第四十九話「銀河守護艦隊の落日」①
――帝国歴327年9月16日 銀河標準時刻23:15――
――旧第五帝国中継港オルトバ 沖合150km――
――防空巡洋艦 ジュノー ブリッジにて――
「くそっぉおおおおっ! いきなり、上空からの急襲だと! ジュノーッ! 銀河連合軍の防空部隊と対空監視部隊は、いったい何をやってたんだっ!」
A分艦隊指揮官、アルフレッド・東条提督……。
ボサッとした黒髪にメガネと言う……あまりパッとしない容姿で、背はあまり高くない。
これでも彼は、銀河守護艦隊の再現体提督たちの一人であり、元は21世紀前半を生きた若者であり、名字から旧日本軍の東條英機の系譜に当たると勘違いされた事で再現体として、蘇った……そんなツッコミどころの多すぎる微妙な経緯の持ち主だったのだが。
実のところ、ごくごく平凡な能力の持ち主で、とあるネットゲームでハルカのフレンドと称する腰巾着だった事があるくらいで、これといった目立った戦果もなく、消えていった……いわばモブ提督ではあった。
今回、たまたまハルカ提督が名前を覚えていたことで、縁故採用されたことで、復活を遂げ、以降なんとなく従っていただけに過ぎなかったのだが。
七帝国の中でも、比較的武力に劣る第五帝国の本星系オルトバ中継港の封鎖艦隊の指揮を任されたことで、ついに見せ場が来たとばかりに、張り切っていたのだ……。
もっとも、自ら中継ゲートを閉鎖し、通常宇宙へ立て籠もった第五帝国の残党は待てど暮せど、一向に打って出てくる気配もなく、さりとて、銀河連合諸国から撤退した帝国エーテル空間戦闘艦隊の残党が逆襲し、奪回に動くこともなく、中継港を制圧し拠点化した銀河連合軍の地上軍同様、あまりの何もなさに油断しきっていたのだった。
しかしながら、唐突に状況が動き出し訳も分からず、いきなり本格的な実戦になってしまったことで、実戦経験の甘いアルフレッド提督はあっさりとパニックを起こしていた。
もともと傘下艦艇も、アトランタ級軽巡洋艦のジュノーと、USNフレッチャー級駆逐艦四隻と如何にも数合わせといった艦隊であり、アルフレッド提督も今回の出撃については、細かい事情や背景など気にもとめず、ハルカ提督から参戦を依頼され軽い気持ちで参戦していたのだが……。
可もなく不可もない……それがこのアルフレッド提督の総評で、大義も信念もなにもなく、300年前の黒船相手の戦争でも、テレビゲーム感覚で戦争に参加していたのだが……。
ごく日常的な輸送船団の護衛任務中に、ルート選定を間違えた挙げ句に味方が敷設した機雷原に入り込んでしまい乗艦が触雷し、あっさり戦死してしまったと言う、割としょうもない最期を遂げた再現体提督であったのだ。
この封鎖任務についても、時折やってくる帝国軍の無人偵察機を撃墜したりしていた程度で暇を持て余しており、今回も偵察機相手にどうせならと全艦出撃させ、いつも通り軽く撃破し、余裕だと嘯いていたのだが。
今回の偵察は、やけに数も多く、その上アップグレードでもされたのか、やたら動きが良くなっており、結構な量の弾薬や燃料を浪費し、中継港からもかなりの下流まで引きずり出されてしまっていた。
今回の帝国軍の偵察はいつもと違い、最初の四機編隊が撃墜された後も、繰り返ししつこく何度も襲来し、さすがに何機か撃ち漏らしが出てしまったことで、これまで偵察機を全機撃墜し、その事に拘りを持っていたアルフレッド提督は、短気を起こしたのか、銀河連合軍の空母艦載機の防空戦闘機隊への全機出撃命令を下し、突破した偵察機を追撃するよう命じたのだった。
たかが、偵察機相手に拠点をがら空きにしての全戦力の投入……この時点で、あまりに素人じみた対応だったのだが……それこそがまさに帝国軍の狙いだった。
