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第五話「ファースト・コンタクト」①

 まず、街道についてだ。


 木々を伐採し、下生えを撤去して土を踏み固めた程度ながらも、獣道とは明らかに違う人為的な街道であり、植物達が伝えてくるぼんやりしたイメージからでも、轍らしきものや野営の痕跡などが確認され、ここが人外魔境じみた秘境ではなく、文明圏に属する場所なのだと理解出来た。


 無人の原始惑星だったら、私はたった一人で長い年月を過ごすことになると思っていただけに、文明の……他者の存在を確信できたのは、十分な行動指針となりえた。


 まぁ、このクラスの環境の惑星なら、知的生命体どころか、文明くらいあるとは思っていたがな。


 そして……何よりも。

 私以外のヒューマノイドの存在についても、確認が取れた。


「ふむ、これはなかなか幸先が良いな。で……この者達はいったい何者ぞ?」


 植物たちは言語でコミュニケーションを取っているわけではないようだ。

 思わず、言葉を発してしまったが、その言葉に具体的な返事が返ってくるようなことはなかった。

 

 漠然としたイメージの集積を私の方で、自動解釈している……多分、そんな感じだった。


 要するにレーダーのようなものかと思ったら、実際そんなイメージで把握できるようになってきた。

 なるほど、これは便利だな。

 

 索敵とは、戦闘に際し、最も最初の交戦と言える行為だ。


 敵を先に発見し、その行動を予測する。

 これを怠るようでは、到底戦の勝ち目など無い。

 

 そして、先に敵を見つけたものは、戦においてもっとも重要な主導権を得ることになる。

 

 先手必勝とはよく言ったものだ。

 戦いの趨勢とは、戦いが始まる前に始まっているのだ。

 

 それゆえに、この能力も極めて有用だと言えた。


 と言うよりも、これ……。

 おそらく、前世の私が会得していた超索敵能力がもとになっているようだった。

 その由来は、私のオリジナルのクスノキ・ユーリィの超感覚に行き着くのだが。


 物理的に観測しえない敵の存在すら識る。

 一言でいえば、そんな力だ。


 レーダーに映る光点といったイメージがより具体化し、さらに詳細な情報が把握できる。

 

 ヒューマノイド達の人数程度は解るようになってきた……。

 レーダーのイメージ上の光点の数は30……ざっと30人程度の集団と言ったところか。


 街道から少し外れた洞穴の近くで、高い熱源反応と思わしき反応も感じられる。


 ……これは恐らく焚き火だ。

 もっとも、その事で森の植物たちは強いストレスを感じているようで、そのため、この者たちが真っ先に索敵にかかってきたようだった。


 植物達の総意としては、「まぁ、怖い!」「助けてー!」「いやぁあああっ!」

 ……とこんな調子のようで、案の定、火に対して激しく拒絶反応を示しているようだった。


 まぁ、実際枯れ枝だとは思うが、自分達の同胞が燃料にされているのだからなぁ……さもありなんだ。


 ……これも駆除しちゃう? ってお母様が聞いてきてるような気もするが。

 

 どうどう、それはちょっとタンマ!

 

 確かに、このような炭素系植物の密生地帯では火気厳禁なのだが……。

 それだけで、魔物同様に駆除ってのは、待ってくださいってば!


 そんな風に念じていたら、通じたようでOKと言った感じの思念が伝わってきた。

 まぁ、植物にとっては、知的生命体も魔物も一緒であろうからな。

 

 もっとも、帝国傘下惑星の都市近郊辺りで、こんな風に焚き火などしようものなら、都市環境維持保安システムの緊急消火コマンドの実行により、消火ドローンがダース単位で押し寄せてくる事になる。

 

 原則、銀河の何処へ行っても火気と言うものは厳禁。

 

