第五十六話「Saturation attack」①
一方……同じ頃。
スターシスターズ艦隊と、イフリートとの激戦が繰り広げられていた。
状況としては、戦艦群による制圧砲撃と、天霧を先頭にした駆逐艦クラスの小型艦による肉薄攻撃による接近戦……その突入段階だった。
なにぶん、戦艦群の主兵装……熱光学兵器はほとんど効果がなく、レールガン砲撃も弾道を見きっているのか、迎撃されるようになり、まともに当たらなくなってきていた。
こうなってくると、本来は遠距離戦ではなく、駆逐艦による接近戦……となるのだが。
もともとスターシスターズ艦の想定敵はエーテル流体面上を移動する艦艇や、大型宇宙生物が想定敵であり、100mもあるような巨大な空を舞う敵は、想定していないのだ。
仮にいたとしても、その手合の相手は、戦艦あたりに任せると言うのが基本的な運用だったが。
その戦艦の砲撃にすらもイフリートは適応しつつあって、いつもは偉そうにしている戦艦達も泡を食っているような有様だった。
だが、それで黙っていられるほど、駆逐艦連中は大人しい者達ではない。
更にイフリートの下を中心に、続々と赤い半魚人のような謎のヒューマノイドが湧いてきて、魚雷のように艦隊へ向かってきており、これの迎撃の必要も出てきていた。
そんな訳で、大和から全駆逐艦による迎撃戦闘の指示が出ると、鎖を解き放たれた猟犬のように、各々が突撃を開始してしまっていた。
もっとも、駆逐艦は新手の特攻半魚人へは効果抜群だったのだが、対イフリート用戦力としては、いかんせん、この大きさでは対空砲は論外で、駆逐艦主砲用の120mm程度の口径では、決定打にはなりえず、膠着状態が続いていた。
「……冬月、涼月! 霞に潮……それに狭霧っ! フォーメーションDから半包囲陣を一気に狭めて! その上で私が囮となって、突出した上で先制攻撃を仕掛けます! この位置関係なら、一気に真下に抜けれます! 突入の援護をっ!」
仲間の了解を待たずにすでに突入を開始している天霧……。
だが、天霧よりも先に狭霧が異変に気づく。
「天霧! 待て……それは罠だっ! 上から超立方体の火球攻撃が多数来てるぞ! それも……ここに来て誘導タイプだ! まずい……お前がターゲッティングされてるぞっ! 全速力で避けろ! ブレイク、ブレイクッ!」
狭霧が叫ぶように警告する。
広く散開した駆逐艦からの同時攻撃で、イフリートも一瞬迷うような素振りを見せて、天霧もそれを隙と見たのだったが。
要は、フェイク……イフリートもハルカ提督の持つ記憶を奪ったのか、最初から高度な知性をそなえているかのような動きを見せ、加速度的に巧妙かつ、嫌なところを付いてくるようになっていた。
この戦いは、長引けば長引くほど不利になる……大和の言っていた言葉だったのだが。
あれはそう言う意味だったのかと、今更ながら天霧も実感する。
そして、案の定兵力も不足していた。
今、前衛として戦場に残っているのは、僅か六隻の駆逐艦のみ。
いずれも歴戦の精鋭ではあるのだが。
もともと、駆逐艦は頭数を揃えてなんぼと言う艦種ではあるのだ。
たった六隻では、どれだけ高性能だろうが、まともなフォーメーションも組めず、どうやっても死角が出来てしまい、先程からその欠けを突かれる事で、どうにも振り回されっぱなしではあったのだ。
なお、銀河守護艦隊の主力艦隊は30隻中、駆逐艦クラスは元々僅か12隻程度とかなり偏っており、冬月、涼月、霞と潮の四隻は長年大和の直掩護衛艦を努めてきた者達で、天霧と狭霧の二隻はハルカ提督の直属艦だった。
なお、残りは、六隻のフレッチャー級と如何にも数合わせ、しかも彼女達は本来、主力艦隊の一員ですら無かったのだ。
……要するに始めから、ハルカ提督は駆逐艦を主力の数として考えていなかったのだ。