銀河守護艦隊の空母艦載機のデットコピーながらも防空戦闘機の性能は、帝国軍の強行偵察機程度物ともせず、その数も40機とまぁまぁの数が揃っており、すでに上空突破した機体も含めて、執拗に追撃を加え、アルフレッド提督の命令通り全機撃墜に成功したのだが。
防空戦闘機隊が任務を終え、一斉に空母へ帰投したのを見計らったように、ほぼ真空に近い一万五千m上空にて、何の前触れもなく100機近いナイトボーダーが空中展開されたのだ。
そして、中継港の防空施設と空母を目標とした一斉降下射撃がなされ、港に係留されていた駐留軍の防空の要でもあった銀河連合軍の仮装空母「プリウス21」は、その艦載機諸共、呆気なく撃沈され、奇襲で守備隊が混乱した隙に、複数の揚陸潜航艦による陸戦歩兵部隊の奇襲上陸が行われ、中継港は乱戦状態になっているようだった。
……上空警戒や直掩機も出さずに、ありったけの艦載機を追撃戦に投入し、空母自体も係留したまま止め置く……エーテル空間の空母運用に長けたスターシスターズ空母ならば、絶対にあり得ない運用だったのだが……。
プリウス21を運用していたのは、素人同然の銀河連合の軍人達であり、アルフレッド提督同様、たかが偵察機相手と侮っており、その強力な艦載機を一切生かせずに、初手で爆沈すると言う……割りとどうしょうもない結果となってしまった。
更にナイトボーダー隊の一部は、下流方面に展開していたジュノーとその傘下艦隊にも殺到し始めており、フレッチャー級の一隻がいつの間にかばら撒かれていたステルス機雷の触雷で轟沈し、もう一隻も触雷による機関部損傷で脱落し、集中砲火を浴びて轟沈した……。
そう……アルフレッド提督は偵察機相手に必要以上に深追いしたばかりに、予め帝国軍が敷設していた機雷原に誘い込まれ、一瞬で進退窮まる状況に陥っていったのだ。
そして、A艦隊は緒戦で2隻失った事で、その戦闘力を半減させていた。
この時点で、まごうことなき大敗であったのだが。
帝国軍は一切の容赦をするつもりもないようで、上空からは続々と来援が到着し、アルフレッド提督も自分が窮地に陥ったことを自覚していた。
「A提督、申し訳ありません! 銀河連合軍の対空レーダーでは性能が低く、帝国軍の高空型ステルス大型輸送機を捉えることが出来なかったようです! 我が方は奇襲により被害甚大! 地上部隊も混乱し、まともに応戦できていません!」
亜麻色の髪をくるくる巻いた両おさげにする……そんな奇抜な髪型でトーク帽と呼ばれる小さな帽子をかぶった黄色いセーラー服のような服装の少女が必死な様子で報告を続ける。
彼女の名はジュノー。
巡洋艦ジュノーの頭脳たる、いわゆるスターシスターズの一人だった。
なお、その肩にはやたらと銃身の長い銀ピカのレーザーライフルを背負っているのだが。
本人曰く様式美だと言う話で、実際に撃った事は一度もなかった。
「ゆ、輸送機だって? そんな馬鹿なっ! そんな大型機……音や目視でだって解るだろう! なんで、あんな真上にまで来ていて、誰も気付かなかったんだ!」
……状況は切迫していた。
油断しきっていたところへの奇襲ともなると、それはまさに最悪の状況と言えた。
「エーテル空間の上空一万五千ともなると真空の世界ですから、音なんて伝わりませんし……本来航空機が飛べるようなところでは……。その上、特殊な熱光学迷彩を施された新型機のようでしてデータも何もなく……。故に完全に奇襲を許してしまったようです……。その上、艦載機収容の隙を突かれたことで「プリウス21」はすでに轟沈! 防空戦闘機隊もまとめて壊滅したようです!」
エーテル空間内は大気に満ちていて、本来は音速で飛ぶ航空機などは、音でその接近を判別できるのだが……。
