第四話「裸族卒業への道」①
ヴィルデフラウは光合成で活動エネルギーを合成する関係上、できる限り皮膚を露出して、効率よく光エネルギーを取り込む必要があるので、服を着るのを極端に嫌う。
ヴィルゼットについては……自ら望んで文明社会に適応していたので、そこら辺は人類の常識に合わせるということで、渋々のようだったがちゃんと服を着てくれた。
この辺りはさすがと言えた。
もっとも、プライベート空間である私室や彼女の専用研究室では、基本全裸生活……。
不意の呼び出しや訪問をすると、決まって全裸か白衣を一枚羽織っただけ、もしくは半透明のレインコートみたいなのを着ていることもあったのだが……。
どれこれも、どう見ても痴女スタイルであり、私としては誰得だった。
そもそも、普段も体色を誤魔化す3Dホログラフを普通の服のように偽装して、あったり前のように全裸で公務に励んでいたらしいので、種族特性とはいえ、ホントそれなんとかならないの? くらいは思った。
なお、本人は裸体を他者に晒すこと自体は、相手が男だろうが女だろうが、全く気にしておらず、文明社会に適合していたと言っても、汗をかいたからとか、暑いからと言っては、人前で堂々と服を脱ぎだす事もあって、関係者は大いに苦労したらしい。
と言うか、そんな文句を私に言われても困る。
彼女は帝国にとって、歩く最高機密と言っても過言ではない最重要人物だったので、管轄についても第三帝国所属だったので、最高取扱責任者は皇帝たるこの私であったのだが。
彼女に関する苦情などが最終的に私に回って来て、毎度毎度、難儀したものだ。
無謀な実験でもやったのか、実験施設が吹っ飛んだから、修繕費用を臨時予算申請しますとか、そんなのは別に構わん。
だが「人前で脱ぐのをやめさせてくれ」とか……。
「あの人ホログラフ被って、全裸生活してるみたいなんですけど、どうなんですか、それ?」とか言われても、この私にどうしろと言うのか? 何でもかんでも困ったら、陛下に丸投げと言う帝国のあの習慣にはほんと参った。
おまけに、ヴィルゼットについては、湯浴みならぬ泥浴みや、土に首だけ出して埋まりながら日光浴をすると言ったヴィルデフラウらしい奇妙な性癖もあって、陛下もご一緒にどうぞなどと言われて、渋々ながらつきあわされた事もあったのだが。
人の身では、あれはどうにも良さが解らなかった。
もっとも、このヴィルデフラウの身では間違いなく、快適なのだろうと言うのは理解できる。
と言うか、思い出したら、むしょうにやりたくなってきた。
全裸で土に埋まるのも、泥まみれになるのもむしろ、最高……そんな気がしてくる。
大の字になって地面に横たわっての全裸日光浴とか、考えただけでもたまらんっ!
早く夜が明けないかなぁ……。
って待てっ!
こ、これが異種族の本能とでも言うのだろうか?
だが、私の精神はノーマルな人間なので、全裸でいるのはお風呂か、お着替えの時くらいにしたい。
今は夜だから、そこまで気にならんが。
白昼堂々と全裸で過ごすというのか?
想像しただけでも恥ずかしくなってきて、物凄く落ち着かないのだが。
陽の光を遮るものなしで、全身で浴びて……と思うと、服なんて着なくて良いんじゃない?
と言う相反する思いが浮かんできて、なにやら葛藤を始めている自分に気づく。
……まぁ、いいか。
どうせ、近くには殿方どころか、人も居ないし。
どうせ、胸はゼロフラットだしー。
腰は寸胴だしー。
お尻も多分後ろから見られる分には、男の子と変わりないさー。
まさに、スン、スン、スーン。
ですけどー。
やっぱ、裸なのは恥ずかしいよぉ……私、元皇帝陛下ですけど、一応乙女なのです。
だが、ここで悲鳴を上げて座り込むような、軟弱な小娘とは程遠いので、そのような真似はしないっ!
