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閑話休題1「ユリコとアスカ様の異世界海浜リゾートなう」⑩

 遥か遠く地平線の彼方に居た先頭のイフリートが統制集中射撃を浴びて、あっという間に爆散する。


 遠目には唐突にボフッと煙を吹いたようにしか見えないのだが。


 煙を吹いた時点で、すでに爆散しているので、早速ワンキルだった。


「射撃連動システムもどんどんアップグレードしてるから、撃ち方やめも早くなったね。続いて第二射用意っ! でも、ホント……拍子抜けするくらいあっさりだねぇ……。これなら、ドラゴンのほうがまだ歯ごたえあったよ」


 上空数百キロを音速を遥かに超える猛スピードで飛んでくるイフリートに数十秒間にも渡って正確にレーザーを直撃させ続けるユリコが凄いのだが。


 ユリコはさも当たり前のようにやってのけており、さすがとしか言いようがなかった。


「まぁ、大気圏突入中は回避機動も、反撃もままならんと言うのが常識であるからな。だからこそ、入念な火力支援下で、一分一秒でも早く突破してしまうのに限るのだが……。奴らも想定が甘すぎたな……イフリートは熱に対して、無敵だと思っていたのかもしれんが。何事にも限度があるし、あんな、無駄に大きく重たい文鎮がまともに空中戦闘なぞ、出来るはずがなかろう。ユリコ殿は、あれに乗りたいと思うか?」


「え? 要らないよ……あんなの。どんな強烈な兵器でも、当たらなければどうということもないんだから。小型軽量、機動力ジャスティス……機動兵器って、それで良くない?」


 ユリコの自機へのリクエストは毎回、単純明快で「とにかく、火力! そして高い信頼性と反応速度と軽量性! この4つは絶対外せない!」とのことで……。


 要するに、出来るだけハイレスポンスで防御をかなぐり捨てた高機動軽量級、それでいて、一撃必殺の重火力を持ち、長期戦を戦い抜ける高い冗長性と信頼性を持つ……。


 簡単な注文ながら、まず軽くしろというリクエストの実現と言うのは、あらゆる工業製品にとっては、ハードな注文であり、この時点でハードルが高いと言えた。


 当然のように、ユリコを満足させるレベルとなると、簡単に実現できるものではなく、ユリコの乗機はいちいちべらぼうなコストをかけ、帝国の技術を結集したワンオフハイエンド機となり、後世には、そのデチューン機が主力になっていた時期すらもあった……。


 事実、白鳳のデチューン機である「鳳シリーズ」と呼ばれる機体群は、時代時代で大型化が進んだ際に、原点に立ち返ろうということで、リファインデチューンと言う形で、帝国のナイトボーダー開発史では、何度も登場している。

 

 余談ながら、帝国軍の現役最新鋭有人機のブラックナイトも、鳳系譜の機体で、やはり紙防御、高出力の軽量機体と言う特徴は継承されており、極めてピーキーな機体ながら、前線の兵士たちには高い評価を受けていた。


 なお、現役の無人型の「カブト」と呼ばれる機体は、やや大型でそこそこの防御力を備えた機体で、これの有人型も存在してはいたのだが……カタログ上にしか存在しないと言われるほどには、誰も使わない機体と化していた。

 

 要するに、帝国軍の防御軽視、機動力偏重兵器ドクトリンは概ねユリコのせいと言っても過言ではないのだが……。

 当の本人は、それが機動兵器の理想完成形とまで思いこんでおり、彼女の影響力は300年経っても相変わらずで、これを覆すのは容易な事ではないと言うのは、言うまでもなかった。

 

 もっとも、今回は編隊を組んで並んで上空を通過するイフリートを一機づつ集中射撃で撃ち落としていくと言う、射撃演習のような状況で、機体性能については、何も求められていなかった。


 一応、宇宙からの降下援護広域爆撃などで一撃でやられないように森林地帯に展開し、散開陣形を取ってはいるのだが。


 ラース文明側は、宇宙からの援護射撃や陽動作戦すら仕掛けてこず、単なる平押しに留まり、イフリート自体も反撃もままならず、もはや一方的なワンサイドゲームとなっていた。


 そして、また……しぶとく、レーザー集中に耐えていたイフリートが空中で爆発し、盛大な爆炎と共に四散する。


 そして、いよいよ最後の一機を残すのみ。


 そのひときわ大きな角の生えたイフリートが、コースを強引に変え、見る間にアスカ達のいる場所目掛けて、突っ込んでくる。


 遮蔽物も逃げ場もない中、不可視のレーザーの集中射撃を浴びせかけられ、それでも執拗に迫るその姿は鬼気迫るものを感じさせた。


「ほぉ……なかなかに、思い切ったな……。だが、やはり決断が遅い……大方、そろそろ耐熱限界なのであろう? 各機……出力をマックスまで持ち込み、収束率も最大収束で穿てっ! これで決めるぞ!」


 帝国軍の対レーザー防御戦術は、レーザーの直撃を感知すると、蒸散被膜が耐えている間に、機体側でALスモークを展開した上で乱数機動で回避するというもので、結構なバクチなのだが……。