 なにぶん、居住が可能な惑星地上世界というのは、基本的にどこも乾燥気味なのだ。

 雨なんか一切降らないようなところも多く、火事なんてなったら、それはもう一大事なのだ。


 ちなみに、宇宙船内やスペースコロニー内なども同様だ。

 なにせ、火と言うものは、酸素を急速に消耗する。


 そして、酸素濃度が低下した空気と言うものは、極めて対処が難しい毒ガスと同様となるのだ。


 具体的には、酸素濃度が15%以下の気体と言うものは、吸った時点で昏倒の可能性が出て来る。

 そして、6%以下ともなると、もはやひと呼吸で即死する凶悪な毒ガスとなる。


 これは、16%以下の酸素濃度の気体は人体の血中酸素を逆に奪っていってしまう為にそうなるのだが。

 それ故に、無味無臭で検知も難しくガスマスクなどでも対処は出来ず、気密服でも着用しない限り、身を守ることも出来ないのだ。


 だからこそ、宇宙時代はどこへ行っても火気厳禁が絶対原則。

 こんなのは、常識以前の問題だった。


 そう考えると、実に非常識な者達と言えるのだが。

 

 この惑星の文明はカテゴリーF相当と見受けられる。

 ……石炭などの化石燃料の活用も稚拙なもので、電気科学技術も発展していない未開文明惑星。

 

 当然ながら、その程度では宇宙進出にはほど遠く、それらの文明は総じて論外という意味で、このカテゴリーFにカテゴライズされている。


 街道の作りや、いくつかその存在を確認された住居らしき建造物から推定される文明の技術レベルからも、妥当な評価だといえよう。

 

 である以上は、星間文明の常識などは通用しないし、逆に考えると焚き火をしているとなると、火を扱える証左でもあるので、ある程度の文明人だと言う証でもある。


 視覚情報として、直接見えているわけではないのだが。

 物体の大凡の形状などの情報は、この皮膚感覚のような感覚で把握できる。

 

 察するに、木の枝を組み合わせた小屋のようなものが作られているし、木の葉や蔦を使って、ハンモックのようなものを作って、寝床にしている様子もうかがえる、


 また形状からして、巨大なナイフのような刃の薄い刃物も持っているようだ。

 それに、金属パーツがやけに多い服を着込んでいるようにも思える……パワードスーツ……のワケがないか。

 

 棒の先に刃物を付けた……刺突武器? 多分、槍と言うやつだな。


 古代戦争の再現VRムービーで、モブ兵士みたいなのが持ってた覚えがあるし、惑星異文明人もこの手の原始武器は多用されていたと聞いている。


 古代地球とは明らかに違う異世界の文明の戦闘員が、古代地球人と似たような武器を使っている点についても、そこはなんら不思議に思わない。


 武器というものも、生物同様、収斂進化を遂げる傾向があるようで、異なる環境であっても異文明だろうが、似たような進化をたどり、似たような形になるようなのだ。

 

 だとすれば、この巨大ナイフのような武器も、同時代の原始武器の鉄剣だと思われる。

 素材については、刃の厚みから推測している。

 

 そうなると、もしかして、この妙な衣服は鉄の鎧と言うやつなのだろうか?

 確か、その再現VRムービーでモブ兵士がそんな感じのを着ていた。


 防具としては……この程度の装甲厚では、ないよりはマシくらいのような気もするが。

 武器のレベルも原始的なので、そんなもんでも十分なのだろう。


 明らかに重そうだし、動きにくそうで、気温も高い環境では暑苦しいだろうに……。

 この程度では防御としては、意味もなさそうなので、いっそ普通の布の服の方が動きやすい分、まだ良いのではないかと思うのだが。


 古代文明では、武器を持って防具を纏うことは、一般人と違って、職業戦士である事を示す一種のステイタスだったと言う話もあるし、惑星異文明でもそんな傾向は、見受けられたようなので、そんなものなのかもしれない。


 そして、取手の付いた鉄板なども転がされており、恐らく白兵戦武装の類のようだが……これはなんの用途なのだろう?

