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第四十九話「銀河守護艦隊の落日」⑦

 その時点で帝国軍を圧倒していたことで、最低限の守りしか置かれていなかった銀河守護艦隊の根拠地中継港への特務潜航艦による特殊歩兵部隊の上陸。


 それは、誰も把握していなかった流体面下のブラックロードから人知れず忍び込むと言う形でなされ、文字通り誰にとっても寝耳に水であったのだ。


 実を言うと、このブラックロードの存在については、その星系を銀河守護艦隊へ贈呈したゼロ皇帝本人は把握しており、万が一銀河守護艦隊を敵に回した時の対策として、すべての記録から抹消し、皇帝だけがアクセス出来る機密データに忍ばせていたのだが。


 それを目ざとく見つけたアスカが、自らの直属配下である特殊歩兵部隊を送り込み、その兵站を脅かすことで、一時的に混乱させ、時間稼ぎに寄与すべく破壊工作を実行させたのだ……。


 歩兵部隊に上陸されたと言っても、その程度の戦力ではさしたる脅威ではなく、艦隊により包囲した上で、容易く殲滅できると誰もが思っていたのだが。


 彼らは一気呵成にゲート施設まで侵入した上で、艦隊もゲート施設を直接砲撃する訳にいかず手をこまねいているうちに、自分達諸共、重力爆弾の無制限解放を行ったのだ。


 何故そこまでしたのか?

 彼らはアスカから、物資集積庫の爆破程度で十分で、侵入が察知され艦隊に包囲され、撤退不能の状況に陥った場合は、その時点で迷わず降伏するように指示を出されていたのだが。

 

 彼らは銀河守護艦隊の根拠地の実情を知り、銀河守護艦隊の急所がまさにそこであると理解し、一撃で銀河守護艦隊の兵站を破壊し尽くせる、恐らくもう二度とないであろう千載一遇のチャンスだと理解し、その場で取り得るもっとも確実な手段。

 

 ……中継ゲート直前にての、重力爆弾無制限解放と言う恐るべき手段を選択したのだ。


 当然ながら、そんなものに巻き込まれては誰一人として生還は叶わないと承知の上で、彼らはそれを迷わず実行した。


 ……結果、重力爆弾の無制限解放は、ゲート生成装置の重力崩壊を引き起こし、上陸部隊を包囲していた一個艦隊と係留されていた「風林火山」を巻き込んで完全に消滅させた。


 そして、その結果発生した無数の重力断層とマイクロブラックホール群により、資源星系「Ω384」との連絡経路は完全に失われ、「風林火山」の喪失と中継港の物資集積所も消し飛んだことで、銀河守護艦隊の命綱とも言える兵站はたった一発の重力爆弾の前に崩壊したのだった……。


 その知らせを聞いたN提督は、その場で白目を剥いて、卒倒した程だったのだが、そうなるのも無理もなかった。


 なお、仕掛けた側のアスカも、そこまでの損害を与えたとは思っておらず、直属の配下でもあった特殊部隊全滅の報に触れ、人知れず一人涙したのだったが……。


 その戦略的影響は計り知れないほどとなり、それはN提督の造反にも繋がっていたのだ。


 それでも、ハルカ提督は解放に成功した銀河連合傘下星系国家首脳部と話を付けて補給物資を融通してもらう事で戦闘の続行に支障なしと判断していたのだが。

 ……そんな簡単な問題ではなかったのだ。


 なにせ、専用装備や専用弾薬などがあまりに多すぎて、たがが100隻程度の艦隊にも関わらず、銀河連合はその多種多様な注文に全く対応できず、またその要求技術水準についても、当然のように銀河連合諸国はまったく満たしておらず、その思惑はあっさりと破綻してしまっていたのだ。

 

 銀河連合諸国の技術力は、帝国と比較すると100年単位で遅れており、むしろ300年前と比較しても格段に劣化しており、その工業力についても、自動化も満足に出来ておらず、何もかもを人手に頼っていたのも問題だった。

 

