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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第三章「銀河帝国の逆襲」

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第四十六話「帝国の逆襲」③

 もっとも、銀河連合内では相変わらず、次々と罹患者が発生しており、人流ブロック措置やGPHSの強制介入も当然と言えば当然の措置であった。

 

 それに、GPHSのコールドスリープ隔離処置は、以前帝国が行っていた隔離殺処分に比べたら、幾分かはマイルドであり、処置期間が無期限と言うこと以外は、そこまで非人道的なものではなく、不治の病の患者を未来の医療技術の進化に託すと言った処置はこの時代、割りと当たり前のように実施されており、一番グチグチと文句を言っていた銀河連合の指導者達から次々と潜伏罹患者が発見された事で、その対応も妥当な対応だったと言う世論になりつつあった。

 

 当然ながら、ハルカ提督や銀河連合関係者も銀河守護艦隊を使って、各所のGPHSの武装検疫船に脅しをかけて、力付くで追い払おうとまでしたのだが。


 そんな脅しに屈するほど、GPHSの武装検疫官達はヤワな者達ではなく、やれるものならやってみろと平然と言い放ち、人間への殺傷制限を持つスターシスターズでは、力付くでGPHSを追い払うのは、始めから不可能で、それ故にGPHSは、ハルカ提督の脅迫をあっさりと払い除けたのだ。


 このN艦隊の造反に、帝国軍の鮮やかな総撤退、そして、それにとって変わるように行われた銀河公衆衛生局の進駐は、極めて有機的に連携しており、その裏で糸を引いていたのは、ゼロ皇帝以外の何者でもなかった。


 この戦力を使わずに戦略目標を達成すると言うやり方は、N提督もゼロ皇帝もどちらも得意とする分野でこの二人は相互連絡一つ行わずに、まるで打ち合わせでもしたかのように無言の連携をやってのけたのだった。


「さて、現状は……。見ての通り、N提督の艦隊がこちらと秘密裏に不戦協定を締結してくれたおかげで、ハルカくんの艦隊はこちらに手を出せない状況になってるよ。まぁ、君の留守中、変わってないっちゃ、変わってないね。つまり、銀河は今日も平和って事だよ」


「いやはや、スイーツ提督に守ってもらってるような状況ですが、ハルカ提督もこの「サルバトーレⅢ」に張り付きっぱなしで、満足に指揮統制も出来ていないようですからね。しっかし、ゼロ陛下も無茶が過ぎますって……せめて、安全な地上世界に居て欲しかったんですけどね……。なんで、わざわざ最前線に出張ってるんですか?」


 要するに、ゼロ皇帝自らが囮となり、ハルカ提督の注意を一点に集めることで、全艦隊を拘束する……それがゼロの狙いであったのだが、その策にハルカ提督は見事にハマっていた。


 そして、それを守護するように立ちはだかるN提督の艦隊は、紛れもなく銀河守護艦隊最強の精鋭艦隊でもあり、ハルカ提督と言えど安々と突破できるような相手ではなく、唯一それに対抗しうるG提督を失った以上、ハルカ提督も勝機を見いだせず、完全な膠着状態に陥っていたのだ。


「いやいや、僕だって、これまで何度も最前線で統括指揮を取ってたじゃないか。皇帝たるもの、最後方でふんぞり返ってるだけじゃ示しがつかない。銀河帝国皇帝たるこの僕がリスクを受け入れて最前線に立つことで、皆も命を懸けて僕を支えてくれる……そんなものだろう? 悪いけど、このスタンスを変えるつもりはないけど、大丈夫……君らが僕を守ってくれると信じてるからね」


 このゼロ皇帝……一見、良きに計らえの後方指揮官タイプのようにみえるのだが。

 かつては、往々にして最前線に赴き、共に戦う意志を見せることで、将兵達からも絶大なる支持を受けていたのだ。


 その辺りもあって、皇帝の直掩にして、最強の予備兵力たるユリコの出番が度々あったのだが……。

 それは、このゼロ皇帝の信念故に……だった。


 そして、それ故にハルカ提督もこのゼロ皇帝の打倒が唯一の銀河帝国への勝機だと拘泥し、ゼロ皇帝の思惑通り、身動きが取れなくなっていたのだ。


「まぁ、ゼロ陛下は昔から、そう言う方ですからねぇ……。だからこそ、この私も毎度、陛下のお供を務めさせていただいてます……。それにしても、銀河連合傘下星系からの撤退戦指揮。実にお見事でしたね。しかも、宇宙一の頑固者とも言われ、強権で鳴らしたGPHSだけでなく、あのスイーツ提督の艦隊まで、阿吽の呼吸で軽く動かすとか……相変わらずの切れ味でなによりですよー」


 アキの説明じみたヨイショに、ゼロ皇帝も芝居がかった仕草で前髪を払うと、笑顔で返す。


「ふふっ、どういたまして……。まぁ、その代わり、銀河連合星系に送り込んでた宇宙艦艇群は景気よく爆破しちゃったけどね。もっとも、将兵は皆無事に帰還させたし、艦載AI群の転送も出来たし、損失はゼロ同然だ。何と言っても、総撤退に応じるように、N提督が向こうが譲歩したのだから、こちらも譲歩するのは当然だと、立ち上がってくれたのが大きかったよ。ヴィルゼットくん、僕が言ったとおりの展開になっただろ?」