事実、フレッチャー級の各艦も、増援として起動直後、慣らし運転中に主力艦隊に合流後、本来は遊撃艦隊あたりと合流させる手はずだったのが、なし崩し的に主力艦隊に配属となってしまった者達で、大和の持つ上位指揮管制コードもこれら米国系艦艇には、あまり効果がなく、せいぜいお願いレベルとなってしまう……そんな指揮管制上の問題もあったのだ。
そのため、フレッチャー級は戦艦群の護衛として、後方に回し、残りのベテラン和製駆逐艦勢は、まとめて全艦突撃と……となったのだが、その数は僅か六隻とお寒い有様ではあったのだ。
なお、ハルカ提督の直属艦は天霧、狭霧、朝霧、夕霧の4隻なのだが、朝霧と夕霧は他の戦線に派遣され、帝国軍相手に徹底抗戦の末沈んでおり、その頭脳体も行方不明になっており、天霧と狭霧の二隻だけが生き残っていた……いずれも軽巡洋艦並みにまで船体を拡張して、原型をほとんど留めない魔改造艦で火力や防御力も相応に上がっているのだが……。
引き換えに機動力は激減しており、当人たちにとっては微妙な改良だったようで、今も増加パーツや装甲を景気よくドカドカ廃棄することで、現在進行系で軽量化中だった。
本来、天霧あたりになると最前線での突撃戦闘は考慮しておらず、対空兵装や長距離砲撃辺りを想定していたのだが、今の状況は駆逐艦の手数の多さと接近戦能力が必要とされていて、天霧もこれまでの罪滅ぼしとばかりに、自ら志願してこの前衛任務に参加したのだ。
主力艦隊に戦艦や空母と言った大型艦を集めたものの、遊撃艦隊や拠点防衛艦隊に、多くの駆逐艦クラスの小型艦を配属した結果、ワークホースの駆逐艦の頭数が足りなくなる……なんとも本末転倒な編成だったが。
大型艦を拠点防衛や遊撃艦隊に回すと、今度は小回りが効かなくなるし、元々物資に乏しい銀河守護艦隊に、帝国各地に大型艦と護衛を回すような戦力も物資も余裕はなく、ハルカ提督も戦力バランスの悪さを承知の上で、こう言う編成としたのだ。
実のところ、広いようで狭いエーテル空間での戦闘艦隊編成の最適解は、帝国軍のように完全に割り切った航空機動兵器母艦と、多数の小型快速艦を揃えて、砲戦用の戦艦や何かと中途半端な巡洋艦クラスは潔く捨てるという考え方は理にかなってはいるのだが……。
帝国軍自体が機動力をもっとも重視する戦闘ドクトリンの軍隊なので、意外と実情にもあっていた。
もっとも、スターシスターズ艦隊では、火力と防御に秀でた戦艦こそが花形であり、主力と考えられており、提督達も確実にその影響は受けていて、戦艦ばかりを贔屓するような事になっていたり、戦艦の火力を有効活用する戦術を研究したりと、微妙に本末転倒となっていた。
なお、宇宙の戦闘では帝国軍の主力艦艇は、km級の大型戦艦となっているのだが。
それは単に宇宙という環境が広大に過ぎるため、小型艦では行動可能範囲も狭くなりがちで、冗長性にも欠ける為であり、半ば必然的にそうなっていた。
実際、小型戦闘艦の用途としては、低燃費が求められる惑星間パトロール艦や、長距離偵察艦。
もしくは民間軍事組織……PMCの艦隊や宇宙の用心棒……フリーランス傭兵の駆る個人所有戦闘艦などに限られており、本格的な宇宙軍……帝国軍では、大は小を兼ねるということで大型の宇宙戦艦が数的にも主力となっていた。
なお、銀河連合諸国では、帝国の規格では宇宙駆逐艦と呼ばれる200m級の艦艇を宇宙戦艦と呼んでいたりもするのだが……。
そこはそれ……世界観からして違うのだから、仕方がなかった。
現状、大和は戦艦群については、完全に火力制圧役として後方に止め、急遽帝国軍から回してもらった補給機を艦載機を全部出して空荷にした空母に無理やり降ろした上で、臨時の補給デポ艦に仕立て上げて、弾薬や燃料もローテーションで後方に下げて補給しつつ、戦艦を徹底してイフリートへの牽制役とすることで、戦線を維持していた。
