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第五十五話「超次元戦闘」①

「フランちゃん! 全周警戒……いや、これは……上空?」


「はい、上空に特異点反応ありっ! ですが、何が起きているかは不明! とにかく、デスサイズ・ドライを起点に何かが起きたようです……! いいから、距離を!」


「この気配……知ってるよ! まさかっ!」


 ユリコが鋭い目つきで、上空を見上げると、そこには虹色に光る渦のようなものが出来ていた。


 そして、その虹色の渦から、奇妙な形をした赤い結晶体がせり出すように出現しようとしていた。


 その形は極めて不自然な形で、強いて言えば四角い立方体に更に同じく四角い立方体を内包したような形状をしていた。


 そして、それはゆっくりと回転しつつ、見る間に形を変えていくのだが。

 内側の立方体が広がって外側になり、外側の立方体が内側の立方体になっていく……そんな動きをしているように見えた。


 いわゆる超立方体と呼ばれる高次元立体物……それが現出していた。


 やがて、触手を伸ばすように、超立方体の周囲から、赤い結晶体が植物の枝のように急速に伸びていくとデスサイズ・ドライに接触し、その周囲を覆い尽くしていく。


「……フランちゃん! なにあれ? なんか目がおかしくなりそう……え? どうなってんの……あれ」


「……あれは多分、超立方体……四次元の物体を三次元の私達が目にするとあんな風に見えるって話は聞いたことあります……。ですが、すみません、過去の事例にもあんなものは……」


「まって! この気配……それに、あの赤い触手みたいな結晶体……解った! あれ……惑星アスカで戦った炎神アグナスって奴の同類っぽい! まさか……こっちの世界にアイツらが乗り込んできたっての?」


「私も惑星アスカでのユリコさんの戦闘記録は閲覧していますが……。まさか、あの赤い結晶体……ラース結晶体の塊? だとすれば、これはとんでもない脅威ですっ!」


 同時に、白鳳Ⅲのモニターに大きく「CODE:α」の表示。


「……ゼロ陛下の勅命……最終コード「CODE:α」発令。正直、洒落になってないけど、さっすが陛下……。躊躇わず、これをやる辺り解ってるね」


「CODE:α」……帝国軍総力戦体制発令コード。

 国家存亡の危機でもなければ、決して発動されない最上位戦時コードだった。


『帝国の存亡、この一戦にあり。如何なる犠牲を払ってでも、帝国の敵を殲滅せよ』


 言葉にするとそう言う意味合いなのだが、これが発動されたのは、過去のエスクロン最終防衛線の瀬戸際攻防戦以来の事であり、まさに前代未聞だった。


「周辺のスターシスターズ艦! 及び前進警戒配置中の帝国軍各艦艇に告ぐ! ただちに全力退避! 出来ないなら、覚悟を決めて、最大防御で持ちこたえてッ! 半径数十キロに渡る高エネルギー放射……上空から来ますッ!」


 フランの警告に答えるように、スターシスターズ各艦も上空へ向けて、各々の最大防御シールドを展開する。

 

 更に、何層もの重厚な輪形陣を取るようなフォーメーションを取り始める。

 完璧に統率された艦隊運動に、ユリコも思わず驚嘆の声をあげる。


「なにこれ! 誰かが指揮してるの? 誰だか解んないけど、指揮官さん……そっちは任せて良い?」


「……ああ、任せておくがよい。問う、あれはなんだ? あらゆる観測手段でもってもその形状が特定できん。要するにアレは影のようなものなのか……」


「よく解んない! でも、ラースシンドロームの原因であり、わたし達の……敵! それだけは断言していいよっ!」


「あいや分かった! だが、あの異様な形状……もしや、高次元存在と言ったところか? ……これは、なかなかに厄介な事になりよったな! だが、それでこそ、我が大和の出陣に相応しき戦と言うべきものよ! イスカンダルへの旅路の前座としては、なかなかに華々しい戦であるなっ!」


