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第五十七話「邂逅」①

 ――帝国歴327年9月18日 銀河標準時刻08:15――

 ――惑星アスカ

 

 ――ルペハマ沖合120km地点にて


 その時、私はルペハマの沖合120kmの位置にいた。

 

 緑色の苔のような物に覆われた乱雑に組んだ丸太船。

 その甲板上に作られた掘っ立て小屋の前で、照りつける太陽の光を浴び、ビーチチェアに寝転がりながら、私同様……割と露出度の激しい衣服を着たリンカとエルレイン殿がかしずきながら、うちわで風を送っていてくれた。


 四方から照りつける直射日光も適度な水分さえあれば、むしろ快適だし、この身体……暑さはあまり気にならんのだ。

 

 これで、そよ風でも吹けばもっと最高……なんてことを言ったら、二人して頷き合って、こうなった。


 私も別に「暑いから、団扇で煽げ」とかそんな事は言ってない。

 

 自分の快適さを求めるためだけに、他者に労働を強いる……そんな支配者になりたいとは思わないのだが。

 

 他者が望んで、好き好んでやってくれるなら話は別だ。

 他者の好意を無下にするなど、傲慢な真似はしたくないのだ。


 そして、エルレイン殿が持参していた日傘を差してくれたお陰で、日差しも程よくそよ風も涼しく、実に快適だった。


 飲み物もシュトナと呼ばれるヤシ酒のようなものや、魚介類の乾物があり、今も小屋の中では昼御飯の準備中のようだった。


 なお、いつものお供……イースはルペハマでの教会関係者との調整におわれており、アークやソルヴァ殿と言った他の者達も色々と忙しくあちこち駆けまわっているようだった。


 反面、私は……結構暇人。

 と言うと語弊があるのだが。


 特に急ぎの用件もないし、とにかく、片時たりとも目を離せない相手が出来てしまったのでな。

 要は何をしでかすか解らない、問題児のお目付け役と言ったところであり、決して堂々とサボっている訳ではないのだ。


 思いっきり寛ぎまくっているのは事実なのだが、休める時に休むというのも皇帝の嗜みなのでな!

 

 もっとも、リンカはともかく、ルペハマの市長でもあるエルレイン殿はそんな暇人ではないと思うのだが……。

 

 ルペハマに滞在する限りは、どこに行こうがお供するとのことで、今回の試験航海にも、この世界の常識からすると、冗談としか思えない巨大艦船が動く所が見たいと言っていて、何よりもこの辺りの海に詳しいガイド役として、付いてきてくれたのだ。


 まぁ、巨大艦船と言っても、確かに全長50mくらいはあって、10m、20m程度の船がせいぜいと言ったこの世界の艦艇の常識からすれば、確かに巨大ではあるのだが。


 エーテル空間船でも、50mは警備艦や短距離連絡船程度の大きさであるし、見てくれはどう見てもデカいだけの苔むした丸太船なのだ……。

 

 ちなみに、エルレイン殿は、私が与えたお母様経由の通信システムの恩恵をもっとも享受している一人だ。

 見ていると、団扇を扇ぎながらも、ひっきりなしに連絡が入っているようで、時々離れて行ってはあれこれ指示出ししたりと忙しそうにしていた。


 そんな頻繁に連絡が入るくらいなら、現場に近い所にいるべきと思われるだろうが。

 組織のリーダーというのは、相談ごとや承認が主な仕事になりがちで、うまく回っているときは、現場に居なくてもなんとかなるのも事実ではあるのだ。


 エルレイン殿も、官僚機構をちゃんと育成していたようで、多少目を離していても、ルペハマの統治については問題なく回っているようだし、オズワルド殿の臣下たちもなかなか有能な文官を揃えていたようで、あちこちで統治機構の大幅改造を行っている関係で、その手の人材が枯渇しかけていたのだが。

 

