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第五十五話「超次元戦闘」⑤

「まったく、そこまで解ってたなら、もっと早くハルカ提督を止めてくれればよかったのに……。永友提督とはそれなりに仲良くやってたみたいだし、キミにはそれが可能だったんだろ?」


「まぁ、そういうな。我とて、イスカンダルへの道が開かれる可能性が確信に変わるまでは、積極的に動こうとは思っていなかったのだよ。我も二度目の特攻で沈んで以来、同じ運命の繰り返しとなる……そんな己の定めにいい加減、うんざりしておったのだ」


 大和特攻の詳細はゼロ皇帝も一応、知ってはいた。


 ハルカ提督とグエン提督の率いる銀河連合艦隊の主力による起死回生の帰還者の主力部隊への特攻戦。


 その結果、主力艦隊は壊滅し二人共揃いも揃って討ち死にとなり、銀河連合艦隊は総崩れとなり、最終防衛ライン受け持ちの大和がまともな指揮官も生き残っていない状況の中、僅か三隻の護衛艦を引き連れて、ほとんど単艦で敵主力部隊に立ちふさがる……そんな状況となってしまったのだ。


 そして、最終的に大和は満身創痍になりながらも、機関暴走による連鎖核融合爆発で、敵主力部隊の大半を道連れに吹き飛ばし、壊滅に追いやると言う大戦果を挙げ、引き換えに大戦艦大和は原子のチリへと還っていった……。


 一応、ハルカ提督たちの認識では、この戦いがターニングポイントと言う認識だったのだが。


 同じ時期にエスクロンの最終防衛戦で帝国が逆転勝利し、回廊閉鎖作戦に移っており、そのタイミングで帰還者の主力を壊滅させたと言うのは、確かに絶妙なタイミングではあったのだが……。


 あの戦いの殊勲者と言えるものは、指揮官にも関わらず真っ先に退場してしまったハルカ提督達ではなく、その後始末として捨て身で主力を撃破した大和だと言えたのだが。

 

 ハルカ提督達は、自分達を含め、勇敢に戦い散っていった者達のおかげで勝ったと言って憚らず、逃げ回っていた永友提督や最終防衛ラインの大和の戦いを評価しようとはしなかったのだ。


 もっとも、これはハルカ提督やグエン提督が愚かだったのはなく、命を賭して戦ったものが評価されて然るべきと言う当時の銀河連合艦隊の再現体提督達の風潮も影響していたのだが……。

 

 永友提督が懸念していた「生命を軽々しく捨てるものは、生命を軽く見るようになる」……その言葉通りでもあったのだ。


 ゼロ皇帝もこの辺りの戦いの推移は、戦後の研究を通してよく理解していて、大和の奮戦はむしろ高く評価をしていたのだ。


「……そうか。キミも大変だったよね……。最後の切り札って事で温存されて、最後の最後で捨て身の特攻以外選択肢が無かった……。そんなの一回で十分だろうに、二回もって……そりゃないよね。けど、そんな君の前に君にとっての希望の惑星……イスカンダルへの道が開かれた。だからこそ、君は迷いを捨てて、こうやって僕らと共に戦う道を選んでくれた……そう言うことかな」


「ほぉ、解ってもらえるか? さすが我が見込んだだけはあるな! まさにそれなと言うヤツよ! 我が言いたかったのはそう言うことなのだ!」


「うん、正直……君のこと、結構胡散臭いと思ってたけど。動機と行動がちゃんと繋がってる……君なりの利害があってこその行動。そう言う事なら、信じるに値すると言えるね」


 ゼロ皇帝のそんな言葉に、大和も嬉しそうな顔をすると、ピョコピョコと飛び上がって喜びを露わにする。


 ゼロ皇帝も大概人たらしと言えるのだが、大和もチョロすぎだった。


「ふふふ……やはり、貴殿は我の見込み通り人の上に立つべき器……王の中の王であるのだな! 他者の立場になって考え、その気持ちを理解する……それが出来るものはあまりおらんのだよ」


「まぁ、僕は……銀河帝国の皇帝として、皆を導く存在……そうなるように設計されてるんだよ。だから、それはむしろ当然の事なんだよ。この辺りはアスカくんも同様……全く因果な話だね」