「えっと、大和さん? でいいんだよね? とりあえず、大和さんはわたし達の敵じゃない……そう思っていいのかな?」


「ああ、そう思ってくれ……我は、ゼロ陛下の盟友にして、下僕なのだからな! よいか? この戦……銀河人類の総力を以って、挑むべき戦と心得るが良い! スターシスターズ各艦に告ぐ……現時点で、全艦の指揮コードはこの我……大和が掌握した。これより、作戦コード『冥号作戦』を始動する。いよいよ、我らの真なる敵が来たということだ! 人の守護者たる我らが業……存分に味わせてやれ!」


「……えっと、大和さん。よく解んないけど、そっちも退避した方が……。よく解んない敵はよく解るようになるまで、牽制程度で良くない?」


 まぁ、帝国軍のやり方としては、そんな所ではあるのだ。

 未知の敵に対して、いきなり全力パンチではなく、一度下がれるだけ下がって、様子見……十分な情報を集めた上で反撃に移る……そうでなくては、危なっかしすぎるのだ。


「ふむ、ユリコ殿……別にアレを倒してしまっても構わんのだよな? どのみち、もはやそちに出来ることもあるまいて! さぁて、そろそろ来るぞっ! 初手から大技とは些か風情もないが、是非も無しであるな。総員耐ショック! 耐閃光防御ッ! 然るべき後に全艦最大火力砲撃にて反撃ッ!」


 その言葉に答えるように、白鳳Ⅲのモニターがブラックアウト。


 次の瞬間、世界が白く染まった。

 

「……ッ! フランちゃん、被害報告ッ!」


 ユリコもとっさの判断で、シールド側を上向きにした反転飛行状態とすることで、白鳳Ⅲの損傷は皆無に押さえていた。


 モニターブラックアウト状態で、平然とそんな曲芸飛行をこなす辺り、流石と言えた。

 カメラ類も大気圏突入を想定し、装甲シャッターで覆われるようになっていたことで、ブラックアウト状態から即座に復旧する。


 この辺りの信頼性は流石と言ったところで、回り込んできた放射エネルギーの余波もほとんど問題なかった。


「……白鳳Ⅲの損害はありません。コンディションはオールグリーン……ですが。こちらの前進警戒艦及び警戒ドローン群は今ので全滅しました……。超広域エネルギー放射……危害半径は50kmは行っていたようです」


 なお、スターシスターズ艦は主力艦隊だけに大型艦揃いで当然のように耐えきっていて、傍目にも損傷は皆無に見えた。


 その中心に一際大きな400m近くもの巨艦が浮かんでおり、どうやらそれが戦艦大和のようだった。


 そして、デスサイズ・ドライがいた所には、全長100mはありそうな武士を彷彿させる鎧を着込んだ真っ赤な巨人が腕組みをしながら、浮かんでいた。


「……あれは……イフリート? でも、少し形が違う? なんで、ここでアレが出てくるの? ハルカ提督はどうなったの? あんな終わり方なんて納得が……」


「……恐らく、同化されたのかと。イフリートというと、惑星アスカで団体で大気圏突入を試みたって言うアレですよね? まさか、大マゼランからわざわざ、ここまで空間転移でもさせたのでしょうか?」


 惑星アスカでの大気圏突破阻止戦闘は、相手が大気圏突破中と言う無防備な状態で、γ線レーザーの集中射撃と言う身も蓋もない方法で撃破していたのだが。


 こちらの銀河系……それもエーテル空間に、そんなものが出現したような事例は今までにもなかった。


 なお、イフリートとの交戦時の映像については、帝国の技術者達も目にはしているのだが。


 熱光学兵器の効果が薄そうな事は認めていたが、耐熱限界もある事が解っている上に、対宇宙戦艦用の核融合弾頭レールガンや、重力爆弾等と言う凶悪な兵器もあるのだから、倒せない相手ではないとの結論で、そもそも100m級の人型兵器……その時点で、バッカじゃねーのと笑い飛ばしており、誰もがさしたる脅威だとは認識していなかった。

 