 そして、当然ながら発生する物資の生産コストについても、帝国が2兆6000万クレジットの宇宙戦艦をポンポン建造するなか、帝国の宇宙駆逐艦程度の小型宇宙戦闘艦が一隻あたり30兆もの建造費用がかかるなど、文字通り世界観が違うほどの経済格差があり、銀河守護艦隊へ提供する物資のコストも概算だけでとんでもない額となった。


 もっとも、そのコストを支払う側としては、この戦いの最大受益者たる銀河連合が妥当と言うことになったのだが。

 

 元々、銀河連合諸国の経済規模は、銀河帝国と比較してしまうと雀の涙程度のもので、最終的に未来の銀河連合の民……要するに、莫大な赤字国債の発行で誤魔化してしまった。


 もちろん、国内だけでそんな巨額の国債を発行して資金を調達すると言っても、銀河の経済はもはや帝国中心に回っており、その帝国と敵対している以上、まともな買い手が付くはずもなかったのだが……。


 ハルカ提督は、クレジットの管理発行元……銀河統合銀行に対し、武力をチラつかせることで、半ば無理やり買い取らせると言う無茶な手法で、資金を確保したのだ……。

 

 もっとも、それらの資金の一部は、銀河連合の為政者達の懐に収められ、彼らの私腹を肥やすのに使われたり、まるで関係ない用途に使われたりと、本末転倒な使い方をされた事で、盛大に目減りし、更にその国債についても、強引に押し付けられた事で処理に困った銀河統合銀行が、帝国に泣きついて、まとめて売り払ってしまった事で、銀河連合は、戦争相手から借金をすると言う意味不明な構図となってしまったのだ。


 もっとも、勝てば官軍……これもまた事実で、帝国相手に勝利すれば、借金の減額の上で、相応の賠償金も踏んだくれるはずで、そうなれば経済的な不均衡も解消されて、一石二鳥……その話を聞いたハルカ提督はそんな風に単純に考えていた。

 

 その上、ラースシンドロームに対して無策で居た銀河連合諸国では、当然ながら、ラースシンドロームの影響は少なからず出ており、極端な治安の悪化や、社会システムの麻痺など数多くの問題が発生していたのだ。


 そして、帝国軍の銀河連合所星系からの無条件撤退も、状況の改善には全く寄与しなかったどころか、かえって状況を悪化させていた。


 なにせ、帝国軍が人道支援と言う事で行っていた有人惑星への星系内資源の輸送や治安維持についても、帝国軍の撤退に伴い、当然のように打ち切られてしまい、それらに用いられていた輸送艦艇すらも帝国軍は自らの戦闘艦艇諸共爆砕して、立ち去ってしまったのだ。

 

 更に、ようやっと行き来も自由になったと思っていたところへ実施されたGPHSの検疫による人流ブロックの継続……。

 

 結果的に、銀河連合諸国は帝国軍に星系内に進駐されていた頃よりも、各地で物資不足と治安悪化が深刻化し、それなりの資金を与えられた事で多少は持ち直したものの、肝心の銀河守護艦隊への支援については、雀の涙程度でハルカ提督を大いに失望させた。


 それ故、銀河守護艦隊の兵站状況は、もはや危険水準にまで悪化しており、帝国との開戦当初100%を達成していた稼働率も、現時点では6割以下まで落ち込んでおり、銀河守護艦隊の戦闘力は当初と比較すると大幅に下がっており、物資を節約したとしても半年以内には干からびて、白旗を掲げるしか打つ手がなくなる……そこまで追い詰められていたのだ。


 その上で、ハルカ提督達は通常空間から増援が出てきてしまえば、その時点で必敗だと認識しており、帝国よりの要請、帝国からの無条件撤退についても完全に拒否し、帝国の主要中継港を封鎖を続行していたのだが……。