どうせ、誰かが見ている訳ではないし、種族的には全裸が基本!
むしろ、全裸で仁王立ちだ! これぞ、王者というものよ!
何より、こんな森の中で下着や服を……と言っても無理があるということは解る。
と思うのだが……さすがにこれでは、どうしょうもない。
恐らく文明もあると思いたいのだが、異種文明と接触の際、全裸ではじめまして! なんてやってるようでは、未開人や野蛮人と思われても文句は言えない。
つまり、このままでは文明との接触すらままならない。
周囲をちらっと見ると、やたらと大きな葉っぱが地面に落ちているのが目に入った。
一言で言って、異様に大きい。
葉っぱ一枚で私の胴体分くらいある。
樹本体もとてつもなく大きいようだが。
なるほど、葉っぱだけでこのサイズとなると、樹高はもはやどれだけあるのか見当もつかない。
改めて見上げる。
……少なくとも、ここからでは近すぎて頂点を確認することすら出来ない。
なにこれ? 大きさがちょっとおかしくない?
この分だと樹高数百mどころか、km単位の高さがあっても不思議ではない。
おまけに幹もとてつもなく太い……最初、壁かと思ったくらいだったが。
外周経も100m単位は軽くあると思われた。
……いや、これは宇宙でも軽く最大級の超巨大樹なのではなかろうか?
見たところ、その葉っぱ自体には毒や棘もなさそうだし、裏側に柔らかな繊毛が生えていて、肌触りも良好のように見える。
巨大樹の幹に触ると、使えとばかりにいい感じのサイズの葉が二枚、はらりとと言うよりもドスンと言った様子で落ちてきた。
確かに、このサイズなら二枚前後で縫い合わせれば、尻と胸くらいは隠せる。
縫い合わせる蔦も……いい感じの太さの蔦が目の前にあった。
これを腰と脇にでもキュッと巻けば……最低限、婦女子として見せてはいけない所は隠せる。
「よしっ! 葉っぱの服完成っ! てれってーん!」
……なんだが、無意味にテンション高めだし、どうにも独り言が多い気がする。
今もVRアイドルとかがやってたかわいいポーズを真似したりもしてみたが。
……なんとも虚しい。
鏡もないから、手足の角度合ってるかどうも解んない。
そいや、顔とかどうなんだろ?
まぁ、美少女なのは間違いないだろうがな!
ゼロフラットとか、悲しいけど。
顔が美少女なら、大抵の殿方は許容してくれるだろうさ。
それにしても、今しれっとこの大樹と意思を交わして、手助けしてもらえたような気がした。
呼ばれたような感じがして振り返ったら、服に出来るサイズの葉っぱが目について、都合よく新しいのが落ちてきた。
そんな偶然などあってたまるか。
それに、私が寝ていた樹のウロには、強烈な魔力を放ち金色に光り輝く謎の液体が残っていて、手を突っ込むと、自分の持つ魔力エネルギーがあからさまに増大するのが解る。
(それは命の水……貴女を生み育んだ力の名残)
そんな感じの言葉にならない言葉……思念を感じ取れた。
そして……この感情は……とても深い慈愛。
多分、親が子に対して持つ慈愛の念。
どうも、この巨大樹と私は人で言うところの親と子のような関係らしい。
まいったな……私には母親と呼べる存在などいなかったのに……。
こんな風に無条件で慈愛の念を注いでくれる存在がいるなんて……。
「……お母様……」
思わず、そう呟きながら、巨大樹の幹に抱きつくと、なんとも言えない安らぎに包まれる。
向こうも無条件で受け入れてくれているのが解る。
唐突に理解する。
なるほど、こうやってヴィルデフラウは繁殖するのか……と。
……納得した。
確かに、ヴィルゼットもかつて、ヴィルアースには生命の樹という巨大樹があって、その樹から新しい個体が生み出されていたが、惑星環境の悪化に巻き込まれて枯れ果ててしまったので、今は別の方法を使って繁殖しているとかそんな話をしていた。
……つまり、これはヴィルゼット達が言っていた今はなき、生命の樹……その物なのだ!