 エネルギー生命体についても、核融合弾……要するに水爆でも直撃させれば消滅させることは可能で、要するにラース文明との戦いについては、物理的な武力衝突ならば人類側の土俵であり、同じ土俵で戦いを挑んでくるのならば、銀河帝国の敵ではないと言う認識ではあったのだ。


 もっとも、イフリートの強化型がエーテル空間に現れることはもちろん、謎の高次元存在の具現化ともなると、完全に想定外ではあったのだ。


 それもよりによって、ゼロ皇帝もほど近く、ユリコに至っては目の前。

 帝国の要たる二人の前に、そんな想定外の敵の出現……帝国軍も技術者達も己の不明に、上に下にの大騒ぎになっていたのだが……。


「最初に戦ったヤツも、アスカちゃんの話だと、人間が元になってたって言ってた。まさか……アレがハルカ提督の成れの果てって事なの?」


「断言できませんが、状況的にその可能性が高いかと。……まもなく、後方の祥鳳、及び信濃艦載機群がこちらの援護に来てくれます。私達は入れ違いでこのまま撤退します……よろしいですね?」


 状況を察した永友提督も、指揮下の空母二隻の上空警護機の全機突入と、護衛艦群の前進を指示しており、大和傘下となったスターシスターズ艦艇群も一斉に超立方体やイフリートへ砲撃を開始していた。


 そして、当然のようにサルヴァトーレⅢの護衛艦艇群も一斉に前進を開始し、周囲を包囲していた帝国軍艦隊もすでに続々と進軍を開始していた。


 なし崩しながらも、スターシスターズ艦隊と帝国艦隊による総力戦に移行。

 

 誰もがこれが最終決戦だと自覚していた。


 もっとも、ハルカ提督との一騎打ちを想定し、装備も厳選していた白鳳Ⅲでは、イフリートの上位種と謎の高次元存在相手では火力不足……撤退も妥当と言えたのだが。


「なんでよっ! もしかしたら、まだ……っ! それにわたしも戦える! と言うか、こっちの兵器であれを倒せるの?」


 ……ユリコが納得するかどうかは別問題なのだ。

 

 そして、惑星アスカで直接戦っているからこそ、イフリートの厄介さもユリコは理解していた。


 一万度を超えて形を保ち続けるほどの超耐熱性能。

 この時点で、レーザーや荷電粒子砲のような熱破壊兵器は全て無効化されると思って良かった。


 そして、その耐久性にしても地上戦では、たまたま荷電粒子砲を放とうと大口を開けた所にレールガンで、ピンホールショットを打ち込む事で、ユリコも容易く撃破していたのだが。


 相手が防御を固めた状態で、安全距離からレールガン狙撃で倒せるかと言われると、そこは微妙なところだった。


「……ゼロ陛下から、インペリアル・オーダーとして、ユリコちゃんへの撤退命令が正式に発令されました。この時点で、ユリコさんにはこれ以上の説明不要かと思います」


「……ゼロ陛下、直々の……インペリアル・オーダー……」


「ええ、そう言うことです。なので、問答無用で撤退開始いたします。永友提督の艦隊が撤退援護してくれるそうなので、直ちにこの空域を離脱します」


「ねぇ、フランちゃん……。皆は……勝てるのかな?」


「さぁ? すでにスターシスターズ艦の戦艦群が一斉に砲撃しているようですが、ほとんど効果ないようです……。いずれにせよ、厳しい戦いになりそうですね」


 イフリートは、ほとんど動いておらず、当然のようにスターシスターズ戦艦群の総攻撃を一身に浴びているのだが。

 

 核融合弾や大口径荷電粒子砲の直撃を受けているのに、物ともしておらず、曲射弾道のレールガンの重徹甲弾の直撃すらも、微妙に姿勢を崩す程度で怯む様子がなかった。


 ……惑星アスカのイフリートよりも明らかに高性能化していた。

 この短期間で、よくもと言うべきなのだが……。


 そして、いよいよイフリートも両手に灯した火球を放つ事で反撃を開始した!

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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