鍛える理由
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「ミリーさあ~」
「な・ん・す・かっっとおっ!」
ミリアは、今まさに目の前のサンドバックに空中で鋭い蹴りを鮮やかに入れ終えて、『スチャッ』と効果音が聞こえそうな位華麗に地面に着地した。
「ミリーが趣味と実益を兼ねて鍛えるのは『乙花』のハピエン回避なのは知ってるけどさー、どうして弟君まで鍛えてるのよ? 」
大神官様が煙管からぷふぁ~っ、と煙を吐き出す。
ココは大神殿内の住居区画の中庭である。
母や侍女に泣き付かれるのを避けながら内緒で身体を鍛えるために大神官様を巻き込み、神殿内に無理矢理トレーニング場所を作って貰ったミリアンヌである。
「だって、ダニーはメチャ可愛いじゃないですか」
「うん。そうねえ~」
因みに大神官様はミリアと二人きりの時は前世の癖が出やすいらしく、おネエ言葉になってしまう。
そして、
「もし『乙花』の続編とか出てたら『攻略対象』候補じゃないすか!」
首にかけたタオルで汗を拭きながら大神官様の座るベンチに向かって大股で歩いて来る姿は、侯爵令嬢も聖女もどこ行った? と聞きたくなるくらいの男らしさ・・・
「う~ん、確かに続編出てたら怪しいわねえ~」
「でしょ?」
腰に手を当てて、用意されたレモン水をガブ飲みするミリア。
いや、侯爵令嬢と聖女とは・・・
「それにダニーは侯爵家を継ぐので、賢く強くなって貰わないと安心できません。どっかの悪役令嬢とか頭ぽややんヒロインとかに騙されたり、変な美少年好きのオッサンとかに目を付けられたり、誘拐とかもヤバいじゃないですか!」
ミリアンヌ、結構な過保護である。
「まあ、確かに。あの子は危なそうねえ。貴族階級は危険と誘惑がいっぱいだしね」
「先輩が言うと、半端なく怖いっす・・・ 実感があり過ぎる!」
肩を両手で抱いてちょっとだけブルッとするミリア。
「開き直って周り全員アンアン言わせりゃあ男は乗り切れるわよ」
「皆、先輩みたいに開き直れませんからっ!」
「そうかしら?」
「そうですよ」
う~んと首を傾げる大神官様。
「私は、ミリーに協力はしてるけどお、乙女ゲー展開もあっていいんじゃないかとは思うのよね~」
「えっ、嫌ですよ! なんでですか! 」
「老後の楽しみに決まってるじゃん」
「老後とかあり得ないでしょうがっ!」
「え〜、ミリーが聖女になってくれたら即、老後だわよ~」
「・・・ こないだ、若い頃の姿になって街へ出かけて娼館行ってたの誰ですかねえ~」
「・・・どうして知ってるのよ・・・」
「あんな美形が街を彷徨いてたら噂になるに決まってるじゃん! エルフが娼館に出入りしてるって噂になっちゃってますよ!」
「あら」
「あらじゃないですよ~ ほんっとにアチコチお元気ですねっ!」
「うふふふ、エロは若さの源なのよね~ 娼館の女の子はこっち側がサービスしなくてもイイから楽で良いわよ~」
「・・・」
百歳越えはゲームのバグじゃなくて、若い子の生気を吸ってるんからじゃないか? と思うミリアである。
「ま、計画では二年後から通う予定の貴族学園には通わずに神殿で聖職者の教育を受けて、超ハイスピードで聖女認定される予定だっけ? 」
「そうッス。魔王も卵のうちにサッサと見つけてブッ壊して、駆逐します!」
「駆逐・・・」
「学園にさえ行かなければ王子とその取り巻きにも会いませんし。隣国の皇子だってスルーです! あと婚約者とかは絶対作りませんからって、親父には言い含めてますので 」
「政略適にはそれってどうなのよ?」
「あ、ウチ、今は王家より財力あるんで大丈夫っす」
「何、ソレ。ミリーのチート? 」
「いえ、親父が母さまを好きすぎて領地が発展しまくったからですね」
「愛なのね」
「まあ、ちょっとだけテコ入れはしましたけど。上手く行って良かったです。お陰様で結婚は好きにしていいって言われてますね」
ニッコリ微笑みながらサムズアップするミリアンヌ。
「まぁミリーじゃ、王妃様とか無理だわね~」
「人生の計画表にその文字はないっス」
片手で腕立て伏せをするミリアを横目で確認しながら、のんびりぷふぁ~と煙を吐き出しつつ『王弟とかいなかったっけ? 』と首を傾げる大神官様なのである。
フラグ立てときました()