 帝国は当たり前のように、他の星系に生産拠点をいくつも建造し、まるで意に介していないような有様だった。


 要するに、アルフレッド提督に限らず、銀河守護艦隊の提督達は拠点封鎖と言いつつ、実のところ、戦略的に何の意味もなくなってしまったところを懸命に守っており、拠点防衛という戦略的フリーハンドを捨てた状態で、帝国軍の逆襲に合い、完全包囲された状況で数百倍もの戦力を叩き込まれたことで、一瞬で窮地に陥っていたのだ。


 もっとも、封鎖自体にはそれなりに意味はあり、実際、各地の主要中継港のゲートの向こう側では、数万隻にも及ぶ凄まじいほどの数の宇宙戦艦と揚陸戦艦などが、エーテル空間戦闘艦艇群を引き連れて、二十四時間体制で待機しており、外側から友軍によりゲートが解放される……もしくは、銀河守護艦隊が殴り込んできた時に備えて、残存戦力の全てを叩き込むべく周到な準備を行っており、ゲートを封鎖しておかなければもっと状況が悪化していたのだ。


 つまるところ、この封鎖戦略はハルカ達にとっては命綱と言え、なんとしても譲れるものではなかったのだが……。

 

 俯瞰的に見れば、ハルカ提督達は戦略的イニシアチブを失った状態となり、圧倒的少数での防衛戦と言う誰が見ても、勝ち筋の見えない戦いに引きずり込まれてしまっていた。


 もっとも、その配置戦力については、エーテル空間側から帝国軍をほぼ駆逐したとハルカ提督も判断していたこともあり、帝国軍が逆襲してくるにしても、残存戦力をかき集めた精々100隻程度の艦隊が出てくる程度で、このジュノー率いる小艦隊のように僅か5隻程度の艦隊と、銀河連合軍の空母、及びその護衛艦と、遊撃艦隊による機動防御にて、十分対応が可能とハルカ提督も判断していたのだ。


 実際のところ、現時点での帝国軍戦闘艦艇の性能では、20隻に満たないような戦力が相手でも、100隻集めても返り討ちになる……その程度には、戦力差があったのだが。


 この時点で、このオルトバ流域に投入されていた戦力は先に述べた通りのオーバーキル級の大戦力で……。

 その時点で、5隻程度の小艦隊では話にもなっていなかったのだ。


 そして、これはこのオルトバ流域にとどまらず、銀河守護艦隊が駐留するすべての中継港に同等かそれ以上の戦力が投入されていた。


 指揮官たるアルフレッド提督も帝国軍との交戦経験と言っても散発的に飛来する偵察機の相手がせいぜいで、明らかに経験値不足であり、こんな状況に対応出来るはずもなかった。


 何よりも、ノーマークだった資源星系の中継港から、一斉に数千隻単位の戦闘艦艇が湧き出してくるとは、誰も想定しておらず、その上帝国軍は惜しみなく新兵器や新型機を投入し、電子戦についても、それまで互角以下とみせかけて、一瞬でハルカ提督すらも圧倒し、銀河守護艦隊を大混乱に陥れていた。


 そして、ジュノーも緒戦の偵察機隊との交戦で無駄弾を盛大に撃ち、一連の交戦で全力で撃ちまくった結果、そのエネルギー残量及び弾薬充足率は急速に低下し、今や3割を切るところまで下がっていた。


 何より、不用意に次元断層シールドを使った結果、一気に蓄電セルの電力を使い果たしてしまい、ダメージコントロール対応や強制冷却処置などで、エネルギー収支も圧倒的ににマイナス状態になっており、エネルギー残量はすでに危険水域にまで達し、長期戦となると必ず問題になる熱飽和の問題も、一気に露呈してきていた。


 ジュノーも当然こうなることは解っていたのだが。

 一連の集中砲撃は、現時点のジュノーの対応能力を軽く超えており、次元断層シールドを使わざるを得なかったのだ。

 

 何より、敵があまりに多すぎて、今射撃を止めたら、もはや最後だと理解しており、見る間に目減りしていく残弾数、蓄電残量と、積み重なる被害……無情にも次から次へと増え続ける敵影の前に、もはや絶望的な気分に陥っていた。