 元々、光速のレーザーはどんなに高い機動力があっても、回避できるようなものではなく、蒸散被膜が時間を稼いでいる間にロックオンを外すべく、大避けすると言うのが基本的な考え方であり、こんな風にじっと黙って装甲頼みで耐え凌ぐと言っても、そんなもの限度があると言うのはちょっと考えれば解る事だった。


 結局、そのひときわ大きなイフリートも他の個体と何ら変わることなく、機体の色が赤から黄色、白へと変わっていき、最後に青い炎に包まれると、やがて盛大に爆散する。


 もう5分ほど粘っていたら、案外地上にたどり着けていたかもしれないし、その大きさは目測ながら100m近くもあって、なかなかの化け物だった。


 ……なお、最後の最後まで反撃のひとつもなし。

 それはむしろ当然の話で、大気圏突入速度……マッハ10を超えるような世界では下手に動くと、機体が回転し始めて、制御不能になったり、圧縮熱が一点に集中して、一気に温度限界を超えてしまったりする為、基本的にまっすぐ進む以外は一切動けないと言って良いのだ。


 実際、最初の数機はレーザーの集中射撃に反応して、加減速を行う事で回避を試みていたようなのだが。 

 盛大に回転を始めたり、突入角が深くなって、単なる墜落状態となり、空中で爆散したりと散々な結果となり、残ったイフリートも微動だにせず、ひたすら耐え凌ぐ方針としたようなのだが。


 結局、一機たりとも残さず爆散すると言う悲惨な結果に終わってしまった。


「なんとも他愛ないな……。全機撃ち方やめ、状況終了である! まぁ、いくつか破片が飛びちったようだが。その辺りはお母様が掃討中だから、もうおまかせで良いだろう。皆の者、ご苦労だった! 我が方、勝利ぞ……勝どきをあげろっ!」


 巨神兵の装者は、いずれもアスカの配下でも腕利き揃いだったのだが。

 それでも、人型機動兵器に搭乗した上で、未知の戦闘様式……対軌道狙撃戦など、誰もが初めての経験だったのだが。


 彼らは、それをやりきり、16体もの伝説級の魔神の群れを一方的に撃破したのだ。


「うぉおおおおっ! あれだけ苦労したイフリートの野郎をこんなあっさり皆殺しかよ! おいおい、アスカ! どうなってんだこりゃ! 俺ら、マジすげーぜっ!」


 巨神兵の搭乗者達の思いを代弁するかのようにソルヴァが絶叫する。

 

 以前のイフリートとの戦いでは、ソルヴァもブラスターが雨あられと降り注ぐ中、囮として逃げ回り、その脅威は誰よりも解っており、それが16体も星の世界から迫りつつあると聞いて、内心ではとても勝ち目はないと考え、覚悟を決めていたのだが。


 実際は、拍子抜けするほどあっさりイフリートは遥か空の彼方で尽く爆散し、いくつもの流星と化して、派手に散ってしまった。


 アスカもユリコも、イフリートについては、単にデカいだけの石像……等と、完全にコケにしていたのだが……他の者達の認識は全く違っていたのだ。

 

 そして、そんなイフリートがまとめて空から落ちてくると言うこの世の終わりのような光景に、誰もが慄く中、二人はまるで怯むことなく、言葉通りあっさり返り討ちにしてみせたのだ。


 なお、同じ光景は当然ながら、大陸の各地で目撃されており、イフリートの群れを見た事で、炎の神々が神樹へ怒りの鉄槌を下すために、地上へ降りてきたと狂喜していた炎神教団の教徒達は、目の前でその最後の希望とも言えるイフリートが尽く爆散したことで、心底絶望し……中には集団自決して果てる者達すらもいた……。


 そして、その辺りはエインヘイリアル化していた貴族達も同様で……この日、少なからぬ貴族達が自決して、果てていたのだが……。 


 当然のように、アスカはそんな事は知る由もなく、知ったとしても知ったことかの一言で片付けていただろう。


「まぁ、そうだな。見たところ、奴らの耐熱限界は一万度程度だったようだな。奴らを包む炎の色が青くなっていただろう? あれは一万度を超えたサインだったのだが。タダでさえ圧縮熱で尋常ならざる高温になっていたところを、レーザーの集中射撃であっさりそれを超えてしまったと言うことだ……まったく、一万度程度なら我軍のナイトボーダーでも余裕で耐えるのだが……。まぁ、所詮はこんなものか」


 なお、一万度を超えて、形を保っているような素材は、銀河帝国でも実現出来ていない。


 一万度を超えて耐えると言っても要するに遮熱により、熱を素材に伝えないと言う方法で、短時間を耐え凌ぐと言う考え方で、本当に一万度を超えるまで耐えきったイフリートの耐熱性能も大概だったのだが。