 

 治安維持用のパトロイドなどに装備させるライオットシールドの類のようにも見えるが。


 あれも用途としては、即応性と威圧感を重視しており、なによりも非武装の一般市民をとっさにガードする為のものなのだ。

 

 こんな小さなペラッペラの鉄板程度では、シールドとして意味がないだろうに……。


 やっぱり、よく解らんが。

 使っている素材が鉄らしいと言うのは金属の薄さなどから、推定できた。


 そうなると、少し訂正が必要だ。

 文明カテゴリーFのプラスと言ったところだな。


 古代地球の歴史で言うと鉄器文明……大凡紀元前千五百年以降が該当するのだが。

 鉄の精錬加工技術があるなら、その辺りだ。

 

 鉄というものは宇宙でもありふれた元素の一つで、どんな惑星でも鉄は必ず存在すると言ってよかった。

 

 ある程度の文明が興ると、この鉄を精錬し鉄器と呼ばれる武具や道具を作成することで、それ以前の青銅器や石器と比較すると格段に生活レベルや文明レベル、そして軍事力も向上するのだ。

 

 この鉄器文明は、鉄という融点の高い物質を扱える時点で、それ以前の文明よりも格段に進歩しているので、仮に戦争になっても青銅器文明や石器文明ではまったく勝負にならない。

 それ故にそれらより、一段階上として評価するのだ。

 

 まぁ、カテゴリーFという評価には変わりはないが、鉄器文明となるとそれ以前とは比較にならないから、妥当な評価だ。

 もっとも、今はこの惑星の文明サンプルが不足しているので、これはあくまで暫定評価としたい。


 いずれにせよ、この世界の明確な文明人と言う事が解った。

 

 こちらも、このまま森の奥で原始生活をおくるようなつもりもないので、彼らと接触を図らない理由はない。

 もっとも、この推定異世界で、このヴィルデフラウがどのような立ち位置なのかが解らない。

 植物の女王、神樹の娘という事なら、神様かその御使いとかそんな扱いなのかもしれないし、或いは、得体の知れない化け物扱いかもしれない。

 

 いずれにせよ、こんな葉っぱでサンドイッチと言う間抜けな姿で、堂々と接触を図るというのはどうなのだろうか?


 そもそも、この感じだと体型的に男性ばかりのようにも思える。

 その上で、武器と防具で武装もしているとなると、軍隊か何かの駐屯地の可能性もある。

 

 そんなところに、10歳程度の女児が素っ裸同然で飛び込んで、無事に済むような気がしない。

 

 多分に偏見なのだが、カテゴリーFクラスの文明は、総じてモラルも低く、犯罪を定義し、犯罪者を確実に罰すると言う国家として当然持ち合わせているべき犯罪抑止力としての司法の概念がそもそも怪しいというケースも多いようなのだ。


 10歳程度の子供同然の姿だから、優しくしてもらえるだろうなんて私も考えない。

 そもそも、焚き火でこんがりあぶられて、文字通り美味しく頂かれてしまう可能性だって否定できない。


 実際、惑星ヴィルアースの蛮族種族達は、ヴィルデフラウを食料の一種と考えていたようで、結構な数の犠牲者が出ていて、その辺りも絶滅寸前まで追い込まれていた理由の一つだったらしい。


 それもあったので、惑星環境の激変でバタバタと死滅していく蛮族種族に対して、ヴィルデフラウ達はむしろ、もっと積極的に駆除して、一日でも早く絶滅させてくれと、無慈悲対応を我々に要請してきたほどだった。

 

 なによりも、問題なのはこのヒューマノイド達との意思の疎通が出来るかどうかが定かじゃないことだ。

武器の収斂進化の話は割と本当の話だったりします。

槍と弓と剣、少なくともこの辺は文明同士が、ほとんど交流のない時代から使われていたようなので、二足歩行のヒューマノイドが武器を作ると、どこでもこの武器三点セットに至るようです。


異世界ファンタジーとかでも、どんな世界でも剣と槍と弓って必ず出て来てますが。

実は、収斂進化と言う言葉でちゃんと説明できます。


この作品は、なにげにファンタジー世界を科学してたりなんかします。(笑)


こちとら、結構真面目に考察してます。

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