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第四十九話「銀河守護艦隊の落日」②

「お、俺が指揮を取れって……冗談じゃないぞ! そんな陸上戦闘の事なんて、俺は何もわからない……! 大体、こうなったのは俺のせいじゃねぇだろ! お、俺は悪くないっ!」


 普段は偉そうなことを言っておきながら、いざ本番となるとこの有様。

 そもそも、責任を取れとかそう言う話をしているのではないのだ。


 ……ここまで状況が悪化した原因の一つに、アルフレッドの指揮官としての素質もあるのは事実だが。

 

 状況的に、誰が指揮をとっていても同じだったと言え、ジュノーもアルフレッドに責任を認めさせたところで、何の意味もないと解っているのだ。


「ええ、そうですね。アルフレッド提督の責任とは言えないです……ですが、この場の最高位指揮官としてですね……」


「いいか! 言っとくけどな……俺も確かに油断してたかもしんねぇけど、こんな奇襲くらうまで、警告一つよこさなかったハルカのヤツがわりぃんだよ! オズワンのハゲもなんで、よりによって今日なんかにプリウス21の視察なんてやってんだよ! 危機管理意識ってもんがなってねぇよ! これだから、銀河連合の軍人ってのは使えねぇ! まぁ、いつも通りやれ……どうよ? これが優秀な指揮官の言葉ってもんだろ?」


 要するに、俺は悪くない……そう言いたいらしい。

 そう言う人物だと、ジュノーも理解はしていたが、ここまで酷いと反論する気も失せる。


 そもそも、アルフレッド提督がその気になっても、現状通信はまるで使い物にならず、この際どうでもいい話ではあった。


 発光信号やレーザー信号であればなんとかなるかもしれないが、通信ダウン時の対応も訓練も行っておらず、現状各々の自己判断で戦ってもらうしか無い状況だった。


 なお、通信途絶時の備えについては、確かにそう言う意見もあったのだが……。

 帝国軍の技術力では、銀河守護艦隊のスクランブル通信を妨害することなど出来ないだろうと侮られていたし、実際帝国軍との電子戦は完封勝ちを続けてきたのだ。

 

 こんな共鳴通信を含めたあらゆる通信回線をエーテル空間全域でダウンさせてくる等と言うのは軽く想定外であり、予想を遥かに超えていたのだ。


「まぁ、どのみち……通信網は全域で、共鳴通信も含めて、使い物にならない状況ですからね。今のところ、発光モールス信号や発光弾、アクティブソナーでモールス信号を打てば、近くならコミュニケーションは可能ですが。1000年前の戦場に逆戻り……いや、もっとですかね。正直、我々も帝国を侮っていた……そこは素直に認めるところです」


 ジュノーも電子戦艦であるから、その辺りの巧みさはよく解る。

 よくもまぁ、ここまで徹底して通信妨害を仕掛けてくれたと呆れるくらいには、徹底的に妨害にかかっており、懸命に穴や対抗手段見つけても、すかさず塞ぎにかかってきて、あっという間に複数リソースで連携して、強固な壁を作られてしまう。


 帝国の通信回線に割り込もうと、クラッキングを仕掛けても、あっという間に対応されて、容赦ないカウンターが次々と返ってくる。


 ハードウェアや電子システム自体は、むしろ帝国の方が効率が悪いのだが、やたらと強力なマシンパワーの力業と物量、なにより敵の電子戦技官の技量が桁違いなのだ。

 

 その電子戦技官にしても、やたら人数がいるようで、その電子戦闘パターンにしても、民生用のセキュリティ系AIや熟練の電子エンジニアやら、複雑にして多岐に渡っており、民間人すら参戦しているような様子だった。


 この分だと、帝国は民間人すらも動員しての総力戦を仕掛けているようだった。

 ……600億の帝国臣民一丸となっての総力戦……その途方もないマンパワーを想像して、ジュノーはこの時点で白旗を掲げたくなっていた。

 

 けれど、朧気ながら見えるのが、そんな無数の帝国軍の電子戦闘員の影に隠れて、彼らを統率する存在だった。


 ……明らかに別格。

 ジュノーもハルカ提督の電子戦アグレッサーとして、彼女の相手を務めたことがあるのだが……その帝国の電子戦技官は、ハルカ提督を上回っていると断じていた。


 そして、探りを入れていたジュノーに、その存在が気づいたようだった。


「……っ! あ、危うかった……。なんなの! あの化け物は……ま、まさかっ!」


 片目を抑えながら、唐突に蹲ったジュノーの様子を見て、アルフレッド提督もただならぬ事が起きたと理解する。


「お、おい……ジュノー! 何が起こった! 化け物ってどういうことだよ!」


 ジュノーも噂程度でしか、知り得なかったのだが。

 300年前の帝国建国時に、通称アーキテクト卿と呼ばれた伝説級の電子戦闘技官の存在について、聞いたことがあったのだ。


 ……彼女は、電子世界の魔王とも呼ばれ、銀河連合の影に潜んだ超AI群に挑み、その多くを狩り尽くしたと言われるような存在だった。


 分散化したクラウド型AIでもある超AIは、特定のハードウェアに依存するのではなく、ネットワークそのものにその構成プログラムを拡散させることで、限りなく不滅の存在だったのだが。


