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銀河帝国皇帝アスカ様、悪虐帝と呼ばれ潔く死を遂げるも、森の精霊に転生したので、ちょっとはのんびりスローに生きてみたい  作者: MITT
第二章「アスカ様の覇権国家建国道」

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第三十一話「アスカ様の大戦略」③

「……いずれにせよ、そうなると……バーソロミュー伯爵とボンドール子爵は感染源となっているという事で決まりであろうな……。まったく、次から次へとウンザリするな」


 だが、そう言う事なら、コヤツらを生かしておく理由はない。

 

 軽度ならば、救える可能性もあるのだが、重度のエインヘリヤル化しているとなればもう殺してしまった方が早いだろう……。

 ホドロイのように無理やり引き剥がしても廃人化は免れない上に、下手に権力を持っているだけに、ひと思いに殺ってしまった方が、後腐れなく、こちらとしても都合が良い。

 

「ええ、僕が密かに実施した魔力鑑定の結果でも、その二人は極端に火の魔力属性が高かったので、アスカ様のおっしゃるエインヘリャルでほぼ決まりではないかと。ちなみに、オズワルド子爵とカザリエ男爵は、どちらも我々の味方だと断言しており、火の精霊の精神汚染も受けていないようでした」


「二人共、例のお守りは持っていたと言う事なのか?」


「ええ、恐らく地元の教会の方で手配してくれたそうです。ひとまず、配下の方々や兵達も含めて、お守りは肌身放さず持つように伝えておきました」


 ふむ、神樹教会の者達もなかなかに良い仕事をしてくれるな。

 あのお守りは、お母様のテリトリーの拡大にも繋がっているし、ラースシドロームの予防や寛解にも繋がるのだ。


 なにせ、軽症なら持たせているだけで、回復してしまうようなのだからな。


 あれを銀河帝国へ持ち帰れれば、向こうの問題も解決に向かうのだろうが……詮無きことよな。


「ふむ、悪くないな。その上で二人は陣地を転換し、こんな場所に引き籠もり、敵もそれに釣られていると言うことか。なかなかに上手い手だ。アークよ……この一見、袋の鼠のような地形に陣を構える……その意図は何だと思う?」


 この辺りは、ファリナ殿の報告で私も知るところだった。


 現状、ファリナ殿の報告とアークの報告を合わせて、アイゼンブルグの周辺と戦力の配置図は完成している。


 まぁ、配置図と言っても地図の上に木切れや花瓶のような小物を並べた程度なのだが、このような俯瞰図で戦況を把握すると言うのは、戦略を立てる際の基本とも言えるのだ。

 

 オズワルド子爵の領軍は、河の湾曲部に陣を構え、そこはアイゼンブルグ城の後方に位置し、一見戦略的には何の意味もない場所に見えるのだが、私にはその意図が手にとるように理解できていた。


「そうですね……。ここは三方を河に囲まれて、一見袋の鼠に見えますが。その実……このような流れが緩く水深もある河川となると、筏を使うなり浅瀬を歩くなりで、簡単に脱出出来てしまいますね。夜闇に乗じて、おそらく陣地に僅かな兵だけを残して、兵を離脱させた上で潜伏させる……そんな所でしょうね。カザリエ男爵はなかなかの知恵者でしたから、そう言うことなのでしょう」


 なるほど、さすがだな。

 よく考えているな……常識にとらわれていると、この発想はなかなか出ないと思うのだが。

 

 この配置図からは、オズワルド軍がそう言う意図で意図的に陣を構えている事が見て取れる。


 バーソロミューの配下達は、律儀にオズワルド軍に付き合って、そんな意味のない場所に兵力を集中してしまっていて、ものの見事に遊兵化している。


 この策を考えたのは、おそらくそのカザリエ男爵なのだろうな。

 聞いた限りでは、オズワルド子爵の付き人のような扱いを受けているようだが、むしろ懐刀とか、腹心とかそう言う手合であろうな。


「なるほどな。カザリエ男爵もなかなかやるな。この状況下では兵力の拘束の時点で上出来と思うべきなのだが、更に一歩踏み出して、自軍を伏兵化するつもりと言う事なのだろう。まぁ、ここまでやってくれれば、十分過ぎる……後は我々のお手並拝見と言ったところなのであろうな」


「ええ、そう言う意図だという理解でよろしいかと思います。ですが、問題は地竜とロックゴーレム12体ですね。見た限り、すぐにでも出陣できるようでした……。あれだけの戦力を相手にするとなると如何にドゥークが籠城戦の手練でもさすがに厳しいかと思います……」


「ふむ……。数は大した事ないと思うのだが。そこまでの脅威か?」


「……むしろ、恐るべき脅威と言うべきかと。何よりも地竜はもちろん、ロックゴーレムが12体も相手ともなると、まともな対抗手段がないのが実情です。それに炎国も神樹様を目指し出兵したと言う事で、このままでは我々は二正面の戦いを強いられる事になります……状況としては、かなり厳しいのではないでしょうか?」


 いずれの情報もファリナ殿の空中偵察とお母様の警告で私のもとに届いては居たのだが。

 敵の総大将自ら語った戦略情報と、生の目撃情報に勝るものは無く、炎国の出兵も私としては、演習の可能性も考えていたのだが、こうなるともはや、確定情報だと言えた。


 もっとも、こちらは数は一万近くとかなり多いものの、その道中は不毛の荒野が続くばかりで、徒歩の軍勢の時点で時間は十分ある上に、神樹の森付近に到達する頃には消耗しきっていると見てよかった。


