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プロローグ「とある銀河帝国皇帝の最期」①

 ――帝国歴327年6月26日 銀河標準時刻18:50――

 ――辺境銀河第三帝国首都星系アールヴェル エーテル空間中継港 最終防衛ライン流域――


 ここは、銀河系の何処でもないエーテルロードと呼ばれる超空間回廊の一角。

 それは、銀河進出を果たしたこの時代の人類の恒星間跳躍航法の要となる空間だった……。

 

 この重力と呼吸可能な大気までをも備えた、一見すると巨大河川のようにも見えるチューブ状の超空間を経由すると言う方法で、人類は光の速度を遥かに超える速度で、恒星間を行き来し、銀河系を席巻した一大勢力となっていた。

 

 そして、当然のように過去に何度もこの空間を巡っての激しい闘いが繰り広げられていた。

 この戦いも恐らく、後の歴史にはそんな戦いの一つとして、記録されることとなるだろう。

 

 この日、この場所で、人類史上最悪と呼ばれるようになるであろう大規模星間戦争――


 その最終局面の幕が閉じようとしていた。


「……陛下、敵の断続的奇襲攻撃により、右翼第3艦隊壊滅とのこと。また後方守備の第6艦隊も後背より現れた敵艦隊との交戦の末、壊滅したとの報告が! どうやら敵艦隊の最終攻勢はすでに始まっていたようです……ですが、これではもはや……」


 傍らに控える灰色の髪の朴訥な雰囲気の壮年の帝国軍士官……副官が苦々しげにそう呟いた。

 すでに、我が第三帝国宇宙軍総旗艦「アルファグランデⅢ」のブリッジには、私とこの副官の二人しか残っていなかった。


 そして、副官は途中まで言い掛けた言葉を区切ると、言いにくそうにその目を伏せた。


「みなまで言わんでもよい。こうなると我が艦隊の包囲殲滅も時間の問題であるな。そうなると、敵の左翼側へ回り込もうとしていた第4と第5の両艦隊も撃破された可能性が高いか……」


「……はい、両艦隊とも先ほどから音信不通……。現状、リンクオフラインです……。敵の電子浸透攻撃で、我が方の統括戦術AIも沈黙させられており、これ以上の状況は不明です……」


「さすが、銀河の守護者達であるな! やはり、この程度の小細工は通じんかったか。後方からの奇襲と両翼からの圧迫包囲殲滅作戦。この手で来るだろうとは読んではいたが、対応するとなると別の話か……。まったく、見事なる手際っ! 余の完敗であるな……まぁ、あれが参戦してきた時点でこの結果は必然であったと言えるがな。案の定、負けた……か。まったく、全艦隊に総員退艦命令を早めに出しておいて正解であったな……。もはや、これまでと……そう言うことであるなっ!」


 まぁ、端的に言うと私……辺境銀河七帝国第三帝国皇帝、クスノキ・アスカ率いる我が第三帝国は、同胞たる皇帝達と一斉に全銀河に喧嘩を売って、世界の敵として大いに厄災を振りまき……その報いとして、盛大な反抗を受け、もはや風前の灯と言っていいまでに追い詰められていた。

 

 これは我帝国軍の将兵が敵軍……銀河連合軍とくらべて、無能かつ怯懦だった訳ではなく、中立勢力のはずの銀河守護艦隊群が敵に回ってしまったからだった。


 銀河最強と呼ばれ、これまでも幾度となく銀河人類の敵を尽く葬ってきた艦隊──銀河守護艦隊──

 

 彼らを敵に回してしまった時点で、我らの必敗は予想されており、これまで様々な政治的手段や搦手を駆使して、彼らの参戦を阻み続けてきたのだが……。

 

 そのような小手先の小細工で出来たことは、せいぜい僅かな時間稼ぎ程度だった。

 むしろ、彼らを帝国の味方に付けることが出来ていれば、結果は全く違ったかも知れなかったが。


 我々の正義を彼らに理解させるには、残念ながら及ばなかった……これは、我らの不徳以外何物でもなかった。


 というよりも、正直……銀河守護艦隊舐めてた。

 要するに、こちらの慢心……としか言いようがなかった。

  

 またの名を「スターシスターズ」

 ……古の地球の海を制した旧式艦がエーテル空間戦に適応進化したと言われている戦闘艦艇群。


 銀河守護艦隊の中核を成す、恐るべき戦闘艦艇達だった。

 