 そんなゼロ皇帝を大和も複雑な表情で見つめる。


「……そうか。当然の事……そう言い切ってしまう……か。ハルカ提督あたりとは覚悟も気概もまるで違うのだな。あれは、確かに己の信じた正義に殉じようとしていたのだが……。汝のように、数多の人々の運命や願いを自ら背負い込む覚悟まではなかったのだよ。そこが差なのであろうな」


 ゼロ皇帝とは、過去……エスクロンと呼ばれていた商業国家の人々が、戦乱の銀河の未来を憂いて、人の身の指導者に限界を感じ、理想の指導者像を具現化させた存在に絶対なる権力を与えることにした……。


 それが銀河帝国の皇帝なのだ。


 だからこそ、彼は私利私欲では決して動かず、こう言う有事においては、迷わず人々を導き、あらゆる責任をたった一人で背負い込んで平然としているのだ。


 言ってみれば、究極の利他主義者……帝国と言う国家存続の為にすべてを賭けることも厭わない。


 そう言う意味では、アスカも全くの同類ではあったのだ。


「まぁ、その様子だと同情くらいしてもらってるのかもしれないけど。そこは心配無用って言っておくよ。と言うか……他者への同情……キミの感情エミュレーション機能はえらく高機能なんだね。以前のキミは、好戦的でとにかく戦わせろとかそんな事ばかり言っていたそうじゃないか」


「ふん、人と同じく我らも時代に応じて変わりゆくのだよ。そもそも、こんな宇宙を行き交うような時代にもなって、太平洋戦争などと言う惑星上の古代戦争のことやら、戦争に勝つことにばかりこだわるなど、気がしれん。我らは、人々と共にはるか宇宙の彼方を目指すべきなのだ! さらば地球……目指すは16万8000光年の彼方! 約束の星……イスカンダル!」


 なんと言うか、絶好調のようだった。

 要するに、自らのアイデンティティモデルをアニメの宇宙戦艦に求めた事で大和は完全に変質してしまったのだ。


 これが良いことだったのか、或いは悪いことなのかは、未だに誰にも解らなかったが。

 間違いなく当人にとっては幸せなのだと言えた。 

 

「共に戦う者として、君に送る言葉があるとすれば、頑張り給え……その一言だよ。でも、いつだって目標は高く大きく……それでこそ、進歩への道が開かれるってもんだからね。今日も明日も同じ毎日を……そんな事を言ってると、ゆっくりと滅びの道を歩んでいく……。文明ってのはそんなもんなんだ。だから、君のはるか宇宙の彼方を目指すと言う目標には、大いに賛同できるよ」


「……まったく、銀河連合の老人共ではまるで相手にならんのも当然であるな。貴様らはなるべくして、銀河の覇者となったのだな……。だが、一つ聞きたいのだが、ユリコ殿もそこは似たようなものなのかな? ゼロ皇帝はむしろ、お主には後ろに控えていて欲しい……そう思っているようであるぞ。それ故にお主の好んで戦いたがる理由は我にもよく判らん……。ああ、これは共に戦うものとして当然の疑問だと思って良いぞ」


「わたし? そうだね……わたしは、帝国の剣となる……そうなるように設計されてたんだろうね。皆のために戦わなくちゃって、この義務感がどこから来てるのかって言われちゃうと、昔からこんなだったとしか言えないし……。でも、そこは別に何とも思ってないよ。わたしは、ハルカ提督も言ってたように、戦いの刹那の中に身をおいてこそ、生きてるって実感できる……そこら辺は、改めて思い知らされちゃったよ。だから、別に……わたしのリスクとか考えなくてもいいんだよ」


「何とも思っていない……か。我は貴様らを憐れむべきなのか、或いは羨望すべきなのか、何とも言えん……。いずれにせよ、貴様らは悪くない。ああ、共に戦うものとしては貴様らは最上級であろうな。まぁ、ハルカ提督のようにはなるでないぞ? アヤツはそれなりに優秀だったのだが……いかんせん、広い視点でモノが見れん……そして、一度上手く行けば次も上手くいくと信じて、失敗する。アレから色々と話を聞く機会があったのだが……アレはそんな風に肝心な場面で同じような失敗を幾度となく繰り返してきたようでな……。死に場所を求めつつも死ねない定めをいつも嘆いておったのだよ」


「死に場所を求めて戦うとか、その感覚のほうがよく解んないよ……。そんな自分の役割に不満があったのなら、いっそ、大人しく地上で畑でも耕してた方が良かったんじゃないかなぁ……。たまにはそう言うのも悪くないもんだよ」