この辺りは、永友提督とゼロ皇帝が交渉し、あっという間に銀河守護艦隊への補給体制を組み上げてくれたおかげで、泥縄ながらも、弾薬枯渇という最悪の状況はなんとか先送りに出来ていた。
更に大和は、ここで精鋭の駆逐艦隊を投入することで、駆逐艦の機動力と戦艦群の牽制射でイフリートの反撃を封殺し、膠着状態を作り出す事に成功していた。
更に、光学幻惑効果のある煙幕も定期的に最前線に撒かれるようになりつつあり、濃度もかなりの濃度となっており、イフリートの熱線砲の狙いもまるで正確ではなく、未だに撃沈艦は出ていなかった。
そして、帝国艦隊も後方から続々と集結しつつあり、状況も確実に好転しつつあったのだが。
ここに来て、元々勇み足気味だった天霧が突出した上で一気に接近を試みて、超立方体の火炎球攻撃を受けつつあったのだ。
「……そんなっ! ここにきて追尾式の核融合弾なんて! これは……駄目っ! どうやっても直撃する。皆さん、大和さん! ごめんなさいっ! ハルカ提督の仇も取れず……何の役も立たずに……」
天霧も歯噛みする。
さすがに、いくら駆逐艦の最大船速と言っても時速にすると200kmにも満たない速度なのだ。
ゆっくりとながらも、確実に追尾してくるそれは、もはや天霧の視界いっぱいに広がりつつあった。
「……天霧さん! 急速潜航を! ここから狙い撃ちますっ!」
無線に飛び込んできた声。
その声に反応して、天霧も弾かれたように潜航システムを起動し、一気にエーテル流体面下に潜り込む。
次の瞬間、迫りつつあった十個近い数の大火球の中心を次々と何かが貫いていくと、大火球はゆらゆらと揺れながら、急速に萎んでいくとエーテル流体面と接触すると、あっという間に萎れたようにその形を維持できなくなり、爆発もせずにあっさりと霧散していった。
「……今の声……まさか初霜さん? ど、どこからっ! あのプラズマ球が……一瞬で? いや、これはいったい……何が起きてるの!」
あれだけ大量に天霧のもとに殺到していた大火球だったが。
あっという間に、その数を減らし、尽く不発になったように、燃え尽きて霧散していく。
「まだ200kmは離れてますが、さすが……帝国製の新型超収束型γ線レーザー砲。一瞬で届きましたね!」
駆逐艦初霜……永友艦隊のエース駆逐艦であり、異世界銀河の最強の艦と名高い駆逐艦だった。
「いえ、イフリートの火球をそんなもので落とせるものなのですか? そもそも、こんな200km? そんな距離では光学照準など出来るはずが……」
「フッフッフ……どうやら間に合ったようだね。ここはひとつ解説しようじゃないかっ! 帝国軍から火球対策として、いきなり送ってきた特殊レーザー砲をとりあえず、初霜に搭載したんだ。まぁ、私もなんで何も見えないのに、当てれるのかはよく解んないんだけど……。初霜には敵がバッチリ見えてるらしい……どうなの? それ……」
「提督……目で見るのではないのですよ。心眼……心の目で敵意を見るのですよ。見えてしまえば後は簡単……どちらかと言うと弾速と射程が問題になるのですが。さすが帝国製……とにかく狙った所に正確に当たるように設計されてるみたいで、誤差も許容範囲内ですね」
なお、これもやはり惑星アスカで神樹様が作り出した高収束γ線レーザーキャノンを目指し、改造を重ねた上で、駆逐艦主砲へと転換していたのだが。
そもそも、エネルギー源の出力が段違いで、頑張って同レベルのものを作ろうとした結果、レンズの屈折率を極限まで高め、ひたすら高純度のレンズ素材を使い、極めて細いレーザー口径とすることで従来型レーザーよりも格段に強力なものが出来たのだ……。
命中精度については、文字通りピンホールショット狙いが必須……そんな職人芸を要求するようなプロ向け仕様になってしまったのだが。