 当然のようにゼロの背後に控えていたヴィルゼットが一礼する。


「そうですね。どのみち、補給経路の断絶で駐留艦隊や中継港の守備隊が干上がりかけていたのも確かでしたので、あのタイミングでの撤退は正解でした。なるほど、こちらが大幅に譲歩したことで、N提督に大義名分を与える……それが目的だったんですね。さすがのご慧眼です。艦隊司令部や将兵達からも、ゼロ陛下を称える称賛の声しか聞こえてきませんよ」


「戦略目的の達成のためには、一度退いたり、損を承知で譲歩するってのも必要な事なんだよ。そして、戦争で何よりも大事なのは大義名分……皆が正しくない戦争をしているなんて思ってたら、勝てるものも勝てなくなる。そんなものなんだよ」


 なにげにアスカと同じようなことを言っているのだが。

 アスカ自身は、このゼロ皇帝の教えを忠実に守っていただけの話で、要するに時代を超えた師弟関係のようなものでもあったのだ。


「まぁ、実際、GPHSのラースシンドローム撲滅宣言と、アキちゃんの銀河共有ネットワークへの情報公開が完全に流れを変えちゃったみたいだよね……。それに罹患者を殺さなくても良くなったのも大きかったね……凄い! わたしが向こうに行ってる間にそこまで話が進んでたんだ!」


 なお、帝国の正義を銀河に喧伝するこのプロパガンダ作戦はアキとヴィルゼットが中心になって実施されており、ラースシンドロームの情報を正確に拡散させ、その恐怖を煽ることを主目的としていた。


 もともとヴィルゼット自体、地球外起源種と言う事は伏せられていたのだが、彼女は宇宙植物学のみならず、天文学や宇宙物理学、人類医学と言った様々な分野で博士号を持つ、学者達の間でも有名人であり、その権威は相当なものだったのだ。


 特にラースシンドロームに関しては、その実態は謎が多いままではあるのだが、ヴィルゼットはラースシンドローム研究の第一人者として、GPHSも太鼓判を押すほどであり、彼女の言葉には誰もが真摯に耳を傾け、その脅威を認識するに至ったのだ。


 しかしながら、結果的に、このラースシンドロームに対して一切の対策を行おうとしない銀河連合首脳部やハルカ提督の異常さを浮き彫りにすることにも成功していたのだ。


「ああ、やはりこちらとしてはヴィルゼット君を擁していたのが決め手になったね。ラース反応による潜伏感染者の判別もだけど、コールドスリープ処置により、感染者を殺さずにその感染力を封殺するなんて、よく思いついたよね」


「そこは、アスカ様が知らせてくれた火の精霊という概念が元になってます。火を沈静化するには温度を下げればいい。単純にそう思ったのとGPHSからも感染症の封殺の為には、感染者のコールドスリープによる隔離処置が有効との提言がありまして……。実際に試したところ、予想以上の結果でした。おかげで罹患者を殺さずに済むならとGPHSが全面協力してくれるようになりましたからね」


 要は問題の先送りなのだが、アスカからは、ラースシンドロームの治療方法までもがもたらされており、未来に希望を繋ぐ事が出来るのならば、先送り上等とGPHSも判断し、それまで消極的な対応に終止していたのを手のひらを返したように積極的に動いてくれるようになったのだった。


 そんな訳で、今も帝国各地にラースシンドローム罹患者の隔離冷凍保存施設が建設され、罹患者達も続々と移送されつつあった。


 その総人数は結構な人数になりそうだったが、殺処分や、強制収容所に押し込んで隔離するしか、打つ手が無かった頃に比べたら、格段の進歩と言えた。


「そう言えば、僕の独断でGPHSに結構な額の袖の下や物資と人員を盛大に提供したけど、構わなかったよね? 君が頑張ってくれてたから、ちょっとした援護射撃のつもりだったんだけど、邪魔じゃなかったかな」


「ええ、全く問題ないです。提供資金にしても帝国の予算からしてみれば、取るに足らない額でしたし、大変助かりました。それに我軍の艦艇を提供されて、そのまま武装検疫船と称して流用するとか、向こうもなかなかにやりますね。しかも、職員も我軍提供のレールライフルなどで重武装しているようですし……。銀河連合の各中継港でラースシンドローム罹患者が暴動を起こしたりしているようですが、危なげなく鎮圧出来ているようです。しかし、GPHSはこの手の暴徒の制圧戦などは専門外と言っていませんでしたか?」


「ハハッ! GPHSには資金や兵器類もだけど、対人戦闘指揮官や帝国軍傘下のPMC戦闘員も大勢派遣しているからね。未曾有の銀河規模生物災害相手に君らがサジを投げてどうするって、長々とお説教した甲斐はあったって事さ」


 まぁ……そう言うことなのだった。

 

 GPHSはゼロ皇帝よりの資金や装備の大量供給のみならず、対人機械歩兵や白兵戦に長けた兵士達をPMC社員として、多数送り込まれており、事実上の銀河帝国の窓口機関のようなものに変貌を遂げていたのだった。


 なお、PMC社員達の中心となっていたのは、軽装甲宇宙服ひとつで、惑星降下をやってのけるアスカ自慢の第三帝国惑星降下兵団の古参軽装歩兵達が中心で、その戦闘力と容赦の無さには定評があった。


 要するに、看板の付替えのようなもので、GPHSの権威を傘に着た帝国の対ラースシンドローム対策作戦の一環なのであったが、GPHSは、超国家権限を持つ歴史と権威ある組織であり、それが武力という実力までも兼ね揃えた結果、銀河守護艦隊と言えど安々と排除できない存在となっていたのだ。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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