 その超AIを葬り去ると言う信じがたい真似をやってのけたのが、そのアーキテクト卿だったのだ。


 よりによって、そんな怪物を相手にしていると悟り、ジュノーも心肝を寒からしめる……。


「……ええ、カウンターアタックを受けました。一瞬で当艦の電子プロテクトが全て突破され……敵の電子戦闘の中枢を探ろうとした結果がこの有様ですよ……。それに敵の正体も見えてきました……。そうですよね……あのゼロ皇帝やユーリィ卿が出てきているのだから、彼女が出てくるのも当然ですよね……」


 しかも、今のはいわば寸止めのようなもので、向こうがその気だったら、ジュノーは全機能を乗っ取られるか、電子システムをまとめてオーバーロードさせられる事で、機能停止させられていたところだった。


 そうならなかったのは、手加減されていた……それ以外の何物でもなかった。


「馬鹿な……! 俺達、銀河守護艦隊の電子戦能力は、時代遅れの電子戦能力しか持たない帝国軍を圧倒していたはずだろ! そもそも、エーテル空間全域で通信封鎖だの、お前の電子プロテクトを安々と抜けるとか、そんなデタラメやれるもんなのかよ! 俺は認めねぇぞ!」


 認めるも何も、この銀河でもそんな真似をやってのけるとしたら、帝国くらいだろう。

 そして、アルフレッド提督が戦っている相手こそ、その帝国なのだ。


 この宇宙で最も敵に回してはいけない存在……それに喧嘩を売って、無事に済むわけがないのだ。


 ……この男は、自分とは別の宇宙でも見てるのではないだろうか?

 ジュノーもそんな風に思いながらも、敵の電子戦技官……アーキテクト卿が、何故に寸止めのような真似をやってきたのかを考える。


 実力差の誇示……そんなはずがなかった。

 多分、自分に期待されている役目がある……それ故に、手加減をされた。


 ……そう言うことだった。

 演じるべき役目やくもくを読み違えず、果たすべく役割を果たす……それこそが、ジュノーにとって生きる道と言えた。

  

「ジュノー! 聞いてんのかよ! そもそも、さっきからあのナイトボーダー共も一機も落とせてないじゃないか! いったい、なにやってるんだ! このポンコツがよ!」


 ……うっかり「お前の戯言なんて聞いてる訳ねーだろ、このバカ!」と応えそうになり、ジュノーもすんでのところで、それを抑える。


 もっとも、現状の迎撃効率は明らかに低下気味で、派手に弾幕を張ってはいるのだが。

 文字通りの無駄玉になっており、一機も撃墜できてなかった。


 もっとも、対空砲火と言うものは、敵機を寄せ付けなければ、上出来と言え、本来機動兵器をバタバタと落とせるようなものではないのだ。


 だが、この撃墜率の低さは明らかに異常だった。


 これはなにかある……そう判断したジュノーも、意識の主体を艦体側に持っていき、索敵情報に着目することにした。


 身体の方では、相変わらずアルフレッド提督が喚き散らしていたが、もうジュノーは彼については、何一つ期待せず、単なる置物……雑言製造マシーンとでも思うことにした。


 その上で、「はい」「ええ」「かしこまりました」「そうですね」の4パターンを臨機応変に返す、自動応答モードに設定しておいた。


 ロクでもない扱いだったが、そもそも常日頃から、彼女との信頼関係を構築すると言った努力など何一つせずに、偵察機の撃墜スコア自慢や、いかに早く発見して、効率よく撃破できるかとか、そんなナンセンスな事にリソースを注いでいたような男なのだ。


 追い詰められた戦場で、覚醒してネオ・アルフレッドにでもならないかなと、ジュノーも密かに期待していたのだが、そんな事はなく……クズはどこまで行ってもクズなのだと、ジュノーも早々にさじを投げていた。


 そして、敵機の性能分析を開始する。

 アルフレッドと違って、こっちは死活問題なのだ……早めに原因を見つけ、対抗手段を確立しないと、ジュノーも死ぬ。

 

