言った所か。


 とりあえず、理解がいまいち追いついていないのだが。

 ひとまず、それで良いと言わんばかりに鷹揚に頷いておく。


 ……なにせ、この場で一番偉いなどと言われてしまったからには、大物感の演出の一つもすべきであり、些事にいちいち取り乱したりしてはならんのだ。


 それで、どんな芸を見せてくれるのだくらいに、鷹揚に構えるくらいで丁度良いのだ……たぶん。


「……これは、大変失礼した! 随分とちんまりした見かけ故に侮っていたが、確かに貴女のまとう魂のオーラの格は余人とはまるで違う……。ゼロ陛下に匹敵するか……或いはそれ以上。これは思った以上の大物のようだな……」


「ま、まぁ……私は気にしておらんぞ。うん……ひとまず、楽にしていただいて結構だぞ」


「ほほぅ……その上、多少の無礼にも動じない程には寛容と来たか……。なるほど、これは……まさに銀河を統べる王の真打ちと言ったところか! そう言う事ならば……我としては最大限の敬意を払わねばなるまい……! では、アスカ陛下……とくと見るが良いっ! これが我が誠意であるぞ!!」


 そう言って、九尾狐殿が立ち上がるとその背後に、スポットライトで照らされた謎の畳表の和室のような空間が作られると、腕を交差させて片目を覆う奇妙なポーズを決めると、謎の古臭い雰囲気のBGMが流れ出す。


 ふむ? 古代地球クラシックであろうか。

 なんとも勇ましい曲ではあった。


「汝、刮目せよっ! そして、余すところなく見るが良い……我が全力の……魂を込めた誠意をっ! うーりゃーっ! とぅーっ!」


 そして、唐突に盛大に飛び上がると空中で派手にくるくると回転し、そのまま音もなく、華麗に着地するとそのままの勢いで、流れるように土下座を決める。


 最後に落ち着きのなかった九つの尻尾が流れる滝のように、一斉に力を失い彼女の背後へとしまい込まれると、唐突にBGMも止んだ。


 ……流石の私ももはや呆然。


 なにこれ?


「……ああ、その……なんだ。これは、彼女の芸風とでも思っておけばいいかな?」


 ……アクロバット土下座。

 

 そんな言葉がフワッと脳裏に浮かぶのだが、同時に長ったらしい、アルファベットと記号やらの羅列が脳裏に浮かんでくると同時に、幾重もの円と九つの炎のような模様が複雑に絡み合った幾何学模様が手の甲に写し込まれる……。


「こ、この紋様はいったい……? それに、いきなり謎のアルファベットと記号が頭に浮かんできたのだが……」


「ああ、それは彼女のプライマリーコードだよ。その紋様を彼女に見せた上で、プライマリーコードを付与した命令を発令すれば、彼女はどんな命令だろうが問答無用で実行する。例え、それが死ねと言う命令だろうが、罪なき人々を虐殺せよと言う非人道的な命令だったとしても……なんだよね? 大和くん」


「如何にもだ。その紋章クレストを預けた上で、プライマリーコードを預けるというのが、本来のプライマリーコードの使い方なのだ。言っておくが、スターシスターズ達が無責任に乱発していた新規発行すれば、無効になるようないい加減な代物ではないぞ。まさに絶対命令権なのだ……慎重に取り扱ってくれる事を祈るぞ」


「……あれってそう言う事だったんだねぇ。確かに絶対命令権とか言ってる割には微妙だとは思ってたけど。最初、聞かされた時は驚いたよ。いずれにせよ、君のプライマリーコードと紋章は、僕からアスカくんへと受け継がれたということだね」


「そう言うことであるな……すまんが、絶対命令権である以上、それはお一人様限定なのだ。だが、一応言わせてもらうと、これの使用は極力控えてもらいたい。なにせ、本来ならば、こんなものは必要ないのだからな」


「確かにな……命令でしか人を動かせない……そんなものは、皇帝の風上にもおけん。人を動かすのに必要なのは、信頼関係……なのだからな」


「そう言う事だな……さすがにちゃんと解っているようであるな……重畳、重畳。まぁ、これは我の気持ちとでも思ってくれると良いぞ」


「実際……永友提督は、そんな物を使わずとも、君の同胞から絶対と言えるほどの忠義を得ていたし、アスカくんの部下……ゲーニッツ大佐みたいに、実力でその信頼を勝ち取ったものもいるからね。つまり、彼女としては、そんなものに頼らない信頼関係を築きたい……そう言いたいんだろう」


 何とも懐かしい名が出てきたな。

 ゲーニッツ中佐……我が直属の特務部隊の指揮官の一人だったかな。


 そして、特務部隊指揮官のロズ准将は、我が師と言うべき人物だった。


 彼女は名もなく、役割も何一つ持たなかった私に名を与え、皇帝への道を指し示し、私の人生の道標となり、私が工程になってからも、私の腹心として、影に日向に支えてくれた一人だった。


