第五話「ファースト・コンタクト」④
さて、奴らの運命はすでに確定したのだが。
そうなると、この四人組の方はどのように対応するべきか。
彼らは、ならず者たちの仲間などではなく、むしろ救出部隊として、ならず者達へ奇襲を試みようとしている兵士かなにかだと推定された。
位置取りも巧妙に風下へ回っていて、木々や地形を上手くカモフラージュに使っていて、恐らく目視可能な距離まで近づいているようで、賊共は彼らの接近に全く気付いていないようだった。
森林内の隠密行動としては、なかなかの手腕だと言えた。
私の場合、森の植物からの情報提供と言う形で、彼らの動向を森の事象の一つとして認識しているのだが。
現地での視覚情報のみだったとすれば、この者達を発見することは困難だったであろう。
その程度には、上手く隠密行動をしていた。
これは、偵察要員が優秀なのだろう。
とにかく、ルート選定が巧みで、道なき道も的確に進んでいて、恐らく物音一つも立てていないだろう。
やがて、先頭の偵察要員が立ち止まると、盗賊団の姿を視認したのか、後続の三人が続々と集まってくる。
そして、うち二人はエレメンタル・アーツの使い手でありながら、私と同じ女性のようで、私が認識したのと同じ光景を目にしたのか、怒りに打ち震えているようだった。
一人はかなり小柄……私と大差ないくらいなので、子供のように見えるのだが。
そう言う種族の可能性もあるので、なんとも言えない。
時々、魔力のオーラが私なみにデカく立ち上がるのが解るので、エレメンタル・ユーザーとしては、かなりの上級者か、或いは天才と言われるような才能持ちの可能性が高かった。
もう一人は、私との対比だと170cmくらいと割と長身で耳の形がちょっと変わってる。
耳の先がやや尖っているように見受けれた。
こちらのオーラは、ほぼ身体のうちに収めているようで、僅かな残滓を残す程度なのだが。
そこまで自分の魔力を制御できる時点で、普通じゃない。
……地球の古代伝承の森妖精とかなんとか言うのがこんなだったような気もするので、恐らく器からして違うのだろう。
なお、この二人からは、平静ではなく、静かな怒りの感情が伝わってくる。
そりゃ、あったりまえだろう。
こんなのを見て、平然としていられる女子など居てたまるか!
解る、解るぞ! 大いに解るッ!
対象的に、重装備の男は冷静そのもので、逸る二人を窘めているようだった。
一応、彼らが交わしている会話らしきものも知覚できるのだが、この世界の言語サンプルが皆無なので、翻訳など無理な話だったが、ニュアンスで話している内容はなんとなく解る。
「イシャルテ、ファルテミーロ! パールファーラ、イータッ! ……!」
「エセタ、エセターッ! ウリヤルデ、サンテ……」
「……ロゴスフィール……ディシャルテ、ファルタゴーレ……ソバーラ……」
まぁ、こんな調子で何言ってるのかさっぱり解らんのだが。
比較的、単語が聞き取りやすい言語のようなので、言語サンプルの収集と定義化の上での理解も現地人が協力してくれれば、そう難しくはなさそうだった。
多分このちょっと小さいのが「すぐに突入しましょう!」と言っていて、もう一人の女子が「そうだそうだ」と同意して、男性の方が「今はまだ待て、機会をうかがえ」とかなんとか言って押さえているとか、そんな感じの会話だろう。
とりあえず、この断片的に聞き取れた会話だけでも「エセタ」が同意を意味する単語で、「イシャルテ」は「今すぐ」「ディシャルテ」は「今ではない」と言うような意味なのだと、なんとなく推測出来た。
なるほど、「シャルテ」は今と言う意味で、「イ」はすぐにとか直ちにと言う意味か、その単語を強調する強調形を意味し、「ディ」は違うとか、肯定を意味する言葉だと思われる。
まぁ、言語解析というのは、こんな風にしてやるものなのだよ。
……なんにせよ、この時点で、どちらに正義があるかは明白だった。
正義と悪の戦い……実に解りやすい構図だ。
だが、客観的に見て、その兵力差は6倍以上にもなる。
虐げられている5人の女性達は除外するとして、25人の賊と4人ではもはや圧倒的な兵力差と言えた。
如何に彼らが手練でエレメンタル・アーツの使い手がいるとは言え、この兵力差は覆せないだろう。
なにせ、地上戦においては、防御側が有利と相場が決まっている。
空戦ドローンによる上空近接支援や、後方や衛星軌道からの重火力支援があるなら、話は別だが。
それらが無いお互い顔が見える距離での白兵戦で勝負するという前提となると、少なくとも攻め手側は防御側の三倍以上の兵力が無ければ、勝利など覚束ない。
銃火器の有無、正規軍か否かと言った装備や練度の差があれば、倍程度の兵力差であれば、覆す事は可能だと言われていたが、彼らが銃火器の類を装備しているようにも見えないし、女性二人も乱戦ともなれば、とても戦力にはなるまい。
いずれにせよ、6倍の兵力差はさすがに無理だ。
このままでは、正義は倒れ、悪が笑い、弱者は虐げられる……そう言う理不尽な結果となることは明らかだった。
である以上、ここで私の為すべきことも決まったようなものだった。
悪は滅ぼさねばならん、そう……徹底的にだ。
そして、弱き者こそを救い、強き者は打ちのめす。
それでこそ、正義と言うものよ。
これは、私の元皇帝としての矜持と言える。
では、早速取り掛かるとしよう。