 ……急上昇と急降下を繰り返しながら、ジュノーを半球状に包囲するように広がりながら、ジリジリと迫るナイトボーダー隊。


 その距離は絶妙な距離で、対空レーザーが減衰し、当たってもほとんど意味がなくなる距離……有効射程ギリギリを保っていた。


 通常の無人航空機であれば、有効射程外であっても、カメラを破壊したり、燃料系に当たれば、撃破も出来るのだが。


 帝国のナイトボーダーは実戦で長年揉まれたことで、ハードウェアとしての完成度は極めて高く、そんなラッキーパンチで沈んでくれるほど、可愛げのある相手ではなかった。

 

 その上、その数は次々と増えており、この様子では降下した全機がジュノーに殺到しているようで、更に上空から増援も次々送り込まれているようだった。

 

 なにより、その動きはかつての旧型機とは全く比較にならず、完全に慣性も重力すらも無視したような異様な動きを見せていた。


 実は、これも「シャドウウィスパー」同様の新型重力機関搭載機で、ユリコが持ち帰ったヴィルデフラウ式ナイトボーダーの化け物じみた推定スペックデータに衝撃を受けた帝国技術陣が、本家が負けてなるものかと、技術者としての意地とプライドをかけて「シャドウウィスパー」同様、突貫で新規開発した新型機「シャドウボーダー」と呼ばれていた。


 完全に割り切って無人制御機とすることで、脅威的な高機動力を実現しており、その戦闘力は極めて高かった。


 なお、外観などは旧型機をそのまま流用しており、それ故にジュノーも射撃パラメーターを旧型機準拠で設定しており、結果的に全く追従できていないようだった。

 

 付かず離れずと言った調子で、プラズマ雲を盾に使い、ALジャマー煙幕などもあちこちに撒いて、時に着水しつつ、時には流体面化に潜りながら、付きまとい長々と攻撃し続ける……それがナイトボーダーの強みだったのだが……敵に回すと恐ろしく厄介な兵器だった。


 もっとも、これでも従来機と比較すると半分程度の稼働時間しか無く、あっという間にガス欠になるという欠点を持っていたのだが。


 その為の支援機「シャドウウィスパー」であり、この機体は補給機も兼ねており、レーザー式のパワーライン接続により、上空からパワー供給することで、その欠点を補っていた。


 とは言え、本来ジュノーは大量砲塔ドクトリンにより、十六門もの五インチ対艦対空両用レールガンと、ハリネズミのように数百門もの小口径対空レーザー砲を満載した防空巡洋艦であり、対ナイトボーダー戦についても、本来相性は悪くなく、実際、以前旧型機と遭遇した際はレールガンによる集中射撃で容易に撃ち落とせていたのだが……。

 

 今回の新型機は、その機動性能は旧型機と比較にならず、おまけにジュノーの性能を把握しきっているかのように巧妙に死角に周り、レールガンの射界にもまったく入ってこず、完全に振り回されており、そもそもその攻撃もアウトレンジからのレーザー攻撃による各砲塔の熱飽和を狙っているようで、ジュノーも光学観測以外の索敵手段が使えないことで、被弾が相次いでおり、高性能ALコートと優秀な放熱システムのおかげで、砲塔自体の炎上や破壊は免れているものの……。


 ALコートとは要するにレーザーの熱破壊効果に対し、蒸散皮膜を発生させることでレーザーに耐えると言う代物で、被弾による加熱、熱損傷を完全になかったことに出来るようなものではないのだ。


 当然ながら、各砲塔は放熱が追いつかず熱飽和によりシャットダウンする砲塔が相次いでいた。


 何より、広域戦闘支援情報が全く入ってこなくなってきており、後方による軌道パターン解析と言った情報支援もなし……その上、レールガン主砲も対空砲撃等と言う贅沢な使い方が出来るほどの残弾が残っておらず、対空レーザーでの迎撃に切り替えざるを得なくなっていたのだが……。


 以前は効いていた対空レーザーも向こうも、ALコートの質を上げてきていた上に、周囲にALジャミング粒子が散布されている事で、どちらのレーザーも減衰されてしまい当たっても全く堪えておらず、ジュノーもレーザーの出力を上げることで対抗しているのだが。


 当然のように連射力は下がっているし、電力消費も格段に跳ね上がっており、結果的にジュノーの対空砲火は、間引かれたように露骨に大人しくなっていた。


 何よりも、一機や二機程度落とした所で、帝国軍の勢いは全く衰えず、反面ジュノーの方は、次から次へと被弾し、熱損耗や弾薬消費などで、その戦闘力はじわじわと封殺されていっていた。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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