その加熱力や装甲貫徹力はオリジナルのように山肌を穿つほどではないものの……高収束型の小型レーザーとしては、十分以上の威力があり、帝国も時間があれば増産する予定ではあったのだが。
とりあえず、一番有効活用してくれそうな初霜に、半ば押し付けるように進呈していた。
「永友提督……なんかノリが変わりましたね。そんな軽い人話し方する人でしたっけ? でもとにかく……助かりました! けど、帝国はそんなものまで用意していたのですか? まさか……この魔神と戦うことも想定していたとでも?」
「なんだか、良く解らないけど、どうもそんな感じなんだよね……すでに、どこかであの怪物たちとやりあってたような感じがするよ。まぁ、あの帝国のやる事だしねぇ……。我々の預かり知らぬところで、宇宙の深淵で我々も知らない敵とやりあってたのかもしれないね」
「は、はぁ……。確かに帝国軍もやけに手慣れてる様子ではありますし、あの桁違いの戦力も我々の次にアレと戦うことを想定していたと言うことなら納得はできますね」
さすがに、それはなかったのだが。
オーバーキルを承知で、馬鹿みたいに数を出してきたのは事実であり、そのことが妙な安心感を与えていたのも事実なのだ。
「ちなみに、あの大火球は、その中心点に連鎖核融合の起点となる核があるみたいなんだけど、そこを強烈なγ線レーザーで撃ち抜けば、火種が消えて穴の空いた風船みたいになって、萎んで消えちゃうみたいなんだ。どうも、そんな攻略法を、アスカ陛下の配下のリンカってコが発見したらしくてね。いずれにせよ、これで向こうの攻撃はなんとか凌げるだろう」
「は、はあ? アスカ……様? ちょっと待ってください! あの方は我々との戦いで討ち死にしたはずでは? なんで、その名前がここで、出てくるのですか!」
「ああ、その通りだよ。だが、この世界には私のように死を乗り越えた者たちが少なからずいる……彼女は未だ存命で、遠い宇宙の彼方から我々の手助けをしてくれているらしいんだ。これもその一つってわけさ! いやぁ、敵と味方の垣根を超えて、共通の敵に相対する……実に熱い展開だね! これはちょっと負ける気がしないな」
……唐突な永友提督の援護。
あまりに距離がありすぎて、援護も望めないと思っていただけに思わぬ援軍だった。
そして、天霧もそれまで自分一人ででも、ハルカ提督の後始末を付ける気で気負っていたのだが。
永友提督のなんとも緩やかなノリと、負けムードを軽くひっくり返した初霜のスーパーショットを目にしたことで、一人で気負っていたのがバカバカしくなって来ていた。
ひとりじゃない……共に闘ってきた仲間達。
そして、かつての敵だった帝国すらも、全力で後押ししてくれる。
ハルカ提督の腹心として、日に日におかしくなっていくハルカ提督を見つめながら、それでも気丈に耐えてきた天霧にとっては、共に戦う仲間と言うのも久しぶりの感覚だった。
そして、かつて、ハルカ提督が、ユリコや初霜の戦いぶりを見ながら、よく言っていた言葉。
「アイツらこそが、主人公なんだ」と言う言葉……ハルカ提督は、自分には決してなれないと自虐的に語っていたのだが……。
その気持ちが理解できたような気もした。
「やってくれますね! あなた方も……さすが……ですね!」
「まぁ、味方のピンチの時に颯爽と現れ、負けをひっくり返す……。それくらいやってのけないと、嘘だろう? それとまもなく、航空隊の総攻撃が始まる。君達の時間稼ぎは十分だったよ。そして、最後はあの子……ユリコ君が例によって無茶をするらしい。最悪、上空無装備ベイルアウトも想定してるらしいから、君たちはそれに備えて、あまり無理しなくていいとのことだ」
天霧もユリコが単身慌ただしく、自艦へ立ち寄り、ありったけの新型重力爆弾をかっさらっていくのを見届けた後……。
ユリコの乗った怪しげな機体が大和から打ち上げロケットのようにすっ飛んでいったのは見ていたのだが。
