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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第一章「星霊アスカ、その大地に降臨する」

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第六話「そして、奇跡は舞い降りる」②

「そ、そうか……きっちり皆殺しにしたのか……。確かに俺はそう言ったし、別に奴らを皆殺しにした所で誰も咎めんからな。それよりも、助太刀感謝する。すまない、最初にそう言うべきだった。と言うか、結局……アンタはなんなんだ? エルフのファリナがこうも無条件でひれ伏して、その身体を貸すとか、そうなるとエルフの上位存在ってところか?」


 ちらっと、背後の盗賊たちの様子を見る。


 なんとも無惨な光景だった。

 25人もの男たちが一様に苦悶の表情を浮かべたまま、人体としてはありえないようなポーズのまま、固められ吊るされていた。

 

 当然ながら、誰一人として生き残りは居なかった。

 

 一人だけ、首吊りのようになって、泡を吹きながら動かなくなっている者がいたが、恐らく生かそうと手加減しようとして失敗したと言うのは、こいつの事なのだろう。


 これのどこが手加減だと思わなくもなかったが、別に一人だけ生かしておいた所でさしたる意味はないし、どのみち、盗賊は問答無用で縛り首と相場が決まっている。

 

 それがちょっと早まった程度だと、そう思うことにした。

 

 それにしても、この盗賊共も不幸な話だった。

 色々策を弄して、人数を傘にきて、これまで好き勝手やってきたのだろうが、こんな理不尽な存在に目をつけられ、肩慣らし程度と言った調子で、一瞬で皆殺しにされてしまうとは……。

 

 ソルヴァの見立てでは、この盗賊たちはどこぞの国の脱走兵だと思われた。

 ならず者にしては、やけに装備が充実していたし、先程の反応を見る限り、練度も高かった。


 ここに来るまでに、ソルヴァ達は隊商の襲撃現場の調査も行ったのだが、その手際は鮮やかなもので、隊商の護衛も商人も誰一人逃げることも叶わず全滅し、死体や馬車の残骸なども街道から離れた場所にご丁寧にカモフラージュされて隠されていて、道の血痕なども土をかぶせて消されており、一見してそこで襲撃があった事すら解らないようになっていたのだ。

 

 ここまで徹底されたら、盗賊団の存在の発覚も随分あとになるはずだったが、たまたま隊商から遅れる形で単独行動を取っていた者がいて、その者は森に隠れてじっと息をひそめていた為に難を逃れ……その後なんとか街まで逃げ切って、その事をギルドへ報告したことで、ようやっと盗賊団の存在が発覚したのだ。


 実際のところ、少し前からソルヴァ達が拠点としているシュバリエ市に神樹の森経由で向かったはずの隊商が行方不明になるという事件が多発しており、森に盗賊団が入り込んだ可能性も指摘されていたのだ。

 

 もちろん、シュバリエを立った隊商や森へ入った冒険者や民間人にも、森の中で行方不明となってしまったケースが多発していて、これは大いに問題にはなっていた。

 

 もっとも、被害にあった者たちは尽く皆殺しに合い、当たり前のように被害を訴えることなどなく、本当にいるかどうかも解らない相手に対して具体的なアクションを起こせずに、冒険者ギルドも手をこまねいていたのだった。

 

 ……しかしながら。

 商隊の護衛を容易く全滅させ、襲撃の痕跡までも綺麗消せる程度には周到かつ、相応の訓練を積み重ねた武装集団。


 こんな者達が単なるならず者のはずがない。

 どうみても、破壊工作のプロフェッショナルの仕業。


 そもそも、杖持ちの戦闘魔法師がいた時点で、もう普通ではない。

 

 あまり考えたくはないが、北の隣国の偽装破壊工作部隊だった可能性が高い。

 ここまで手際が良いとなると、むしろその可能性が高いと言えた。


 何と言っても、北の隣国……と言うには少々距離が離れているのだが。

 その隣国、山の国炎国と言えば、最近何かと悪名が目立つアグナス教団のおひざ元だ。

 

 アグナス教団は、炎神の加護を受けた武装教団で、イースが所属する神樹教会とは何かというと対立し、神樹教会の聖地とされる神樹の森に攻め入るつもりなのではないかと噂されているような危険な団体だ。

 

 実際、50年ほど前にもアグナス教団は神樹の森に侵攻し、その半分近くを焼き払ったと言う前科もあるのだ。


 ……その神樹の森で、神にも匹敵する精霊が顕現したとなると、どちらも黙っているとは思えない。

 どう考えてもキナ臭い予感しかしなかった。

 

 いずれにせよ、盗賊団の戦力についても、唯一の生存者の目撃情報のみで、多分に不確定要素が含まれていた。

 

 その為、冒険者ギルド側も盗賊団のアジトを発見しても、とても敵わないようなら、人数やアジトの場所や周辺地形を把握するなど情報収集にとどめて、一度撤退して来ても構わないとソルヴァ達に予め言質を与えていた。

 

 もちろん、最初はそんな事は言っていなかったのだが、ソルヴァも案外抜け目ない男なので、冒険者ギルドの幹部にこう言うケースではどうするべきかと細かく指示を仰ぎ、きっちりその言質を引き出していた。


 要は、ソルヴァ達は本格的な討伐隊でもなんでもなく、いいところ威力偵察。

 実際、冒険者ギルド側もそのような認識で送り出していたし、ソルヴァもそのつもりでいたのだ。


 だからこそ、ソルヴァも盗賊団の人数を把握した時点で即座に撤退を決意したのであり、その判断は間違っていなかったと今も思っていた。


「……それが私も少々困惑していなぁ……。この身体の持ち主……エルフとやらが何なのか私は良く判らんし、そもそも私自身のこの世界においての立ち位置がよく解っていない。この者はエルフであり我が眷属だと言っていたが。諸君らは、エルフではないようだな。身体的な特徴などから我々の定義するところの人類種と極めて酷似しているようだが、この惑星の原住民と思ってよいのだろうか?」


 思ってもいなかった答えにソルヴァも思わず、返答に窮する。

 エルフを知らない? エルフの上位存在にも関わらず、そのようなことがあるのだろうか?


