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第五十四話「激突ッ!」④

「そうか……はははっ! やはり、そうか……やはり、そう言うことか! カール・ミラー総帥……これがあなたの理想の果てと言うことか! ユリコくん、むしろ誇ると良い……君達は、あの人の理想を受け継いだ正真正銘の後継者だ。そして、それ故に君たちは人類の背負った業の集大成でもあるのだ!」


「……え、えっと? 何の話? 話見えないし、カール・ミラー総帥って誰よ?」


「人類世界の反逆者……。太陽系を二分した大戦争を引き起こした張本人であり、混沌の体現者でもあり、地球人類の未来を案じながらも、誰よりもその可能性を信じていた……夢想家だよ。そして、何よりも……大恩ある……かつて、私が愛した人だ……」


「え、えっとね! ハ、ハルカ提督! その話、ちょっと詳しく……聞かせてくれない? なんなら、ここで手打ちってことでも構わないし……。なんかさ、正気に戻ってない? そう言う事なら、そう言う事でよくない?」


 ……なお、この辺はユリコの後方支援のアキや作戦参謀達や情報支援AIなどが、ハルカ提督の言葉を重要情報と判断して、その話、もっと詳しく! などと猛烈な勢いで文字メッセージも交えて伝えてきており、ここで手打ちにするのも、全く問題ないと言うのも、後方の者達が割と必死な感じで伝えて来ていたのだ。


「すまないな……。もう手遅れなんだ。悪いが、この話は私にとって、墓場まで持っていきたい……そう言う類の話なんだ。まぁ、そうだな……実を言うと、私としてはもう君達帝国と争う気もないんだ。あの人の理想を……君達は受け継ぎ体現していたのだからね。ああ、こんな未来も悪くない……」


「んじゃ、そう言う事で、手打ちって事で! 大丈夫だよ……精神汚染が進んでても、再現体ならバックアップ戻しで、記憶データの再インストールで復旧するって!」


「ははっ……キミは……私を許すというのか? 私は……キミにとっては仇なのだぞ?」


「人は許し合わなければいけない。預言者語録のひとつだよ。まぁ、とりあえず他の再現体提督も何人か戦死してるけど、いずれもVR隔離環境での保護観察って事で済ませるみたいだしね」


 一応、ユリコが言っていることは事実であり、アルフレッド提督なども同様の措置を取ることが決定していた。


 もっとも、限りなくそれは再現体の悪用を防ぐための予防措置ではあるのだが。

 隔離VR環境と言っても、本人の要望を最大限尊重する為、別に収監生活を送らされる訳でもなく、現実世界に干渉する自由がない以外は、ある意味幸せな話なのかもしれなかっった。


「つくづく甘いな……。どこまでもお人好しなんだかな……君達も。だが、頼む……この戦い……最後まで付き合って欲しい。君も……そのつもりだったのだろう?」


 ハルカ提督の決意を秘めた言葉。

 ユリコも一瞬の沈黙を挟んで、静かに言葉を返す。


「……はいはい。要するに介錯人を努めろって事なんでしょ? ……その様子だとすでに陰腹切ってるとか、そんなとこ? と言うか、ハルカ提督……銀河連合の事はもういいの? あの調子じゃ、あの人達、もう100年も持たないよ。と言うか、ハルカ提督の言ってたアマテラス主義の成れの果てがそれなんだけどさ……なんか思う所はないの?」


「ああ、悲しいかな。我が理想の末裔たる銀河連合は停滞主義が正しいと信じた結果、ひどく無力な存在に成り下がってしまった。事実、国家として衰退の一途で君の言うように、100年後には何もせずとも消えるだろう……。これまでは、私達が裏に表に支えてきたからこそ……今の今まで、生き永らえてきたが、さすがに自然人口減少までは我々の関与するところではないし、民主主義ももはや国家形態としては限界だったのだろうな。ああ、もちろん、君達……銀河帝国の助力もあったのは認めるよ。まぁ、君らの場合は、銀河連合の人々が難民化したり、無法地帯化するのを望まないから……だとは思うけどね」


 ……帝国が、この300年間、積極的に銀河連合を完全に滅ぼしたり、片っ端から合併したりしなかったのは、事実であり、長年相応の資金援助などを繰り返してきていたのも事実だった。

 

 なにせ、帝国の公式年間予算としても、銀河連合諸国の支援予算は正式に計上されており、銀河連合諸国が衰退しつつも、かろうじて国家としての体裁を保っていたのは、他ならぬ帝国の支援によるものだった。


 もっとも、その理由については、いきなり銀河連合を丸ごと合併などしたら、帝国もエラいことになる上に、ハルカが言うように、下手に国家として潰れられると、難民が押し寄せてきたり、巨大無法地帯が出来てしまうから……至って合理的な理由からだった。


 そんな面倒くさい事になるくらいなら、資金をジャブジャブ流し込んで、お客様にでもなってくれた方がまだマシと言う事で、帝国は無償借款……要するに、無利子無期限の資金提供をせっせと行い、銀河連合諸国も膨れ上がっていく一方の天文学的な額の借金を見てみないふりをして、そうやった得た資金を国民に分配して、帝国からせっせと物を買って、半ば必然とも言える自国産業と経済の衰退という悲しい現実から必死に目を逸らし続けていたのだ。


