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第五十七話「邂逅」③

「まぁ……この正装は私も気に入っていたからな。確かに邪悪っぽいデザインではあるのだが、これは要は開き直りであるからな。銀河連合の国家元首共が集まる中へ、我ら七皇帝がこの正装を着て、現れた時の奴らの顔と言ったら……見ものであったぞ」


「あはは、なんか解るね。僕がエスクロン社国の国号を銀河辺境帝国に変えたのも似たような理由だったからね。さすがと言わせてもらおう。そして、その正装と君の帝国……第三帝国の紋章を堂々と掲げる辺り……。今も変わらず皇帝なのだと、君が忘れていない証左なんだろうね」

 

「それは、むしろ当然の話であるぞ。私は、何処に行こうが、どうなろうが……例え死しても、銀河帝国の皇帝であることに変わりはないのだ。いや、それ以外にはなりようが無いと言うのが正確なところだな。ゼロ陛下ならば、この気持ち……理解できると思うのだがな」


「いや、同感だ。そこは全くの同感だよ……。僕らにとって、それは言ってみれば共通認識だよ。僕だって、引退宣言をした時は、しばらく抜け殻みたいになっちゃったからねぇ……。そして、僕が銀河帝国という概念の具現化存在であるように、それは君もまた同様なんだろうね」


「ああ、言いたいことは解るな。我ら、生れ出づる時代は違えども、抱く思いは同じであろう……。我らこそが銀河帝国そのものであり、そして銀河帝国の存亡……それ即ち、我が身の存亡同様なのであるのだ」


 不遜なもの言いながら、これはもう銀河帝国の皇帝たる者にとっては、誰もが抱く矜持であり、常識なのだ。


 皇帝たるものは、誰からも何も命じられることはない。

 例え、初代銀河帝国皇帝ゼロ陛下であっても、この私に対しては、何も命じることは許されていないのだ。


 状況を識り、判断を下し、命を下す。

 言ってしまえば単純ながら、我々皇帝は帝国の意思決定システムにほかならんのだ。

 

 そして、その回答に我が意を得たりと言った調子で、ゼロ陛下も手を打ち鳴らす。


「あはは、お見事! 実にお見事な解答だ……。やっぱり、君は僕が思った通りの子だったみたいだね。なるほど……三百年の年月が経っても、皇帝プログラムは問題なく機能しているという事かな……」


「皇帝プログラム?」


「ああ、皇帝選別機関……この時代ではモラトリウムと呼んでるんだったかな? 要するに、君達が生まれ育った機関の事だよ……あれは、皇帝育成システムとしては、実によく機能していたようだね」


「懐かしいな……。数多くの皇帝候補者達と切磋琢磨し、苦楽を共にした日々。忘れようのない記憶であるな」


 各帝国に設けられた「皇帝選別機関」

 通称「モラトリアム」……。

 

 そこには国中から、その才能を買われて推薦されたり、皇帝となるべく入念に調整された遺伝子合成人間など、千人近くもの大勢の皇帝候補者の子供達や若者が集められ、未来の皇帝として相応しい教育環境を与えられ、日々誰もが激烈な競争に明け暮れる……そんな場だった。


 もっとも、弱肉強食のような殺伐とした競争や、醜い蹴落としあいなどはなく、より皇帝に相応しいと自ら認めたものへは素直に道を譲るという不文律があり、そうする事こそが美徳とされており、最終的に次代の皇帝として選ばれる者は、候補者達の総意にて決められる事となるのだ。


 そして、他の候補者達も皇帝の即位後はその手足にして側近たる皇帝補佐官や、帝国艦隊司令や惑星長官と言った各帝国の最高幹部として、自らが選んだ皇帝に終生仕えることとなる。


 まぁ、皇帝の選別と言うよりも、次世代の皇帝とその配下の育成機関と呼んでも差し支えない……帝国の力の源泉と言える機関。

 

 それが皇帝育成機関……「モナトリウム」だった。


 実際、それは極めて有効に運用され、300年もの間、帝国に規格外の暴君や無能な皇帝が一人たりとも現れなかった大きな理由でもあり、代々の皇帝が人材に困らなかった理由なのだ。

