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第五話「ファースト・コンタクト」③

 その気配が違う者達は、皆一様に似たような感情を抱いていた。

 絶望、怒り、悲しみ……もしくは空虚。


 なるほど……このなんとも不愉快な感覚は何かと思っていたら、どうやら植物を通じて、他者の表層感情を読むことが出来る……そう言うことらしい。


 確かに、植物の中には一種のテレパシー能力、アレロパシーだったかな?

 そんな能力を持つ種類が実際に存在していた。

 

 元は特定化学物質の放出で、他の植物や動物の行動や成長に干渉すると言う能力の総称なのだが。

 人の感情が植物の生育状況に影響を与えると言う説もあり、それも含めて、アレロパシーと呼ばれていた。


 なお、その辺りの植物の研究についても、ヴィルゼットは銀河レベルでの第一人者の一人と言え、彼女はプロフィールを偽装した上でながらも宇宙植物学博士号の国際認定も受けており、あちこちの惑星で数々の地球外新種植物を発見し、遺伝子合成植物などの開発にも多く関わっており、数多くの国際パテントも持っていた。


 なにせ、我々が植物と認識していなかった謎の岩の塊が、ヴィルゼットの調査の結果、実は植物だと判明したり、植物など生えるわけがないと思われていた惑星から、新種の宇宙植物を発見するだの、ヴィルゼットは次から次へと新種の植物を見つけ出し、宇宙植物学会に震撼を起こした程なのだ。


 彼女によると、アレロパシーの人類種への影響についても、植物達は普通に人の感情を読んでるとかそんな話をしていた。

 

 実際、彼女達が初っ端から我々に対して友好的だったのは、少なくとも敵として見ていないことが、直感的に解ったから……らしい。


 当時の第三帝国の惑星探査隊も、衛星軌道上で地表観測中だった観測隊の存在に気付いて、手を振って迎えてきた彼女達に驚愕と共に、見つかったのならしょうが無いと降下揚陸を前倒しにしたそうで、要するに、彼女達はこちらを敵視も何もという状態だった。


 我々もそんな全力で歓迎してくれるような異文明は前例がなく、敵意を抱く以前の問題だったのだが。


 表層感情を読める能力があったのなら、それも納得の話だった。

 

 と言うか、この話の時点でヴィルデフラウ達は、衛星軌道にも及ぶ広域索敵能力を有していた事になるのだが……。

 

 なにげに、トンデモ種族でもあるのだよな……ヴィルデフラウ。

 

 だから、この他者の表層感情を読めると言う事実についても、全く驚かない。

 と言うよりも、能力に疑問を抱いていないからこそ、こうもすんなり使いこなせるのだろう。

 

 それはいいが、この者たちは、何故そのような思いを持つのだろう?

 それに、この体型からすると多分同性……女性のように思える。


 他の男たちは……歓喜、興奮、快感?

 と言うか、これは悪意のような気がする……。


 破壊を楽しみ、殺しに歓喜し、他者から奪うことを快楽とする。

 ……前世でも幾度となく経験した慣れ親しんだ気配だった。


 なんと言うことか。

 異世界だろうが、邪悪は存在するということだった。


 まったくもって、嘆かわしい限りだ。

 

 そして、その団体から少し離れた場所で、一定距離の間隔を空けながら、ジリジリと動くもう一つ別の集団も感知できた。

 

 ……果たして、これはどう言う状況なのだろう?


 人数は四人……森の中で音も立てずに移動しており、その無駄のない身のこなしの時点で、恐らく戦闘訓練を受けた兵士かそれに準ずる者達なのだと見当が付いた。


 それに、無意味に表層感情を表すこともなく、淡々とした平静と言える精神状態を維持しているようだった


 隊列は一列縦隊。

 このような森林地帯での少人数での行軍陣形としては、合理的な物と言えた。

 

 それに、装備も団体よりも整っているような印象を受ける。


 先頭のものは索敵偵察要員のようで、少し先行する形になっている。

 軽装で用心深く進んでいるようなので、恐らくその見立てで間違いない。

 

 身体に草木を巻き付けたり、カモフラージュもしているようで、森林での戦いについて、解っているようだった。

 

 次に、金属だということしか解らない謎の素材で作られた巨大な剣らしきモノと全身の各所を覆った装甲服を着ている者がひとり、こちらは二番手。

 

 他の者は、先頭の者も含めて、皆、布製の服を着て比較的軽装のようだが、その衣服自体に魔力のようなものをまとっているのが解る。


 うん、魔力の反応もなんとなく解るな。

 この辺りは、すでに自分自身の魔力を感じているので、当然と言えた。


 と言うよりも、うち二人はかなり強力な魔力反応の持ち主だった。


 私ほどではないようだが、この場にいる大勢の人々の中でも、この二人はぶっちぎりに魔力のオーラがデカい。

 

 もっとも、団体側にも数人ほど、高めの魔力反応を持つものもいるようだ。

 

 推定ながら、この者達はこの世界のエレメンタル・ユーザー……つまり、魔法の使い手の可能性が高かった。


 なるほど、やはりこの世界は魔法文明世界……そう言うことか。


 何より、この二人は私のように身体から派手に漏れ出しているのではなく、体の表面にまとわり付くようにしか溢れておらず、ちゃんと制御している様子が伺えた。

 しかも、それでいてかなり濃い魔力を持っているようだった。


 森の植物経由での遠距離知覚能力。

 これの使い方もかなり、把握できており、そのような事も理解できるようになっていた。


 うむ、いいぞ。

 これは、能力が段階的に進化していると言うことだ。


 ひとまず、この能力の練習もかねて、この状況について、遠隔情報収集を続けると言うのが賢明だろう。

 そう思っていたのだが……。 


「……ぅわ、さいってーだ……コイツら……」


 思わず、げんなりとした顔で毒づいてしまった。

 なんと言うか、そこで何が起きているか理解してしまって、いたたまれない気持ちになった。

 

 ……悪意を持たない五人は、言葉にするのも憚るような行為を強制されているようだった。


 妙に光点同士が近くて、人影が重なってるように思えたのだが……要するに、そういうことだった。

 具体的にはその……生殖行為……だと思う。

 幸か不幸か、私はその手の経験などまったく皆無なのだっ!