 私なりにそう言う判断でいたから、炎国側もいきなり兵を繰り出す前に、入念な偵察を繰り返し、演習を重ねつつ、問題点を洗い出してから、出兵……。


 軍事作戦の実施の前段階としては、妥当であり、そう言う事なら、実際に軍勢を動かすのは、半年は先だろうと予想していたのだ。


 だが、情勢の変化に驚いて、いきなり軍勢を集めて攻め入ってくるというのは、浅慮の誹りは免れぬと思うのだがな。


 もう少し早く動かれていたり、先手を打って荒野の各地に拠点を設営されていたら、厳しい展開になっていただっただろうが……。

 

 今の時点では拠点と言っても、過去に行商隊があちこちに設置した物資の保存拠点がぼつぼつとある程度だと聞いているし、お母様による長距離観測でも、軍勢を賄える量の備蓄拠点らしきものも見当たらなかった。

 

 そうなると、徒歩の軍勢で大軍……おまけに、まともな補給拠点も用意していない……さすがにこの時点で、さしたる脅威とは思えなかった。

 

 と言うか、炎国の奴らは馬鹿なのか?

 シュバリエまでの距離ともなると、軽く500km以上はあるのだぞ。


 炎国相手の隊商ですら、道中まともな中継拠点も無いことは解っているので、食料や水、馬の餌などを満載した馬車を何台も用意して、交易品は馬車一台分とかその程度だったりすると言う話だったからな。


 地上軍の進軍と言うのは、得てしてそう言うもので、遅々として進まない軍勢のゆく先々へ先発隊を送り、露払いを行いながら、膨大な物資を集積したデポを軍勢の後を追うように設置し、これでもかとばかりに物資を前線に送りながら、点と点をつなぎ、後方拠点との補給ラインを確保しつつ、ゆっくりと軍勢を進めながら勢力範囲を広げていく。


 我が帝国軍のように、衛星軌道を専有した上で補給コンテナを投下することで、地上のどこでも補給が出来て、機械化車両による兵員輸送などが可能でも、万単位の地上軍への潤沢な補給の上での敵地進軍となると相応に苦労するのだ。


 まぁ、近代兵器や車両を潤沢に備えた帝国宇宙軍外宇宙惑星攻略戦団と、カテゴリーFの原始的な装備の軍勢とを比較するのはどうかと思うが、補給がままならない状態で初手からいきなり大軍を出している時点で、その行軍は限りなく死の行軍に近いものとなる事は容易に予想出来る。


 考えて見れば、以前虐殺した盗賊団も、あれも案外、偵察を兼ねた拠点設営部隊か何かだったのかも知れんな。

 

 本来は、そうやって慎重に現地偵察を行い、進軍経路に補給拠点を設営した上で軍勢も小出しにしつつ進軍させる予定だったのが、急激な情勢の悪化でぶっつけ本番で大軍を出さざるを得なくなった。

 

 案外、そう言うことなのかも知れんな。

 だとすれば、あの時の奴らを皆殺しにしたのは間違いなく正解だったな。


 向こうも、偵察部隊がまるほど消滅した事で、ここで何が起きたのか、解らなくなったのだろう……おまけに、ユーバッハ男爵の所にいた精霊化した魔女も撤退も許さずに殲滅したのも大きいだろう。


 つまり、敵は完全に情報不足なのだ。

 真っ暗闇の中、手探りで進まざるを得ない状況なのだ。

 

 だからこそ、容易に殲滅されないほどの軍勢で一気に侵攻する……そう言う戦略に出たのだろう。

 

 もっとも、使徒と称する巨人化出来る者たちは確実に紛れているだろうし、始めから進軍中に目減りすることを前提とした上での大軍ということなら、話は別だ。


 まぁ、非情な話だとは思うのだが。

 戦略というのは、そう言うもので、仮に道中の損耗率が50%と仮定しても、その場合でも残存兵力は5000となる。


 その時点で兵力としては、十分脅威で、例え8割の損耗で2000しか残らなくても、こちらとしては十分対処に困る数だった……。

 

 そう言う意味では大軍というのは厄介なものではあるのだ。

 ……数の暴力とは、その程度には強力な力だと言うのは、我が銀河帝国軍を引き合いに出さすとも容易に理解できる。

 

 何よりも、その上で伯爵の軍勢と連携されると、何かと厄介なことになるのは確実だった。

 敵もなかなかどうして、思い切っているな。


 もっとも、ホドロイ子爵の敗退とオーカスの反乱は向こうにとっても想定外であったのだろう。

 

 取ってつけたような戦力の逐次投入の時点で、戦略レベルでの思考の稚拙さは見て取れるし、出来るだけ早く、オーカスを制圧したいと言う意図が見え見えだった……。


 だからこそ、伯爵も過剰とも言える戦力を慌てて用意し、準備もそこそこに出撃させると言う策に出てきたのだろうな。


 これは要するに、タイムリミットが区切られたと言うことでもある。

 このまま、座して見ていると、そのうち二正面作戦を強いられ、こちらが滅ぼされるのは確実だった。


 だが、二正面作戦でくるなら、こちらは時間差で各個撃破するまでのこと。

 要するに、こちらが先に敵を滅ぼせば済む話なのだ。


 なるほど、やはり前回同様、スピード勝負……殺られる前に殺れ。

 

 実にシンプルな結論であるな。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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