エーテル空間の上空一万五千mともなると、限りなく真空の世界で、レシプロ機などでは決して辿り着けない世界であり、航続距離の短いロケット推進機などでなければ、飛行など不可能なのだが。
今回、帝国軍が投入した新型超高空輸送機「シャドウウィスパー」は重力機関を搭載した限りなく宇宙機と呼べる代物で、ユリコが持ち帰ってきたヴィルデフラウ製ナイトボーダーからの技術フィードバックを流用した超精密重力制御機関搭載機であり、重力圏内でも安定した重力制御を実現し、無音飛行も可能で、電磁光学迷彩と電子戦機能を搭載した空中母艦と言える全長100mもあるような大型機だった。
そのシルエットは文字通り空飛ぶ円盤で、古典的なUFOのような姿で、光学迷彩作用で下から見ても何も居ないようにしか見えず、初見でこれの接近に対応するのは、まず不可能だった。
本来、重力圏内での重力制御は、自然重力とのバランス調整が極めて難しく、宇宙機のような完全重力制御機ともなると、その建造も運用も極めて困難で、重力機関自体にしても、これまであくまで補助的なものとされていたのだが。
ヴィルデフラウ式ナイトボーダーは、微細重力の複雑精密制御と言うやり方で、重力圏内でのきめ細かい重力操作をいとも簡単に実現しており、帝国もその画期的な新機軸を驚愕と共に模倣し、極めて短期間で同等レベルの精密重力制御システムを完成させ、兵器転用を実現していた。
なお「シャドウウィスパー」の開発期間は実機試作機が一ヶ月にロールアウトされたばかりと言う即席もいいところの機体なのだが。
それ故に、この機体の情報については、ハルカ提督が密かに帝国内に築き上げていた情報網にもかかっておらず、完全な奇襲を許していた。
「なんだって! それじゃエアカバーもなしで戦えってのか! ジュノーっ! そもそも、お前のご自慢の対空レーダーはどうしたんだよ! 飾りじゃないんだろ! 防空巡洋艦がこんなあっさり出し抜かれてどうする! くそったれが!」
「重ね重ね申し訳ありません……。帝国軍の超広域ECMバラージの実施により、各地の警戒レーダー網がダウン、その上でエーテルロード全域でデータリンクがダウン中! 敵は新型のジャミングプロトコルと攻勢電子浸透ウイルスを投入し、エーテルロード全域での同時多発電子攻撃を行っている模様……! 現状、当艦含め、こちらは敵の電子攻撃にまったく対応しきれていません! よって、現状の索敵手段は非電子索敵……要するに、光学目視及び音響索敵のみが頼りという事です」
この電子戦の優位も銀河守護艦隊が帝国軍を圧倒できていた要因だったのだが。
そのアドバンテージが一瞬でひっくり返された結果、銀河守護艦隊は相互情報支援も指揮統制網も失い、一瞬で烏合の衆と化していた。
「はぁ? 全域でデータリンクがダウンって……一体、何が起きてやがるんだ!」
「帝国の総攻撃……に決まってるじゃないですか。さすがにこの規模の攻撃が小手調べのはずがありません……そんな事も解らないのですか? まぁ、予想通りの展開と言えば予想通りですね……」
いちいち、聞かずに少しは自分で考えろ……ジュノーも内心ではそれくらいのことを思っていたのだが、そこを口に出すほど、短慮ではなかったが……。
その口調にはあからさまに棘が混ざっており、鼻でため息を吐くと言うその態度に、アルフレッドも鼻白む。
「そ、総攻撃って……予想通りって……。確かに、帝国もいつかは攻め込んでくるって聞いてたが、何もこれが総攻撃とは限らないだろう? 奴らにそんな力が残されているはずが……」