 それに、自分の立ち位置が解らないと言うのはどう言うことなのだろうか?

 

 それに、人類種と酷似するとは? 原住民とはどういうことなのだ? いちいち、その言葉の意味がいまいち解らない。

 

 ……聞いた限りだと、ファリナが精霊の言葉を翻訳しているらしいが、解釈の違いか、何かなのだろうか?


 なんというか、まったく異なる常識を持つ異国の人間とでも話しているような気分になってくるが。

 実際、似たようなものと言えた。

 

 ただ、この圧倒的に強大な存在は、明らかに戸惑っている、そのことだけはなんとなく理解が出来た。


「えっと、惑星の原住民というと……要するに、この世界の人間の事と思ってよいのですよね? であれば、そうです。私達についても、人族と呼ばれており、この世界で一番多い人類種と言えると思います。……あなたは、生まれたばかりの森の精霊様なのでしょうか? 少なくとも、現時点でこの森はあなたの支配下にある……そう考えていますが。そうなると当然、神樹様ゆかりの精霊なのでしょうか……」


 ソルヴァの隣にいたイースが恐る恐ると言った様子で答える。

 彼女はいわゆる神官と呼ばれる職業で、その多くは神樹教会に代表される何らかの宗教団体に所属し、総じて治癒魔法に長けており、冒険者にとっては、必須と言える要員だった。


 神樹教会と言うのは、神樹の森の巨大樹……神樹を神として崇める教団で、結構な規模を誇る宗教団体だった。

 もっとも、その教義は緩やかなもので、各地に支部教会を設立し、神官を派遣して格安で医療サービスなどを提供して回っており、民衆の評判は極めて良かった。

 

 冒険者の生存率を向上させるべく、その同行者として神官を手配する事業についても神樹教会が仕切っていて、冒険者ギルドや冒険者たちとも深い関係があった。

 

 当然ながら、彼らは神樹を御神体として崇めているので、この状況でイースが前のめりになっているのも致し方なしと言ったところだった。


 なにより、彼女は十代にもかからず、元近衛兵のソルヴァ以上の教養も持ち合わせており、この世界に関する知識についても他のものよりも豊富だった。

 この辺りは、伊達に教会の秘蔵っ子などと言われている訳ではないのだ。


 もっとも、人類種と言う言葉は、イースも聞いたこともない単語で、多分人間のことを意味するのだろうという憶測で、向こうの言葉をオウム返ししているに過ぎなかったのだが、この場面では適切な対応と言えた。


「肯定だ。この森で現在起きている事象や木々や草木の一本に至るまで、私は全て把握出来ている。またご覧のように自らの手足のように遠く離れた場所の植物を操ることも可能だ。なるほど、予想以上に大した能力だな……実に興味深い。それと……神樹と言うのは、このやたらとバカでかい樹のことで合っているのかのう。凄まじく巨大な樹なのでそこからでも目視できると思うのだが」


 なるほど、この存在の本体はその神樹様の目の前にいる……と言う事らしい。

 なお、神樹については、ソルヴァ達が拠点としている街……シュヴァリエ市からも天気が良ければ目視出来るということで、神樹教会の信者たちが巡礼に立ち寄ることも度々あった。

 

 なお、神樹はこの森の北の端っこの方なので、今ソルヴァ達がいるところからも、結構な距離があった。


 そう言う事なら、神樹の眷属……或いはその意思そのものの可能性すらあった。

 だが恐らく、この存在は生まれたばかりで、自分の能力も把握しきってはいないのだろう。

 

 にも関わらず、二十人以上からなる盗賊団を一瞬で無力化し、あっという間に皆殺しにしてしまった。

 この盗賊団には、戦闘魔術師すらもいたと言うのに、それを行使する時間すら与えなかった。


 ……無理もない。

 全周からの殺気で注意を引いた上で、音も気配もなく、足元からそこらにあるような蔦が一瞬で伸びて全身を拘束したのだ。

 

 要するに、陽動をかけた上での奇襲……先程、ソルヴァをあっさり拘束したのもそうだったが、この事からも対人戦術に恐ろしく長けている事が解る。

 

 おまけに、人体構造を熟知しているのか、関節部を重点的に拘束した上で、効率よく無力化を図った上で、頸部破壊による即死。


 なんと言うか、えげつない。

 首の骨なんてどうやっても鍛えようがないし、首の骨を破壊されたら、どんな人間でもほぼ確実に死ぬ。

 運良く生き延びても、半身不随。

 

 筋骨隆々の大男だろうが、フルプレートで身を固めた装甲騎士だろうが、あんなやり方で拘束されて、首を折られたら確実に死ぬ。

 

 この様子では、例え千人からなる軍勢を用意した所で、この森で戦う限り同様に瞬殺されるのは目に見えていた。

 そう言う意味では、まさに恐るべき存在なのだが。


 やはり、むしろ自らの力に戸惑っていると言った印象のほうが強かった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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