「まぁ、そのくらいお気楽な性分だったら、アヤツも少しは幸せだったのかもしれんな。その点、永友提督は何かと言うと慎重すぎるくらいで、戦のさなかに現実逃避で飯を作っておるような奇特な奴じゃったが……。それなりに戦というものが解っている男だったな。だが、グエンとか言う突撃バカ……アイツは論外中の論外じゃ! 総大将が真っ先にくたばる……その時点でどうしょうもあるまい」


 ……なかなかに酷い評価であるが。

 ゼロ皇帝の評価も似たようなもので、もうちょっとうまいやり方があったと言うのが率直な所ではあったのだ。

 

 もっとも、かつての大和も無駄に好戦的だったのだが。


 一度完膚なきまでに派手に爆沈し、宇宙戦艦プラグインを実装して再復活してからは、急激に思慮深くなり、慎重で極端な技術偏重になってしまっていたのた。


 当然ながら、好戦的なハルカ提督とは意見が合わず、慎重派の永友提督とは愚痴を言い合うような仲でもあったのだ。


「……まぁ、キミの思いもその背景もなんとなく、解ってきたよ。どのみち、ユリコくんも止めても無駄っぽいから、ここはいつも通り好きなだけ暴れて、きっちり勝ってくれ。なぁに、かかってるのは、たかが銀河の命運だ……これもいつものことだろう?」


「そうだね。そう言われると、プレッシャーがぁっ! とか思うけど。そう言うときこそ、わたしの出番! じゃあ、Uターンして、ぐるっと回り込んで天霧さんとこ寄って、コスモ零式だっけ? そのトンデモ戦闘機に乗り換えて特攻! って感じかな」


「ああ、こうなったらユリコ殿に命運を託させてもらうぞ。もちろん、突入援護は我々に任せておけ……。幸い戦闘機隊は温存しておるし、空母共にも残りありったけを出させる。出し惜しみなどさせるものか。ああ、ゼロ陛下も足の早い航空戦力を出せるだけ出してやってくれ。もっとも、あの広域エネルギー放射攻撃は、なかなかに凶悪なようだからな……。恐らく全滅もあり得る……有人機を出すのは勧められんぞ」


「ああ、言われるまでもないさ。こっちも無人戦闘機メインになるけど、当然ながら全力で援護するつもりよ。ひとまず、この場にいる護衛艦隊の大型空母フライディ、イスカリオテ、ファングⅢ、エグゼキューターとファットマンの五隻、ナイトボーダー空中支援母艦のシャドウウィスパーも全機投入する。総計でナイトボーダー500機と、マルチプルファイターを片道切符ながらも1000機ほど投入できそうだ。もう一時間もあれば、倍は揃ったんだけど……まぁ、贅沢は言えないか」


「そんなにか! いやはや、何とも贅沢な戦争をやっているようで羨ましい限りよの。では頼んだぞ! ユリコ殿……我もとへ急ぎ参られよっ!」


「了解したよー! んじゃ、状況開始! 陛下もそう言うことだから、もうどーんと構えてて!」


「ああ、好きにしなさい。アキちゃん、急で悪いけど……今の我々の戦力で総力をあげてユリコくんの支援を行う……まぁ、いつもパターンだけど、幸い我軍は機動力偏重の装備揃いだから、戦力もそこそこ集められるでしょ」


「了解しました! もっとも、例によって有人部隊がユリコ様の供回りを務めるは、至極の名誉とか言って無駄に張り切ってるようで、抑えるのが大変みたいですけどね……」


「やれやれ、君らはユリコくんが駄目だった時の備えなんだから、大人しくしといてって僕の名前で命令出しといてよ。じゃあ、大和くん……後は任せるよ。僕はいつも通り、この最前線でドキハラしつつ、皆を見守るとするよ」


「心得た! まったく、お主いいな! お気楽でチャラチャラした優男かと思っていたが、きっちり勘所を押さえておる上に、覚悟の決まりようが尋常でない……。まったく、司令官とはそうあるべきなのだ。おかげで、我もすっかりやる気が振り切れておるぞ! 我が隷下スターシスターズ全艦隊に告ぐ! ここは我らの意地を見せつけるときぞ! 銀河の命運この一戦にあり! 各位、奮戦を期待す! であるぞ!」


 かくして、スターシスターズの残存戦力と、帝国軍の総力を尽くした戦闘が始まった。


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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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