 二人の育て上げた文官達は、質も量も上々でこちらが応援を頼むよりも先に、増援部隊を手配し、各地に派遣してもらえたおかげで、さしたる問題も出ていないようだった。


 このあたり、二人共……政治というものをよく解っていると私も感心していたのだ。

 

 まぁ、国家を経営するのは、戦場で戦う兵士や将官ではないし、政治家と呼ばれる連中もアレらはいいところ、人々の意見の代弁者でしかないし、別に頭数も要求されない。


 要は、理想と現実の調整役……と言うのが本来の政治家の役割であり、最悪居なくてもなんとでもなるのだ。


 では、そうなると、誰が国家を動かしているかとなると……。

 もちろん、リーダーは原動力として必要なのだが、もっとも重要な国家の歯車や血液と言える存在……。


 それは、いわゆる文官や官僚と呼ばれる無責任な立場ながらも、日々山の様な書類と細々とした事務処理を担当している者達であり、彼らの献身と努力の末に、国家という巨大システムは滞り無く運営されるのだ。


 なお、帝国における皇帝の仕事は、至ってシンプル。

 

 誰もが迷った時の決断と、国家のすべての事象の責任者足る者として振る舞う事。

 ざっくりいうと、これだけなのだ。


 だからこそ、私は現在進行系で築かれつつある我が帝国も、文官達の徹底優遇の上で、彼らを重用し、相応の報酬や労働環境の改善と言う形で報いているのだ。


 もっとも、この国々の支配者……貴族達は、何から何まで自分が口出しして、全て決めないといけないと言う非効率な事ばかりに熱心であり、軍人達ばかりを重用し、軍事ばかりに目を向けて……。

 

 肝心要な国家運営を最優先とすると言う観点が抜け落ちたまま、すべてが許される独裁者気取りで、文官を軽視し、その意見を蔑ろにし、民に馬鹿げた税をかけたり、農民を無報酬で兵士に徴用したり、作物を根こそぎ奪うなど、ナンセンスな事ばかり行っていたようなのだ。


 くだらない……まったくもって、くだらない。


 統治者など、民あってのものであり、自分達の欲望を実現するための道具などでは決して無いのだ。

 むしろ、統治者とは、公への奉仕者であり、それ以上でも以下でもない。


 もっとも、この世界の統治者達はそこがイマイチ解っていないようなのだがな。

 本来、統治者とは……決して報われぬ者達なのだ。


 多大なる責任を負わされて、すべてを支える一人として、あらゆる物を犠牲とし、それを当然のものとして受け止める。


 統治者とは、社会ピラミッドの頂点とも言われるのだが、逆を言えば逆さピラミッドの底辺として、すべてを支える立場でもあるのだ。


 本来は、そんなものを個人に負わせるようなものではないのだ。

 まぁ、これは我が帝国を銀河連合諸国辺りが非難する時の常套句なのだがな。


 たった一人がすべての責任を負い、たった一人がすべてを決断する……そんな独裁政治など、間違っていると。

 そして、民主主義こそ正義なのだと続けるのが、いつもの事なのだ。


 だが、我々はすべて承知の上なのだ。


 真っ当な人間では、この重責は手に負えないし、AI達も所詮は無責任な立場であり、決断できるような立場でもないのだ。


 もちろん、大勢に責任や犠牲を分散する民主主義と言う手法も決して悪いものではないのだが。

 民主主義とは、誰もが無責任であり、誰もが人任せにする政体とも言えるのだ。


 権力も責任も、広く薄く分散させるべきではなく、出来るだけ少数に集中させるべきなのだ。

  