 なお、今回の戦争でも銀河連合は、銀河統合銀行経由で帝国から大借金をしており、その額が更に増えているのだが……その額は、総計すると京と言う単位に及んでおり、とても返済できるような額ではなくなっていた。


 これについては、多分にハルカ提督のやらかしが原因なのだが、彼女はその程度には政治経済については疎く、首を突っ込む方が間違っていた……そうとしか言いようがなかったのだが。


 銀河連合諸国としても、あわよく帝国相手に勝利すれば、借款放棄も期待できると言う事で、それ故に軍事力の提供と言う思い切った支援に出ていたのだが。


 先の帝国の反抗作戦で、新設されたばかりの銀河連合諸国軍は甚大なる損害を受けており、有人兵器や生身の歩兵を多用していた事もあってか、戦死者と戦傷者数は凡そ十万人超と……それくらいの甚大な損害になっていた。


 タダでさえ、人口減に苦しむ中、小規模惑星国家の総人口に匹敵する数の人死にを出した以上、もはや銀河連合に明日は無い……その程度には、酷い損害だったのだが。


 帝国としては、そこまでの損害が出ているとは思ってもおらず、その辺りは無人兵器を多用する軍勢と、時代に逆行した人間を主体とした軍勢の意識の差……と言えるものだった。


 もっとも、この戦いの敗北で銀河連合の自然消滅までの時間が大幅に短くなったのは確実で、むしろ帝国にとっては頭の痛い話ではあったのだが……。


「ま、まぁ、そう言うのって昔からだったからね! 今に始まったことじゃないでしょ!」


「ああ、それは今に始まったことではない。君達は、これまで銀河連合を完全に滅ぼすことも無く、いわば生殺しに近いような扱いを続けてきたのだからな。残念ながら、それが現実だ……」


「ま、まぁ、そうかも知れないけどね! わたし達、銀河帝国はなるべく、不幸になる人が少なくなればいいなって、そう思ってるのであって、どうでもいいから、潰れない程度に放置してたとか、そんなんじゃないしー」


「……キミも少しは腹芸を覚えた方がいい。もっとも、私は彼らを衰退の道へ導いてしまった責任を取らないといけない。そうだな……多分、我々は間違っていたんだ。……なぁ、カール・ミラー総帥。あの時、私はどうするのが正しかったんだろうな……。どうして、あの時……私を導いてくれなかったんだ? 私に未来を託す……そう言ってくれたけど、私はこの有様だ……何故……? どうして……」


 まるでうわ言のような支離滅裂な言葉に、ユリコも彼女がもう長くないことを悟り、思わず自然と涙ぐんでいた。

 

 けれど、頭を振って涙を振り払うと、顔をあげる。


「……ハルカ提督! 今はそんな昔の思い出に浸ってる場合じゃないでしょ……! わたしと決着を付ける……違う? 最後まで戦いたいなら……自分を……見失うなっ! 根性見せろっ!」


 ユリコにしては珍しく、語気を荒らげて怒りを露わにしていた。

 ユリコはユリコなりに、こんな結末は嫌だ……そう思っており、そんな後悔を抱えて、メソメソと泣くような相手をいたぶるような趣味もなかった。


「あ……ああ、すまないっ! そうだったなっ! 良いとも……ならば、決着を付けようじゃないかっ! デスサイズ・ドライ! ラスト・ダンサーシステム……解放っ!」


 ハルカ提督もこれが最終局面と言う事で、デスサイズ・ドライの外部装甲を次々と捨てていき、ジェネレーターの出力をマックスまで向上させる。


 明らかに機体温度が上昇しているようで、その機体から揺らめく陽炎が発生し、それはやがてプラズマ化し、機体を覆い尽くしていく。

 

 その姿は、まさに炎の死神……そんな様相だった。


「……これぞデスサイズ・ドライの最終形態ッ! ファイナルフュージョンってとこだよ……さぁ、終わりの鐘の音が鳴り終わる前に……ラストダンス行くぞっ!」

 

 そして、一気に攻勢に出る!


 近づくだけで、機体温度がジリジリ上がるほどの輻射熱……機動力も5割増しくらいと大幅にパワーアップしているのが見て取れる。

 

 デスサイズ・ドライの格段に上がったスピードとパワーに、さしものユリコも押され始める。

 

 ハルカ提督の覚悟と、ここに来て冴えわたる技量にユリコも驚嘆し、むしろ、満面の笑みを浮かべつつ戦っていた。


「ここまでギア上げたのに、それでも追いついてくるとかマジですごいねぇ……さっすが!」


「……はっ! 馬鹿を言え……こっちはギリギリ、そっちはまだ余裕あり……そんな所だろう?」


「いやいや、結構厳しいよ……。これ……ここに来てハイパーモードとか、ズッコいって! まぁ、いいや……この場は一時退却ーっ!」


 ……逃げた。

 

 ユリコの駆る「白鳳Ⅲ」は唐突に機体背部のブースターを吹かすと、そりゃもう全速力で逃げにかかりあっという間に、雲間へ消えて、デスサイズドライはぽつねんと取り残されてしまった……。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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