 

「……うん。我が帝国が末永く続くように……後継者育成システムの基礎を組み上げたのは、この僕なんだけど……。まさか、三百年間もの永きに渡って、安寧を築けたなんてね……。僕は君達を誇りに思うよ。そして、その集大成とも言える君は、紛れもなく我が帝国の末裔であり、我が後継者に相応しい存在だと……僕はそう認めてるんだよ」


「何とも照れるであるなぁ……。まさか初代……ゼロ陛下からそこまで言われると……。ちょっと調子に乗ってしまうぞ?」


「ああ、ぜひ調子に乗ってくれるといい。ちなみに、一応君の配下……第三帝国の皇帝補佐官達や、他の帝国の生き残ってた元候補者達にも僕が推薦するから、皇帝にならないかって打診したんだけどね……。皆、僕に遠慮しちゃってるのか、この際、潔く次世代に託すとか言っててねぇ……」


 まぁ、そうであろうなぁ。

 いくら、ゼロ陛下の推薦があり、最終候補にまで残った程の者であったとしても、謹んでお受けする……等と言うはずがない。


 むしろ、よく主君を失いながらも、未だに帝国を支える立場で居られるものだと感心するほどだ。

 なるほど、そうなると私が変わらず帝国の最高権力者……皇帝でいられるのもむしろ、当然と言う流れなのだろう。


 しかし、そうなると。

 ゼロ陛下の要望とはなんであろうか?


 まさか、銀河帝国に舞い戻って欲しいとは言い出さないだろうか?


 私はすでに、惑星アスカ……我が名を冠する惑星に我が帝国を築くことが目的となっているのだから、例え戻れるとしても軽々しくは戻れない。


 なにぶん、第三帝国皇帝たる私は、あの時……間違いなく討ち果て、朽ち果てたのだから。


 後継者達も順調にモラトリアムで育っていたから、恐らく数年もすれば彼らが次代の皇帝として私の後を継いでくれるだろう。


 だからこそ、もしも復帰の話を振られても、私としては断るつもりだった。


「して、本題はなにか? 煽てあげるために呼びつけた訳ではないのだろう。単刀直入に聞くが、現状……我が帝国はどうなっているのだ? ゼロ陛下らの再臨で危機的状況からは脱出して、帝国は一つにまとまり、銀河守護艦隊との決戦に赴く……そこまでは聞いているぞ」


「ああ、そうだね……。思わず嬉しくなって、すっかり本題から逸れてしまったよ。ひとまず、こちらの状況を報告すると……まず銀河守護艦隊はその首魁……アマカゼ・ハルカ提督の死亡が確認されたことで、全面降伏の上で解体が決定している……。そして、銀河連合についても、その最高意思決定機関たる連合評議会はこの戦争を引き起こした責任を取ってすでに解散し、希望する国は帝国と合流すると言う事で、これも現在進行形で話が進んでる。つまり、こちら側の問題はラースシンドローム関係以外はほぼ片付いているってことさ」


「さすが鮮やかな手並みであるな……。ユリコ殿が戻ってから、さして時間は経っていないのだが、この短期間でよくも事態を収拾出来たものだな」


「何事も入念な準備の上で速やかに執り行うべし……だろう? まぁ、ユリコくんが戻ってきた時点で、諸々の準備は完了してたし、君の仕掛けていた伏線もあったからね……。色々と番狂わせはあったけど、概ね想定の範囲内……いや、これは君の予定通りってところかな?」


「そうか……ならば、私の残した伏線もきっちり回収していただいたと言うことだな。だが、わざわざ私を呼びつけたのは、そんな当然の結果を告げるためだけではないのだろう?」


 ……何とも不遜な物言いではあったが。


 これでいいのだ。

 