何処に行って何をするつもりなのかは、まるで聞かされず、いかに腕利きのパイロットでもこの状況ではさしたる戦力にならないと思っていたのだが。
どうやら、いつもどおり……彼女は、戦局を決定的にする……そのつもりのようだった。
「了解です。初霜さんもありがとう。あの火球は迎撃不能……そう思っていたんですが。最大の脅威がこうやって、簡単に無力化出来るのならば、いくらでも耐え凌げそうですよ」
「限りなく、ピンホールショットなんですがね。でも、狙い所さえ解れば、こんなものですよ。ただ即席で改造してもらったんで、電力消費も尋常じゃないし、重量バランスも放熱も何もかもが怪しくて……機動戦闘なんて論外なんですが。とりあえず、祥鳳さんに横付けしてもらって、支えてもらいながら、超伝導ケーブル直付けで電力供給してもらってまずが、それでどうにかって感じです! でも、どんどん撃ちますよ! 戦場の鉄則……撃ってるうちは撃たれない! だから、とにかくひたすら撃ちまくる……ですっ! 永友艦隊! 全艦長距離支援射撃、放てーっ!」
そして、永友艦隊全艦からの攻撃も開始される。
どうやら他の艦にも同様のレーザーが搭載されたようで、レーザーの射線が一気に増えたようだった。
他のスターシスターズ達は、初霜のように、視認出来ないほどの超長距離射撃を実現するほどではないのだが。
この様子だと、前線観測機が進出しての観測射撃をおこなっているようだった。
さすが、この辺りはソツがなかった。
永友艦隊もこれまで前進しながらも、ある程度のところでストップしていて、積極的に参戦してくる様子もなかったのだが。
現場で、新装備を与えられ超長距離からの狙撃戦を仕掛けてきたと言うのは、天霧も予想外だった。
そして、現場でそんな判断を下せる永友提督の戦略的判断能力に、今の今までハルカ提督の言うがままに永友提督をタダの臆病者と侮っていたことを心底恥じ入っていた。
そして、前後から挟撃される形となったイフリートもたまらず手足を丸めて、赤いバリアのようなものに包まれると、防御体勢となった。
「よし! 今だっ! スターシスターズ艦隊航空部隊……第一陣……突入! 目標、超立体っ! もう体当たりで構わんから、次々突っ込めーっ! 奴らの対応能力を……飽和させるのだ!」
イフリートが防御体勢になる……それはすなわち攻撃が止むということだった。
大和も当然、その隙を逃さず、まずはスターシスターズ艦隊側からゼロ戦にF6と言ったクラシカルな見た目の戦闘機隊が大挙してイフリートや超立方体へと接近していく。
大和の指示通り、全機爆弾を抱えた上での特攻攻撃!
それを見た、イフリートが赤いバリアを解除して、両手の上に火の玉を掲げるのだが。
ガラスが割れるような音と共に、その腕が手首のあたりから、崩れ落ちた。
「……どうです? まずは腕の一本いただきましたよ……!」
呆然と自分の消えて無くなった腕を見つめると、イフリートがその一撃を放った天霧に視線をくれる。
「天霧ィイイイイ! 貴様まで! 貴様まで……この私を裏切るのかァアアアアアアッ!」
その声は間違いなくハルカ提督の声だったのだが。
天霧も動揺すること無く、その言葉を聞き流す。
「……騙されませんよ! アナタはハルカ提督だったもの……言ってみればタダの残滓です。ハルカ提督の記憶を読み込んで、それっぽく振る舞っているつもりでしょうが。長年共にした私には解りますよ! その声……その言葉! 何もかもが偽物であり、あの方への冒涜です! とっとと砕け散れッ!」
天霧の怒りを体現したかのようなVLSランチャーからの全弾射出!
このタイミングで最大火力投射を選択した辺り、天霧も大概だったが……イフリートもそれを見てたまらず、防御体勢へ移行するのだが。
その大半がイフリートを通り過ぎて、上空の超立方体へ炸裂する!