 なにせ、銀河全てを敵に回しても勝利できると言われた銀河系最大勢力でもあった辺境銀河七帝国の総力を結集しても、あれらには刃が立たなかった。


 銀河連合の脆弱なエーテル空間艦隊を鎧袖一触で殲滅し、一時的ながらエーテル空間を完全制圧し、銀河の覇権を掴みかけた我らが七帝国艦隊だったが……。


 銀河守護艦隊の参戦で、一気に趨勢が変わってしまった。


 すでに、私が率いる第三帝国以外の六帝国の艦隊戦力は尽く各地で守護艦隊に敗退し、その系列星系はすでに守護艦隊の軍門に降っており、歴史と栄光ある七帝国も残すは、我が第三帝国のみとなっていた。


 眼前に迫りつつある守護艦隊と我が第三帝国艦隊は数の上では互角以上だったが、その戦力比となると……10倍の兵力を用意しても怪しいくらいには、格差があると私は見ていた。

 

 さすがに、これで勝てると思うほど私も愚かではない。

 

 麾下各艦の乗員については、この戦闘が始まる前の段階で、こうなる事が予想されていたので、脱出用の潜航艦になかば強制的に移乗させて、脱出させている。


 当然ながら誰もが反対したのだが、そこはそれ……我が国においては、皇帝命令には何人たりとも逆らえないのだから、有無は言わせなかった。

 

 それ故に、人的資源の損耗を最小限に押さえられたのは僥倖と言えよう。


 もちろん、潜航艦と言えど、拿捕される可能性はあるのだが、その場合であっても最低限、乗員の命については保証されていると思ってよかった。

 

 なにぶん、スターシスターズには人を殺せないという、兵器としては欠陥と言える弱点があるという事は、以前から知られていた。


 正確には、戦闘中に目標に人間の存在を認識すると、その乗員に致命傷を与えうる攻撃を半ば無意識に控えてしまうらしい。


 もっとも、乗員が即死しなければ大丈夫とばかりに、航空兵器だとエンジンや翼を破壊し容赦なく墜落させるし、艦艇類だとブリッジや乗員がいそうな場所への直撃は避けてくれると言うだけで、被弾直後は問題なくとも、炎上したり、誘爆したりで、結局乗員諸共吹き飛んでしまって手加減になっていないことも多々あった。

 

 いずれにせよ、その制約がある以上、仮に捕捉されたとしても、浮上して降伏信号を打電すれば、乗員の命だけは助かるだろう。


 それらも含めた上で、絶対命令たる我が勅命として、彼らにはその旨言い含めてある。

 

 もっとも、スターシスターズの指揮官である再現体提督が殺せと命じれば、それも不可能ではないのだが。


 少なくとも、銀河守護艦隊の指揮官達は、そこまで悪辣な者ではないと言う事は、幾度となく行われた交渉から、私も理解しているし、彼らもまた正義を自称している以上、そのような真似まではしないだろう。


「……慚愧に堪えませんが。もはや我らに残された健在なる戦力は、我が近衛艦隊と左翼防衛の第2艦隊のみのようです……。その第2艦隊も現在敵右翼艦隊と交戦中のようで、戦況は芳しく無いようです。また近衛艦隊も次々と各艦艇との通信が途絶しており……。よもや、ここまで個艦戦闘力と練度に差があるとは……他の帝国軍艦隊が容易く壊滅させられたのも納得です……」


「ああ、状況については説明されるまでもなく、我も良く解っておるよ。本当は両翼への同時進撃圧迫とやりたかったのだろうが、こちらの奇襲艦隊とぶつかり不期遭遇戦となっていたのだろうな。さすがに三個艦隊75隻を相手取った連戦……。それで未だに戦力を維持しているのも驚愕に値するが、万全な状態とはさすがに言えぬだろうな。もっとも第2艦隊は一部艦艇を右翼側と奇襲艦隊にまわしてしまったから、元々戦力的には不備がある。長くは持つまい」


「……陛下より、今回の守護艦隊迎撃作戦プランをお聞かせいただいた時、誰もが皆、見事なまでのプランだと感心していたのですが……。予め右翼側に戦力を集中した斜線陣に見せかけて、手薄な左翼側へ殺到することで戦線が伸び切った敵右翼へ、伏兵とした第4、第5艦隊にて敵艦隊側面を突き、我が方の右翼艦隊を前進させ、両翼包囲の態勢に持ち込む……計画通りに行っていれば、我が方の勝利も夢ではなかったと思います」


「まぁ……実際は、向こうの両翼包囲陣での力攻めの前に呆気なく粉砕……だったのだがな。すまぬな……ぬか喜びさせてしまったようで……。古来より戦略を戦術で覆すことは出来ないとは言われていたが、そんな物のようであるな……。要するに小細工が通じる相手ではなかったと言うことだ」


