閑話休題1「ユリコとアスカ様の異世界海浜リゾートなう」⑨
「んじゃ、ここはちょっとアスカちゃんの戦闘指揮官としての腕を見せてもらおうかなぁ……? そんな訳で指揮は君にお任せっ!」
「ふむ、そう来たか。つまり、ユリコ殿なりの私への卒業試験……そんなところか。確かに指揮官として、一人でも十分やれると示さねば、ユリコ殿も心配であろうからな。だが、私とて艦隊司令として、幾度となく戦場を超え、実戦で揉まれているのだ。良いだろう、私はユリコ殿たちを後方で管制する事に徹するとしよう。まずは使えそうな戦力の把握だな……」
そう言って、配下を呼び集め、テキパキと指示を出していくアスカを見て、数多くの戦闘指揮官を見てきたユリコも、アスカの持つ歴戦の指揮官の風格とでも言うべきものに内心舌を巻く。
そして、この分だとアスカだけでも何ら問題もないと言う確信を一抹の寂しさと共に、実感した。
……10機の巨神兵と、「ピンク・スナイパー」そして「白鳳Ⅱ」。
この戦力による、イフリート地上落着阻止作戦。
それはシンプルに、全機に機体直結式の長距離γ線レーザーを装備し、神樹の主砲群も合わせて、降下してくるイフリートに一点集中レーザー射撃を浴びせるというものだった。
イフフリートの大重量による大気圧縮熱は軽く8000度ほどにまで達していて、その超高熱にすらイフリートは耐えることで、単独での大気圏突入能力を有していたのだが。
その上で、大出力レーザーの統制集中射撃を浴びせられるとなると話は別で、さしものイフリートも熱許容量をオーバーしてしまい、あっさり爆散してしまったのだ。
形を持たないエネルギー生命体の形態ならば、むしろエネルギー活動が停止する低温は問題となりうるのだが、高温についてはどんなに高い温度であろうが、問題にならず、重力の影響も受けない。
それがエネルギー生命体の強みでもあったのだが。
物質化することでイフリート化すると、物理の限界と言う弱点が生まれてしまうのだ。
大重量は重力の影響をより多く受け、耐熱上限についても必然的に発生する。
結局、イフリートも16体もいたにも関わらず、どれもこれもアスカ達のレーザー攻撃で、次々と空中で爆散し、すでにその大半が夜空を彩る流れ星となっていった。
「アスカちゃん! これで13機目を撃破! 敵さん、律儀に同じ軌道を何度も通って降りてきてるから、完全に一方的な展開だね。と言うか、大気圏突入中に軌道変更なんて、わたしらでも難儀するんだから、そりゃこうなるよ。何ていうか、大気圏戦闘舐めてる? って感じだねー」
「ああ、そうだな……あのような大質量体を無策で惑星に降ろすなど、なんとも愚かしい真似をやってくれたものよ。皆の者よ……聞いてのとおりだ。イフリートは、同じコースで飛びながら、徐々に高度を落としているに過ぎん。そして、もはや進むも退くもままならず、進退窮まっておるのだ。まぁ、神を名乗るにしては、あまりにお粗末な話であるな」
アスカがそう言うと、巨神兵に乗った配下の兵達から自然と笑い声が溢れる。
「はっ! 炎神アグナスとか言ってた野郎も結局ユリコの姐さんにブッ飛ばされたんだろ? 世界を作りし、原初の炎とか崇められてた割には、火山諸共吹っ飛んじまうなんて、ダセェ話だぜ! しっかし、このガンマレイとか言う飛び道具……ホントに狙ったところに一瞬で届くんだな。あれ……どんだけ高いところを飛んでるんだ? 拡大モードでなら見えるみてぇだが、普通に見たら点にしか見えねぇぞ」
「そうだな……凡そ、高度120kmくらいであろうな。まぁ……この状況で、まだ全機撃破出来ていない辺り、なかなか頑張ったほうだろうが。まともな援護もなしではなぁ……。まるで無意味な努力と言えるな」
「アスカ様、容赦ないね……仮にも神様が相手なのに。けど、この巨神兵ってのは凄いですね。なんだか私の魔力も跳ね上がってるし、このガンマレイって武器も火山の岩肌を撃ち抜いたって話で、一瞬で届くから絶対に回避も出来ない。おまけに皆で一箇所を狙い撃てば、伝説の魔神イフリートも耐えられずに砕け散るって、凄くないですか?」
ファリナが呑気そうに告げる。
今回は、ルペハマへ同行していたファリナやアーク、イースと言ったアスカ配下でも、割りと馴染みの者達も動員されており、ファリナに至っては、地上に降りて遊んでいたばかりに、捕まってまともな訓練もなしで巨神兵に放り込まれたのだが。
ファリナも魔法師としては一流であり、教え方の上手さに定評あるアークが懇切丁寧に説明し、他の巨神兵初搭乗の兵達同様、なんとか動かせるまでにはなった。
それで戦闘など本来、無茶も良いところだったのだが。
実のところ、ガンマレイを持って歩いて、所定の配置に付いて構えるだけで十分で、後は帝国の宇宙戦艦などで使われている照準連動システムを巨神兵に最適化したものを起動するだけの話で、ソルヴァ達も自分で狙っているつもりになっているのだが……。
実のところ、ユリコの正確極まりない狙撃に合わせて、全員の照準が連動され、一点目掛けて撃っているだけの話だった。