 現役皇帝と、皇帝OBとでは現役の方が格上。

 そこは私も重々承知しているのだ。


 これは、先代皇帝などが現役皇帝に余計な口を挟んで、その意思決定に干渉し、話をややこしくされても困るという事で、この初代皇帝陛下自身が決めたルールなのだ。


 決めた当人でもそれは覆せない上に、ゼロ陛下が私を格上と認めたのであれば、私としては相応の敬意は払うのは当然ながら、敢えて格上として振る舞わねばならぬのだ。


 ……銀河帝国の皇帝同士と言うのは、そう言うものなのだが。

 さすがに、初代陛下相手に格上として、振る舞うのは少々酷な話だと思うぞ。

 

「当然の結果と来たか……。さすが我が帝国の現役バリバリの皇帝陛下だけはあるね。もっとも、実のところ僕らだけじゃ、結構危うい状況になってたんだけどね……。そこはこの戦いの功労者ってのがいてねぇ……。実のところ、今回の会談はその功労者の処遇について、君に直接お願いをしたくて、ご足労願ったんだよ」


 意外な返答だった。

 一応、私としても銀河守護艦隊を殲滅するに足るだけの準備は整えており、計画どおりにことが運んでいれば、帝国は銀河守護艦隊の数十倍の戦力を繰り出し、鎧袖一触で粉砕する……私もそう考えていたのだが。

 

 この様子では、なにか想定外の問題が起きたようだった。


「ほぅ、そうなると思った以上に苦戦した……そう言うことだったのか。では聞こう……一体何が起きたのだ?」


「……最後の最後で、ハルカ提督がイフリート化し、その上位存在……高次元存在がエーテル空間に顕現化したんだよ。無限のエネルギー供給システムと、無限の再生力を持つ本気で手に負えない相手だったよ……」


「……イフリートなど、大したことないと思ったのだが……。確かにあれが無限の再生力など持っていたら、手に負えんな……。だが、それでも撃退に成功したという事か。どんなに強大な敵でもダイソン級あたりの核融合弾の集中砲火や重力爆弾でも使えばなんとでもなるであろうからな」


「うん、僕も最初そう思ってたんだけどねぇ……。高次元存在ともなると、そんな簡単じゃなかったんだよ……例えるなら、水面に映る月を斬って、月そのものを破壊するようなもの……ヴィルゼットくんは、そんな例えで説明してくれたよ。なんでも、そんな地球に伝わる昔話があるらしいんだけど、確かに解りやすい例えだよね」


 理屈はわかる。

 水に映った存在を幾ら切ったところで、本体は別のところにいるのだから、何ら痛痒は与えない。


 高次元存在と相対すると言うのは、そう言う事なのだろう。


「つまり、第5次元とか第8次元……文字通りの高位次元の存在という事か。それはまさに神と呼んでいい存在だったのかもしれんな……よくぞ、そんなものを……」


 よもや私もそんな高位次元存在などとは、戦った事もない。


 もっとも、高位次元の存在と戦うとなると、恐らく我々では為すすべがないだろうとは言われていた。


 理屈としては、先の説明通り。

 二次元の……紙に描かれた絵では、三次元の我々にあがらう術などない。

 対して三次元の我々は、紙に描かれた絵など紙を燃やすなり、破くなりすれば容易く片付けることが出来る。


 それ故に、4次元だの5次元と言った高位次元に主体を持つ存在を打倒するとなると、こちらも同じ次元に乗り込むくらいしか、勝ち目がないのだ。


 だが、この様子ではその高位次元存在にすら我が帝国は打ち勝ったという事だった。

 ……流石の私も、そこまでの備えはしていなかったのだが……よくやってくれた……その一言だった。


「まぁ、実のところ……結局、我々はその戦いの傍観者に過ぎなかったんだよ。ユリコくんが身体を張って頑張ってくれて、なんとか面目が立ったってところでね。美味しいところはその功労者がかっさらっていった……まぁ、そんなところだよ」