「いい加減、現実を認めてください! 私もこれは総攻撃じゃないと言って、敵が消えてなくなるなら、いくらでも否定します。ですが……帝国の総攻撃は始まっています! いい加減、覚悟を決めてください! すでに戦闘は始まっていて、貴方こそがこの戦場の我が方の最高指揮官なのですよ?」
「……そ、そもそも、防衛指揮官のオズワン大佐は? あのハゲ……守備隊の指揮は任せろとか言っておきながら、何なんだ! この有様はっ! 俺が最高指揮官って……そんな事言われても、どうしろっていうんだよ! クソがっ!」
オルドバ中継港封鎖作戦の司令官オズワン大佐。
銀河連合の軍人の一人ながらも、組織運営には長けた人物で、中継港の防衛戦力や物資などの手配もしてくれて、銀河連合軍でも最新鋭のエーテル空間戦闘艦でもあるプリウス21をオルドバに優先配備させるなど、銀河連合の軍人としては、悪くない手腕を見せていた。
端的に言って、有能な将官で、A艦隊への物資補給などについても、A艦隊の物資充足率は7割ほどと、まだマシな数値を維持出来ており、軍政タイプの指揮官としてそれなりに優秀な指揮官だったのだが。
ジュノーの記憶では、今日は朝からプリウス21の艦内視察と称して、乗り込んでいたはずで、状況的にプリウス21と運命を共にしたと考えてよかった。
「オズワン大佐は現状、所在不明……状況的にKIA認定といたします……。情報リンクもダウン中の為、確認は取れていませんが、オズワン大佐の最終位置情報タグはプリウス21艦橋……故に生存の可能性は限りなく低いです。それでも、所在確認をいたしますか?」
視野狭窄気味な指揮官でもあるアルフレッド提督にとって、オズワン大佐は、細かいことを引き受けて対応してくれることで、それなりに頼りにしていたのだが。
状況的に、オズワン大佐の生存は絶望的だった。
もっとも、戦争とはそう言うもので、如何に優秀で組織運営上欠かせない人物だったとしても、いざ戦闘が始まると死ぬ時は死んで、あっさりと居なくなってしまう……そんな事は最前線では日常茶飯事と言えた。
帝国軍のような実戦に揉まれたまっとうな軍隊であれば、そう言う事態も想定して、大佐が死ねば少佐が引き継ぎ、少佐が死ねば大尉が……と、指揮権を引き継ぐことで、組織的な戦闘を続けられるように日頃から訓練もしているのだが。
銀河連合のにわか軍隊では、そこまで徹底しておらず、初っ端で司令官を失った事で明らかに混乱しており、割とどうしょうもない状況に陥っていた。
そして、この場合の最適解は、アルフレッド提督が戦場の最高指揮官と言う事で、全てをまとめ上げて、陣頭指揮を取る……なのだが、常に誰かの後ろを腰巾着として、ついて回る。
彼は、21世紀で平凡な人生を歩んでいた頃から、終始そんな調子で誰かの後を付いていくことはあっても、自分から人を率いたり、導くような立場になった経験はなく、あったとしても三日も持たず投げ出してしまっていた。
それはこの31世紀の未来世界でも同様で、要するにこのアルフレッド提督……致命的なまでに指揮官に向いていなかった……。
そう言えば、ジュノーもアルフレッドも容姿描写忘れてました。
アルフレッド……こざっぱりしたチー牛。なろう追放系によく出てくる陰険クソメガネ野郎系。
ジュノー……マミさん。(笑)
こんな感じです。
ちなみに、ジュノーは古代アニメのまどマギ見て、髪の毛の色似てる! とか思って、
髪型真似したら、すっかり気に入って、パーソナルカラーまで真似し出して、コスプレみたいなのまで始めた結果、すっかりマミさんのパチモノみたいになってます。
と言うか、マミさん良いっすよね。
この娘、以前のバージョンではただのヤラレ役の可愛そうなコだったんですが。
書き直しの過程で、謎の自己主張を始めて、思ったよりアクの強いキャラになりました。