 だ……だから、断言は出来ないのだが……。

 知識としては一応なきにしもあらずだから、はっきり言って解りたくもない事だったが、解ってしまったのだっ!

 

 こ、皇帝陛下だって、成人女性向けのコミックデータ閲覧くらいしてたし、それなりに興味だってあったのだぁ……あばばばばっ!

 

 でもでもっ! そう言うのって、それなりの愛とか恋とか、何より同意の上であってのことではないのか?

 

 どう見てもこれは、同意の上とか愛があってとか、そんなのとは思えない。

 明らかに、殴る蹴るとか首絞めたりとかしてるし……。


 むーっ! 曲がりなりにも婦女子の端くれである以上、このような鬼畜の所業は異文明人であろうが、断じて許容出来ないのであるっ!

 

 もしも、自分がこのような行為を強要された日には……きーっ! 許せん! 不敬っ! 不敬の極みであるぞーっ!


 はい、もう決定ー。

 もはや、皇帝の裁定は降りましたー。


 私が無罪と言えば、問答無用で無罪となり、有罪と言えば、やっぱり問答無用で有罪となる。

 帝国とは、そういう国だったのだ。


 であるからこそ、この者達は今の時点で全員まとめて有罪確定、死刑が相当と断ずる!


 つまり、この団体は森の中を根城にしている軍隊崩れかなにかのならず者か盗賊……滅ぼすべき明確な悪と言うことだった。

 

 なるほど、そう言う事なら、こんな訳の解らない場所を拠点にしている事も納得できる。


 まぁ、ならず者だの盗賊なんて、宇宙時代にはVRシアターの中にしか、存在しえないような者達なのだが。

 物語の悪役としては、割とメジャーな存在だった。


 異世界転生系の物語でもこの盗賊という悪役達は、主人公たちの異世界での最初の人殺しとして、平和で安寧な世界に生きていた者として、乗りこなければならない試練として、もしくは単なる噛ませ犬として登場するケースが多かった。


 確か、とある主人公はこうも言っていた。

 

「盗賊とは、いくら駆除しても咎められない金のなる木のようなものだ」と。


 この手合は大抵略奪した金品を溜め込んでいて、犯罪者である以上殺して、略奪した所で咎められることはまずない。

 それどころか人々からも称賛されて、名声も上がる。

 

 一石二鳥どころか、三鳥くらいあるような美味しい獲物。


 この世界の犯罪の定義なぞ知らんが、これが犯罪とされないようでは、まともな国とはとても言えない。 

 そもそも、この森はすでに私の国のようなものなのだ。


 私の国で、このような狼藉。

 よもや、見過ごせるはずがなかろう?


 よし、殺そう。

 こんな奴らを長生きさせてやるほど、私は優しくない。


 情報収集のために殺さない程度にぶん殴ってとか、思ってたけど。


 そんな甘い対応、生ぬるい。

 このような奴らは、死を持ってその悪行に報いるしかあるまい。


 もちろん、情報源と言う意味で一人や二人生かしておくべきかもしれんし、案外、この手の悪行には加担しないような清廉潔白の士もいるかもしれんが。

 

 例え、そのような者でも、仲間の悪行を傍観している時点で、同罪だ。

 情報源としても、別に必要なかろう。


 それについては、こやつら以外の者に聞けば済む話だ。


 どのみち私の場合、殺した人の数なんて50億人超。

 もはや、空前絶後の史上最多殺人記録保持者であるからな。


 私の前には、史上いかなる殺人者や、戦争を起こし数多くの人々を死に追いやった国家指導者と言えど、軽く霞むであろう。

 

 もちろん、私自身の手で50億を直接殺めた訳ではないし、私が最前線に赴いて銃や剣を取ったりするような機会などついぞなかったのだがな。


 もちろん、どちらも私はエキスパート級であったが、VRシュミレーションでの戦闘データ相手の訓練どまりで、実戦は経験していなかった。

 

 そこはむしろ、当然であろう。

 国家の頂点たる者が、武器を取り戦うような状況など、本来起きてはならんことなのだからな。


 そう言う意味では、私の手は未だ汚れていないと言えるかもしれないが。

 黒幕としてその命を下した事になっているのは私である以上、私は50億の虐殺者であり、それは正式に歴史データベースにも記録されたであろう正真正銘の事実だった。


 戦争における殺人の罪は、末端の兵士達が背負うようなものでは決して無い。

 それを命じた者が背負うべき業なのだ。


 その現実から目を背けようとするものなど、そもそも権力を手にする資格などないと言えるだろう。

 そして、帝国の場合は、それは帝国の頂点たる者、皇帝以外の誰の責でもないのだ。


 まぁ、そんな訳で、50億に20人だか、30人だかが追加された所で、そんなものは計測誤差に過ぎん。

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