そして、辺りの地面をよく見ると「マナ・ストーン」の原石である光るエメラルド色の粒子が地面のあちこちでうっすらと光を放っていた。
……驚愕する。
この「マナ・ストーン」は、魔法使用の代行デバイス『EAD』に一種の触媒として使用されており、極めて貴重な有限の素材だった。
その上、最新の分子合成や元素転換を以てしても、複製も出来ず、その上、この『マナ・ストーン』は惑星ヴィルアースのみでしか発見されていない惑星固有希少資源でもあったのだ。
しかしながら、その応用範囲については、無限の可能性を持つとまで言われており、その辺りが惑星ヴィルアースの所在や、エレメンタル・アーツが門外不出とされた理由でもあった。
ヴィルゼットもこのマナ・ストーンを応用すれば、宇宙空間でも「エレメンタル・アーツ」が使える可能性があり、そして、このマナ・ストーンこそが「敵」に感染した人間を救う可能性でもあると語っていたのだ。
それがこんなにもっ! なんなのだっ! これはっ!
こんなのヴィルゼットが見たら、狂喜乱舞するぞ?
この情報! せめて伝えたいっ! な、なにか方法はないのか!
ま、まぁいい……落ち着こうか。
そもそも、あの銀河世界とこの世界が繋がりがあるかどうかすらも解らないのだからな。
なにより、今の私は、向こうで生きて死んでいった悪虐帝とは、別物なのだ。
未練はないと言えば、嘘になるが。
うっかり帰れたとしても、「陛下、ごめん! やっぱ死刑だわ」とか「恐れ入りますが、50億人虐殺の罪で合わせ技で求刑禁錮50億年になりました」とか言われたら、今度こそ絶望するしか無いので、もうスパッと諦めた方が良さそうだった。
はぁ……帰りたいけど、帰れない……か。
異世界へ旅立ったものは押し並べてそんなモノと言うのがお約束なんだし、それで構わんっ!
色々心残りもあったけど、後の事はあの戦乱を生き延びた人達でなんとかしてくれ。
特に銀河守護艦隊の司令官のハルカ・アマカゼ! あの女には絶対に責任を取ってほしい!
今となっては、あの後どうなったかは知るすべもないのだが。
我々の虐殺の真相は、私の死後、奴らに情報開示するように仕向けておいた。
あれを知っても、エーテル空間に閉じこもっているようでは、恐らく人類は「敵」に負けるぞ?
せいぜい、奮闘を期待する。
勝利者は、敗者の無念を背負い込むくらいの義務はあるのだからな。
人類の守護者を名乗るなら、それくらいやってのけてもらわんと困る。
まぁ、前世の無念より、今日の今世だ。
だが、なるほど……どうやらこの世界で、私は一人ではないようだ。
この大樹と言う素晴らしく、頼もしい味方がいた。
この感じだとこの広大な森自体も私の味方、いや、これは配下のようなモノかもしれない。
なんとなく、理解が追いついてくる。
巨大樹に抱きついたまま、目を閉じて意識を広げると、この森の構造や地形、植生と言ったこの森のあらゆる情報が理解できていく。
地下水脈の構造や水源の分布状況も把握できるので、どうやら水の補給については問題ないようだった。
と言うか、森の中に川筋や小さな池や沼がいくつも無数に存在していた。
こんなに綺麗な水が派手に垂れ流しになっている上に、池や沼なんて多すぎてもう訳が分からない。
……どんな惑星なんだか。
うーむ、この分だと雨も頻繁に降るようなかなり水が豊富な惑星らしい。
なにそれ、最高っ!
まさか、海とかあるんじゃないだろうな?
だが、その可能性は極めて高かった。
海! 見たいっ! これは俄然テンションが上ってくるな!