「おい! ジュノー! 残弾が……エネルギーもヤバい! 冷却だって全然追いついてないし、ダメージもやべぇだろ! 少し手控えて、逃げに徹しろ! とにかく、援軍が来るまで持ちこたえろ!」


「今、手を緩めたら、もう即座に沈められます! そもそも、逃げろってどこへ! 中継港はもはや陥落してますし、何処を見ても敵しかいません! 援軍だってこの状況ではもはや期待できません……おそらく、援軍も同等規模の敵襲にあい、こちらへの増援どころではないのでしょう……」


「そんなバカな! 遊撃艦隊……H提督艦隊は、こっちの倍の正規一個艦隊なんだぞ! 何よりH提督は歴戦のエリート……そんな安々と負けるはずが……」

 

「正規艦隊と言っても、たったの10隻なんですよ? 帝国軍は我々の百倍にも及ぶ戦力ですりつぶす……そう言う算段なのでしょう。先だって、N提督のところの祥鳳から、帝国がそろそろ本気を出すから、逃げるなら今のうちって警告されていましたが……。なるほど、こう言う事でしたか。ええ、我々は……負けますね」


「馬鹿なっ! 俺たちは常に優勢だったじゃないか! そもそも、一度も帝国軍に負けてないのになんでそうなるんだ!」


 実際、ジュノー達銀河守護艦隊は、一連の戦いで常に勝ち続けていたのだが。

 常勝を続けたにも関わらず、たった一度の敗北で、負けが決まる……戦争とはそう言うものなのだ。


 勝ち負けの回数で戦争の勝敗が決まるようであれば、誰も苦労はしないのだ。


「……こんな兵力差、もうどうやっても無理です。状況は……絶望的だと断言します。A提督……降伏信号の打電許可を願いますっ! それ以外に我々が助かる道なんてありません!」


 一応、最後まで戦うと言う選択肢もあったのだが。

 

 ジュノーはもはや降伏一択と判断しており、アルフレッド提督の判断を待つ……要するにその心がへし折れるまでの時間を稼ぐべく、必死で時間稼ぎを続けており、降伏以外に生き残る道はないとまで断定していた。


 そして、敵艦隊の狙いもそう言う事で、実際明らかに手加減されていた。

 そうでもなければ、今の今まで自分が生き残っているはずがない……そんな風に判断しており、それは概ね事実だった。


「馬鹿なっ! 降伏だと? この俺が! 正義が負けるのかよっ! そんな無様な真似が出来るかァッ! アマカゼ・ハルカ……今すぐアイツに繋げ! 我、救援求むと! そうだ! 共鳴通信へ切り替えろ……さすがにそれなら……」


 この期に及んで、無策のままで、希望的観測を並べ続けるアルフレッドにいい加減、呆れ果てながらも、ダメ元でジュノーも共鳴通信回線でのコンタクトを試みる。


「共鳴通信……つ、繋がりました! 救援要請打電……機動巡洋艦天霧より返信あり……『現状、我が銀河守護艦隊は各地にて帝国軍の総反撃を受けつつあり、我に余剰戦力なし、撤退も降伏も許されない。そこで死ね……コード・フェンリルの使用を許可する……。アルフレッド・東条中佐、見事散ってみせるがよい!』……って、そ、そんなぁっ!」


 ……その上で、プライマリーコード付きのジュノーへの最終自爆命令が送信されるのだが。

 それは、唐突に中断される……。


 絶妙なタイミングで成されたそれのお陰で、ハルカ提督から送信された自爆コマンドはただのお願いレベルとして、ジュノーの中では処理された。

 もちろん、却下だった。


 ……だが、明らかに意図的なプライマリーコード送信の妨害。

 これは、明確な帝国軍からのメッセージだった。

 

 これが最後のチャンス……たった1つの生き残りの可能性にジュノーも全てを賭ける覚悟を決める。


 もっとも、死ねと命じられたアルフレッドもさすがに失望し、その心も折れた……そんな風にジュノーも思ったのだが。


 そこには、予想外に力強い目をした……これまでとはまるで別人のようなアルフレッド提督がいた。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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