 そう言って、自虐するようにフッと笑うゼロ陛下。

 ……その何とも複雑な胸中が伝わってくるようだった。


「だが、功労者とな? ユリコ殿がいて、辛勝と言うのも意外だが。ユリコ殿以上の武力を持つものなど、この世に存在するのか?」


 その程度にはユリコ殿は別格と言えた。

 我が帝国の敵にとっては、もはや災厄であり、歩く理不尽。


 どんな絶望的な状況からでもすべてをひっくり返す、ワイルドカード。


 ユリコ殿はそう言う存在であり、私の仕掛けた伏線を回収した上でなら、例え銀河守護艦隊相手であっても、苦戦すらしないだろうと私も予想していたのだ。


 だが、そんな想定を超えた状況下で逆転を決めたとなると……これは軽く規格外の化け物。

 そんな伏兵がいたとは、私も想像がつかなかった。


「……まぁ、僕も最初は彼女にそこまで期待してなかったんだけどね。いずれにせよ、彼女の働きなくして、僕らも勝利は無かった……。そうなると、論功行賞を与えるのもやぶさかじゃないだろ?」


「なるほどな。要は我が帝国外の助っ人があり、その者の助力で勝てた……そう言うことか。まぁ、そう言う事ならば、金でも地位でも好きなものを、望むだけ与えればよいのではないかな? ゼロ陛下ならば、文字通り惑星一つを報奨としてくれてやっても、誰も文句は言うまい」


「……いやはや、彼女の挙げた戦果からすると、惑星ひとつどころか、星系の一つや二つくらいポーンとあげてもいいくらいなんだけど。そこは、当人たってのご要望ってのがあってね……。まぁ、いいか……詳しくは当人と会って、直接話を聞いてみてくれ……大和くん、いいよ……入ってきて」


 そう言って、ゼロ陛下がパンパンと手を打ち鳴らすと、なんとも強烈なプレッシャーと共に、この仮想空間に誰かが入り込んでくる。


「……なんとも、勿体付けよるなぁ……。まぁ、いいわいっ! 刮目せよ! 大戦艦大和……お呼びに応えて降臨じゃーっ!」


 そんな言葉とともに、ふわりと空中から降り立つように、奇妙な出で立ちの人物が現れる。


 その容貌は……白無垢の和服を着た狐耳の獣人の子供……のように見えるのだが。

 何よりも目を引くのは、その尻尾の数だった。


 九つもの尻尾が生えていて、それぞれが意思を持っているかのように自在にくねくねと動き回っていた。


 さすがに、このような者には始めてお目にかかる。

 

 私も立場上、異星起源文明人の代表者たちとも会談する機会が少なからずあり、歩くイカのような水棲知的ヒューマノイドやら、二足歩行の猫やら、3mもある巨人だの……様々な異星人と実際に会ってきたし、この惑星でもエルフや獣人と言った人外とも交流を持っているのだが。


 さすがに、九尾狐の獣人は初めてお目にかかる。

 

 九尾狐と言えばアレであろう? 中国で国一つを傾かせた傾国の美女だの、古代日本の観光地に実在したと伝えられる殺生石に封じられた魔物とか……確か、そんな感じのだったと思った。


 いかんせん、古代地球史などあまり興味もなかったので、雑にしか知らん。


 もっとも、コヤツは大戦艦大和などと名乗っていた。


 そうなると、間違いなくスターシスターズであり、彼女達は各々のアイデンティティに従い、人外の姿をしている者もいるという話で、この者もその類なのだろう。


 それにしても、大和……大和。

 そうか、スターシスターズの名誉統率艦などと言われていた大型戦艦がそんな名前だったな。


 だが、何故そんないっぱい尻尾があるのだ? 九尾狐と戦艦大和と何の関係があるのだ?

 そんな尻尾があると、手入れも大変だろうし、普段は邪魔でしょうがないであろうに……。

 

 当人も、器用に手で折りたたんで尻尾を揃えていくと、当たり前のように空いていたゼロ陛下の隣のソファに偉そうに足を組んで腰掛ける。


 ゼロ陛下もそれを見て、なにか言いたげにしていたが……ちらっと私を見ると、ペコリと頭を下げられる。


 多少の無礼は見逃してやってくれと言ったところか。


 まぁ、元々、陛下は無礼講そのものと言った気さくな人柄でも知られており、この手の礼儀作法に全くこだわりがない事でも有名なのだ……。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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