 彼女が自らの部隊を直率して、銀河守護艦隊の根拠地壊滅と引き換えに戦死したとの報を聞き、私は掛け替えのない盟友にして、人生の師を失った事に大いに嘆き悲しんだものだった……。


「まぁ、そう言うことだな。よいか? それは我らが魂の誓い……そして、主と認めた者への忠義の現れとも言えるのだ。そして、それを委ねたからには、アスカ陛下は正式に我が主となったのだ。言っておくが、クーリングオフで即返品とか悲しいことを言わんで欲しいぞ……。そんな事をされた暁には、我は立ち直れる気がせん……後生である! 我を……受け入れてくれ!」


 言いながら、土下座ポーズのまま、涙目で見上げる大和殿。

 なんだこれは? これでやっぱ要らないと言ってしまったら、私はまるっきり鬼ではないか。


 まぁ、確かにスターシスターズの大和と言えば、大物中の大物だった。

 なお、私も大和と言う大型戦艦が銀河守護艦隊の要と言える指揮統率艦だと言うことは見抜いていたのだが。


 常に後方に配備されていて、幾多もの護衛艦が四六時中張り付いていて、最優先攻撃目標だとは理解していたのだが……。


 その行動は常に消極的で、その端々からこっちからは撃たないから、先に撃ったりしないでくれと言う暗黙のメッセージを送ってきているような様子だったので、敢えて手は出さずに居たのだ。


「解った、解った……。望んで我が配下として仕えると言う事なら、私としては来る者拒まずだ……。貴公は正式に我が配下としよう……これでよいな?」


「願ってもないお言葉であるなぁ……。いやはや、ゼロ陛下……色々と世話になったな! そう言う事なら、今後我はこのお方に仕えるとしよう……これにて、お互い貸し借り無しであるな!」


「いやいや、こちらこそ……色々と助かったよ。今回の戦い……君のおかげで勝てたようなものだったからね。ひとまず、今後どうするかは、二人でじっくりと話し合ってくれればいいよ」


「う、うむ……それはいいのだが、大和殿……。今の私の所在は銀河から16万光年の彼方……マゼラン星雲なのだ。私に仕えるのは良いが、どうするつもりなのだ? さすがに、いちいちこうやってアストラルネット経由で細々命令を出すつもりもないし、銀河帝国についてはゼロ陛下にお任せするつもりなのだ。さしあたって、命じたい事もないし、大和殿が出来ることもあまりないと思うのだが……」


 私がそう告げると大和殿は指を振る。


「チッチッチ、正確には16万8000光年であるぞ。そうだな……我としては、元より先んじてマゼランへ進出しているアスカ陛下の側仕えとさせていただく方針だったのだ。なぁに……我もこのアストラル界については、理解があるのだ。そうだな……惑星アスカにて、自由に動かせる人型インターフェイスユニットでも用意いただければ、そちらに我が分体を派遣できる。そうなれば、我が持つ技術を用いた上での海上戦闘艦艇……ひいては宇宙戦艦の建造と運用すらも、容易く出来るぞ! どうだ? マゼランの覇者を目指すアスカ陛下にとって悪い話ではなかろう」


 ……いつの間に、そんな話になったのだ?


 確かに、惑星アスカを接収するのは、私としては既定路線なのだが。

 そこから、星系外にまで支配領域を広げるとなると、また別の話なのだがな。


 もっともひとつの惑星を接収し、星系そのものを支配下に置くとなると、今度は宇宙の敵対者の迎撃警戒網の構築のために、近隣星系も接収……これも当然の話だ。


 いずれ敵対星間文明が現れたら、その根拠地を殲滅すべく、その道程に遠征中継点を確保すべく、進出……これも必要となる。


 まぁ、随分と気の早い話ではあるが。

 マゼラン方面への帝国の拡大ともなると、それくらいは想定せねばならんからな。


 それに何よりも銀河帝国との連絡路の確保……それこそが最優先とすべきなのだが。

 分体の派遣……そんな事が可能かどうかについては、すでにユリコ殿と言う前例がある。


 同じやり方でスターシスターズの意識体のみを転送、定着させて、向こう側での身体とするのは不可能ではないだろう。


 もっとも、そこら辺どうするかについては、お母様に丸投げなのだがな……。

 

 確かに、スターシスターズの頂点を我が配下として、手始めに惑星アスカ統一戦に参戦させるのは悪い話ではない。

 惑星上空からの観測結果では、この惑星は広大な海洋があり、確かに現状海上戦力の拡充は最優先課題の一つではある。


 だが……そうなると、この者の動機が気になる。

 彼女達も人間同様、なにか行動を起こす際には動機というものがあるはずなのだ。


 何の利害関係もなく、口先だけで手を貸すとか言ってくる輩が信用できるはずがない。


 その辺り、彼女の口から私を納得させるだけの理由を語ってもらわないと、私としては頷けないのだ……。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