 形あるもの皆、壊れる。

 何事にも限度がある。


 それもまた必然と言えた。


「よ、よく解んねーけど……。これは……俺達の勝利……そう思って良いんだよな?」


「もちろんであるぞ。事実、私はここで偉そうにふんぞり返って、命令を下していただけだし、ユリコ殿も今回はソルヴァ殿達と共に、レーザー狙撃を行っていただけだったからな。むしろ、堂々と……誇るが良い。ソルヴァ殿……諸君らこそ、魔神を打ち倒した勇者である! 皆も、神をも葬る新たなる勇者たちを称えるのだ!」


 アスカがそう言うと、同じ様に森のあちこちに潜み、固唾を飲んで戦いを見守っていたルペハマ市民たちがどっと湧き、なんとも照れ臭そうに巨神兵から降りてきたソルヴァ達も、たちまち民衆達に囲まれて、口々に褒め称えられると、満更でもないようだった。


 そして、自然な流れで祭りが再開されるのを見て、アスカも満足そうに微笑んだ……。




「して、ユリコ殿。どうであったかな? 試験には合格かな」


 祭りの喧騒を離れて、ルペハマ近郊の森の中でアスカとユリコは、互いに別れるまでの一時を過ごしていた。


「そうだねぇ……。皆、かなり不安だったみたいだけど、アスカちゃんは堂々と落ち着いて、余裕綽々って感じで……。まぁ、ゼロ皇帝もそうだったけど、やっぱトップが余裕の態度だと、ヤバそうな時でも皆、落ち着く……。そんなものだよね……いやはや、お見事!」


「ふむ、そう言ってもらえると、敢えて余裕を見せた甲斐もあったな。実のところ、本当に大丈夫か……くらいは思っていたのだがな。まぁ、思ったほど大した相手ではなかったな」


「大したことないって言ったじゃない。でもまぁ、これなら大丈夫……むしろ、わたしの出る幕じゃなかったかもだねぇ」


「そんな事はないぞ! ユリコ殿が来てくれて、どれだけ頼もしかったか。だが、子供もいつかは親離れをするべきであるからな……いつまでも頼るわけにはいかん。そう言うことだな」


「そうだね。本音を言うともっと長居したかったけど……ここらが潮時かな。じゃあ……そろそろ、行くね」


 その言葉で、ユリコの決意を察したアスカも、これ以上引き止めてはいけないと察する……むしろ、ここは笑って送り出すべき場面だった。


「そうか……。まぁ、その気になれば、いずれまた来れるだろうし、何よりもユリコ殿には銀河を救ってもらわねばならんからな。すまぬな……偉大なる先達たるユリコ殿達に、いらぬ苦労を押し付けてしまって……」


「そこは気にしない。こっちこそ、ロクな手伝いできなくてごめんね! なるべく早く、こっちに援軍を送れるようにするから……そっちこそ、頑張って!」


「ふふっ、誰に物を言っているのだ? さて……名残惜しいが、お母様の方でもユリコ殿を送り返す準備が出来たとのことだ。本当に……問題ないのか?」


「さぁ? 行きはなんとかなったし……あっちでも、アキちゃん達がスタンバって、受け入れ準備も出来てるってさ。まぁ、16万光年の意識転送なんて、前例もノウハウもなーいって、泣いてたけど。神樹ちゃんが何とかしてくれるから、大丈夫でしょ」


 アスカの耳元では、神樹様の「まーかせて!」等と言う根拠の怪しい自信満々な言葉が響いていたのだが。


 神樹様は、アストラルネットに代表される精神世界空間については、人類よりも遥かに深く理解しているようなので、いずれにせよアスカとしては、神樹様に一任する他無かった。


 やがて、ユリコの意識体の受け皿だったアスカの分身体がぼんやりとした光に包まれる。


「……転送準備完了だって……まぁ、ここは神樹ちゃんにおまかせだねぇ」


「そうか。そうなると、いよいよのようだな。では、向こうは任せるゆえ……息災でな!」


「アスカちゃん! ……いえ、我が娘よ! 息災なれっ! じゃあ、まったねーっ!」


 分身体から光り輝く人影が抜け出し、神樹の元へと飛んでいくと、それまでユリコだったアスカの分身体は、唐突に糸の切れた操り人形のように地面へ崩れ落ちると、バサッと緑の草の塊のような物体になり、たちまち溶けるように大地へと還っていった。


 ……傍目には、まるで死んでしまったかのようにも見えるのだが。


 こうなるのは、予め神樹様から聞いていたので、アスカとしてはさほどショックではなかった。


 系外銀河と銀河系ともなると、あの世とこの世の方がまた近いように思えるくらいなのだが。

 

 アスカとしては、ユリコの最後の言葉……「またね」と言う言葉を信じるまでだった。

 何よりも……きっとまた会える……アスカにはそんな確信があった。


 なお、この場には誰も近づけないように、先にソルヴァたちには告げており、ユリコについても星の世界に帰るだけだと説明していた。


「ふふっ、これで心置きなく、こちらに集中できるというものよな。ユリコ殿……私は貴女のような偉大なる方のクローンとして生まれた事を光栄に思うぞ。ああ、すべてこの私に任せておくが良い! 銀河帝国に……栄光あれっ!」


 決意も新たに、天を見上げるアスカ。

 そして、その頬を伝う涙一滴。


 アスカの戦いはこれからだった。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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