「まぁ、そうだな。お母様も喜んでいるようだぞ。お母様にとってはイフリートは嫌な思い出しかないらしくてな。それがこんな景気よく爆散していっているのだ。エイル殿達にもこの光景は見えているだろうから、今頃、喝采をあげているであろうな」
「うんうん! お師匠様もいいぞ! もっとやれーっ! って言ってますね。いやぁ、あのガンマレイを集中砲火されて、手足丸めて踏ん張って、踏ん張ってドカーン! と吹っ飛ぶ様……サイッコーに気持ちいいですね! 早く次こないかなぁ!」
「ファリナ……。あっちこっちで銃身や機体加熱アラートが出ちゃってるし、ガンマレイのレンズが溶解しちゃってる機体も出てて、修理担当のこっちは大変なんですよ。アスカ様、次の周回時は多分半分も撃てないと思いますよー」
イースが疲れた声で答える。
イフリートからは、一切の反撃もなく一方的な蹂躙戦となっているのだが。
誰も彼もが不慣れな上に、兵器の耐久限界も全くわからない状況で、案の定ガンマレイも故障や不具合が多発していたし、規定以上のパワーを絞り出している各機のマナストーンも必然的に発生する余剰熱で、加熱アラートが出ていたりと、少なからぬ問題が発生していた。
要は、時間を経るにつれて、アスカ達の対空砲火も先細りになっており、この辺りは皆が皆、闇雲にロクにインターバルも入れずに、バーストモードで撃ちまくっていたせいで、要するに練度不足であったのだが。
アスカ自身は、こんなものだと割り切っていたので、殊更問題にするつもりはなかった。
もっとも、巨神兵の現場修理に関しては、治癒魔法の使い手のイースと言う素晴らしい逸材が居たため、彼女はアークともども、応急修理担当として、問題が起きた機体に応急修理を施して駆け回っており、おかげで稼働率も問題ないレベルを維持していた。
「と言っても、もはや残り三体であるからな。アラートの出ている機体は、その場で待機の上で冷却魔法が使えるものはそれ発動し、銃身冷却に専念せよ。さすがに立て続けのバースト射撃ともなると、こうなるか……」
「でもまぁ、向こうは無理に加速したせいで、もう圧縮熱だけで耐熱限界に達しちゃってるみたいだしね。ちょっとつついただけで木端微塵になってるから、こっちの火力が落ちてもあんま問題にならないと思うよ」
「まったく、50m級の巨大人型兵器なんぞ、我が帝国でも何度も作っては、尽く失敗作であったからなぁ……。特に惑星降下戦であんなものを降ろすなんぞ、普通に自殺行為であろう。そもそも、奴らはなぜ、こうも執拗に人型に拘るのだろうな」
「うーん? ベースが人間だから……かなぁ。でも、私も宇宙戦闘機なんかに意識転送した事あったけど、あれってなんだかんだで慣れるんだよね……」
「……そう言うものなのか。まぁ、確かに私もこのヴィルデフラウの身体も最初は違和感あったのだがな。テロメア摩耗で十代にして、あちこちくたびれ切っていた元の身体より断然高性能で、驚いたものだ」
「確かにねぇ……。この身体って……もう反応速度とか桁違いだし、センシティブ系も超高性能で、やたら軽い割にハイパワー。何このチートボディ……」
ちなみに、ユリコも最初はこのアスカ二号の身体のハイスペックぶりに振り回されていたのだが。
今は、なんとかパワーセーブのコツを掴み、セルフリミッターのような事をすることで、割りと問題なく運用できていた。
もっとも、空気の振動から気配を読み取るだの、赤外線視覚……身体から蔦を生やして、手足のように操るなど、人間には真似できないような感覚や器官も多数あり、ユリコもこのヴィルデフラウの身体の持つ潜在能力の途方もなさに、驚愕していたのだ。
こうなると元の身体へ戻って、感覚を慣らすのも一苦労だろうと言うことはユリコも長年の経験で感づいていたのだが。
それは今言うことではないと弁えていた。
「確かに、この身体は大概、インチキ臭いからのう……。ユリコ殿ですら、振り回されていたが、さすがに慣れたようだな」
「まぁね! と言うか、セルフリミッターをいくつもかけて、なんとかって感じだから、そう言うのなしで普通に動けてるアスカちゃん、まじで凄い」
「ふふっ、そう褒めるでない。だが、恐らく、奴らもこれで懲りるだろうから。今後は小型機などを投入してくるだろうな……。まぁ、なんとでもしてみせるがな!」
「そうだねぇ……。でもなんか、ラース文明って脳筋って感じだから、そこまで知恵が回るのかなって、素朴な疑問も……」
「そこは、知恵が回ると想定すべきであろうな。さて、間もなく地平線から出てくるぞ。撃ち方よーいっ! ユリコ殿……例によって、初撃は任せるぞ!」
なお、現時点でイフリートは第6周回目……向こうも一方的に撃ち落とされると言う状況を悟り、敢えて、増速することで強行突破を狙っていたようなのだが。
結果的に却って圧縮熱が増加し、アスカ達から見れば、後になるつれて、あっさり爆散するようになっており、初回の周回では30秒ほども粘られ、一機を落とすのが精一杯だったのだが。
先程の周回では……もはや、イフリートも10秒も持たずに爆散するようになっており、一気に数を減らすことが出来ていた。
「任された! 射撃可能の機体は、照準連動をオンにした上で、出力の安定に心血を注ぐように! 撃てぇえっ!」