 こちらも鉄板と言える戦術で対抗したつもりだったが。

 向こうも、容赦なく似たような戦術で対応してきた……となれば、地力の差でこちらが負ける。


 まぁ、必然と言ったところだった。


「……申し訳ありません。陛下……我らにもっと力があれば……。自分達の不甲斐なさに、遺憾の極みでございます……」


「なぁに、そち達を責める気など毛頭ない。これは等しく我の責だ……あまり気にするな。戦とはこんなものだ……。それにしても、我が方の後方も厳重に警戒していたのに、後方予備にして港湾防衛配備の第6艦隊がこうも呆気なく壊滅したとなれば……。戦略迂回した奴らの別働隊により、本国中継港も陥落したと言うことなのだろうな。そうなるともはや、退路すらも絶たれた……そう言うことであるな」


 まったく、手際が良いなんてものではなかった。

 

 我が第三帝国主星アルヴェールへと進撃する銀河守護艦隊に対する中継港防衛……要するに最終決戦に臨んで、こちらが用意出来た艦隊は、25隻1個艦隊の大艦隊編成で6個艦隊、総兵力は150隻、エーテル空間戦術戦闘機や、人型機動兵器と言った機動兵器戦力は2000機超。

 

 第一や第二と言った七帝国でも武闘派として知られた戦闘国家と比較すると、いささか控えめな陣容ながら、さして広くもないエーテル空間における艦隊戦力としては、銀河でも最大規模の大艦隊と言えた。


 対する銀河守護艦隊は、こちらの半分以下の兵力で、10隻1個の小艦隊編成で5個艦隊50隻あまり、空間機動兵器も300機程度と数の上では、こちらが圧倒的だったのだが。

 

 蓋を開けてみれば、この程度の戦力では全く足りていなかった。

 個艦レベルの総合性能はもちろん、空間戦闘戦術も、個々の兵器の性能や技術も、何もかもがこちらの遥か上を行っていたのだ。


 もちろん、事前にこの銀河最強の守護艦隊が敵に回る可能性は我々も想定していて、こちらも数多くの対抗兵装や戦術、兵器類を用意し、手抜かりはなかったのだが。


 長らく休眠状態に入っていたように見せかけながら、その実、誰も知らない所で、何処ぞの手のものとでもやりあっていたのか。

 はたまた内輪で、延々自己研鑽でも続けていたのか。

 ……100年も前の過去データなんぞ、ものの役にも立たなかった。

 

 要するに、向こうはこちらの想定を遥かに上回るほどに、独自進化を遂げていたのだ。

 まったく、あらゆる敵を殲滅し、銀河宇宙の最後の防壁となる事を自負するだけのことはあった。


 こちらの空間識別レーダーが完全に真っ白になって、まったく使い物にならなくなり、高度な電子防壁を幾重にも展開しているはずの戦術支援AIをまとめて機能不全にさせる高度電子戦能力。

 

 もはや、何処にいるのかさっぱり解らない潜航艦のサイレントキルアタック。

 

 見た目は古代地球時代の骨董品のレシプロ機なのに、航空力学を無視したような訳の解らない動きをし、レーザーが当たっても平然と飛び続ける戦闘機達。


 こんな調子で装備面でも、向こうのほうが明らかに優秀で、要と言える艦艇についても、どんな攻撃も弾き返す次元断層シールドに、未来予測迎撃システムやら、グネグネとした湾曲軌道を取る曲射型荷電粒子砲だの、インチキ臭い装備が山盛りで……。

 

 見た目は、その黎明期……300年前の頃とほとんど変っておらず、まるで古代戦争……第二次世界大戦の時代から飛び出してきたような見かけなのに、実際に戦ってみると、もはや手に負える相手ではなかった。


 技術者達の見積もりだと、100年どころか1000年位は未来のテクノロジーを使っているとしか思えないとのことだった。

 

 ……こちらは敵艦の位置を認識することすらも叶わず、一方的にアウトレンジされ、指揮系統もズタズタに分断され、孤立化したところへ度重なる奇襲や波状攻撃にて、確実に戦力を削り取る。


 これまで、他の帝国軍艦隊が葬られたのと同じようなやり方で、我が方は確実に殲滅されつつあった。

この作品は、プロローグ時点で、拙作「宇宙駆け」シリーズの凡そ300年後の世界の話です。


余談ながら、帝国歴327年は西暦に換算すると3001年です。

979年後とか、めっちゃ未来です。


宇宙きゃんのユリコの時代は、エピローグ時点で、西暦2674年にエスクロン社国から辺境銀河帝国へ改号し、同時に帝国歴が制定されましたので、

正確には、あれから327年後の世界ということになります。

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新連載始めました!! アスカ様の前日譚! 「銀河帝国皇帝アスカ様 零 -ZERO- 〜たまたま拾った名無しの地味子を皇帝に推したら、大化けした件について〜」 https://ncode.syosetu.com/n1802iq/
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