ミゲル・ハイドランジアという青年
お読み頂きありがとうございます!
魔獣の卵が密集していた場所は、あっという間に美しい金色の光で満たされていた。
眩しい光が波のように引いて行った後、そこに残ったのは唯の洞窟の横穴だった。
ぽっかりと空いた穴から見えるのは、石と土の壁だけ。
ああ、大きな魔石結晶の六角柱が壁から生えているか。
あれだけの数の卵がもし一気に孵化したら、ダンジョンから溢れて森から人の住む地域へと流れ出てスタンピードを起こしていただろう。
すぐ隣で立っているミリーを労おうと思って声を掛けるために横を向いたら。
ミリーが何かを呟きながらまるでコマ送りの動画の様に倒れて行く姿が目に映った。
咄嗟に身体を捻り手を伸ばして小さな身体を腕の中に抱き込んだ。
腕の中のミリーの髪が何故かどんどん伸びていくが、反対に顔色は青ざめてく。
その上息も荒い。
気がつくと、胸の辺りのクリスタルのボタンが『ブチッ』っと音を立てて弾け飛んで俺の顔に当たると、頬からタラリと血が流れた。
「ミリー! しっかりしろ! 」
何で倒れたのかは全くわからないが、どうしたことかミリーの身体が以前より女性らしい体つきになっていく。
「成長してる? おい、ミリー!」
こんな所で叫んだところでどうにもならない。救護班の所へ連れて行かなくては・・・
抱え直して、ダンジョンの中から入口に置いてあるスクロールに【転移】で跳んだ。
ダンジョンの外は、枯れ木と枯れ葉ばかりだった筈だ。なのに今は瑞々しい緑の森に戻っていて。
足元に小さな花まで咲いている。
小鳥の囀りが聞こえ、小さな羽音がする。花の香りがするから蜜蜂だろうか? 蝶がヒラヒラと自分たちの周りをダンスをする様に舞っている。
木の陰に鹿の大きな角が見え隠れし、足元の草の中にウサギの長い耳が見えていた。
皆が此方を気にしている?
「そうか、森が生き返ったんだな」
鹿が『シューッ』と鳴いた。恐らく肯定の合図なのだろう。
蹄を木の根元に打ち付けカツカツと音をさせると鹿たちは森の奥深くへ去っていった。
「何だろう? お礼なのかな。それとも威嚇? 分からん・・・」
ミリーお前、魔獣の卵を消すだけじゃなくて森を生き返らせちゃったのか。
又、魔力枯渇になったのかよ。
「学習しろよ・・・」
もう、何だよ、お前だって前世と全然変わって無いじゃんか。
馬鹿だよお前、やり過ぎたら又死んじゃうんだぞ。
分かってるか?前もそれで死んじゃったんだぞ!
何だか前より成長した身体をギュッと抱きしめる。
魔力枯渇じゃあ、水の治癒魔法じゃ意味がない。
「スマン。一応謝っとくな」
手っ取り早く魔力の譲渡をすれば早く意識が戻るはずだから・・・
迷ったけどキスをする。
あ~ 二回目だ・・・今回は人工呼吸だから我慢しろな。
魔力を注ぐと顔色が少しだけ良くなってきた。
「何か今なら跳べそうだな・・・」
難しく考えるのは辞めにして、ジジイの所に迷わず跳んだ。
今回は死なせないから。
絶対に守るから。
早く目を覚まして。
お願いだからもう俺を置いていくのだけはやめてくれ。
××××××××××
ジジイの部屋について助けを求めたら、
「あれだけデカい魔法を打ち上げたらそりゃあ枯渇しちゃうわよ。魔力譲渡はしてるわよね? 」
だと。ジジイはお見通しだった。
「あ、この子ったら初潮が来て貧血起こしてるわよ」
おう? 何だと! じゃあ認定式が出来るじゃないか!
「治療室に運んで頂戴」
「ああ」
ジジイの案内で神殿の治療室に抱いて運ぶ。
「ミゲル、アンタ転移魔法が出来たの? 」
「あー、火事場の馬鹿力ってヤツじゃねーの? 何か出来そうって思ったら出来た」
ジジイはプッと吹き出した後で、
「よっぽど大事なのね。ミリーが」
とニヤついた。
「ああ、生まれ変わってまで追っかけてきたストーカーだからなあ」
「ホントだわね」
ジジイの笑みが深くなる。
「後は任せる。ホントは付いててやりたいけど討伐の後始末があるからな。後、コイツ服がボロボロだからそれも頼むな」
「アンタ、ホントに中間管理職気質だわねえ~。呆れるわ。後は任せといて頂戴」
もう一度ミリーの顔を撫でる。やっぱり髪の毛が長い。
「なあ、髪の毛がやたら長くないか? 胸もデカくなったし」
「ああ、本来の十五歳の肉体に成長し終わったら止まるでしょ。多分【聖女の癒やし】で使った文言が効いたんでしょうね」
「枯れた森がもとに戻ったんだよ」
「あ、間違いないわね。気がついたら確かめとくわ」
「頼んだぞ」
俺は森の外で待機している騎士団の元に跳んだ。
後片付けが大変だなこりゃあ。
でも、アイツは生きてる。
それだけには感謝だ。
ここまでお読み頂き感謝です(合掌)
二章が完結ですわよう~♪
三章は明日からもです。どうぞ宜しくお願いします!