 だからこそ、帝国は皇帝としての役割に殉ずる者達をDNAレベルから設計し、作り出し、国家の命運を委ねる……そんなやり方を選んだのだ。


 時代を経て、皇帝の人数が増えて、その重責は多少は分散されたが。

 我ら皇帝は、根っこの部分で同質であり、等しく運命共同体であったのだ。


 もっとも、今の私は……本来の役目を失い放り出されたようなものであり、実のところ……この惑星で、皇帝という立場を忘れ、自由に生きるという選択肢もあったのだが。


 やはり、私は人々の導き手にして、責務の担い手……皇帝としての生き方しか知らぬし、出来ぬようなのだ。


 であるからには、多少強引であろうが。

 私は私の帝国をこの地に築くのだ。


 幸い……すでに、初代皇帝ゼロ陛下から、この地については私がこの地に降り立った時点で、帝国の版図であるとの言質を頂いているし、私もそう言う認識なのだ。


 さしずめ、銀河帝国マゼラン方面支部と言ったところか。

 16万光年彼方で、銀河帝国の支部とはなかなかに愉快な話ではあるが。


 我が帝国の政治、統治システムは洗練に洗練を重ね、極めて効率的に機能するように出来ているのだ……そして、私はそのノウハウの体現者と言えるのだ。

 

 それ故に、それをそのまま、この地にて実行すれば、何ら問題はない。

 要するに、私はいつもどおりの仕事をこなすだけの話だ。


 もちろん、将来的には文化や知的水準の向上など、色々と課題があるのは承知だが。

 こうやって、異星の文化と接触し、我が帝国と同化させていくのは、別に始めてではないのだ。


 無理のない範囲で、誰もが平等だと納得し、悪くないと思う生活を送れる。

 そこを目指せば、自然と民も付いてくるのだ。


 一人は皆のために、皆は一人のために。


 古の共産主義の理想のようなスローガンなのだが、我が国は古来より、その理想を目指して、誰もが幸せに生きられるような国を目指してきたのだから……。

 

「……アスカ様、難しい顔をしてますけど、何をお考えで?」


 リンカが団扇を仰ぐ手を休めて、汗を拭いながら、飲み物をクイッと飲み干す。


「うむ? そうだな……この地における我が帝国の今後について、色々とな……」


 まぁ、考えなければならない事はいくらでもあるのだが。

 ひとつひとつじっくりと取り組むべきなのだ。


 政治とは1年や2年程度の感覚で、考えるものでは決して無い。

 10年20年……それどころか、100年単位で考えるべきなのだ。


「ふふっ、帝国……つまり、神樹同盟の事……ですよね。もっとも、それは建前上の呼び名であり、この地ははるか遠い星の世界の大帝国……銀河帝国の傘下にある……でしたよね? いやはや、アスカ様のお話を聞いて、私もアスカ様へ全額ベットって、自分の判断が間違ってなかったと思いますよ。なにせ、それって私達……この先、超勝ち組が約束されてるって事じゃないですか! なんなんですが、星の世界の大帝国って! ……そんなの問答無用で巻かれるべきに決まってますよ!」


「ふふん! であるぞ……エルレイン殿。ちなみに、我は、すでに銀河帝国マゼラン方面宇宙艦隊旗艦を拝命しているのだ……。すごかろう? 我、すごかろう?」


 ……もう一人が偉そうな口調で、刺身の盛り合わせを抱えながら合いの手を入れてきた。


 なお、御大層な名前の宇宙艦隊が出てきているが、今のところそんなものは無い。


 コヤツこそが例の目を離せない者であり、事実上この私に押し付けられたようなものなのだ。

 ……彼女の名は、大戦艦「大和」。


 スターシスターズの上位存在でもあり、銀河最強のエーテル空間戦闘艦の頭脳体でもあるのだ。


 なお、結構なぽんこつな上に、今は自前の艦体すらも持たない、タダの雑魚船。

 要するに、現状、普通に役立たずなのだが。


 彼女は我々の切り札になり、同時に銀河系とマゼラン星雲を繋ぐ鍵となるうる……そんな存在でもあるのだ。


 ……彼女と私の出会いは、ほんの一週間ほど前に遡る。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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